シビックテッカーがGovTech東京にジョインして1年が経った件について
GovTech東京アドベントカレンダー6日目です。
昨日の記事はykさんの総務省セキュリティポリシーガイドライン(技術的セキュリティ)の話でした。
行政のセキュリティは、総務省からガイドラインが出ていますが、慣れない間だと概念をつかむのも難しい印象です。読み始めてみるときに、副読本的に読めると良い記事だと思うので、みなさんもご活用いただけると私もうれしいです。
さて、はじめまして、GovTech東京(以下、GTT)の中原と言います。
このあたりの動画で、しゃべっていたりしますので、興味があれば見てみてください。
私は、2015年にCode for Niigata(新潟市)の立ち上げに参画して以来、2022年のCode for SOKA(埼玉県草加市)設立立ち会いも含めて、およそ10年間、シビックテックという活動に取り組んでいます。今年1月からGTTにジョインはしましたが、その入職の経緯にもこのシビックテックでの活動が深く関わっています。
このエントリでは、そんなシビックテッカーがGTTに入職して感じた、シビックテックとガブテックの共通点や違い、その他雑感についてお話が書ければと思っています。
なお、本エントリでは団体としての「GovTech東京」と、概念としての「ガブテック」を分けて記載しています。
そもそもシビックテックとは
シビックテックという言葉自体を知っている方はどれくらいいらっしゃるでしょうか。もしかしたらGovTech東京を知っている方は一定数ご存じかも知れません。
たとえば、シド・ハレル著「シビックテックをはじめよう」ではこのように定義されています。
シビックテックとは、行政の応答性、効率性、現代性、公正性を高めることを目的として、民間企業のハイテク分野における強み(その人材、手法、技術)を公共団体に導入する緩やかなつながりを持った活動です。また、デジタル技術を利用して、共に働く市民同士や、市民と政府との交流を改めて考え直すことをも目的としています。
あるいは、稲継裕昭著「シビックテック」にはこのように書かれています。
シビックテックとはシビック(市民)とテック(テクノロジー)をかけ合わせた造語で、市民主体で自らの望む社会を作り上げるための活動とそのためのテクノロジーのことをいう。
(中略)
シビックテックとは、一言で言うと「地域にあるさまざまな課題をITを使ってみんなで解決しよう」という取り組みである。
海外と日本国内では、一部温度感が違う部分もあるものの、概ね自分たちの住む地域や属性に対して、よりよい社会を、テクノロジーを使って作っていく活動となると思います。
2012年にアメリカでCode for Americaが、2013年に日本でCode for Kanazawa(石川県金沢市)や全国を対象としたCode for Japanが立ち上がり、日本国内でも多くの団体が様々な活動を行っています。
上記のとおり、地域性や趣味や嗜好などによって微妙に活動の性格が異なり、Code for ふじのくに/Numazu(静岡県駿東地域や沼津市)ではウィキペディアタウンなどの活動を活発にしていますし、Code for TODA(埼玉県戸田市)のように各地域でデジタル化のワークショップを開催している団体もあります。テーマ別の団体としては、Code for CATは、猫を飼う上でのQ&Aチャットボットを作ったり、Code for Sakeは、日本酒のデータベースを作っていたりもします。
それぞれの団体は、Code for Japanを含めて上下関係はなく、ゆるやかなつながりのなかで連携をしています。1年に1回のCode for Japan Summitは、2013年の初回開催を皮切りに、コロナウイルスの蔓延期を除いて日本各地で実施されています。
その性質上、シビックテックの活動には、全国の公務員の有志のみなさんも関わられています。みなさんの地域をよくしたいという思いや、業務外でもシビックテックに参加される姿には民間の人間としても感銘をうけたものでした。
で、おまえはシビックテックとしてどんなことをしてきたんだ?
