【一般TCG理論】TCGにおける上達の指標とその応用
前置き
こんにちは。さすらいのデータエンジニアのこみぃです。
本日の記事はGENDAアドベントカレンダー2023の12/12の記事になります。
しかし、実は今日はデータエンジニアのこみぃではなくマジック・ザ・ギャザリングのプレイヤーのKommyとして記事を書いています。
一般TCG理論とは?
一般TCG理論はマジック・ザ・ギャザリングの元MPLである茂里憲之さんが始めた考え方で、要するに「TCGで学んだことを実社会に活かせる形にしていこう」というものです。
上記のブログの中で、私は特に以下の文章に非常に共感しています。
学校の勉強は役に立つかどうかで論争が起きたりしますが、役に立つ立たないではなく、学んだ人が活かせるか次第です。学んだ人が役立てられることに気付くかどうかです。私の場合は学校の勉強が役に立つと気づいたきっかけがTCGでした。
ある時になにかで学んだことを別のなにかで応用するというのは、私自身常に心がけていることです。これができると人生が単発のなにかの繰り返しではなく、1つの一貫したストーリーになります。一貫したストーリーはいつだって美しい。
そんなわけで、この考えに乗るべく、私も自分がTCGで学んだことをアウトプットしていこうと思いました。
今回は「TCGの上達」を一般化してみようと思います。
自己紹介
軽く私の(TCGプレイヤーとしての)自己紹介をしておきます。
私は中学生のときに友達に誘われて少しだけマジック・ザ・ギャザリングをやったことがありました。当時は大会に出るとかでもなく知り合いと遊ぶ程度ですが、ゲームとしての面白さは感じていました。
時期としてはインベイジョンブロックのあたりです。友人が使うカウンターレベルというデッキにボコボコにされていた記憶があります。
時がだいぶ経って社会人になり、新卒で入った会社で過去にマジックザギャザリングをやっていた同期の友人と一緒にマジックザギャザリングを再開しました。その時の最新セットは神々の軍勢でした。
その後は競技イベントに参加したりなどしていましたが、特に目立った成績はない状況でした。
ひょんなきっかけで2021年頭くらいから、より本格的に競技としてのマジック・ザ・ギャザリング
の大会を目指すようになりました。取り組み方を一新して1年ほどの頑張りの末に、ミシックチャンピオンシップに参戦を果たしたりと一応まあまあ上達したかなと思う今日このごろです。
そして、先日の予選ウィークエンドで好成績を収めたので、2024年にArenaChampionship5という、オンラインのプロツアー相当のイベントにも参戦できそう、というのが近況になります。
「上達した」ことを測る指標を考える
本格的に競技としての大会を目指そうと思ったときに、まず私が考えたのは自分の現在の立ち位置でした。
自分がリード・デューク選手や八十岡翔太選手よりもレベルが低いことはわかるのですが、では彼らのレベルを100としたときに自分のレベルはいくつでしょうか?
そして、自分が目指すライン、つまりプロツアー出場に必要なレベルはいくつでしょうか?
現時点での自分がそのレベルに達していないことはわかっていたとして、いきなりそのレベルに達するのではなく、少しずつ上達していった結果としてそこに到達するはずです。若干未熟ながらもある程度実力がついた人が運による上ぶれで予選を突破する、というのが多くの人にとっての初プロツアーだと考えるのが自然です。
そうやって考えると、自分が目標に近づいていることを確認するというのは重要です。意味のない練習を繰り返してもレベルが上がることはなく、一定のレベルに到達しなければ目標は達成出来ないからです。つまり「上達した」ことを何かしらの方法で客観的に測る必要があります。
受験生が学習塾のテストの偏差値でそれを判断するように、マジックも何かしらの指標が必要そうです。
「上達した」=「大会での勝率が高い」としてみた
それでは、マジックが上達したことはどんな指標で測れば良いでしょうか?
私はそれは「大会での勝率が高くなること」だと考えました。
マジックは運が大いに絡むゲームですので、どれだけ上手いプレイヤーでも必ず勝つわけではありません。しかし、行動選択の一つ一つが正しいプレイヤーは行動選択のたびにゲームに勝つ可能性が高くなっていくはずです。
そして、ゲームやマッチはそこに至るまでの行動選択の積み重ねで勝った負けたが決まります。それが積もり積もって最後に出てくる数字が、大会での勝率になります。
つまり、大会での勝率はマジックに関わるあらゆる巧拙が反映された最終的な数値になるわけです。なので、過去の特定の期間と比較して現在の特定の期間の勝率が高くなっているのであれば、統計的には十分ではないサンプル数であるという前提ではありつつも、「上達した」ということが出来そうです。
ここで「大会での」としているのは、練習においては可能性の探索として一時的に弱いデッキや間違いと思われる選択をすることにも意味があるからです。この意味においては調整のために出る大会などがあるのであれば、「目標としている大会での」とさらに条件を加えてもいいかもしれません。
大会での勝率を高める方法
さて、目標を「大会での勝率」に置いていくと、それを高める方法はたくさんあることがわかります。
TCGのプレイに直接的に関係がありそうなのは以下でしょうか?
