Coding Agent元年とデータサイエンティストの自分
この記事は GENDA Advent Calendar 2025 - シリーズ 3 - 18日目の記事です。
はじめに
私はGENDAでデータサイエンティストとして働いており、データの収集・前処理・分析・モデル構築など、幅広い業務を担当しています。レコメンデーションシステムをはじめとする各種機械学習モデルの開発や、統計モデリングなども手掛けています。
2025年はCoding Agentの発展が著しい年となり、エンジニアだけでなくデータサイエンティストにとっても大きな変化があった年でした。この記事では、Coding Agentの登場がもたらした影響について、2025年を振り返りながら記録しておきます。
2月:何かCoding Agentが凄いらしい
Coding Agentの凄さを最初に肌で感じたのは、以下の有名な記事を読んだときでした。X上で大きな話題になっていたことはもちろん、社内Slack上でも盛り上がっていました。ただ、当時はまだ「エンジニア向けのツール」という印象が強く、従量課金の料金体系もやや使いづらそうに感じていました。データサイエンティストである自分にはまだ遠い世界であり、試してみるにもハードルを感じていました。
3月:Cursorに触れる
3月頃から社内でCursorを利用し始めました。エンジニアはもっと早くから触っていたようで、仲の良いエンジニアに「まだ触ってないの?」と言われた記憶があります。Copilotの延長だろうと思っていたのですが、実際に使ってみると別次元のコーディング体験でした。特に、グラフの描画やデータ読み込み、前処理などの面倒な作業を自動化できる点が非常に便利で、分析作業やモデル構築の効率が大幅に向上しました。ただ、この時点ではあくまでも補助的なアシスタントツールという認識であり、Cursorは副操縦士という位置づけでした。なお、私はNotebook形式とコード生成の相性が悪いことが気になっていました。
5月:Claude Code Maxプランの登場
5月にAnthropicがClaude Code Maxプランを発表し、社内の感度の高いエンジニアが個人的に使い始めて、その凄さが社内に広まりました。Tech組織ですぐに利用できるようにVPoEのあららさんが社内を走り回っていたのを鮮明に覚えています。金曜の夕方に「遅くとも月曜日の午前には使えるようにします!」と話しており、そこまで急いで整備する必要があるほど凄いのか、と当時は思いました。私も希望すれば利用できたのですが、「まだCursorでいいかな。IDEと一体化しているのが便利だし、エンジニア向けのツールっぽいし」と考えていました。
6月:Claude Codeが社内で爆発的に普及
6月に入ると、社内でClaude Codeの利用が爆発的に普及しました。エンジニアはほぼ全員がClaude Codeを使っている状態でした。私はこのとき「CLI? Cursorで良くない?」と考えており、完全に乗り遅れることになります。
7月:Claude Codeに触る
7月下旬になって、ようやくClaude Codeを触りました。きっかけは7月中旬に、MS製DevContainerが利用できなくなったことです。これにより、Cursorを使うメリットが大幅に減少したことと、VSCodeのフォークエディタはMS製の拡張機能が利用できなくなる可能性があり、エディタに依存しない環境かVSCodeにすべてをかけるかの二択になると感じたためです。この時点では、Claude CodeはCLIベースなので環境を選ばず、コード実装力も高いという程度の認識でした。
8月:Coding Agent 戦国時代
この時期、Claude Codeの性能が急激に劣化していると話題になりました。一部ではCodexの方が良いのではないか、という話も出ていたので、Claude Codeに乗り遅れた私は、Codexをすぐに試しました。確かに性能が良かったのですが、それよりも重要な気付きは、特定のCoding Agentにロックインされることの危険性でした。
Coding Agentの性能は、採用しているモデルに大きく依存します。つまり、性能は時期によって大きく変動する可能性があり、今日最高のツールが明日も最高とは限りません。
特定のCoding Agentに依存しすぎると、その性能を上回るものが登場した場合にすぐに乗り換えることが困難になります。このようなリスクを避けるためには、特定のツールに依存しすぎず、柔軟に対応できる体制を整えることが重要だと感じました。
また、データ読み込みや前処理といった目的がはっきりしているタスクだけでなく、EDAなどの曖昧なタスクにもCoding Agentが対応できることに気付きました。これにより、Coding Agentは副操縦士ではなく、操縦士になり得ると感じ始めました。むしろ、自分が操縦するよりも適切な場面も多く、自身はナビゲーターに徹しても良いのではないかと考え始めました。
同時にノートブック形式での実装への限界も感じ始めました。ノートブック形式は手軽に試せる反面、コードの再利用性や保守性に課題があり、特にCoding Agentと組み合わせると、その弱点が顕著になると感じました。結果を見ながら逐次的にコードを生成・修正していくスタイルは、Coding Agent登場以前は効率的でした。しかし、現在は私が逐次的にコードを書くよりも、Coding Agentに一気にコードを書かせた方が早く正確な場合が多く、ノートブック形式を使う必然性が低下しました。
12月:ドメインエキスパートのシチズンデータサイエンティスト化
12月になるとTech組織以外にもCoding AgentやAIツールの利用が広がり始めました。特に、非Tech職のドメインエキスパートが自分の専門知識とAIツールを組み合わせて、プロトタイプの分析を始めています。
先日、世間話をしに行ったときに「Python読めないですけど、店舗人流の分析したいんで、マルチエージェントシミュレーションとかいうのやってみました。それっぽく動くものできました。シミュレーション設定は大変だし、売上に関係する私が思う上位20要素ぐらいだけに絞ってます。いや、難しいっすねー ははは」と無邪気に放していただき、入社して一番肝が冷えました。
ドメインエキスパートが自分の専門知識を武器に、生成AIやCoding Agentを使いこなし、現場のニーズに沿ったプロトタイプを次々に作り始める。そんな時代の足音を感じました。
この光景を目の当たりにしたとき、正直なところ、私は強い危機感と焦燥感を覚えました。ドメイン知識ではドメインエキスパートに及ばず、実装力ではCoding Agentにも敵わない私のようなデータサイエンティストは、この先どこで価値を出せるのだろうか。そんな疑問が頭をよぎったからです。
まとめ
2025年を振り返ってまず感じるのは、Coding Agentは単なる便利なコーディング支援ツールではなく、仕事の進め方そのものを変える存在になったということです。年初には副操縦士だと思っていたCoding Agentが、気付けば操縦士になっており、自身は操縦桿から手を放し、どこへ向かうのかを示すナビゲーターに回った方が、全体がうまく回る場面が増えていました。
実装の速さや正確さだけを見れば、私がCoding Agentに勝てる場面はすでにほとんどありません。だからこそ、残る価値は「何をどう解くのか」「制約条件をいかに緩められるか」「必要な情報を適切に収集できるか」「どう意思決定につなげるか」といった部分に移ってきています。こうした本質的な部分に集中できるようになったこと自体が、Coding Agentがもたらした最大の変化だと感じています。
もう一つ強く印象に残ったのは、ドメインエキスパートの変化でした。ドメインエキスパートが自分の専門知識を武器に、生成AIやCoding Agentを使って、現場のニーズに沿ったプロトタイプを作り始める時代が来ています。この時代に私のようなデータサイエンティストはどういった進化を遂げるべきか、年末にでもう一度真剣に考えてみたいと思います。
2025年は、Coding Agentという新しい相棒を得て、自分の役割を再定義する年でした。2026年以降も、この変化は加速していくでしょう。その中で、自分がどこに価値を見出し、どう貢献していくのか。この問いを持ち続けながら、前に進んでいきたいと思います。
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