私も設立にも関わったCode for Niigataは、名前の通り新潟県での活動を主体としています。2013年から2018年までは私自身も新潟県に住んでおり、その中で、車椅子で入れるお店をOpenStreetMapにマッピングするマッピングパーティの実施や、毎年3月にあるインターナショナルオープンデータデイに合わせて読書会やイベントなどの開催を企画してきました。
また、Code for Japanが中心となって開発されたことでも話題となった東京都コロナ対策サイトのクローンとしての新潟県版のホストなども手がけてきました。
何より思い出深いこととしては、2018年に開催された、新潟市でのCode for Japan Summitの誘致・運営です。一緒に団体立ち上げを行った代表のもと、私を含むCode for Niigataのメンバーも開催準備および当日運営に奔走し、参加者の皆さんにもよろこんでいただけたものと自負しています。
写真は今年11月に滋賀県草津市で開催されたCode for Japan Summit 2024参加時のものです。左が筆者で、右はCode for Niigata代表の山田氏です。なお、完全に自腹で趣味の一環で参加しています。
Code for Japan Summitではセッションごとにグラフィックレコーディングが行われ、要点などがイラストでわかりやすくまとめられます。今年のキーノートはGTTでもアドバイザーとして参画される安野貴博さんと台湾の元デジタル担当大臣であるオードリー・タンさんの対談で、その似顔絵の前での一枚です。
ガブテックとはなにか
では、もう一つのテーマ「ガブテック」とはなんでしょうか。
世界経済フォーラムの記事によれば、以下のようになります。
ガブテックとは、AI(人工知能)、高度なセンシング、ブロックチェーン、高度なデータ処理など、デジタル化と新テクノロジーを応用して効率を高め、コストを削減し、まったく新しい公共価値を創造することにより、公共サービスの提供を改善することを指します。
今現在、GovTech東京として、記載されていることをすべて網羅はできませんが、こういったことをやっていくのだと気持ちが新たになりました(笑)。
それはさておき、特に日本国内においては自治体行政における2040年問題というものが騒がれています。これは、2040年における日本国内の全公務員の数が、楽観的な予測で40%、悲観的な予測では70%も少なくなるというものです。日本全体の人口減のなかで、行政を取り巻く人材確保や育成も課題となっており、足りなくなった分については、デジタル化による自動化や効率化によってケアしなければ、住民サービスの低下にもつながることも懸念されています。
こういった社会背景を前に、GTTも設立されたわけです。
GovTech東京入職までの道のり
私がGovTech東京に入職したのは今年の1月で、それまでは民間企業(リーガルテックのSaaSベンダー)でSREという肩書で仕事をしていました。
2018年までは新潟にいたわけですが、以降は東京に転職のため引っ越ししていました。時々、近くのシビックテック団体(Code for Toshima(東京都豊島区)やCode for Nerima(同練馬区)、あるいはCode for Sakeなど)のイベントに参加するなどはしていましたが、本業の業務がいそがしくなるなかで、またコロナ禍の進行にあわせ、シビックテック活動からは足が遠くなっていきました。
そんなこんなで数年が経ち、本業の方の事業規模やフェーズも変わっていきました。同時に自分の社内での立ち位置が変わっていく中で転職を考えるようになり、その際にシビックテック活動の中で知り合った知人にキャリア相談をしてみたところ、「GovTech東京が求人だしているよ」ということを教えてもらったわけです。もともと、行政関係者も多いシビックテック界隈に影響をうけ、ぜひ人生で一度は行政関係の仕事についてみたいと思っていたところで、まずはエントリーしてみたというのがGovTech東京入職のきっかけとなっています。
シビックテックは今の私のキャリアにも間違いなく影響をおよぼしています。
シビックテックとガブテックの違い
そんな形で入職して、およそ1年が経ちました。シビックテッカーである自分にとって、ガブテックはどういう風に映ったのか、どう感じたのかをまとめてみたいと思います。
シビックテックは課題の幅が広い、ガブテックは課題の深さが深い
ある意味で当然かもしれませんが、シビックテックは市民の課題が中心となります。さまざまな地域やあつまる人々の属性により課題はそれぞれ異なり、その解決策も多岐にわたります。自分たちで実装しなければいけないこと、ローコード/ノーコードのツールで解決できること、どっちを選んでもいいこと、それぞれの選択肢もそれぞれの中で決めることができます。
