WCAG の4つの原則(知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢)について
WCAGは、ウェブアクセシビリティを確保するための国際的なガイドラインです。
WCAG の原則について詳しく解説する前に、WCAG の全体像をつかんでおくと理解が深まります。
以下の記事では、WCAG の概要と構造を網羅的に解説していますので、ぜひご一読ください。
この記事を踏まえた上で、ここからは WCAG を構成する「原則」「ガイドライン」「達成基準」「関連文書」のうち、4つの原則(知覚可能・操作可能・理解可能・堅牢)に焦点を当てて詳しく見ていきましょう。
知覚可能(Perceivable)
情報及びユーザインタフェースコンポーネントは、利用者が知覚できる方法で利用者に提示可能でなければならない。
これは、利用者が提示されている情報を知覚できなければならないことを意味する (利用者の感覚すべてに対して知覚できないものであってはならない)。[1]
書いてあることはシンプル。
この原則は、ウェブコンテンツの情報やインターフェースが利用者に認識可能であることを求めています。
上記の引用の中でとくに最後の括弧書きに注目してみます。
利用者の感覚すべてに対して知覚できないものであってはならない
「利用者の感覚(例:視覚、聴覚、触覚など)すべてに対して知覚できない」というのはつまり、
「目でも見えないし、聞こえないし、触っても分からないような状態」のことです。
それらの状態を避けるべし、と書いてあります。
原則の下にあるガイドラインについては本記事では詳しく扱いませんが、そのためには以下のようなことが求められています。
- 視覚障碍者がスクリーンリーダーを使用して音声によって情報を理解できるようにする
- 聴覚障碍者が動画コンテンツを字幕によって理解できるようにする
- 色覚異常者がフォームの必須項目を色の違いだけでなく、テキストによって理解できるようにする
視覚で認識できない状況であれば、聴覚で認識できるように、
聴覚で認識できない状況であれば、視覚で認識できるように、
色覚で認識できない状況であれば、色覚以外の視覚で認識できるようにする。
情報を単一の感覚でのみ認識できるようにしてしまうと、その特定の感覚に障碍がある人々にとって「知覚可能」ではなくなります。
そのため、複数の感覚を通じて情報を提供することで、「知覚可能」な範囲を大幅に拡大することができます。
しかし、アクセシビリティの実現は複雑な課題を含んでいます。
例えば、視覚情報を聴覚で代替できるようにしても、視覚と聴覚の両方に障碍がある利用者(盲ろう者)にとっては、依然として「知覚可能」とは言えません。
ただし、このような対応が無意味というわけではありません。
盲ろう者の多くは、ウェブにアクセスする際に点字ディスプレイなどの触覚デバイスを使用します。
例えば、画像にalt属性を付与することは、スクリーンリーダーを通じて聴覚的に情報を伝えるだけでなく、点字ディスプレイを通じて触覚的に情報を伝達することも可能にします。
このように、多様な障碍に対応するためには、複数の感覚を活用した情報提供方法を組み合わせることが重要です。
それぞれの対応が、異なる障碍を持つ利用者にとって有効となる可能性があるためです。
アクセシビリティの向上は、こうした多層的なアプローチによって実現されていきます。
操作可能(Operable)
ユーザインタフェースコンポーネント及びナビゲーションは操作可能でなければならない。
これは、利用者がインタフェースを操作できなければならないことを意味する (インタフェースが、利用者の実行できないインタラクションを要求してはならない)。[1:1]
ユーザーインターフェースとナビゲーションが操作可能であることを求める原則です。
多くの人がマウスを使用してウェブサイトを閲覧していますが、マウスは主に視覚的なインターフェースを前提としています。
しかし、視覚障碍者の中には、マウス操作が困難でキーボードのみを使用する方もいます。
「操作可能」の原則は、こうした多様なニーズに対応するため、様々な入力方法でウェブサイトを操作できるよう設計することを求めています。
キーボード以外にも、タッチスクリーン、音声認識ソフトウェア、点字ディスプレイなど、多様な入力デバイスを使用する利用者がいることを考慮する必要があります。
また、この原則は障碍のある方だけでなく、一時的に特定のデバイスが使用できない状況(例:タッチパッドの故障時)にも対応します。
このような場合、キーボードのみでの操作が可能であることが重要になります。
さらに、操作可能の原則は、デバイスの問題だけでなく、発作の防止やコンテンツを理解し操作する時間の確保なども重視しています。
急激な光の点滅などはてんかんなどを持つ利用者の発作を引き起こす可能性があります。
