🔐

エンジニアが知っておくべき楕円曲線暗号(ECC)の基礎知識

に公開

こんにちは。株式会社KAENでエンジニアをしている石野です。

先日、KAENでは法人向けパスワードマネージャーのパスクラ をリリースしました。
本記事ではパスクラで使われている楕円曲線暗号について解説します。

はじめに

現代の暗号技術において、RSA暗号と並んで広く使われているのが 楕円曲線暗号(Elliptic Curve Cryptography: ECC) です。

特に、スマートフォンやIoTデバイスなどのリソース制約がある環境でのセキュリティ確保に重要な役割を果たしています。

本記事では、RSA暗号との違い、楕円曲線がどのように暗号に利用されているのか、そしてECCの種類について解説します。

🆚 RSA暗号との違い

現在一般的に使われているRSA暗号と楕円曲線暗号を比較してみます。

RSA暗号と楕円曲線暗号は、どちらも公開鍵暗号方式ですが、根本的な仕組みが異なります。

RSA暗号は素数の掛け合わせを使った暗号のため、鍵のサイズが大きくなれば解読が難しくなるので鍵のサイズは大きくなります。

一方、楕円曲線暗号は短い鍵長でRSAと同等の安全性を確保できるため、特に処理速度やメモリ使用量が重要な環境での利用が進んでいます。

特徴 RSA暗号 楕円曲線暗号(ECC)
数学的基盤 大きな素数の積の因数分解の困難性 楕円曲線の離散対数問題の困難性
鍵のサイズ 大きい(2048bit以上推奨) 小さい(256bit程度でRSA 3072bit相当)
計算コスト 高い(鍵サイズが大きくなると計算量増大) 低い(小さい鍵サイズで同等の安全性)
通信量 多い(鍵サイズが大きいため) 少ない(鍵サイズが小さいため)
普及度 広く普及(古いシステムでも対応) 近年急速に普及(TLS 1.3や暗号通貨など)

🔐 楕円曲線をどうやって暗号に使っているのか

楕円曲線暗号の基本原理は、「楕円曲線上の点の演算が難しい数学的問題に基づく」という点にあります。

楕円曲線の定義

暗号文脈で使われる楕円曲線は一般に、以下のような方程式で表されます。

y^2 = x^3 + ax + b \
( 4a^3 + 27b^2 \neq 0 )

この曲線上の点と点の演算を定義することで、暗号システムを構築します。

楕円曲線上の加法演算

楕円曲線上では、2つの点 PQ を加える演算 P + Q が定義できます。この演算は通常の加算とは異なり、以下のように行われます。

  1. 曲線上の2点 PQ を結ぶ直線を引く。
  2. その直線が曲線と交わる3つ目の点を求める。
  3. その点を x 軸で反転したものを結果の点とする。

また、ある点 P を何回も加えることで、スカラー倍演算( kP )を定義できます。

離散対数問題

楕円曲線の離散対数問題とは、次のような問題です。

「点 P と「点 Pk 回加算した結果 Q」からk を求めるのは難しい」

この問題の計算量は非常に大きく、現在の計算技術では現実的な時間で解くことができません。この性質を利用して、楕円曲線暗号が成り立っています。

🔑 楕円曲線暗号の種類

楕円曲線暗号にはさまざまな種類があります。代表的なものを紹介します。

楕円曲線DSA(ECDSA)

楕円曲線版の DSA(Digital Signature Algorithm) で、デジタル署名に利用されます。Bitcoinなどの暗号通貨で広く使われています。

楕円曲線Diffie-Hellman(ECDH)

楕円曲線版のDiffie-Hellman鍵交換で、安全に共有鍵を生成するために用いられます。TLS 1.3などで採用されています。

楕円曲線統合暗号化方式(ECIES)

楕円曲線暗号を利用したハイブリッド暗号化方式です。データの暗号化において、「公開鍵暗号の安全性」と「対称鍵暗号の高速性」の両方を組み合わせた実用的なスキームとして設計されています。

ECIESでは、楕円曲線を使って安全に共有鍵を生成し、その鍵をもとにメッセージを共通鍵暗号(AESなど)で暗号化します。さらに、MAC(メッセージ認証コード)を使ってデータの完全性と認証も保証します。


まとめ

楕円曲線暗号(ECC)は、RSAよりも短い鍵長で高い安全性を実現できる効率的な暗号方式です。この記事では以下のポイントを解説しました。

  • RSA暗号との違い: 鍵サイズが小さく、計算コストが低い
  • 楕円曲線の原理: 点の演算を利用し、離散対数問題の困難性を活用
  • 楕円曲線を活用したアルゴリズム: ECDSA, ECDH, ECIES などの実用的なアルゴリズム

現在では、TLSや暗号通貨、IoT機器など幅広い分野で利用されており、今後さらに普及が進むと考えられます。エンジニアとしては、ECCの基本概念を理解し、適切なアルゴリズムを選択できるようにしておくといいかもしれません。

おすすめの書籍

最後に

最後まで読んでいただきありがとうございます。
自分もまだまだ暗号技術について勉強している最中ですが、この記事が暗号技術初学者の方のお役に立てましたら幸いです。

株式会社KAENでは一緒に働く仲間を募集しています!
ご興味がありましたらぜひ下記リンクからご応募ください。
https://kaen.notion.site/1c7af99771ab803d8a58e8dbf9759887

Discussion