「ガブテックカンファレンス vol.1」開催レポート~行政×生成AIの最前線~
東京都ICT職としてGovTech東京にjoinしており、開発現場やエンジニアの活躍を発信している技術統括グループの小暮です!
2025年8月19日、GovTech東京はTokyo Innovation Base(東京都千代田区)にて「ガブテックカンファレンス vol.1」を開催しました。今回は、生成AIをテーマに行政分野におけるテクノロジー活用の可能性を探る場として企画された本イベントについてレポートします!
GovTech Conferenceでのパネルディスカッションの様子
東京都は2025年7月、「東京都AI戦略」を発表し、生成AIを含む先端技術の活用によって、都民サービスの質向上と行政業務の生産性向上を目指す方針を示しました。住民ニーズや労働力不足等への対応として、透明性・公平性・安全性などに留意しながらも、教育・医療・福祉・行政手続きなどあらゆる分野でAI導入を積極的に進めていくとしています。
また、GovTech東京が構築する「生成AIプラットフォーム」では、東京都と区市町村の行政現場でのAI活用を支援する共通基盤として、ノーコード開発や自治体間でのツール共有を可能にする仕組みが整備され、実務に即した活用が進んでいます。
「ガブテックカンファレンス」は、行政の現場におけるテクノロジー活用の過去・現在・未来をオープンに語り合う場として、継続的に開催しています。キックオフとなる前回は、「行政デジタルサービスを内製で開発するリアルと可能性 #東京アプリ」がテーマとして取り上げられました。
イベント概要
タイトル
ガブテックカンファレンス vol.1 「行政における生成AI活用の最前線」
開催日時
2025年8月19日(火)15:00~17:00
会場
Tokyo Innovation Base (東京都千代田区丸の内3-8-3)
主催
一般財団法人GovTech東京
イベント当日の様子とハイライト
1.パネルディスカッション:「公共分野でAIをどう使っていくか?」
生成AI×行政をテーマにしたGovTech Conference Vol.1
登壇者:
- 井原 正博(一般財団法人GovTech東京 業務執行理事兼CTO)モデレーター
- 辻 正隆(東京都デジタルサービス局 デジタル戦略部長)
- 大山 訓弘 氏(日本マイクロソフト株式会社 業務執行役員)
- 松本 勇気 氏(株式会社LayerX 代表取締役CTO)
- 松尾 豊 氏(東京大学大学院 教授)
内容ハイライト:
テーマ1「東京都AI戦略について」
テーマ1では、東京都がAIに対する取り組み方針などをまとめて7月に発表した「東京都AI戦略」をテーマに、パネルディスカッションを実施しました。東京大学の松尾豊教授らが、同戦略の評価や今後の展望などを語りました。
東京大学の松尾豊教授のコメントより(一部抜粋)
「東京都はAI活用において全国的にも先進的な取り組みを進めており、戦略には多様なユースケースが体系的にまとめられている部分は評価できる。デジタル庁が制度設計や人材育成を担う一方で、東京都は現場での「活用」に重点を置いており、実践と体系化の両立を図っている。このような東京都の取り組みは、他の自治体にとっても参考となるものであり、全国的なAI活用の推進において重要な役割を果たすことが期待される。」
テーマ2「これからの行政とAIのあり方を展望する」
テーマ2では、東京都の実践的な取り組みを踏まえつつ、行政におけるAIの今後の可能性について議論が交わされました。本セッションには、株式会社LayerXの松本氏と日本マイクロソフト株式会社の大山氏が登壇し、それぞれの立場から行政とAIの関係性について見解を述べました。
株式会社LayerX 松本氏のコメント
- 行政におけるAI活用の可能性が広がる中、特に生成AIやAIエージェントの導入が注目されている。従来は「共通業務」や「大規模業界のタスク」に限られていたデジタル化が、今では自治体固有の業務にも広がりつつあり、AIの進化によって新たな領域への適用が現実味を帯びている。
- AIエージェントは、人間が1時間かけていた業務を数分で処理できる可能性を持ち、「手取り時間」の増加を通じて行政サービスの質と効率を高める鍵となる。ただし、1つのエージェントでできることには限界があるため、数千〜数万のエージェントを構築・管理するための基盤整備と、それを支えるAIマネジメントの精度向上が不可欠である。
