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セキュリティチェック対応を支えるSREの役割 統一プラットフォームと部門横断協業の実践

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はじめに

最近、セキュリティチェックシート(SCS)への対応依頼が増えています。

SCSというのは、企業が外部システムやサービスを導入する際に、セキュリティ対策や運用体制を事前に確認・評価するためのチェックシートです。近年のサイバー攻撃の増加やコンプライアンス要件の厳格化に伴い、多くの企業がSCSへの回答を取引の前提条件としています。

組織全体でSCS対応の効率化に取り組んでおり、全社セキュリティ・インフラ部門からは以下の記事も公開されています。

https://zenn.dev/globis/articles/07126d6680b7e3

では、SREは何をしているのか?

本記事では、SCS対応を通じて学んだこと、特にプラットフォームの価値と部門横断での協業について書いていきます。

SREが担うSCS対応の範囲

SCS対応において、SREが担当するのは主にインフラ・システム基盤に関する設問です。

データセンター設備環境、可用性・バックアップ体制、インフラ監視・障害対応、セキュリティ実装など、多岐にわたります。

SREの強みは、担当プロダクト横断でインフラを把握していることです。プロダクトごとに個別対応するのではなく、共通のインフラ構成を理解しているため、効率的に回答を作成できます。

SCS対応の難しさ

でも、簡単ではありませんでした。

最も苦労したのは、質問の解読です。設問の多くはオンプレミス環境を前提としており、クラウドやSaaS事業者という私たちの立ち位置とは合わないことがよくありました。

用語も曖昧です。「ウイルスチェックを行っていますか?」と聞かれても、サーバのことか、従業員端末のことか。「他のサービスと環境を共有していないか?」も、何を指しているのか判断が難しい。

顧客に意図を聞けば確認ラリーが発生し、時間がかかります。かといって、自分で解釈して答えるのもリスクがあります。

結局、補足として「こういう前提で答えています」と明記する工夫が必要でした。セキュリティの知識だけでなく、スピード感を持って顧客の信頼を得る能力が求められていると感じました。

プラットフォームがもたらすメリット

そんな中で、SCS対応を通じて改めて実感したことがあります。

それは、プラットフォームの価値です。

共通のインフラ基盤

私たちSREが管理するプロダクト群では、インフラ構成が共通化されています。主にAWSをクラウド基盤として利用しています。

多くのプロダクトで共通の構成を採用しており、このインフラの共通化が、SCS対応の効率化に大きく寄与しました。

プラットフォームのおかげで

プラットフォームのおかげで、次のような効率化が実現できました。

GDP部門管轄のプロダクトについては、一度回答を整備すれば横展開できます。インフラ設問への回答を標準化でき、再利用性が向上しました。共通の回答を更新すれば、複数プロダクトに反映されます。

仮にプロダクトごとにインフラがバラバラだった場合、SCS対応も個別対応が必要になっていたはずです。セキュリティ要件への対応も統一的に実施できますし、チーム内でのナレッジ蓄積も容易です。

SCS対応を通じて、プラットフォームのメリットを改めて実感しました。

部門横断での協業

SCS対応は、SREだけで完結するものではありません。プロダクト開発チーム、法務、全社セキュリティ・インフラなど、複数の部門が関わります。

SREはインフラを担当しているため、SCS対応においても不可欠な役割を果たしています。プラットフォームのセキュリティ向上はSREの重要な責務です。インフラに関する設問について、セキュリティチェックシートの回答を作成しています。

部門横断での協業を円滑にするため、次のような仕組みを整備しました。

  • SCS依頼を専用Slackチャンネルで一元管理
  • プロダクト別のメンショングループによる迅速なエスカレーション
  • プロダクトチーム、SRE、法務、セキュリティが同じスレッドで議論できる体制

この体制のおかげで、専門性の高い回答を迅速に集約できるようになりました。各分野の専門家に直接確認でき、特定の個人に依存しない体制ができました。

ナレッジ基盤の拡充:SREから組織全体へ

SCS対応を効率化するため、ナレッジベースの構築にも取り組みました。

当初、SREチーム内でNotionを使ってインフラ関連の回答を管理していました。主にGDP部門管轄プロダクトのインフラ・システム基盤に関する設問への対応に限定され、チーム内でのナレッジ共有にとどまっていました。

でも、SCS対応が増えるにつれて、SREだけでは対応しきれない設問も増えてきました。そこで、SREが蓄積していたナレッジを土台に、部門横断で利用できる形へ拡充することにしました。

設問タイプ別に分類し(認証系、規程系、サービス仕様系...など)、プロダクトごとの回答をマトリクス形式で管理しています。プロダクト開発、法務、全社セキュリティなど、各部門が回答を追加・更新できる体制にしました。

回答責任者を明確にし、継続的なメンテナンスの仕組みも整備しました。

SREだけでなく、各専門チームの知見を集約できるようになりました。回答の品質が向上し、更新頻度も上がりました。

成果と今後の展望

これまでの成果

SCS対応の効率化に取り組んだ結果、次のような成果が得られました。

ナレッジベースの活用により、回答作成時間が短縮されました。SRE単独から組織横断へナレッジ共有が進化しました。Slackを使った協業体制が確立され、部門間コミュニケーションが円滑化されました。

SREとしての学び

SCS対応を通じて、多くのことを学びました。

技術的な知見だけでなく、組織横断での協業の重要性。プラットフォームの価値の再認識。セキュリティ・コンプライアンス要件への理解深化。

そして、SREが起点となって組織全体の仕組みを作る経験。

これらの学びは、今後のSRE活動にも活かしていきたいと思います。

まとめ

SCS対応は、単なる回答作成業務ではなく、組織全体でのセキュリティ対応力を高める機会でした。

SREから始まったナレッジ整備が組織全体の資産へと発展し、GDP部門におけるプラットフォームの価値を再認識し、部門横断での協業の重要性を学びました。

今後に向けて

SCS対応を通じて、プラットフォームがもたらす効率化のメリットを改めて実感しました。

この経験を活かし、今後もさらに統一的なプラットフォームの構築に努めていきたいと思います。

また、SCS対応を通じて全社セキュリティ・インフラ部門との連携の重要性も実感しました。今後はより強固なセキュリティ基盤を確保するため、全社セキュリティ部門と協力して、プラットフォームに対するセキュリティベースラインの策定にも取り組んでいきます。

セキュリティ要件への対応だけでなく、運用効率・開発生産性の向上にも貢献できる基盤づくりを目指していきます。

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