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転職による引き継ぎを機に『勇気を持って手放す』経験がまがりなりにもできた話

2023/05/01に公開

TL;DR (先にまとめ)

  • 自身の転職による引き継ぎをきっかけに以下を実感した
    • いつの間にかメンバーやチームの成長に自分がフタをしていた
    • 結果として各メンバーの主体性を促し、自分にはないアイデアが発揮された
    • これまでも相応にタスクを移譲してきたつもりだが、自分には勇気や忍耐が足りていなかった
  • 転職以外の方法で 真に『勇気を持って手放す』 ため、今後機会があれば以下も検討してみたい
    • チーム状況を把握するための可視化
    • 転職に代わる何かしらのローテーションを生み出す組織構造
  • チームの状況に応じて『勇気を持って手放す』ことも選択肢のひとつとして心に留めておきたい

はじめに

私の背景

  • 事業会社の内製開発組織で10名程度のエンジニアをマネジメントしていました
  • 自身の転職が決まってから、2ヶ月程度かけて業務の引き継ぎを行いました

『勇気を持って手放す』とは

書籍『アジャイルリーダーシップ』でチームに自律性の文化を根付かせることを説明する際に登場する一節です。

自律性は、自己組織化とコラボレーションにおいて最も重要な要素です。自律性を高めるには、強い自信と、ものごとを手放す覚悟が必要です。そして勇気も必要になります。
(中略)
偉大なリーダーになりましょう。勇気を持って手放すのです。チームが答えを見つけてくれると信じましょう。

私の場合は転職によって、半ば強制的にこれまでの業務を手放す経験ができました。真に勇気があったかは怪しいので"まがりなりにも"というタイトルにしています。

引き継ぎ期間に実施したことと所感

業務の分担

  • 主にピープル領域とプロダクト領域のマネジメントで業務を分割できたため、それぞれ1名ずつに引き継ぐ方針を採用しました。
    • チームやプロダクトが大きくなる中で「適切なマネジメントができているのか」という課題が棚上げになっていたため、この機会に分割しました。
    • 引き継ぐメンバーにとっては急な話であり、不安も大きかったと思われます。勇気を持って決断してくれたメンバーには本当に感謝しかありません。

業務の移譲

  • 自分が出席していたMTGに同席してもらい、回数に応じて役割をスイッチする方針で移譲しました。
    • 純粋に引き継ぎ期間の時間軸で前半後半を割るのではなく、類似MTGの出現頻度によって分けたことになります。特定の時期にしか発生しないMTGなども存在したためです。
    • 引き継ぎ期間はチームとの距離感や自身のエンゲージメント維持が難しかったです。

対話機会の強化

  • 「研究会」と称して毎週30分ピープル領域とプロダクト領域それぞれで、引き継ぎメンバーと話し合いの時間を設けました。大まかな内容は以下で構成され、「マネジメント」にフォーカスした1on1みたいな感じです。(オープンな場で話し合いたかったので、引き継ぎメンバー以外も任意参加可能としていました)
    • 私が担当していた業務の内容や背景、考えを説明。話し合いの中で、より詳細を聞きたいとなった内容をお互いに掘り下げました。
    • 一般的なマネジメントについて自分が勉強してきたことの共有や、お互いに面白かった記事や書籍を共有して議論しました。
    • 引き継ぎを通して、必ずしも私の真似はしなくていいということは繰り返し伝えました。(自分の方法に絶対の自信があるわけでもなかったので…)

情報の整理

  • 暗黙知を残したまま去るわけにはいかないので、既存ドキュメントの更新や新規作成に折を見て対応していました。
    • ドキュメンテーションの文化がしっかりしていたチームではありましたが、歴史的な背景などは乏しい部分もあり文章化するのは大変でした。(正直、不足している領域はありそうで不安です)

全体の所感

そんな中で以下に気づきました。

分担し移譲を進める中で、自分にはなかったアイデアが引き継ぎメンバーや他のチームメンバーから挙がるようになりました。挙がったアイデアを実践するため、チーム全体で従来より積極的なフォロワーシップが発揮され、結果としてチームの主体性が増したように感じます。一例として、期間内でも以下のようなことがありました。

