本報告書は、2025年度某学会における情報収集および組織認知度向上工作の全容を記録するものである。
ようこそ、待っていた。
君のことは良く知っている。
このブログをクリックしてしまったということは少なからず学会活動に興味があるということだ。そして我々の 組織 にも少なからず興味を持っている。
わかっている。
企業で働きつつ学会活動してもいいのかと迷う貴君にぜひこの報告書を一読していただきたい。なお、この報告書は個人・団体が特定されないように加工されているので詮索は無用だ。
この報告書の教訓に留意しつつ、躊躇なく遅滞なく学会活動任務を進めてほしい。
期待している。
学会潜入工作任務調査報告書:任務概要
本報告書は、2025年度某学会における情報収集および組織認知度向上工作の全容を記録するものである。
フェーズ0:上層部への事前承認申請
2025年X月、組織から工作開始の指令を受領。しかし、実働に移る前に最も重要な手続きがある。それは上層部(マネージャー)への事前報告と承認取得である。
学会参加には相応のリソースが必要となる。参加費、交通費、宿泊費、そして工作員の時間的コスト。これらを事前に算出し、開催地と日程を含めた詳細な計画書を作成。査読の結果がacceptかrejectか──その不確実性を抱えた段階であっても、である。
ここで致命的なミスを犯してはならない。「論文が採択されたので参加させてください」という事後報告は、マネージャーにとって最も避けたい状況だ。なぜなら、それは既成事実による強制承認を意味するからだ。マネージャー自身の判断権が及ばないまま、なし崩し的にYesと言わざるを得ない──組織の意思決定プロセスとして最悪のパターンである。
したがって、工作員は査読結果が不確定な段階で、予算・期間・場所を明記した申請書を上層部へ提出する。「採択された場合は参加を希望します」という条件付き承認を事前に得ておくことで、後の意思決定がスムーズになる。これは工作員としての基本的なプロトコルである。
提出する資料には企業にとっての効果をまとめておく。指令が出ている時点で作戦の効果については作戦部で当然検討済みである。しかし、敢えて活動における効果を明確にすることをお勧めする。当たり前のことではあるが、これは趣味やボランティアではなく 任務 であるということを本人(工作員)とマネージャー双方が理解するためである。よく挙げるのは社内外ブランド戦略、技術力PR、共著者(協力者)の意欲維持といったところか。参考にしてほしい。
承認取得完了。任務遂行の正式な許可を得た。

フェーズ1:潜入準備(参加登録)
1-1:事前参加登録の重要性
上層部からの承認を得て、実働フェーズへ移行。まずX学会の公式サイトへ接触し、参加登録フォームへ慎重にアクセス。ターゲットとなるのは全国大会という呼称のイベント。
ここで致命的な情報を入手。多くの学会では当日参加が制限されている、あるいは完全に不可能な場合がある。会場のキャパシティ管理や事前準備の都合上、事前登録が事実上の必須条件となっているのだ。潜入工作の失敗は許されない。即座に事前登録手続きへ移行する。
学会員かどうかで参加資格や参加費などが異なることが判明した。しか非会員でも参加できることを確認ずみだ。
さらに重要な戦略的判断を迫られる。参加費の料金体系だ。多くの学会は「早期登録(Early Registration)」と「後期登録(Late Registration)」の二段階制を採用しており、早期登録の方が明らかに経済的である。組織の予算最適化の観点からも、早期登録を選択。締切日をカレンダーに記録し、確実に期限内での登録を遂行した。
1-2:発表登録の詳細設定
身分を偽ることなく、しかし目的を悟られぬよう、所属組織情報を淡々と入力。
ここで重要な分岐点に遭遇。学会によっては「アブストラクトのみ」で登録可能な場合と、「完全な論文投稿」が必須の場合がある。事前情報の精査不足は工作失敗に直結する。募集要項を入念に読み込み、今回は論文投稿が必須であることを確認。次なる課題は発表カテゴリの選定だ。セッション一覧を分析し、組織の専門性を最も効果的にアピールできるカテゴリを慎重に選択。
さらに神経を使うのが共著者リストの構成である。名前の順序一つで、組織内の立ち位置や貢献度が可視化される。第一著者、責任著者の配置を戦略的に決定。加えて、連絡先担当者(Corresponding Author)の指定も求められた。外部との通信窓口となる重要なポジションだ。適切な人員を配置し、情報管理体制を整える。
登録完了メールが届いた瞬間、第一段階のクリアランスを得たことを確認。
通信終了。
フェーズ2:事前工作(論文投稿)
2-1:文書作成ミッション
次なる任務は、アカデミックコミュニティへの自然な溶け込み。査読付き論文という「通行証」を作成すべく、数週間にわたる情報収集と文書作成に従事。
