生成AIはスピードと再現性が導入の鍵──GENDAバリューで実践する継続的改善サイクル
はじめに
こんにちは。GENDAでEngineering Manager(EM)を務めているボブです。
本記事では、GENDAにおける生成AIツール導入の実践的な取り組みを紹介します。特に、EMとして、生成AIツールの導入はどのような戦略で進めているのか。導入の検討から試用、導入までの流れを設計し、さらに導入後にどのような改善サイクルを回していくかという「戦略とプロセス」に焦点を当てています。
生成AIツールの導入を検討中の方や、すでにツールを使い始めているものの、現場での活用が進まないと感じている方にとって、何かしらのヒントになれば幸いです。
EMで掲げている生成AIツールの導入戦略
GENDAでは、GitHub CopilotやChatGPTを皮切りに、現在ではCursorやDevinも導入し、開発現場で活躍しています。直近ではClaudeの最新モデルが登場した際には、すぐに現場の声を確認しました。調査後、有用と判断してすぐにMAXプランを契約し、活用も開始しています。エンジニアの生成AI活用の意欲も高く、すでに開発生産性において一定の成果を上げてきました。
こうした実践の中で私たちが重視してきたのは、導入を単なる技術選定にとどめず、組織として価値につなげるための設計と意思決定です。変化の速い領域で成果を出すためには、スピード感を持って試し、学び、全体に展開していくことが欠かせません。
その前提のもと、EMでは次のような方針を掲げて、段階的かつ再現性のある導入を目指してきました。これは単なる手順ではなく、私たちが大切にしている「Speed is King」「Grit and Grit」「Enjoy our Journey」というGENDAのバリューにも直結した「戦略」そのものです。
- Speed is King
- キャッチアップと早期活用:まずは一部のエンジニアから導入を開始し、現場の反応と活用ニーズを把握する
- Grit and Grit
- 段階的な全体拡大:効果の再現性とリスクの把握を通じて、対象プロダクトやチームを拡大していく
- Enjoy our Journey
- サイクルを回せる組織構造:導入後もチームを超えて気づきを共有し合い、いっしょに活用の質を高め続ける
この戦略の元、特に重視したのが、「スピードと慎重さのバランス」です。ツールの導入においては、ただアカウントを配布するだけでは活用は定着しません。ツール導入の初期段階では、対象者を絞った部分的な導入でプロダクトやチームの特性、開発者のニーズを把握し、そのツールが自分たちにマッチしているのかの見極めだけでなく、必要なルールやガイドラインの整備もセットで導入を進めておく必要があります。
また、生成AIツールにおいては、一つのツールだけではなく、複数ツールを組み合わせた利用も多く想定されます。そのため、運用設計においても複数のツール利用を前提にしたものが求められます。ツールごとの機能や学習コスト、ライセンス費用、活用度合いなどを総合的に見極めるには、早期に試し、早期に判断する力が不可欠です。過度に事前準備を重ねすぎると機会損失にもつながります。とはいえ、準備不足のまま走り出すのもまたリスクです。このバランスを見極め、状況に応じて判断を早めるか、丁寧に積み上げるかを選ぶ力が、EMには常に求められます。
私たちはこれらの戦略と価値観を土台に、生成AIツールを「使って終わり」にせず、組織全体の進化につなげる仕組みとして根付かせてきました。
それでは、この戦略をどうやって実現してきたのか。次章では、その具体的なプロセスをご紹介します。
生成AIツールの導入プロセス
生成AIツールの導入は、単なるツールの追加ではなく、組織の開発プロセスと文化に大きな影響を与える戦略的な取り組みです。GENDAでは、この変化を成功に導くために、以下の基本方針に沿って導入をEMが推進しています。
本章では、この取り組みを以下の4つのフェーズに分けて紹介します。
- 導入の起点:エンジニアの声と組織戦略の融合による意思決定
- スモールスタートの実践:EMが主導する「小さく試す」文化
- ガイドラインの拡充:初期段階で生まれた実践的ルール
- 正式導入と継続的改善:EMがドライブする「学び続ける組織」
これらのプロセスがどのように現場で実践され、戦略として機能していったのかを順にご紹介します。
1. 導入の起点:エンジニアの声と組織戦略の融合による意思決定
エンジニアから「Cursorを使ってみたい」といった具体的な利用希望からツール導入の検討につながることはもちろんあります。しかし、このような利用希望の声だけで決まることはありませんし、トップダウンの「これを使えるようにしたから使いなさい」の一方的なコミュニケーションだけで導入を決めることもありません。
EMは、開発現場を熟知したエンジニアからのニーズを吸い上げつつ、それが目指す組織構造・文化とマッチするかも含めて総合的な判断をしていきます。双方のベクトルが合致し、組織への貢献が期待できると判断された場合に、本格的な検討へと進みます。EMはこのプロセス全体の舵取りを担い、ベクトルが完全に一致しない場合でも総合的により良い効果が見込めるか柔軟に検討します。
2. スモールスタートの実践:EMが主導する「小さく試す」文化
