ミドルマネージャーとしての役割が強まることでマネジメントへの意識がどのように変わってきたか
はじめに
この記事は Engineering Manager Advent Calendar 2024 の19日目の記事です。
2024年のアドベントカレンダーということで、EMとしてこの1年を振り返ってみると組織体制に変化があった1年でした。具体的には、これまで1つのフィーチャーチームとしてプロダクト開発を進めていたものを分離して2つのフィーチャーチームとする決断をしました。
PMはプロダクトマネージャー、PDはプロダクトデザイナーになります。
本記事では2チーム体制になってからのマネジメント(主に自分の担当領域であるチームや組織領域・ピープル領域でのマネジメント)を振り返り、苦労したことや、そこから考えて取り組んでいることを記載します。
近い立場の人やピープルマネジメントで悩みがある人に対して、自身の経験が少しでも参考になれば幸いです。
前提となる背景
もともと、1チームで開発をしていた背景は以下になります。
- 目標を絞り、情報の集約機会と各職能の連携機会を増やしていくことで、事業理解・プロダクト理解をチーム全体で高める
1チーム体制が軌道に乗る一方で、チームの成長に伴い以下のような課題も見えてきました。
- プロジェクトが輻輳する際など、情報経路や共有頻度の複雑性が増していきチーム全体の認知負荷が高まる
- プロジェクトによっては関わるメンバーが限定的になり、フローやコラボレーションの効率化に限界が見えてきた
そこから2チーム体制へ移行することを決断したのですが、2チーム体制に期待していること、目指していることは以下になります。
- 1チーム時代の課題を改善し、ユーザーへ価値提供できるストリームの数を増やす
- 2つのチームがスクラムチームとしてそれぞれ成長することで、事業全体・組織全体の成長につなげる
現場との関わりの変遷
あくまでイメージなのですが、2チーム体制へ移行することで自身のポジションが下図でいうミドルマネージャーに今までよりも寄った感覚を覚えています。1チーム時代よりも私と現場との距離が遠くなったと理解しています。
図に描ききれていないのですが、コーポレートメンバーが全体を囲う形で守ってくれています。また、組織はユーザーへの価値提供を軸にコマのような回転をしているイメージです。
体制が変わって以降、苦労していること
1チーム時代よりも私と現場との距離が遠くなったため、現場との接点が減り以下のような点でギャップを感じることがありました。
現場への解像度が上がらない
1チーム時代は私自身が全てのスクラムイベントに参加し、多くの場合はファシリテーションも行っていました。2チーム体制になってからは、各チーム内へイベントのファシリテーションも移譲し、チーム内で完結するよう進めてきました。各チームの自己組織化は進むのですが、私と現場との距離は遠くなり、以前と比べチーム内の雰囲気や温度感に直接触れる機会は減りました。
ボトムアップな発言が難しくなった
現場との距離が近い時には、何かの課題に対して「一緒に改善していこう」といった類の言葉はチームとしてボトムアップなマインドを持って取り組みやすいと感じていました。距離が離れるにつれて、そもそも現場の解像度が以前よりも高くない状態で、自身の発言をボトムアップに寄せることには無理があると感じています。一方で私からのトップダウンなメッセージが増えるかというと、チーム内でのボトムアップな成長とのバランスを考えて見守る機会も多く取っています。チームの自己組織化が進むに連れて、現場から見た私の存在感も薄くなりました。
評価や目標振り返りで納得感を醸成する難易度が上がった
2チーム体制にはなりますが、まだまだ移行と拡大の途中ということもあり、現時点では各エンジニアメンバーの評価や目標振り返りといったピープルマネジメント領域の実行と責任は私が持っています。メンバーのエンゲージメント維持やチームの成長を事業へアライメントさせるためにも、お互い納得できる評価や目標管理を継続することが重要であり、以前からマネージャーとして注力してきました。現場やメンバーに対しての理解が不足している状態だと、お互いの納得感を醸成させていくことは難しいです。
体制が変わって以降、意識して取り組んでいること
解像度を上げることや、コミュニケーションの機会を最大限有効に活用することが大切だと思い、以下のようなことへ取り組んでいます。
定量定性の両観点でファクトを収集する
2チーム体制への移行により、各チームの状況把握がより重要になってきました。そのため、定量定性両面からチームのファクト収集をSPACE[1]を参考にしながら行っています。
定量面では、各チームのベロシティやFour Keys、ミーティングの密度や連続時間といった指標を継続的にモニタリングしています。一方で定性面では1on1やアンケートを定期的に行い、チームの雰囲気や個々のメンバーのモチベーション、開発環境に対する満足度などを観察しています。
特に自己組織化が進むチームにおいてはOODAループ(観察->状況判断->意思決定->行動)を意識し、収集したファクトを基にタイムリーな意思決定や支援が行える状態を目指しています。
1on1を含めたコミュニケーションの機会を大切にする
現場との物理的な距離が広がる中で、1on1などの直接的なコミュニケーションの機会がより重要になっています。以下の点を特に意識しています。
- メンバーから見たチーム状況や課題感を把握し、現場への解像度を高める
- ブロッカーに対して、チームやメンバーの自律性を考慮しながらボトムアップ・トップダウン両面からのアプローチを検討する