- 環境理解の精度を高める
- デッキ選択の精度を高める
- デッキ調整力を高める
- デッキ構築力を高める
- サイドプランを煮詰める
- プレイングの練度を高める
これら以外にも、以下のような要素もあります。
- 前日に睡眠をしっかり取る
- 当日の栄養管理や体調に気を使う
- 当日の室内環境を良くする(オンラインの場合)
私がこれらそれぞれの要素を「大会での勝率」という指標をもとに工夫を重ねたところ、1年かけて徐々に勝率に現れていきました。
まず、大会で早期に敗退する確率が目に見えて減りました。
私はアグロやコンボデッキが好きで、かつてはそれらのデッキタイプ以外は使わない人間でした。
どうみても環境にあっていないアグロデッキを持ち込んで0-2していた大会も、しっかり練習してミッドレンジデッキを持ち込むようになれば少なくとも2-2くらいの結果にはなります。
次に、大会でスイスラウンドの最終戦、いわゆるバブルに到達する確率が上がりました。その後トップ8にもちょこちょこ入るようになり、MTGArenaの予選ウィークエンドでもDay2に残れる確率が上がっていきました。
そして最終的に2021年の12月に予選ウィークエンドを突破し、目標としていたプロツアー相当のイベント、当時のネオ神河CSへの出場権を獲得するに至りました。
一般的なグロースハックへの応用
さて、この記事は一般TCG理論の記事ですので、今回の話を一般的な企業活動であるようなお話に置き換えていきます。
一般的な企業活動ではミッションと呼ばれる大きな目標に向けて重要業績評価指標(Key Performance Indicator)、KPIと呼ばれる目標となる指標を決め、それに向けてそれに関連のある指標を考えてそれらを向上させる方式を取ります。
例えばオンラインのサービスでしたら、「日本一のサービスになる」というミッションのために「売上」というKPIを立てて、それに関わる例えばユーザー一人あたりの売上、滞在時間、リテンションレートを高める施策を打っていくという感じです。
今回挙げた「大会での勝率」はマジックザギャザリングのプロツアー出場というミッションに対してのKPIであり、そのためにデッキ選択の精度やプレイの練度といったものを高めていく努力をするという形でした。
マジックザギャザリングに限らず、なにかに対して創意工夫をして成果を出した経験は、一般社会でもこのように応用が出来ます。
指標をTCGへ逆輸入する
さて、TCGでの経験がお仕事に活かせたということは、お仕事での知見を逆にTCGの上達に活かすこともできるはずです。
オンラインのサービスの改善をもう一度例に出すと、KPIのように目標となる指標の他に「ガードレール指標」と呼ばれる指標を置くことが推奨されています。2つのパターンを平行で試して評価するいわゆるABテストなどをするときには特にそうですね。
ガードレール指標というのは「この指標は劣化してはいけない」という指標です。無理やり広告などを差し込んで「一人あたりの売上」という指標を短期的に向上させたとしても、長期的にユーザーが離脱してしまうと長期的にはマイナスの影響がある、みたいな感じを考えるとわかりやすいでしょうか?
マジックザギャザリングの練習においては、「大会準備にかかる時間」がガードレール指標として使えそうだなと思いました。
というのも、もし大会での勝率が向上したとしても、大会の準備にかける時間が3倍になっていたとしたら、上達したとは言いにくいと思います。TCGは環境が移り変わるゲームですので、単純に練習時間をかければ一定までは勝率が向上します。
多くの人はTCGのプロではなく趣味としてプレイしていますので、かけられる時間に限りがあります。より少ない時間で成果を出せれば、それはマジックザギャザリングに上達したということができるでしょう。
ガードレール指標はKPIに対してトレードオフになりうる指標とも言えます。ということは、KPIを維持したままガードレール指標を向上させたのであれば、それもまた成果と言えます。
今年、ArenaCS5の権利を獲得できそうなのが何よりうれしいのは、2021年よりもかなり少ない時間でこれを達成出来たからです。今年は2021年と比較してマジック・ザ・ギャザリングに割ける時間が短かった。にも関わらず同等の成果を得られたということは、上達していると言うことができるでしょう。ガードレール指標を通じて、自分が「上達した」と判断出来たわけですね。
ABテストについては以下の書籍が非常にわかりやすいので、興味があればぜひお読みください。
ちなみに、ABテストにおいてはKPIではなく総合評価基準(Overall Evaluation Criterion)というOECという名前で呼ぶことが一般的です。数々の試みの総合的な良し悪しが現れる指標ということで、「大会での勝率」はまさに総合評価基準という言葉がピッタリですね。
本日の結論
そういうわけで、本日の結論はこちらです。
- 一般社会でよく用いられるKPIやガードレール指標といった考え方はTCGの上達にも応用できる
- TCGの上達においては「大会での勝率」をKPI(またはOEC)とし、ガードレール指標を「大会の準備にかける時間」と置くことによる成功事例がある
結びの言葉
そういうわけで、いつもとは一風変わった記事をお届けしました。
ゲーマーの皆様にもゲーマーじゃない皆様にも、なにかの参考になりましたら幸いです。
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本日はこのあたりで。
それじゃあ、バイバイ!
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