新たなツールの導入検討が始まった場合、「まず試す」を実現できる環境を作り上げることが急務です。利用規約やセキュリティ要件などの観点は事前調査で判断しますが、効果や使いやすさは実際に使ってみなければわかりません。机上の空論を繰り返していても時間だけが経過してしまいますし、他社で成果が出たツールでも自社のプロダクトやチームにマッチするとは限りません。
ここで重要なのが、この「まず試す」段階での成果を判断するために、あらかじめ「何を判断したいのか」を決めておくことです。もちろん、試してみて初めて気付く観点もありますが、正式導入前に確認しておきたい観点は先に決めておきます。例えば開発生産性向上や品質改善をどの指標で評価するのか、学習コストや既存プロセスとの摩擦といった運用上の課題をどう吸い上げるのかを設計しておきます。
3. ガイドラインの拡充:初期段階で生まれた実践的ルール
EMは上記の「まず試す」で開始した初期導入フェーズを進めながら、ガイドラインの拡充にも着手します。これは、導入検討〜導入時に事前策定していたガイドラインをアップデートする作業です。初期の段階で「ここは気をつけないといけない」「将来的なリスクに成り得そう」という点を拾い上げていきます。また、社内に既存の生成AIやセキュリティのガイドライン・ルールがある場合には、それらの更新や拡充の必要性も検討します。
また、その際には「禁止事項」を並べるだけではなく、むしろ「どのようにすれば安全かつ効果的にツールを活用できるか」という視点で、活用方法の提案も積極的に盛り込みます。このガイドラインは、開発者が「迷わず安心して使える」ようにするための道しるべであり、最速でそのツールを活用するためのヒントにもなります。
4. 正式導入と継続的改善:EMがドライブする「学び続ける組織」
ここまでのプロセスを経て実践利用してみた多くのフィードバックを得ることができます。それらを元に、そのツールを全体導入していくのか、もしくは部門やプロダクトを絞った利用にするのか、場合によっては利用を中止して別のツールを検討するのか、その判断をするのもEMの役割です。たとえコストが掛かったとしても、それを上回る効果があれば導入の価値はあるでしょう。特に生成AIに関するツールは利用料金が高額に成り得ますが、その点は弊社の代表も「生成AIツールで必要な投資は機を逃さず行おう!」と後押ししており、組織全体でも前向きな投資の流れがあります。
しかし、一部で先行的に導入した際に得られた効果が全体でも再現されるとは限らないため、注意が必要です。プロダクトやチームの特性と重なったから効果が出た可能性も加味し、導入範囲を考えていきます。
そして、さらに重要なのは、ツールを導入して終わりではなく、そこからがEMによる「学び続ける組織」づくりのスタートであることです。
図の改善サイクルに沿って、EMは次の4ステップを回し続けます。
- 目標・コスト枠設定:そのツールに期待することを目標として定め、そこに対する投資額を定める
- 行動変容の支援:EMが伴走し、開発者が日常にツールを取り込めるよう後押しする
- 効果測定:利用量・費用・開発指標を定点観測し、使い方と価値を可視化する
- フィードバック収集・分析:定性と定量のデータを突き合わせて課題と学びを整理する
このサイクルを回すことで、EMは数字と現場の声を即座に反映し、変化に即応しながら開発者体験を底上げしています。フィードバックで得た学びは、ガイドラインの更新やツールの設定値やプラン自体の見直しに活かし、さらなる改善に向けた新しい目標を決めてサイクルを回し続けます。
ここで重要なのが、「ルールや環境を変えました」の共有だけではなく、その上で「こう使っていこう」「前まではこうだったけど、今はこうやったほうがいいよ」と、実際のツールを利用する行動自体に変化を与えないと意味がない点です。その際には、一方的なアナウンスでは限界もあるため、勉強会などを通じた「全員が参加し、全員で前に進む」という環境や文化の醸成も大切です。
日々活発に議論される生成AIの雑談チャンネルの様子
さらには状況に応じて別のツールへの切り替えや併用も考えます。「評価と改善」のループを回し続けることで、常に変化に対応し、組織全体の生産性向上と開発者体験の向上を追求します。
おわりに
本記事では、GENDAにおける生成AIツール導入の考え方、とくにその戦略とプロセス、そしてそれらを推進するEMの役割についてご紹介しました。
生成AIツールの導入を成功に導く「共通の正解」があるわけではありません。それぞれの組織の文化や開発体制、そして目指すゴールによって、最適な手段は異なります。しかし、どのような状況であっても、以下の要素が不可欠です。
- 開発者一人ひとりが明確な目的意識を持ち、主体的に関与し、共に創り上げていく文化を育むこと
- 小さな成功と失敗を積み重ねながら学ぶこと
- 変化を恐れず、常により良い方法を模索し続けること
「ツールの導入」は通過点であり、ゴールではありません。むしろ本質は、「そのツールが本当に開発者の役に立っているのか」「組織全体の価値創出に繋がっているのか」を継続的にウォッチし、何を追加アクションすべきかを見極めることです。そして、必要であれば大胆に方針転換することも必要でしょう。
本記事ではその全体像と意思決定の軸をお伝えしましたが、次回はより具体的に、CursorやDevinといった生成AIツールを実際に導入した事例や、そこから得た具体的な知見を掘り下げてご紹介します。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
Discussion