日本マイクロソフト株式会社 大山氏のコメント
- AI活用を進める上では、セキュリティや倫理的な配慮が欠かせず、信頼性の高いAIの導入が求められている。現在、AIの実証実験を進める自治体は増えているが、AIエージェントを本格的に活用している事例はまだ少なく、今後の展開が期待される。
- 行政とAIの融合には大きな可能性があり、実証実験やワークショップ、アイディアソンなどを通じて、行政・民間・市民が共に未来を形づくっていくことが重要である。
2.パネルセッション:「GovTech東京の取り組みについて」
GovTech東京からの登壇メンバー
登壇者:
- 橋本 淳一(GovTech東京 AI・イノベーション室)モデレーター
- 斉藤 大明(GovTech東京 テクノロジー本部技術統括グループ)
- 桑本 豊彰(GovTech東京 テクノロジー本部UI/UXグループ)
- 高橋 晃(東京都町田市 政策経営部 デジタル戦略室長(CIO補佐)GovTech東京 テクノロジー本部本部長補佐 兼 AI・イノベーション室室長補佐)
内容ハイライト:
共有化・再現性を重視した生成AIプラットフォームとは(橋本)
第二部「GovTech東京の取り組みについて」の冒頭では、GovTech東京にて「生成AIプラットフォーム」プロジェクトを担当している橋本より、プラットフォームの説明が行われました。
各局の業務を支える生成AIプラットフォームの全体像。GovTech東京が技術・運用を支援。
- 東京都および都内区市町村において、すでに活用が進んでいるプラットフォーム。
- 行政の各業務に適した生成AIアプリを、職員自らノーコードで開発することが可能。
- 区市町村が個別に環境構築する負担を軽減するため、共通基盤としてGovTech東京が展開している。
- プラットフォームの設計思想として「共有化」と「再現性」が重視されている。
- 共有化:ある自治体で作成したアプリを、他の自治体がコピーしてそのまま利用できる。
- 再現性:システムプロンプトを組み込んだアプリとして提供することで、誰が使っても安定した回答が得られるようになる。
生成AIプラットフォーム設計と実装(斉藤)
続いて、生成AIプラットフォームの設計・実装を担当している斉藤より、プラットフォームの技術面にフォーカスした説明が行われました。
行政業務を支える生成AIプラットフォームの技術構成図
- 生成AIの適用可能性が広がる中で、試行回数をいかに速く増やせるかが重要だと感じた。
- 公共分野では、試さないと分からないことも仕様書という形で定義しシステム調達をかける慣習や、その調達プロセスに時間がかかることが課題となっており、現場職員が自らものづくりできる環境とコラボレーションの場としてプラットフォームを提供した。
- Azure上にAKS(Azure Kubernetes Service) を中心としたインフラを構築し、Dify Enterprise版をデプロイしてアプリケーションの運用をしている。
- IaCはTerraformを利用している。
- 構築の際に気にしたポイントは以下のとおり。
- サービス間通信は基本的にプライベートエンドポイントなどでセキュアにしている。
- 冗長化の意図だけでなく、今後クラスターレベルで変更が必要となることも想定して、グローバルなサービス(Azure Front Door)をゲートウェイとして利用している。
町田市のDX戦略とマルチAIプラットフォームの導入(高橋)
町田市でデジタル戦略室長も務める高橋より、町田市のこれまでの取り組みや今後についてなどが動画を交えて紹介されました。
町田市のDX戦略は生成AIと情報連携で、行政サービスのフルデジタル化を目指す
- 町田市デジタル戦略室イメージキャラクター「カワセミ―ルDX」が登場(動画上映)し、生成AIや情報連携、フルデジタル化を融合したバーチャル市役所構想を紹介。
3Dアバターとチャットで行政手続きを案内する「AI Navigator: Avatar Mode」
- 住民と職員向けに、3Dアバターと生成AIを組み合わせたチャットボット、AIナビゲーターを導入。
- AIナビゲーターとチャットをすることで、オープンデータの検索や分析ができる機能が、2026年3月末に完成予定。
- AIナビゲーターをDifyでプラットフォーム化することで、柔軟にUIやLLなどのコンポーネントを追加でき、迅速なサービス提供につなげる。