  • 従来とは別軸で収益を上げるため、ミニチームで仮説検証を開始(従来あった保守体制のバランスを見直して時間を捻出)
  • 従来やっていた部内LT会を発展させて、部内ハッカソンを開催

私としては引き継ぎ以前から、可能な限り業務を移譲し、周りから挙がったアイデアは積極的に実践していたつもりでした。今回の経験を経て、ものごとを手放す勇気と変化を見届ける忍耐が不足していたと感じます。マネージャーとして一定の成果をあげた成功体験に固執していたのかもしれません。

約1年半前にチームのマネジメントを引き継いだ際、チーム状況は今よりも危機的でした。自分が何とかしないといけない、アイデアを出してチームに変化を起こしたいという気持ちを強く覚えています。当時はそのマインドが功を奏し、チーム状況には一定の改善が見られました。しかしながら時間経過に伴うチームの成長速度に対し、自分のマインドを変化させる速度が合っておらず、いつの間にかメンバーやチームの成長に自分がフタをする状態になっていたようです。

引き継ぎ業務を通してですが、上記に気づけたことは自分にとって大きな経験でした。(同時に経験不足も実感しました)

転職以外の方法で上記経験を得るためにどうすれば良いか考えてみる

転職という、ここまでの思いきりがないと上記経験はできませんでした。転職以外の方法で 真に『勇気を持って手放す』 ためにはどうすれば良いのか無理のない範囲で考えてみます。

チーム状況を把握するために

まず『勇気を持って手放す』前段として、チームや組織の状況を把握する必要がありそうです。状況把握がないままでは、チームに不要な混乱を及ぼしたり、組織が認めてくれなかったりということが考えられるためです。感覚的になりやすい領域であり、「経験」という言葉で片付けられることも多いですが少しだけ掘り下げてみます。

  • 定量・定性問わずフィードバックとしてチーム状況の可視化を検討する
    • 情報が揃っていたほうが状況把握や意思決定の精度は上がりそうです。情報が見えれば周りを巻き込んで考えることも容易になります。
    • 方法や指標はチームごとに様々だとは思いますが、SPACEを意識した定義を(組織や会社の領域まで考慮しつつ)進めたいと考えています。
  • チームや組織から離れたメンターを探してみる
    • 「自分に経験がない場合は経験者に聞きましょう」ということで、壁打ち相手や対話を頼めそうなメンターを社内外で探すのは良いかもしれません。

『勇気を持って手放す』ために

ありきたりな考えですが、転職に代わる何かしらのローテーションを生み出す組織構造が必要そうです。

  • 別部署や別チームへ異動できるようにする
    • 別の組織を知ることで知見も広がりそうです。
  • 同一チームでのロールを変える
    • 万が一の場合に元へ戻すことが比較的容易です。

共通の懸念事項としては以下が考えられます。

  • 組織からいなくなるのと同じ温度感でこなせるか
    • 結局は近くに居る状態なため、一定期間、忍耐強く見届けることができるかは懸念です。
  • 周囲に理解してもらうためにどうするか
    • ローテーションによる影響範囲は近くのメンバーから、隣の組織、どこかの偉い人まで広く考えられます。広く理解してもらうためには、組織的な意義や上記の状況可視化など説得材料が必要そうです。

おわりに

アジャイル「開発」やフレームワークという言葉に引きずられ、"Do Agile"になりがちな自分に対して、改めて"Be Agile"が大切なんだと教えてくれる書籍が『アジャイルリーダーシップ』でした。書籍の内容を実践することは本当に難しく、改めて振り返ると実践したつもりになっている場合がほとんどだった気がします。そんな中で今回の経験は自分にとって大きな気づきでした。『アジャイルリーダーシップ』が言っていることの一端に触れた気がしています。

マネージャーという役割は外や内、様々な方面から働く期待と常に向き合っています。組織の状況に応じて、今まで上手くいっていたことが上手くいかなくなるときが来るかもしれません。上手くいかないと感じる場合は、『勇気を持って手放す』ことを選択肢として忘れずにいたいと思います。観測に徹することは大変ですが、その先に大きな気づきがあるはずです。

(ちなみに、転職した私は今のところ、あらゆる情報や業務を自分から掴む必要があるフェーズにいます。それはそれで大変な日々です😇)

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