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Yocto 簡単に自前のOSSパッチを組み込む

2023/12/03に公開

前回の記事では、RaspberryPi向けにYoctoビルド環境に自分で作ったプログラムを追加しました。
ただ、実際にものを作るときには、必ずしも自分のプログラムだけではなく、必要に応じてOSSを自分で修正する必要があります。
という訳で、今回は、世の中に公開されているOSSに自分パッチを当てる方法を書いていきます。

今回作るもの

今回は、curlコマンドに自分で作ったパッチを適用して、RaspberryPi向けのイメージを作成します。
具体的には、BSPレイヤー"meta-mycmd" を作って、その中でcurlコマンドの追加レシピとパッチファイルを格納します。
これにより、パッチが適用されたcurlコマンド入りのRaspberryPiイメージがビルドできるようになります。

準備

環境は、Yoctoビルド環境の構築方法を前提とします。
ではbitbakeコマンドを使えるように、"oe-init-build-env"しましょう。

$ cd poky
$ source oe-init-build-env 

### Shell environment set up for builds. ###

You can now run 'bitbake <target>'

Common targets are:
    core-image-minimal
    core-image-full-cmdline
    core-image-sato
    core-image-weston
    meta-toolchain
    meta-ide-support

You can also run generated qemu images with a command like 'runqemu qemux86-64'.

Other commonly useful commands are:
 - 'devtool' and 'recipetool' handle common recipe tasks
 - 'bitbake-layers' handles common layer tasks
 - 'oe-pkgdata-util' handles common target package tasks

BSPレイヤーを追加する

oe-init-build-envを実行すると、buildディレクトリに移動してしまうので、1つ上のディレクトリに戻ります。
そして、meta-mycmd レイヤーを作ります。

$ cd ..
$ bitbake-layers create-layer meta-mycmd
NOTE: Starting bitbake server...
Add your new layer with 'bitbake-layers add-layer meta-mycmd'

最終行にBSPレイヤーをYoctoに追加するコマンドが表示されています。
このコマンドをそのまま実行して、BSPレイヤーを追加します。

$ bitbake-layers add-layer meta-mycmd
NOTE: Starting bitbake server...

以上で、ビルド対象に自分のレイヤーが追加されました。

パッチファイルを作る

今回パッチを当てる対象のcurlのバージョンを調べます。

$ bitbake-layers show-recipes | grep -A 1 curl
curl:
  meta                 8.1.2

curlは、meta レイヤーにレシピがあって、バージョンは 8.1.2 であることを示しています。

curl 8.1.2のコードを持ってきて、修正を入れましょう。

今回は、お試しとしてコマンドを起動したときに、”I am RaspberryPi"を最初に出力するパッチを作ります。

git diff した結果が以下です。

diff --git a/src/tool_main.c b/src/tool_main.c
index 2b7743a7e..dabad3903 100644
--- a/src/tool_main.c
+++ b/src/tool_main.c
@@ -274,6 +274,7 @@ int main(int argc, char *argv[])
 #if defined(HAVE_SIGNAL) && defined(SIGPIPE)
   (void)signal(SIGPIPE, SIG_IGN);
 #endif
+  fprintf(stdout, "I am RaspberryPi\n");
 
   /* Initialize memory tracking */
   memory_tracking_init();

最近までは、このdiffをそのままファイルに落としてYoctoに組み込めたのですが、
Yocto4.0から、パッチファイルの位置付けを明記しなければならなくなりました。
(今のところ、metaとか公式のBSPレイヤーへのパッチのみっぽい?)

先頭に、Upstream-Status の1行を追加してください。[ ]は理由を記載するところです。
最終的なパッチは以下になります。

0001-add-printf.patch
Upstream-Status: Inappropriate [this is test code]
diff --git a/src/tool_main.c b/src/tool_main.c
index 2b7743a7e..dabad3903 100644
--- a/src/tool_main.c
+++ b/src/tool_main.c
@@ -274,6 +274,7 @@ int main(int argc, char *argv[])
 #if defined(HAVE_SIGNAL) && defined(SIGPIPE)
   (void)signal(SIGPIPE, SIG_IGN);
 #endif
+  fprintf(stdout, "I am RaspberryPi\n");
 
   /* Initialize memory tracking */
   memory_tracking_init();

レシピを作る

meta-mycmd ディレクトリには、recipes-exampleがありますが使わないので、削除しておきましょう

$ cd meta-mycmd
$ rm -fr recipes-example

curlコマンドは meta レイヤーにあるので、metaディレクトリの構成を確認します。

$ tree meta
meta
|-- ...
`-- recipes-support
    |-- ...
    `-- curl
        |-- ...
        `-- curl_8.1.2.bb

recipes-support/curl ディレクトリの下に、curlコマンドのレシピ(curl_8.1.2.bb)があります。

わかりやすくするため、meta-mycmd ディレクトリの構成も合わしましょう。
以下のように追加レシピ(.bbappend)と、パッチファイルを置くようにします。

meta-mycmd
|- ...
`-- recipes-support
    `-- curl
        |-- curl_%.bbappend
        `-- files
            `-- 0001-add-printf.patch

