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WCAG の概要と構造について(原則・ガイドライン・達成基準・関連文書)

2024/12/28に公開

WCAG(ウィーキャグ/ウィケーグ)は、ウェブアクセシビリティを語る上で欠かせないガイドラインです。

とはいえ、この文書は実は1ページにまとめられています。

アクセシビリティに対して難しいイメージを持っている方も多いかもしれませんが、安心してください。
確かにその1ページは内容が豊富ですが、別のページを何度も参照することなく、アクセシビリティの基本を簡単に確認できる点が魅力です。

2024年12月28日現在、最新のガイドラインは WCAG 2.2であり、これを翻訳した日本語版も提供されています。
以下のリンクから日本語版を参照できます。

https://waic.jp/translations/WCAG22/

この記事では、WCAG の概要と構造を説明し、そこで示されている 「原則」「ガイドライン」「達成基準」「関連文書」 がそれぞれどのような役割を持つのかについて解説します。

WCAG の概要と目的

WCAG(Web Content Accessibility Guidelines)は、インターネットのための国際標準化機構であるW3C(World Wide Web Consortium)の下部組織であるWAI(Web Accessibility Initiative)が策定したウェブアクセシビリティの国際ガイドラインです。

このガイドラインの主な目的は、障害の有無や程度、使用環境に関わらず、すべての人々がウェブコンテンツに平等にアクセスし、利用できるようにすることです。

WCAG は具体的に以下を目指しています。

  • 視覚障害(全盲、弱視)、聴覚障害(ろう者、難聴者)、運動障害、発話障害、認知・学習障害、光感受性発作など、多様な障害を持つ人々への対応
  • 高齢者や一時的な障害を持つ人々を含む幅広いユーザー層への配慮
  • 様々な環境や状況下でウェブを利用する人々へのアクセシビリティ確保
  • ユーザビリティの全体的な向上

WCAG は、世界中の個人や組織の協力のもと作成された国際的な基準であり、現在および将来のウェブ技術に広く適用できるよう設計されています。
このように、WCAG は 「誰もが使いやすい」 ウェブコンテンツを実現するための包括的な指針となっています。

WCAG の階層構造と目次の読み方

WCAG は3層の階層構造で構成されています。
この構造を知ることで WCAG について理解しやすくなります。

階層構造

階層 説明
原則(Principles) 最上位の概念
ガイドライン(Guidelines) 原則を具体化したもの
達成基準(Success Criteria) ガイドラインの詳細な要件

最上位の「原則」は、その下に複数の「ガイドライン」を持ち、各ガイドラインはさらに複数の「達成基準」を含んでいる構造になっています。

  • 原則 1
    • ガイドライン 1.1
      • 達成基準 1.1.1
    • ガイドライン 1.2
      • 達成基準 1.2.1
    • ガイドライン 1.3
      • 達成基準 1.3.1
      • 達成基準 1.3.2
  • 原則 2
    • ガイドライン 2.1
      • 達成基準 2.1.1
        • ...略

目次の読み方

WCAG ドキュメントの目次番号は 「原則.ガイドライン.達成基準」 の順で付けられています。

例として以下の WCAG のドキュメントを翻訳したページを見てみましょう。
https://waic.jp/translations/WCAG22/#audio-description-or-media-alternative-prerecorded

こちらのページの目次は 1.2.3 となっているので、

  • 1番目の原則(知覚可能)の下にある
  • 2番目のガイドライン(時間依存メディア)の下にある
  • 3番目の達成基準(音声解説、又はメディアに対する代替 (収録済))

であることがわかります。

この構造を理解することで、WCAG ドキュメント内での各項目の位置づけが明確になり、より効率的にアクセシビリティガイドラインを参照できます。

原則

WCAG は大きく4つの原則で構成されています。

原則 説明
知覚可能(Perceivable) 情報やUIコンポーネントが利用者に認識可能であること。
操作可能(Operable) ユーザーがUIコンポーネントやナビゲーションを操作できること。
理解可能(Understandable) 情報や操作が簡単で理解可能であること。
堅牢(Robust) 現在および将来にわたる技術でも利用可能な互換性があること。

これらの原則の頭文字を取って POUR 原則 と表現することがあります。

一つ一つの原則については以下の記事で詳しく解説しています。
(WCAG のドキュメントを翻訳した WAIC の解説を引用しながら、やさしく書いています。)

https://zenn.dev/harryduck/articles/what-are-4-principles-of-wcag

ガイドライン

各原則の下には、アクセシビリティ向上のために取り組むべき目標を示すガイドラインが設定されています。たとえば、WCAG 2.2 では 13 のガイドラインが定義されています。

このガイドラインは、具体的な達成基準を理解するための背景や目的を提供します。
原則が最も抽象的な概念を示したのに対し、ガイドラインはその原則を実現するための大まかな方向性を示します。
(あくまでおおまかな方向性であり、さらに詳しい実装の方法などについては後述の達成基準で示されます。)