- プロダクトや組織の方向性を定期的に共有し、目標達成に向けた認識を合わせる
現場でのボトムアップな改善や成長を支援するためにも、各メンバーの状況を把握し、適切なタイミングで気づきを与えられるような対話を目指しています。とはいえ、まだまだ自身のコミュニケーション能力には改善の余地が大きくあり、今後もその質や経験を高めていく必要性を感じています。
フレームワークを活用する
貴重なコミュニケーションの機会で、その時々の自分のコンディションに左右されず一定のクオリティを維持するため、いくつかのフレームワークを活用しています。
例えば「急成長を導くマネージャーの型」という書籍では、目標振り返りや評価時など事実に基づく具体的なフィードバックを行うために、各メンバーの行動や成果を日々(メモレベルでも)記録することの重要性を説明しています。
実践としてはPRにおける実装や設計の工夫・レビューコメント、仕様の調整や相談といったメンバー同士のコラボレーション、メンバーからメンバーへの感謝や称賛など各メンバーのGoodなポイントを定期的に控えています。全メンバーへの記録を継続することは大変な時もありますが、これによって具体を掘り下げたコミュニケーションが促進するため、個人的には継続する価値があると感じています。
将来の組織像を描き、育成や採用にコミットする
各チームへの理解を深めるという観点からは離れるのですが、現場に出る時間が減ったぶんを将来の組織に対して使うようにしています。
- 将来的なチーム拡大を見据えた組織設計、ありたい姿のたたき台を文章や図で作成。例えば以下のようなものになります。
- メンバーのキャリアにおける成長や挑戦環境をどう提供していくかのストーリー
- 将来的に各チーム内で評価や目標管理を完結させるための育成や採用ストーリー
- 組織の成長と拡大のため採用活動に一定のリソースを張り続ける
※もちろん、これは現在のチーム状況把握が一定順調で、チームに何かしら即時対処の必要なアラートが見られないことが前提です。
周辺組織や経営との関わりの変遷
書籍「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」の中ではマネージャーの成果を以下のような図式で説明しています。
マネジャーのアウトプット = 自分の組織のアウトプット + 自分の影響力が及ぶ隣接組織のアウトプット
ミドルマネージャーとしての役割が強まるにつれて、周辺組織やボードメンバー(経営)に対して自分がどう関われるのか、組織全体の成果を向上させることができるか従来より強く意識するようになりました。
より抽象的な領域での貢献
例えば、組織全体への中長期的な視点がこれまで以上に求められるようになりました。プロダクト志向なエンジニア組織としてのありたい姿や、そこに向けた実行計画案、採用戦略の策定など、より抽象度の高い領域に関わる機会が増えています。
こういった領域で経営メンバーや他マネージャーと話し合いを重ね、自分にはない多様な視点や知見を持ち帰りたいと考えています。また得られたエッセンスは自チームの文脈に落とし込み、現場メンバーにも共有・相談しながら、より具体的な施策や取り組みとして展開していくことが重要です。一連のサイクルを繰り返すことで、組織としての一貫性を保つことができると感じています。
経営メンバーや他マネージャーとの関係強化
以下のような経営メンバーや他マネージャーとの関係性を通じて、自身の方向性を確認・修正しながら、組織全体の成長に貢献していきたいと考えています。(ただし自分の行動量としてはまだまだ不足気味です)
- 組織としての方向性や最新状況の認識を更新する
- 他部門との連携や調整を円滑にするため相互理解を深める
- マネジメントにおける知見やプラクティスを共有する
実感として、自組織への貢献と、周辺組織への影響力を通じた間接的な貢献のバランスを取ることは簡単ではありません。現場からの距離が広がることで、自己肯定感の低下を感じることもあります。しかし、私の役割は現場で存在感を示すことではなく、組織全体の成果を最大化させるための貢献だと言い聞かせています。現場の開発は両チームに安心して任せられるので、マネージャーである私もコンフォートゾーンを抜けて、貢献の幅を広げる挑戦にトライしなくてはいけません。
まとめ
2チーム体制への移行から約9ヶ月が経過し、両チームとも継続的な改善を重ねながら着実に成長を遂げています。私自身も現場との距離が広がる一方で、より広い視野での組織マネジメントが求められるようになり、以下のような学びを得ることができました。
- 定量定性両面でのファクト収集から、現場への解像度を高める
- コミュニケーション機会を最大限活用するために準備とフレームワークを使用する
- 将来の組織像を描き、自組織・周辺組織に共有しながら取り組みを前進させる
- 自組織と周辺組織への貢献バランスを考えた挑戦を継続する
これらの学びを活かしながら、将来の組織像実現に向けて2025年も前進を続けたいです!
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SPACEは組織・チーム・個人などのレイヤーごとに、定量的・定性的バランスよく生産性指標を選定することができるフレームワークになります。詳細は元の論文も参考にしてください。https://queue.acm.org/detail.cfm?id=3454124 ↩︎
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