一方でガブテックでは、課題があらかじめ明確になっていることが多い印象です。例を挙げれば、すでに使っているシステムのリプレイスや特定の政策を実現するためのシステム構築などです。
さらに解決策についても、行政特有の制度やガイドラインがあり、それをクリアしながら進める必要があることから知識や経験を有します。外側から見た時に、行政の人の苦しみはなにが根源なのかと考えたとき、こういった制度的な面もまた大いにあるのだなということは直接実感できた気がします。
案件への関わり方
私自身のキャリアは、主にtoB向けのメガベンチャーとスタートアップが中心で、いわゆるSIやコンサルタントの世界とは縁遠いものでした。行政での仕事の仕方などの知識は皆無であったと言えます。
GovTech東京として関わる案件にはいろいろな携わり方があります。自ら調達しプロジェクトを主導的に進めるもの、さらにそのなかでも設計・構築までを自分たちで行うもの、東京都庁の案件に入り助言をしたりプロジェクトマネジメントなどの補助を行うもの、それぞれにメンバーの持ち味を出せる関わり方があり、その点ではいいスキーマだと思っています。
そういった面で、行政の課題に対してシビックテックの側から関わろうと思っても、ハッカソンやアイデアソンの参加者という関わり方が中心でどうしても限界がありました。
なお、GovTech東京ができるまでは、東京都で採用したITの専門人材がサポートをしていました。しかし、数の面からマンパワーも足りない面もあったと聞きます。組織としてGTTがその役目を負い、人数が増えた以上、サポートの質を落とさないように貢献できることが我々のミッションかなとも思っています。
趣味・ボランティアでやるか、仕事でやるか
現状、ガブテックに関わる内容に触れようと思った場合、GovTech東京や民間のスタートアップ、大手SIerの先進的な取り組みなどに限られるのではないかと思います。関わり方としては必ず職務として取り組む必要があり、そこには税金から予算が出ているという事実からも責任が伴います。
他方、シビックテックに取り組む場合には、もちろん社団法人やNPO法人で携わっている方はいらっしゃいますが、大多数の方はボランティアであったり、趣味の範囲での活動になると思います。当然、仕事ほどの責任は求められないのは気楽でいい反面、品質の担保もしにくいところはあるのかなと思っています。
今まで任意団体でシビックテックを運営したことのある身としては、コミュニティの維持やモチベーションの確保は難しいテーマです。設立から10年近くが経ったCode for Niigataも、私を含めて、メンバーの転職や引っ越し、結婚やさらに子供が生まれたなどによりライフステージが変わり、過去と同様の活動は難しくなっています。この点は仕事ではない点で難しい点なのかも知れません。
まとめ: シビックテックにしか、そしてガブテックにしか解決できないものが、それぞれある
行政のDXについて、「誰一人取り残さない」というキーワードがあります。行政機関は、そこにすむ住民や企業すべてに影響を及ぼす存在であり、このキーワードを考えたときそこには重たい義務が乗っています。そこには、一定共通の価値を提供するという理念とともに、社会的弱者の方などを除けば、特別扱いはできないという面もあります。これは公平性という意味で大事な観点です。
一方、シビックテックにはそこまでの重さはありません。自分たちがよりよく生活できる社会を市民の視点から見たとき、ここまででいいかな?というさじ加減は自分たちでできます。最低限やればいいという判断もできるし、すごく快適にしたいという思いも実現しようと思えば可能です。
言い換えると、シビックテックの小回りが利き、自分たちのやりたいことの選択肢の幅の広さも住なやり方から社会を変えていくのは、ガブテックと両輪として有効なのだなと感じたところです。
俯瞰してみたとき、ガブテックもシビックテックも、相互に連携しているところは無数にあり、どちらかの概念が突然無くなってしまったら、もう片方は成立し得なくなってしまう要素が多分にあります。両方を経験できていることは、エンジニアである私にとっても代えがたいことだなと1年を振り返って思っているところです。
シビックテックに触れてからGovTech東京に入職してガブテックを生業にしてみる、あるいはGovTech東京で行政の近くからDXを推進しつつ、足下の市民生活でもシビックテックを実践してみるというのも、経験者としてはおすすめしたいところです。ぜひ、ご興味があればカジュアル面談のエントリーをお待ちしています!
GovTech東京の採用情報はこちらから: 採用情報 | GovTech東京
また、東京都では2050年代の東京を見据え、長期戦略を検討する「シン東京2050」プロジェクトを実施しています。ご意見を大募集中ですので#シン東京2050をつけてSNSに投稿してみてください(募集期限:2024年12月13日まで)。
Discussion