しかし、ここで技術的な障壁に直面する。学会が指定する投稿形式の確認だ。LaTeX形式を要求する学会、Microsoft Word形式のテンプレートを提供する学会、それぞれ異なるフォーマット規則が存在する。さらに、図表を本文とは別ファイルで提出することを求められるケースもある。執筆ガイドラインを一字一句確認し、規定に完全準拠した文書を作成。形式不備による却下は、工作員として最も避けるべき初歩的ミスである。
重要な点としては 画像をベクターで作れということだ。これは鉄則だ。
2-2:査読という試練
締切ギリギリに投稿システムへアップロード。ここからが真の試練だ。学会によって査読体制は大きく異なる(※)。
厳格な査読プロセスを持つ学会では、複数の査読者による精密な審査が待ち受ける。指摘事項への対応、修正稿の再提出──まさに敵地での尋問と再審査に等しい。一方、査読が形式的、あるいはほぼ存在しない学会も存在する。
今回の標的学会は中程度の査読体制。所定の手順に従い査読対応を完了し、数週間後、採択通知を受領。この瞬間、潜入工作の成功率が飛躍的に上昇したことを実感。正式な「通行証」を手に入れた。
※査読対応の詳細なプロトコルおよび戦術については、本報告書の範囲を超えるため、別途「査読対応工作マニュアル(仮称)」として取りまとめ、後日提出する予定である。
フェーズ3:現地潜入作戦
3-1:デジタル認証システムの突破
作戦決行日の数日前、想定外の通信を受信。学会事務局より、QRコード型電子入場証が送付されてきた。紙の参加証という古典的な手法を予想していたが、時代は変わったようだ。スマートフォンにQRコードを保存し、予行演習を実施。入場ゲートでの認証シミュレーションも問題なし。
3-2:情報収集の高度化
会場到着前、Web上のタイムテーブルシステムへアクセス。各セッションの時間、会場、発表者情報が詳細に表示される。かつては紙の冊子を頼りに会場内を彷徨ったものだが、今や全てがデジタル化されている。ターゲットセッションをマーキングし、最適な移動ルートを算出。
3-3:ハイブリッド作戦への適応
当日、会場へ到着。名札を首から提げ、完全に「研究者」として溶け込む。しかし、ここで新たな展開が。多くの発表がZoomによるオンライン配信を併用しているという。そのため、ネットワークに接続されている状態で、Zoomで画面共有する必要がある。ここでアニメキャラの背景とか使っていると目立つので注意だ。
物理空間とサイバー空間の融合──驚くべき進化だが、表情には一切出さない。
3-4:発表実行とタイムマネジメント
発表時刻が迫る。最重要ミッションの開始だ。割り当てられた時間枠は厳格に管理されている。時間超過は許されない。訓練通り、カメラに向かって堂々とプレゼンテーションを展開。事前に何度もリハーサルを重ね、規定時間内にすべてのスライドを消化できるよう調整済みだ。
3-5:質疑応答という心理戦
プレゼンテーション終了。ここからが真の試練──質疑応答である。会場とオンライン双方から質問が飛んでくる。
要点を簡潔に答える。冗長な説明は時間の無駄であり、他の質問者の機会を奪う。しかし、時に痛いところを突いてくる質問もある。研究の弱点を的確に指摘する鋭い攻撃だ。
ここで秘密兵器を使用する。「なるほど、良い質問ですね!」──この魔法の言葉を受けた瞬間、質問者の表情が微妙に変化する。攻撃的な姿勢が、わずかに緩むのだ。人間は褒められると、無意識に好意的になる。その一瞬の隙を突く。
「確かにそういう見方もありますね。ただし──」と相手の指摘を受け止めた風を装いつつ、こちらの主張を滑り込ませる。論点をずらし、優位な立場を維持する。
しかし、どうしても答えられない質問もある。そんな時は無理に答えず、「重要なご指摘ですので、後ほど詳しく調べておきます」と笑顔で切り返す。何でもない風に、自然に。焦りは禁物だ。
3-6:潜伏継続と接触機会の確保
質疑応答終了。発表という大舞台を無事に乗り切った。しかし、ここで会場を離れてはならない。セッションが完全に終了するまで、自席に留まり続ける。これは工作員としての基本行動だ。
なぜなら、セッション終了後に接触してくる人物が存在するからだ。「あなたの発表について、もう少し詳しく聞きたいのですが」──このタイミングでの接触こそ、組織認知度を高める絶好の機会である。名刺を交換し、より深い対話を重ねる。
会場内を移動しながら、他の参加者との接触を重ね、組織名を刷り込む。物理的な名刺交換と、デジタルな連絡先交換が交錯する光景に、時代の変化を実感しつつも、任務を着実に遂行していく。
フェーズ4:最終工作(懇親会)
4-1:懇親会会場への潜入
夕刻、最重要フェーズである懇親会へ移行。会場は学会参加者が一堂に会する、情報収集と人脈構築の最前線である。入口で再度QRコードをスキャンし、会場内へ。
まずは軽食と飲料を手に取る。これは単なる食事ではない。両手に何かを持つことで、自然な立ち姿を演出し、「孤立した不審者」という印象を回避するための基本戦術である。
4-2:ターゲット選定と接触戦略
会場を観察し、接触すべきターゲットを選定する。この作戦で重要なのは以下の人物群だ:
- 研究者層:自分の発表を聴講していた研究者(既に関心を持っている可能性が高い)、関連分野で著名な研究者(組織の認知度向上に直結し、さらなる人脈紹介や共同研究の糸口となる)、同じセッションで発表した研究者(共通の話題で会話を開始しやすい)
- 学生層:大学生および大学院生(将来的なリクルート候補として極めて重要。優秀な人材の早期発見と接触が組織の長期的な成長を支える)
- 単独行動者:一人で立っている参加者(接触のハードルが低い)
特に学生層への接触は二重の意味を持つ。一つは直接的なリクルート活動。もう一つは、指導教員を通じた研究者ネットワークへのアクセスである。優秀な学生と良好な関係を築けば、その指導教員との接点も自然に生まれる。
ターゲットを定めたら、自然にアプローチする。研究者に対しては「先ほどの○○先生のご発表、興味深く拝聴しました」、学生に対しては「どのような研究をされているのですか?」──このような会話の切り口で接触を開始。相手の研究への関心を示すことで、好意的な反応を引き出す。

4-3:名刺交換と組織アピール
会話が弾んだタイミングで名刺交換を申し出る。ここで重要なのは、名刺を渡すだけでなく、相手の属性に応じた適切な組織アピールを行うことだ。
研究者への対応:「実は弊社では○○の分野に力を入れておりまして」と、組織の研究開発活動を簡潔にアピール。さらに踏み込んで、「もしご関心のある研究者の方がいらっしゃれば、ぜひご紹介いただけると幸いです」「共同研究の可能性なども探っております」と、人脈拡大と協力関係構築への布石を打つ。
教授陣への心理的アプローチ:特に教授陣との会話では、相手の潜在的ニーズを見極めることが重要だ。多くの教授は「学生の就職先確保」という責任を抱えている。優秀な学生ほど、適切な進路を用意してあげたいと考える。ここを突く。「将来性のある学生さんがいらっしゃれば、ぜひ弊社のインターンシップを、ご紹介ください」と提案することで、教授の懸念を解消する「解決策の提供者」として位置づけられる。
また、多くの研究室は最先端技術(特にAIなど)の導入に強い関心を持つ。「弊社では最新の○○技術を活用しており、共同研究や技術交流の機会があれば」と切り出すことで、相手の知的好奇心と研究向上への欲求を刺激する。企業が持つ実用的なリソースと、大学が持つ学術的な知見──この相互補完関係を示唆することで、自然と相手の懐に入り込むことができる。
学生への対応:研究内容に 真摯な関心 を示した上で、「弊社でも似たようなテーマに取り組んでいます」「就職活動の際には、ぜひ弊社も選択肢に入れていただければ」と、自然な形でリクルート活動を展開。押し付けがましくならないよう、あくまで数あるうちの「選択肢の一つ」として提示することが重要だ。
複数の研究者・学生と接触を重ね、名刺交換を繰り返す。物理的な紙の名刺だけでなく、QRコードやLinkedInなどデジタルな連絡先交換も併用。時代の変化に対応した多層的なネットワーク構築を実行する。
4-4:情報収集と次回工作への布石
会話の中で、今後の研究動向、次回の学会情報、共同研究の可能性などを探る。単なる名刺交換で終わらせず、「次回の○○学会でもお会いできれば」「機会があればぜひ弊社にもお越しください」といった形で、継続的な関係構築への布石を打つ。
懇親会終了時刻が近づく。十分な接触を完了した。組織の存在感を静かに、しかし確実に刻印することに成功した。
4-5:任務完了報告
任務完了。組織認知度向上目標、達成を報告する。
本工作により、以下の成果を得た:
- 学会発表による専門性の可視化
- 複数の研究者との直接接触および名刺交換(人脈紹介・共同研究・優秀な学生紹介への布石を確保)
- 学生層との接触による組織へのリクルート
- 組織名の認知度向上
- 今後の協力関係構築への布石
特筆すべき成果として、○名の研究者から「うちの学生を紹介したい」との好意的な反応を得た。また、△名の大学院生が組織への関心を示し、今後の採用活動における有望な接触を確立した。
次回工作に向けた準備を開始する。
RTBのため通信終了。
補足事項
帰還後、名刺を受領したターゲットへは、お礼のメールを書いておくことをお勧めする。
返信が無くても気にすることは無い。これは「知名度を向上」させ潜在意識に浸透させる作戦なのだから。まったく気にはしていない。返事が無くても、本当に全然気にはならないが返事を返さない心理状態について分析し...(通信途絶のため以下略)。
(通信終了)
報告書は以上だ。
賢明な貴君のことだ。理解してもらえただろう。
なお、必要なら上のポスター発表の際のマニュアルについても目を通しておくことをお勧めする。
「なぜ毎回ふざけたタイトル名なのか」だと?
良い質問だ。これは一般に溶け込みやすくしつつ、情報を的確にターゲットに伝えるための高度なテクニック だ。
現に貴君はこのブログをクリックしここまでたどり着いたのだろう? それが証拠だ。
いずれにせよ貴君の任務遂行を祈る。
通信終了。
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