追加レシピのファイル名は、curl_%.bbappendです。
'%'は、任意のバージョンを示しています。
ここでは、curl本体のバージョンが8.1.2以外でも、このパッチは適用されるように'%'にしています。
もし、特定のバージョンだけに適用したい場合は、'%'ではなく、curl_8.1.2.bbappendなどのようにバージョンを明記してください。

では、これに合わせてディレクトリを作って、.bbappendファイルを作りましょう。

$ mkdir -p recipes-support/curl
$ cd recipes-support/curl
$ vi curl_%.bbappend

.bbappendファイルには以下を記載ください。

curl_%.bbappend
FILESEXTRAPATHS:prepend := "${THISDIR}/files:"

SRC_URI:append = " file://0001-add-printf.patch"

それぞれの変数の意味は以下になります。

変数 内容
FILEEXTRAPATHS:prepend 追加レシピで使用するファイル置き場のパス
SRC_URI:append 差分コード記載されたパッチファイル

最後に、先ほど作ったパッチファイルを 0001-add-printf.patchという名前で、filesディレクトリに置いてください。

追加したレシピ・パッチを確認する

確認には、bitbake-layerコマンドが大活躍します。
まずは、show-layersで、meta-awsappのBSPレイヤーが正しく認識されいているのか確認しましょう。

$ bitbake-layers show-layers

NOTE: Starting bitbake server...
layer                 path                                               priority
=================================================================================
core                  /home/hoge/raspi2/poky/meta                        5
yocto                 /home/hoge/raspi2/poky/meta-poky                   5
yoctobsp              /home/hoge/raspi2/poky/meta-yocto-bsp              5
raspberrypi           /home/hoge/raspi2/poky/meta-raspberrypi            9
meta-mycmd            /home/hoge/raspi2/poky/meta-mycmd                  6

meta-mycmdが認識されています。
パッチ適用の順番は、priorityと順番によって決まります。
数字が小さい方が優先度が高く、数字の大きい方が優先度が低くなります。
同じ番号の場合は上に書いてある方が優先されます。

続いて show-appendsで、追加レシピ(.bbappend)が正しく認識されているのか確認しましょう。

$ bitbake-layers show-appends

NOTE: Starting bitbake server...
Loading cache: 100% |################################################| Time: 0:00:00
Loaded 1838 entries from dependency cache.
=== Appended recipes ===
...
curl_8.1.2.bb:
  /home/hoge/raspi2/poky/meta-mycmd/recipes-support/curl/curl_%.bbappend
...

curl_8.1.2.bbの追加レシピとして、curl_%.bbappendファイルを認識していることがわかります。

ビルドする

buildフォルダに戻りましょう。

$ cd ../../../build

ビルド対象(local.conf)に curlコマンドが入っているのを確認します。

conf/local.conf
@@ -282,6 +282,7 @@
 # this doesn't mean anything to you.
 CONF_VERSION = "2"
 
+IMAGE_INSTALL:append = " curl"

ビルドします。

$ bitbake core-image-minimal
Loading cache: 100% |                                                  | ETA:  --:--:--
Loaded 0 entries from dependency cache.
Parsing recipes: 100% |################################################| Time: 0:00:39
Parsing of 935 .bb files complete (0 cached, 935 parsed). 1838 targets, 74 skipped, 0 masked, 0 errors.
NOTE: Resolving any missing task queue dependencies

Build Configuration:
BB_VERSION           = "2.4.0"
BUILD_SYS            = "aarch64-linux"
NATIVELSBSTRING      = "ubuntu-22.04"
TARGET_SYS           = "arm-poky-linux-gnueabi"
MACHINE              = "raspberrypi2"
DISTRO               = "poky"
DISTRO_VERSION       = "4.2"
TUNE_FEATURES        = "arm vfp cortexa7 neon vfpv4 thumb callconvention-hard"
TARGET_FPU           = "hard"
meta                 
meta-poky            
meta-yocto-bsp       = "master:13b646c0e167ca52f69c91be5538049b172015ac"
meta-raspberrypi     = "master:dff85b9a9f66002856b9ed3b1aa3a384c0bc43d9"
meta-mycmd           = "master:13b646c0e167ca52f69c91be5538049b172015ac"

Initialising tasks: 100% |############################################| Time: 0:00:01
Sstate summary: Wanted 1498 Local 0 Mirrors 0 Missed 1498 Current 0 (0% match, 0% complete)
NOTE: Executing Tasks
NOTE: Tasks Summary: Attempted 3443 tasks of which 6 didn't need to be rerun and all succeeded.