- DifyやOSSを多用することで、プラットフォームのコストを抑えている。
- 目指すのは、個人にカスタマイズされた「知りたい情報を聞いたら出てくる」AIナビゲーター。将来的には、Webサイトが不要になるかもしれない。
- デジタルサービスの検索で使うRAGの文章を構造化すると、AIナビゲーターのハルシネーションを抑えられた。
- 生成AIを使えていない自治体にこそ、GovTech東京の生成AIプラットフォームを活用してもらいたい。
自治体ウェブサービスの未来像(桑本)
パネルセッションでは、GovTech東京にてUI/UXを担当し、都内区市町村に対しても伴走サポートを行っている桑本も合流し、町田市の動画で触れられていた構想をもとに、カジュアルな雰囲気で会話が繰り広げられました。
町田市のマルチAIプラットフォーム「AI Navigator」構成図(2026年3月版)
- 自治体のWebサイトのリニューアルは5年10年スパンで行われている。
- 都内30以上の自治体のアクセス解析などの支援を行っていると生成AIからの流入が増えている。
- 町田市のUIにアバターを起用しているのは、行政サービスに対して親しみを持ってもらうのに良いアプローチの1つだと思う。
- 生成AIが住民の疑問に直接的に回答するようになってくると、自治体ウェブサイトへの流入は減ってくるかも知れない。
- 構造化がされていないとAIがうまく情報を収集できないため、ここを強化するべき。
- 今後の技術動向として「AIブラウザ:ユーザーのプロファイルを読み込んだうえで、Webサイトのページを要約する、Webページについてチャットで質問することができる等の機能を持つブラウザ」ができつつある。
- これからは、Webサイトのインターフェイスがすべてではなく、データをメンテナンス・構造化をしてAIが正しく情報を読み取れるようにしていくことにも注力すべき。
- AIにより、自分向けにパーソナライズして情報を収集・理解するといったことも可能になってくる。
- 自治体のウェブサイトは「階層が深い」「長い」等の共通課題もある。
3.交流会
当日は、オフライン実施のみにも関わらず80名を超える方にご参加いただきました。
イベント終了後には同会場で交流会が開催され、参加者が登壇者へ質問をしたり、活発な意見交換が行われました。今回のイベントでは行政・自治体関係者や民間企業の方にも多くご参加いただき、官民がオープンな場として意見交換する機会となりました。
Tokyo Innovation Baseでの交流会風景
生成AIと行政の未来──継続する対話と実装の場へ
今回の「ガブテックカンファレンス vol.1」は、東京都AI戦略の発表直後というタイミングで開催され、行政における生成AI活用の可能性と課題を、政策・技術・現場の視点から多角的に掘り下げる貴重な機会となりました。
登壇者の言葉や事例からは、生成AIが単なる流行ではなく、行政サービスの質や効率を根本から変える可能性を秘めていることが伝わってきました。一方で、導入には慎重な設計と現場との対話が不可欠であることも明らかになりました。
最後にはGovTech東京理事長 兼 東京都副知事の宮坂も登壇し、
「今日のカンファレンスのような、官民がオープンな場でカジュアルに意見交換をする場は続けていきたい」
「東京都は、世界やアジアで最初に新しいテクノロジーを都市実装する自治体として、誰よりも早くAIの都市実装をしていきたい」
「日本の公務員の減少と行政への需要の増加のギャップを埋めるためにはテクノロジーの力が必要だ」
と述べ、イベントは終了しました。
GovTech東京理事長・東京都副知事 宮坂学氏によるクロージングスピーチ
GovTech東京は今後も、こうした対話の場を継続的に開催していく予定です。
今回のガブテックカンファレンスのようにゲストを招いて、完全オフラインで実施するイベントもあれば、開発業務に携わるエンジニアが現場について語る交流イベントも実施しています。
次回のガブテックカンファレンスは12月に開催を予定しています。読者の皆様とまたの機会にお会いできることを楽しみにしています!
以上、行政×生成AIの最前線「ガブテックカンファレンス vol.1」開催レポートをお届けしました。

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