GENDAにおけるEMの役割──拡大する組織に求められる開発生産性の向上
こんにちは。GENDA Platform Engineering Chapter マネージャーの池田(@ikenyal)です。私のチームには、EM・SRE/インフラ・QAの3職種が所属しており、今回はエンジニアリングマネージャー(以下、EM)のミッションをテーマにお届けします。チームの成り立ちに興味のある方は、ぜひこちらの記事も合わせてご覧ください。
事業拡大とエンジニアリングの現状
株式会社GENDAは2018年に設立し、M&Aと新規事業開発を繰り返すことで、グループ規模や展開する事業・プロダクト数を急速に拡大してきました。以前はGiGOをはじめとするアミューズメント事業(ゲームセンターやオンラインクレーンゲームなど)が中心でしたが、最近ではカラオケ・ツーリズム・F&B(飲食)・コンテンツといった新領域にも進出し、日本国内だけでなく米国・中国大陸・台湾・英国・中東・ベトナム・オランダなど海外でも事業を展開しています。
もっとも、すべての事業が直接エンジニアリングを伴うわけではありません。しかし、私たちエンジニアが果たす役割は、グループ内のプロダクト開発や業務のDX推進にあり、M&Aによって新たに加わった既存システムの運用から新規プロダクトの立ち上げまで、多岐にわたるプロジェクトを技術面でサポートしています。
そのため、既存の技術スタックが異なっていたり、開発時の担当エンジニアが不在だったりと、想定外の要素も少なくありませんが、そこにこそ私たちが挑戦し、付加価値を生み出す意義があります。
このような急激な事業拡大のなかでは、必要とされるスキルセットや担当範囲が次々に増え、現場のエンジニアが手探り状態ではじまり、試行錯誤を求められるケースが多くなります。いくら優秀な人材を積極採用しても、時間とリソースが常に十分とは限りません。一人ひとりがより高いパフォーマンスを出せる仕組みづくりが不可欠であり、そのカギを握るのがEMの役割です。
EMが担うべき役割
1. ピープルマネジメント
ピープルマネジメントと聞くと、人事評価や1on1などのキャリア面談を想像されるかもしれません。しかし、GENDAではこれらを各Chapterのマネージャーが主に担当しており、EMがメンバーの評価を直接行うわけではありません。では、なぜあえて「ピープルマネジメント」という言葉を使うのか。それは、EMが「最高のパフォーマンスを出せる場の整備」や「成長の場の提供」といった観点からメンバー一人ひとりのパフォーマンスを底上げするために、日々の状況に目を配り、必要な施策を実行していく責任があるからです。
具体的には、正社員・業務委託・インターンを含め、業務負荷や考え方を加味しながら、全員がもっとも快適に働ける環境を整えます。単に「このタスクを割り当てる」のではなく、「どのメンバーと組むと相乗効果が期待できるか」「長期的に属人化を防ぐにはどうするか」といった視点で判断を下すのが重要です。
また、若手や新しくジョインしたメンバーが早期に成長できるよう、挑戦の場を提供することも大切です。環境整備にとどまらず、社内勉強会や外部登壇など、学びと挑戦の機会をどう設計するかにEMは関わっていくことが重要であり、今後さらに強化していきます。最終的には「人が気持ちよく、最大のパフォーマンスを出せる環境づくり」を実現することこそ、ピープルマネジメントの核心といえるでしょう。
2. ガイドライン整備
エンジニアが本来取り組むべき「開発」に集中するためには、日常の作業を円滑に進めるためのガイドラインを整備し、余計な思考や手間を最小化する必要があります。たとえば、新しいタスクや既存プロジェクトに着手する際に「どうやればいいんだっけ?」と毎回調べたり悩んだりするようでは、貴重な時間が浪費されてしまいます。