また、情報を処理する速度は利用者によって異なるため、十分な時間を確保する必要があります。
(スライドショーの速度調整機能を搭載することなどがそれに該当します。)
理解可能(Understandable)
情報及びユーザインタフェースの操作は理解可能でなければならない。
これは、利用者がユーザインタフェースの操作と情報とを理解できなければならないことを意味する (コンテンツ又は操作が、理解できないものであってはならない)。[1:2]
この原則は、ウェブコンテンツやインターフェースが、様々な能力や経験を持つ利用者にとって分かりやすく、使いやすいものであることを求めています。
ハンバーガーボタン(メニュー)を例に考えてみます。
このボタンは通常、3本の水平線で構成され、クリックするとメニューが展開する機能を持っています。
この記事の読者はエンジニアやデザイナーなどのウェブに慣れている人たちが多いので、これを見て「クリックするとメニューが展開する」と予測できるかもしれません。
しかし、これは当たり前ではありません。
以下のような利用者にとっては、このインターフェースの意味や機能を理解することが困難な場合があります。
- 高齢者
- ウェブ技術に不慣れな人
- 認知障碍や学習障碍を持つ人
そういった状態を避けるために、ユーザーインターフェースの操作が予測可能なもので代替するなどのアプローチが必要になります。
- ユーザーインターフェースの操作が予測可能なものになるよう設計する
- ボタンやリンクに明確で分かりやすいラベルを付ける
- サイト全体で一貫したデザインとナビゲーションを使用する。
- 入力フォームなどでエラーが発生した場合、明確にエラーを識別し、修正方法を提示する。
これらの対応により、様々な利用者がウェブコンテンツを理解し、適切に操作できるようになります。
堅牢(Robust)
コンテンツは、支援技術を含む様々なユーザエージェントが確実に解釈できるように十分に堅牢でなければならない。
これは、利用者が技術の進歩に応じてコンテンツにアクセスできなければならないことを意味する (技術やユーザエージェントの進化していったとしても、コンテンツはアクセシブルなままであるべきである)。[1:3]
この原則は、コンテンツが様々なユーザーエージェントや支援技術によって確実に解釈できることを求めています。
PCからスマートフォンへの移行が進み、今後さらに新しいデバイスが登場する可能性があります。
入力デバイスも進化を続け、現在のキーボードやマウスよりも便利なものが開発される可能性があります。
ウェブブラウザの市場シェアも変化する可能性があります。現在はGoogle Chromeが主流ですが、将来的には新興ブラウザが台頭する可能性も考えられます。
テクノロジーやユーザーエージェントの進化は継続的に起こっています。そのため、コンテンツ自体がこれらの変化に対応できるよう「アクセシブル」である必要があります。
ここでの「アクセシブル」とは、 「進化を続ける技術やユーザーエージェントによって確実に解釈されること」 を意味します。
異なるブラウザや端末でも、一貫した動作や内容を保証することが重要です。
「堅牢」さを保証するには、以下のようなアプローチが考えられます。
- 構造化された HTML の記述
- マルチブラウザ・クロスプラットフォームでのテストの実施
- WAI-ARIAの適切な実装による動的コンテンツのアクセシビリティ向上
まとめ
WCAGの4つの原則(知覚可能、操作可能、理解可能、堅牢)は、ウェブアクセシビリティの基本となる重要な指針です。
これらは、WCAG を構成する最上位に位置する基本的な概念であり、ウェブコンテンツのアクセシビリティを確保するための土台となります。
原則を深く理解することで、原則に基づくガイドラインや、そのさらに下に位置する達成基準をより概念的に理解できるようになります。
WCAG は定期的にメジャーアップデートされるものの、個別の達成基準と比較するとより安定的です。
これらの原則は、技術や状況の変化に関わらず、ウェブアクセシビリティの根幹を成す概念として機能します。
そのため、チームや組織において長期的な指針として活用することが可能です。
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「WCAG 2.0 解説書のイントロダクション | WCAG 2.0解説書」ウェブアクセシビリティ基盤委員会 (WAIC)、2023年10月5日、https://waic.jp/translations/UNDERSTANDING-WCAG20/intro.html (参照 2024-12-27) ↩︎ ↩︎ ↩︎ ↩︎
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