持続可能なコミュニティ運営を目指して〜Amplify Japan User Group 2023年の運営体制改善
こんにちは、AWS Community Builder 兼 AWS User Group Leaders 兼 Amplify Japan User Group運営メンバーの池田 @ikenyal です。株式会社GENDA でEMをしつつ、株式会社ZINE で取締役CTOをしています。
私が本業や副業をしつつ、AWS Community Builderとして注力しているのは Amplify Japan User Group の運営です。本記事では、そのAmplify Japan User Groupの運営で2023年に実践してきた運営体制改善の取り組みをご紹介します。業務としてではなく、あくまでもボランティアとして集っているコミュニティ組織において、どのように運営が行われているか、そこで生まれる課題や持続可能性を維持するための工夫はどんなものか、その一部をご紹介します。
なお、「AWS Community Builderって何だ?」という方は、去年のアドベントカレンダー 挑戦権は誰にでもある、日本からもAWS Community Buildersを目指してみよう も併せてご覧ください!
前置きが多くなってしまいましたが、ここからが本題です。
本記事では、まだまだスタートアップ的な成長途中のコミュニティにおいて、どのように運営が行われていて、どのような工夫がなされているのか、その実例をご紹介します。
コミュニティ運営の特徴と課題
コミュニティ運営が一般的な企業と異なる特徴として「ボランティアで成り立っている」という点があります。運営メンバーも本業・副業・プライベート等がありつつ、ボランティア活動として運営活動に参加しています。
そのため、仕事とは異なり強制するものでもなく、各個人の余剰の時間で動いてもらう必要性が出てきます。この点がコミュニティ運営の継続性に関わる特徴であり、課題ともなり得る点です。
実際に、Amplify Japan User Groupにおいてもこの課題を起因とする課題が発生し、活動が停滞する時期もありました。運営が停滞することにより、ミートアップの開催やコミュニティの改善活動がされず、コミュニティ自体の成長も停滞、最後には衰退していくことにもなります。
その流れを食い止めるために、Amplify Japan User Groupでは運営体制の再設計を今年行いました。
コミュニティ自体もそうですが、それ以上に運営体制の継続性を保つことに焦点を置いています。そこが保たれれば、自然とコミュニティ活動も継続・活性化させられるだろう、という考え方です。
Amplify Japan User Groupで発生した運営課題
Amplify Japan User Groupにおいては、コミュニティの運営をAWS主体の状態からコミュニティ主体の状態へ変化させていったことも運営体制の停滞が発生した要因の一つにありました。
コミュニティが独り立ちできるまでの間、AWS社員がリードしてミートアップを主催していました。しかし、コミュニティが徐々に醸成される流れの中で、どこかのタイミングでコミュニティ主導の運営にしていく必要性があります。もちろん、主導を切り替えつつも、AWS社員によるサポートは継続されます。
Amplify Japan User Groupにも2021年頃にそのタイミングが訪れ、connpassのグループは継承しつつも、イベント名も現在の「Amplify Boost Up」に改名し、コミュニティ主導の活動に舵を切ろうとしました。
しかし、そのタイミングでは運営の体制や仕組みは大きく変えず、「AWS社員のリードを控えめにし、それ以外の運営メンバーが頑張ろう」というマインドのみに近い切り替えでした。
新型コロナウイルスの影響もまだまだ大きかった時期でもあり、活動としては継続していたオンラインイベントの開催とSlack上での交流くらいでした。その限られた活動においても、イベントの開催頻度が低くなり、Slackも発言がほぼなくBot投稿を見る場のようになりつつありました。前述のマインドの切り替えのみだと、そのマインドの継続はやはり難しく、運営タスクも静観されがちになっていきました。
そのような時期がしばらく続き、2023年、運営体制の再始動に本腰を入れました。コロナ禍を抜けつつあり、オンライン・オフラインのハイブリッド開催のイベントも世の中に増えてきていたため、コミュニティイベントをハイブリッド開催で再開させると同時に、同様の事態に陥らないよう、運営体制の仕方も改善して再始動させました。
持続可能なコミュニティ運営を目指した運営体制の改善
持続可能なコミュニティ運営を目指し、いくつかの運営体制の改善を実施したので、実例の一部をご紹介します。
運営メンバーの明確化
やっていて当然のことではありますが、運営メンバーの明確化を再度行いました。
あくまでもコミュニティ運営はボランティアで成り立っているものです。そのため、仕事やプライベートの状況に応じ、活動できない時期があるのも当然許容されるべきです。その考えもあり、それまでは運営に興味を持った人がそのままSlackの運営チャンネルに入っていく、運営メンバー管理はそれだけに近い状態でした。その結果、「Slackチャンネルにはたくさんメンバーがいるが、実際に運営として携わっている・タスクを分担できるメンバーは誰なのか?」という状態になり、運営メンバー自体が不明瞭になっていきました。
この状態が引き起こす弊害として、以下のような事象が発生していました。
- Slackで意見や賛否のリアクションを求めた際に、回答忘れなのか、活動休止状態で回答意志が無いのか分からず、いつまでもリマインドしないといけない
- その結果、「反応しなくても大丈夫そう」という雰囲気になってしまう
- この不明瞭な「運営メンバー」内から、さらに一部のメンバーのみの活動になるので、チームとしての一体感が感じられなくなる
