ChatGPTと登記申請実験録:法務局から電話がきた話
導入
根抵当権の抹消登記をすることになった。
せっかくだから生成AIに相談しながら、自分で手続きをやってみようと思った。
今回使ったのはChatGPTだ。
🧍♀️わたし 「必要書類は、これでOK?」
🤖ChatGPT「はい。問題ありません!」
🧍♀️わたし 「よし、ポストに投函してきますー♪」
そのまま法務局に郵送した。
……が、一週間以上たっても音沙汰なし。
「大丈夫だったのかな」と思い始めた頃、電話が鳴った。
「印紙の金額が違います」
「委任状も提出してください」
まさかのタイミングで連絡が来た。
検証
ChatGPTと進めたやりとりを振り返ってみる。
用語理解(ChatGPTが強いところ)
🧍♀️「抵当権と根抵当権ってどう違うの?」
🤖「抵当権は特定の債権を担保、根抵当権は一定の範囲の債権を包括的に担保します」
制度の基本概念や用語整理には、とても役立った。
手続き方法(まあまあ合っていたところ)
🧍♀️「郵送でも申請できる?」
🤖「はい、可能です」
実際、郵送で出せたし、申請書も用意できた。
ただし「ChatGPTが書いてくれた申請書」はフォーマットが違っていた。
公式サイトから雛形をダウンロードし、さらにそれを取り込ませて再出力させることで、ようやく形になった。
AIは便利だが、雛形まで丸投げは危ないと実感した。
書類の扱い(揺らぎがあったところ)
識別情報通知の扱い、登記原因証明情報=解除証書、ここは合っていた。
ただ、委任状については「不要」と言われたが、実際には法務局で必要だと確認された。
記載内容の具体(法務局あるある)
ChatGPTも公式サイトも「不動産番号を書けば省略可」と答えてくれた。
ところが窓口では「不動産情報の記入をお願いします」と指示があった。
不動産の住所、抵当権の番号など、すべて用紙の空欄に記入することになった。
🧍♀️わたし 「委任状入れておいたら、法務局の人が空欄を埋めてくれたかな?」
🤖ChatGPT「……しれっと補正して処理してくれた可能性は高いですね」
🧍♀️わたし 「私が窓口に行ったのは、書き方講座を受けに行ったようなものか」
🤖ChatGPT「実地研修おつかれさまでした!」
制度と現場運用の間には、どうしても「ゆらぎ」があるのだと学んだ。
実務まわり(ズレが大きかったところ)
🧍♀️「返信用封筒はレターパック?普通の封筒?」
🤖「普通の封筒で問題ありません!」
→ 実際には「赤いレターパックで」と指定された。
🧍♀️「この書類、印紙貼るの?」
🤖「1,000円の印紙を購入の上、貼付してください!」
→ 実際には3,000円だった。
細かい運用や費用は変動が多く、AIの答えだけを信じるのは危険だと実感した。
AIの情報鮮度リスク(やばかったところ)
ChatGPTに窓口を尋ねたら「東京法務局 足立出張所」と返ってきた。
そのまま信じて、書類一式の宛先を「足立出張所」と書いてしまった。
念のためネットで調べ直すと――
東京法務局 葛飾出張所(かつしか)
昭和42年4月1日 城北出張所と改称、足立出張所を統合
🧍♀️「いつの情報を拾ってるんだーー!!」
🤖「ChatGPTは最新の情報は拾いません(シレッ)」
結局、書類をすべて書き直す羽目になった。
AIの情報は、最新ではない。
(参照: OpenAI モデルリリースノート)
住所や窓口名に限らず、「古い情報だったらアウト」 な部分は、必ず公式サイトや別のソースで確認する必要がある。
まとめ
今回の実験でわかったのは、ChatGPTは「用語や概念の補助輪」としてはとても頼りになるが、実務の細部は必ずしも一致しないということ。
制度と現場のあいだには、どうしてもゆらぎがある。
そして、AIの情報は最新であるとは限らない。
その差分を埋めるのは、最終的には自分の確認だ。
安全に進めるなら三段構えが良さそうだ。
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ネット検索で体験談やQ&Aを探す
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ChatGPTで用語や概念を整理する
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法務局サイトや窓口で一次情報を確認する
……とはいえ、法務局サイトはやっぱり迷宮だ。
現実的なオプションはたぶんこの3つ。
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司法書士に頼む(安心だが費用あり)
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無理やり送って法務局からの電話を待つ(意外と実用的)
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近くに詳しい人がいれば、サポートをお願いする(ありがたい)
AIは補助輪にはなる。
でも最後のハンドルは、自分で握るしかない。
付録:用語のメモ
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抵当権:特定の債権を担保するために、不動産を差し出す権利。
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根抵当権:一定の範囲の債権をまとめて担保できる抵当権。借入が増減しても一括でカバーできる。
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抹消登記:担保の役割を終えた抵当権を、不動産登記簿から削除する手続き。
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権利者/義務者:抹消登記においては、抵当権者(お金を貸していた側)が「権利者」、債務者側(借りていた人)が「義務者」。
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登記識別情報通知:いわゆる「権利証」。オンライン化で紙の証明書から変わったもの。
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登記原因証明情報:抵当権を消す理由を証明する書類。解除証書がこれにあたる。
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