無事終了しました。

バイナリイメージを確認します。

$ ls -lh tmp/deploy/images/raspberrypi2/*.wic.bz2
-rw-r--r-- 2 hoge hoge 28M Dec  2 22:10 tmp/deploy/images/raspberrypi2/core-image-minimal-raspberrypi2-20231202103145.rootfs.wic.bz2
lrwxrwxrwx 2 hoge hoge  61 Dec  2 22:10 tmp/deploy/images/raspberrypi2/core-image-minimal-raspberrypi2.wic.bz2 -> core-image-minimal-raspberrypi2-20231202103145.rootfs.wic.bz2

28MBのイメージファイルができました。

本当にパッチ当たってるのかなー、っていう心配性なあなた。
ビルドされたコードを見てみましょう。
RaspberryPi向けのコードは以下にあります。gitフォルダ以下にパッチが当たったコードがあるはずです。

$ cat tmp/work/cortexa7t2hf-neon-vfpv4-poky-linux-gnueabi/curl/8.1.2-r0/curl-8.1.2/src/tool_main.c 

動作確認する

RaspberryPiに焼いて、実際の動作確認してみてください。
Raspberry Pi Imagerで生成したイメージをSDカードに焼いて、起動します。
前回の記事を参照ください。

トラブルシュート

今回も色々とハマってしまいました。
注意点を記載しておきます。

1) ディレクトリ名、ファイル名を間違えるな

私は実際タイポしました。間違えないようにしましょう。
間違えても無視されるだけで、エラーが出ず、わかりにくいです。

正解 間違い
recipes receipes
.bbappend .bbapend

2) 追加レシピのファイル名を間違えるな

参照するレシピ(.bb)にバージョンがある場合とない場合があります。
参照するレシピに合わせた追加レシピ(.bbappend)を作りましょう。

バージョンがある場合 バージョンがない
name_%.bbappend name.bbappend

ファイル名を間違えた時のエラーは以下です。

$  bitbake-layers show-appends
...
ERROR: No recipes in default available for:
  /home/hoge/raspi2/poky/meta-awsapp/recipes-support/curl/curl.bbappend

3) .bbappend 書き方を間違えるな

FILESEXTRAPATHS, SRC_URI がYoctoのバージョンによって書き方が違います。
検索などでは新旧情報が混ざってヒットするので、注意しましょう。

curl_%.bbappend(Yocto3.4以降)
FILESEXTRAPATHS:prepend := "${THISDIR}/files:"

SRC_URI:append = " file://0001-add-printf.patch"
curl_%.bbappend(Yocto3.4未満)
FILESEXTRAPATHS_prepend := "${THISDIR}/files:"

SRC_URI += " file://0001-add-printf.patch"

4) 環境変数、do_compileの実際の処理内容を確認する

ビルド時の環境変数や、do_patch, do_compileで、何をしているのか知りたい時、以下のコマンドが役立ちました。

$ bitbake -e curl

5) meta-xx を別名に変更しない

bitbake-layer create-layerせずに、既にあるBSPレイヤーをcpコマンドなどでコピーしてrenameするのはやめた方が良いです。
内部の設定ファイル(conf/layer.conf)にレイヤー名が入っているので、この辺も一緒に変更が必要になります。

6) filesディレクトリの指定が間違っている

追加レシピ(.bbappend)のEILESEXTRAPATHS指定が正しくない場合は、以下のようなエラーが出ます。

ERROR: /home/hoge/raspi2/poky/meta/recipes-support/curl_8.1.2.bb: Unable to get checksum for nativesdk-curl SRC_URI entry 0001-add-print.patch: file could not be found
The following paths were searched:

7) Upstream-Statusがない

ERROR: curl-native-8.1.2-r0 do_patch: QA Issue: Missing Upstream-Status in patch
/home/hoge/raspi2/poky/meta-mycmd/recipes-support/curl/files/0001-add-printf.patch
Please add according to https://www.openembedded.org/wiki/Commit_Patch_Message_Guidelines#Patch_Header_Recommendations:_Upstream-Status . [patch-status]

Yocto 4.0から、適用するパッチの状態を明記が必要になりました。
git diffコマンドで出力したパッチファイルをそのまま適用できなくなり、Upstream-Status で、Upstream(本流)に適用すべきものなのかどうかを Pending, Submitted, Accepted, Backport, Denied, Inappropriate[reason]などで明記する必要が出てきました(それぞれの意味は上に記載しました)。

うーん、公式なビルドには良いですけど、ちょっと敷居が高くなりますね。。。
今回は、1行追加したやり方があまりかっこよくないので、スマートなやり方がありましたら教えてください。

参考

以下のページは、大変助かりました。ありがとうございました。

https://yoctobbq.lineo.co.jp/?q=node/385

https://docs.yoctoproject.org/migration-guides/migration-3.4.html

https://yoctobbq.lineo.co.jp/?q=node/433

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