そこで、一連の手順を再現性のあるフローとして示し、わかりやすいドキュメントや直感的に使えるワークフローを用意しておくことが大切です。プロセスを作り上げること自体がゴールではなく、その後のメンテナンスや継続的な改善こそが成果に直結します。組織やプロダクトの状況が変われば、既存のルールや手順も陳腐化しかねません。EMは常に現場の声をキャッチしながら、「ここは自動化できるのでは」「別のツールで効率化できるかも」といった改善策を全エンジニアと連携して進めていきます。こうした先回りの意識があるほど、エンジニアは余計なストレスから解放され、よりクリエイティブな作業に注力できます。
3. 開発のための環境整備
開発効率を左右する要素として、ツールやサービスの選定・導入も無視できません。優れたツールを使えればエンジニアのパフォーマンスは上がりますが、一方でコストやセキュリティ面でのハードルがつきまといます。EMはこうしたバランスを総合的に考慮し、「導入メリットがリスクやコストを上回るか」「どのタイミングが最適か」を見極めたうえで、組織にとって最適な環境を整える判断を担います。
たとえば、昨今注目度の高い生成AIツールを導入する場合、利用料金や機密情報の取り扱いなど、さまざまな検討事項が発生します。しかし、競合が先に導入して成果を上げる可能性を考えれば、何もしないまま時間を費やすのはリスキーです。そこでEMが早期に検証フェーズを主導し、「実際に使ってみた結果、どの程度の効果があるのか」「どんな運用体制が必要か」を迅速に導き出すことができれば、チームは本来の業務を継続しながら確かな手応えを得られます。
また、ツールやサービスは導入して終わりではなく、課題が見つかればアップデートを行ったり、合わないとわかったら別の選択肢を模索したりする柔軟性が求められます。EMはチームが新しい環境を「活用しきれているか」をモニターし、必要があれば追加のサポートや教育機会を設けることで、その効果を最大化していきます。
4. カルチャー醸成
最後に、EMの重要な役割として「カルチャー醸成」が挙げられます。プロセスやツールがどれほど整備されていても、それを使うエンジニア自身が学習意欲や協力意識が不足していると、組織全体の生産性は伸び悩んでしまいます。特にGENDAのように事業領域が幅広く組織が急拡大している環境では、多様なバックグラウンドを持つエンジニア同士が互いに刺激し合い、助け合う文化を育むことが大きなアドバンテージになるでしょう。
たとえば、勉強会だけでなく、生産性向上を考えるための定期的なディスカッション機会を設けたり、コードレビューを単なる指摘の場ではなく効率向上のための学びの場として位置づけたりする取り組みは、エンジニア間でスキルを伸ばし合ううえで非常に効果的です。こうした活動によって、新しい技術や改善アイデアが自然と共有され、個々人の成長速度も飛躍的に高まります。
また、新技術やノウハウが登場したときに「これ、面白そうだから試してみよう!」とチーム全体で前向きに検証に取り組む姿勢があれば、生成AIのような新興領域でも多角的なナレッジが集まり、組織全体の成長へとつなげやすくなります。結果として、個々の成長と組織の成長が同時に進む好循環を生み出せるのが、カルチャー醸成の大きな魅力です。
GENDAのEMは挑戦し続ける
EMは、一人ひとりのエンジニアが最高のパフォーマンスを発揮し、かつ組織全体の生産性を向上させるために、多様な仕組みをリードしていくポジションです。
- ピープルマネジメント:エンジニアが最高のパフォーマンスを出せる状況を見極め、環境を整備して成長を後押しする
- ガイドライン整備:フローやドキュメントを見直し、開発の無駄を省いて集中力を高める
- 環境整備:新技術やツールを柔軟に取り入れ、運用体制を最適化する
- カルチャー醸成:エンジニア同士が刺激し合い、学び合うコミュニティを育てる
現在のGENDAは、多種多様な事業ドメインと新たに加わるメンバーを抱えるなかで、エンジニアリング組織としてさらなる成長を模索しています。EMは事業側や経営層と連携しながら、次に何を優先すべきか、どうすれば組織の成長とメンバーの成長を両立できるかといった問いに日々取り組む立場にあります。
今後は、この記事の内容を補足する具体的な事例や、課題解決のプロセスなども紹介する予定です。GENDAのエンジニアリングがどのように進化を続けているのか、ぜひ引き続きご注目いただければ幸いです。
Discussion