例えば「知覚可能」の原則の下には、それを実現するために以下のようなガイドラインを提供しています。

  • テキストによる代替: 画像やマルチメディアコンテンツに対して適切な代替テキストを提供する。
  • 時間依存メディア: 音声や動画コンテンツに対して、字幕やトランスクリプトを提供する。
  • 適応可能: コンテンツを様々な方法で提示できるようにし、情報や構造を損なわないようにする。
  • 判別可能: コンテンツを見やすく、聞きやすくする。背景と前景を区別しやすくする。

達成基準

ガイドラインが背景や目的を提供するものだったのに対し、達成基準は具体的かつ検証可能な要件です。
ウェブコンテンツが WCAG に適合しているかどうかを判断するための基準となります。

3つの適合レベル

この達成基準には3つの適合レベルがあります。
これらのレベルは、ウェブコンテンツのアクセシビリティの程度を示します。

レベルA

  • 最低限の基準を満たすレベル
  • レベルAの達成基準をすべて満たす必要がある
  • 基本的な要件は満たすが、一部のユーザーにとっては障壁が残る可能性がある

レベルAA

  • 多くの組織や政府機関が目標とするレベル
  • レベルAとAAの達成基準をすべて満たす必要がある
  • ほとんどのユーザーがアクセスできる状態になる
  • 法的要件や業界標準として広く採用されている

レベルAAA

  • 最も厳しい基準を示すレベル
  • レベルA、AA、AAAの全達成基準を満たす必要がある
  • 達成が非常に困難で、すべての状況で実現するのは難しい
  • サイト全体の目標とすることは推奨されていない

実装例

達成基準は単なる理論的な指針ではなく、実際のウェブ開発において明確な基準を提供します。
以下に、達成基準と簡単な実装例を示します。

達成基準 1.1.1 非テキストコンテンツ
利用者に提示されるすべての非テキストコンテンツには、同等の目的を果たすテキストによる代替が提供されている。[1]

上記が達成基準のため、それを満たすために以下のような実装をします。

<img src="logo.png" alt="W3C" />

この実装では画像(非テキストコンテンツ)に、同等の目的を果たすためにalt属性(テキストによる代替)が提供されているため、達成基準を満たしているといえます。
なお、alt属性の詳しい解説はこちらをご参照ください。
https://zenn.dev/harryduck/articles/alt-attribute-in-a11y

関連文書(補足文書)

実は達成基準の下に関連文書(補足文書)というのも存在します。
関連文書は達成基準を詳しく説明し、実装方法を提供するものです。

https://waic.jp/translations/WCAG22/#wcag-2-2-supporting-documents

上記で示した「達成基準 1.1.1 非テキストコンテンツ」について、以下のページで意図やメリット、事例、達成方法などが解説されています。
(WCAG 2.2 の関連文書はまだ日本語訳されていなかったため、2.1のリンクを貼ります。)

https://waic.jp/translations/WCAG21/Understanding/non-text-content

関連文書と達成基準との違い

達成基準は、アクセシビリティを確保するために「満たすべき要件」を定義したものです。
これらは規範的(Normative)な部分であり、WCAG 準拠を評価する際の基準となります。
一方で、関連文書は、達成基準を理解しやすくし、実装をサポートするための「補足情報」を提供します。
これらは非規範的(Non-Normative)な資料であり、参考として活用されます。

達成基準

  • 規範的(Normative)
  • WCAG 準拠の判断基準を提供
  • 必須要件

関連文書

  • 非規範的(Non-Normative)
  • 達成基準の理解や実装などをサポート
  • 解説、実装例、参考情報(失敗例など)

WCAGのバージョンと進化

WCAG は技術進化に伴いアップデートされてきました。しかし、その目的は一貫して「すべての人がウェブコンテンツへアクセスできるようにする」ことです。

WCAG 2.1 と 2.2 は、それぞれ前のバージョンと後方互換性があります。
つまり、WCAG 2.2 に準拠すれば自動的に WCAG 2.1 と 2.0 にも準拠することになります。

バージョン 公開年 主な特徴
1.0 1999年 初版。HTML/CSS中心で14ガイドライン構成。
2.0 2008年 技術非依存型へ移行し、4原則・12ガイドライン・61達成基準を設定。
2.1 2018年 モバイル端末や弱視、認知障碍対応を強化し17達成基準を追加。
2.2 2023年 認証方法やフォーカス枠など9つの達成基準を追加。
3.0 草案中 評価指標や適合レベルの変更を検討中。
脚注
  1. 「Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2 (日本語訳)」ウェブアクセシビリティ基盤委員会 (WAIC)、2023年10月5日、https://waic.jp/translations/WCAG22/#non-text-content (参照 2024-12-27) ↩︎

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