これらの解決に向け、運営メンバーに対して年に1度の定期的な運営としての参加意志確認を取り、運営メンバーの棚卸し・明確化をする運用にしました。
「運営を辞める」ことはネガティブなことではありません。仕事や家庭の状況は変わっていくものなので、毎年運営メンバーとしての継続もしくは休止の意思表示をしやすくすることで、「忙しくて顔を出せてなく気まずい」ということも避けやすくなり、より運営に参加しやすくなる効果もあります。
そして、運営内で管理する運営メンバー台帳を都度更新することで、「運営メンバー=全員Activeな状態」を維持できるようにしました。
運営ミーティングの定例化
これまでの運営体制では、運営の定例ミーティングは設けておらず、イベント開催前などに必要に応じて設定するスタイルでした。
その結果、もちろんSlack上でもある程度可能ではありますが、ミーティングが開催されない期間は意思決定が進まない状態になり、その影響でさらにイベントが企画されずミーティングの必要性が下がる、という悪循環が発生していました。
もし、「アジェンダがない」という状態であれば、それはコミュニティとして動きが何もないことを表しているとも言えます。そのため、運営ミーティングは毎月開催するよう、定例化しました。その際には、上記の運営メンバーの明確化によって運営メンバーのMLも整備したため、そのML宛にカレンダーの招待を送るようにしています。
これまでは不定期開催になりがちだった運営ミーティングが定期予定として入り、コミュニティとしての動きを前進させるきっかけとそのリズムが生まれました。また、都度全員の予定を確認してミーティングをセットする行為自体も調整コストが高かったこともあり、定期予定として各自の予定をあらかじめブロックできる効果は大きいです。
ツール類の整備
Amplify Japan User Groupは、特に予算も持っていないため、運営で利用するツール類も無償のものでカバーできるようにする必要があります。上記の定例という会議体の整備と並行し、ツール類の整理も行いました。また、運営メンバーの明確化により台帳ができたため、権限管理も含めた整理を行っています。
ここでは利用しているツールの中から、2つご紹介します。
ドキュメント管理:GitHub
運営ミーティングの議事録や運営メンバー台帳など、運営内部で利用するドキュメントの管理ツールが必要になります。予算が無いため、招待するユーザー数に関わらず無償であり、非公開設定が可能なものでツール選定をした結果、GitHubを利用することにしました。
元々、Amplify Japan User Groupでは、コミュニティサイトの管理やミートアップのCFPなどの用途でGitHubのOrganizationを持っていました。そのため、GitHubのFreeプランを利用しつつ、プライベートリポジトリとして運営用のリポジトリを作成し、その中のGitHub Discussionsを活用してドキュメント管理を行っています。
それまでは関連するツールやMLへの権限付与・剥奪が気づいたベースになっていたので、運営メンバーに加え、ツールに関しても台帳管理し、権限付与状況の可視化も行いました。
GitHub Discussionsでは、「アナウンス」は常に参照されるべき台帳などのドキュメントを配置しています。
コミュニティ公式コミュニケーションツール:Discord
ツール整備の中でも大きな切り替えとなったのが、コミュニティにおけるコミュニケーションツールをSlackからDiscordに切り替えたことです。
予算がないのでSlackも課金できず、その結果、無料版なため過去のログが非表示になる状態でした。その点を改善するためにも、SlackからDiscordへの切り替えを実施しました。
コミュニティ内での質問や相談のログは、それ自体がコミュニティの大事な資産なので、過去のものも含めて利活用できるようになりました。
なお、上記以外にもGoogle Group、YouTube、connpass、Slidoなどを利用しています。
運営メンバーの一体感向上施策
運営にはボランティアとして携わってもらっているので、その継続には何かしらのモチベーションが必要となります。
コミュニティの運営活動自体がAWS Community BuilderやAWS User Group Leadersに認定してもらうための実績の一つにすることももちろん可能であり、実際に運営メンバーには多くのAWS Community BuilderやAWS User Group Leadersが在籍しています。
しかし、これだけだと各個人がモチベーションを自ら感じ取らないといけない状態であり、運営メンバーのチームとしての一体感から得られるモチベーションが生み出せていませんでした。
そのため、運営体制の改善の中からもチームとしての一体感が生まれてきていたタイミングでもあったので、各自の自腹ではありますが運営Tシャツを制作しました。次回の Amplify Boost Up #04 でも運営メンバーが着用していますのでご注目ください。
今後のコミュニティ運営
コミュニティ運営において、イベントなどの一時的に負荷が高くなるタイミングもありますが、そうではない平時においても運営を継続的にできる体制及び仕組みを作っていくことが大切です。なぜならば、関係者全員が他に仕事やプライベートもあり、あくまでもプラスアルファでボランティア活動で成り立っているからです。
そのような善意によって成り立っている運営組織をいかに無駄なく、かつ効率的な状態を作り、それを維持できるかは、コミュニティの存続にも関わる重要な課題だと思います。
Amplify Japan User Groupでは、諸々の運営体制が整ってきたので、その仕上げとして運営としての一体感をさらに出し、モチベーション向上に繋げ、コミュニティ自体の発展に寄与していければと思います。
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