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スクラムで求められる「全力」とは何か、どういう状態か

2023/12/18に公開

Summary

  • "全力"とは Commitment であり、Guarantee ではない
  • ましてや Full Power(Resource)ではない
  • ”全力”の具体的な基準について、チーム内で合意を形成していくことが大切なのではないか(と思う)

疑問に思った経緯・いきさつ

時折見聞きすることの一つに「スクラムにおいてエンジニアはスプリントゴールに向かって全力を出さないといけない」という表現がありました。最初耳にしたときは「ちょっと抽象的だけど、周囲の人を見ながら姿勢を合わせていくかー」くらいの受け止め方で、若干気になりつつも深く考えることはなかったように思います。

しばらくして、タスクの見積もりに失敗してしまい期間内に行わないといけない作業がとても多くなってしまう事態に陥りました。そこで私は”全力”を体現するべく、持てる全てのリソースを投下するということをしました。平日の残業に加えて、土日はその作業で予復習できるものは可能な限り行うということをしました。幸いにも(?)ある程度のクオリティで作業を間に合わせることができ、当時の自分はホッと一息感じていたことを覚えています。

それから 1,2 ヶ月くらい経った頃に「世界一流エンジニアの思考法」という本に出会い、リソースを投下することがマネジメントではないということや、無理をすることで組織の問題を隠してしまうことに繋がるという学びを得ました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4163917683?tag=note0e2a-22&linkCode=ogi&th=1&psc=1

そしてつい最近、もう一度この”全力”という表現に触れる機会があり、「はて、”全力”とはどのような状態や行動を指すのか自分の中で理解が曖昧だな?この状態では間違った”全力”をチーム内に広げてしまうことになるな」と問題意識を持つに至りました。

”全力”とは

”全力”とは最終的な結果を保証することではなく、オープンなコミュニケーションを促進し、信頼を育み、協力を促すこと。具体的な行動例としてはチームミーティングへの積極的な参加、フィードバックの共有、必要に応じて他人を助けること。

という理解に落ち着きました。ちょっと強引にまとめた節があるので、この後の文章も読んでいただきたいです。

Commitment in Scrum: Shared Ownership
https://www.agileambition.com/commitment-in-scrum/

ググって最終的にたどり着いたのがこちらの記事。ドンピシャで私が誤解していたことを指摘しています。個人的に意外だったのが、私は”全力”という日本語訳が誤解を生んでいるものと予測していたのですが、英語圏でも一般的な誤解ということでスクラムガイドが明確な文言を追加して説明するほどだったことです。

以下に引用します。

Commitment is Not a Guarantee
It deserves special consideration to point out that commitment isn’t doing what you said you’d do. This definition is a common misunderstanding of the word. If you’re looking for a word with that meaning, integrity might be a better fit.

A has popped up that the Sprint Backlog is a commitment that the Scrum Team must kill themselves to accomplish. This unhealthy interpretation of the Scrum Guide leads to a culture of blame.

Command and control leadership likes to throw around the term Sprint Commitment though I can find no original reference to this term in any version of the Scrum Guide. In 2011, the Scrum Guide added some clarifying language to stamp out this toxic misconception.

In the Scrum framework, commitment is not about guaranteeing final results but ensuring that team members are fully invested in achieving their Sprint Goals. It is about promoting open communication, fostering trust, and encouraging collaboration. This commitment involves active participation in team meetings, sharing feedback, and helping others when needed. Ultimately, the commitment is to individuals and interactions, which creates a culture where high-performance teams can thrive.

全部の文章でクリティカルヒットを食らってる気分なのですが、特に 3 つ目の文章が分かりやすいと思いました。

スクラムのフレームワークでは、コミットメントとは、最終的な結果を保証することではなく、チームメンバーがスプリントゴールの達成に完全に投資することを保証することである。オープンなコミュニケーションを促進し、信頼を育み、協力を促すことである。このコミットメントには、チームミーティングへの積極的な参加、フィードバックの共有、必要に応じて他人を助けることが含まれる。最終的には、個人と相互作用にコミットすることで、ハイパフォーマンスなチームが活躍できる文化を創造します。

おまけ:Chat GPT にも聞いてみた

まぁ、、、何となく予想できてましたけどしっかり答えてくれるんですね(苦笑)
Chat GPT の答えの正確性とかどうなのという気持ちはさておき、違う表現で説明してくれてるので理解が深まってよかったです。

追加で Chat GPT にも聞いてみました

質問

スクラムチームにとっての全力とはどのような状態を指しますか?
また、全力ということについて一般的にどのような誤った解釈がありますか?

回答

スクラムフレームワークでは、「全力」という言葉は特定の状態やプロセスを指すものではなく、チームが自己組織化し、最大の価値を提供するために最善を尽くす姿勢や意欲を表現しています。以下に、スクラムチームにおける「全力」に関する一般的な理解と誤解について説明します。

正しい理解:
最大限の価値を提供する姿勢: チームはプロダクトオーナーからの要求に応じ、スプリントゴールに向けて最大限の努力をします。それは単に働く時間の増加を指すものではなく、価値の最大化に焦点を当てます。
自己組織化と自己管理: チームは自分たちの仕事を管理し、スプリントゴール達成のために必要な作業を自己組織的に計画し、実施します。
連携とコミュニケーション: チームは積極的にコミュニケーションをとり、情報共有を行い、問題が発生した場合には迅速かつ効果的に対処します。

誤った理解:
働く時間の単純な増加: 全力であるためには長時間働く必要があるという誤解があります。しかし、単に働く時間を増やすことが、効果的な結果を生むわけではありません。
過度なストレスの推進: 全力を尽くすことは、健康を損なったり、チームメンバーに過度なストレスをかけることを意味しません。むしろ、持続可能なペースで働くことが重要です。
個人の努力重視: スクラムは協力と協力を強調しており、個々の努力だけでなく、チーム全体の協力が重要です。全力を尽くすことは、個人ではなくチーム全体の努力を指します。
要するに、スクラムにおける「全力」は、持続可能で協力的な取り組みを通じて、価値提供に集中する姿勢や文化を指します。

スプリントゴールの達成率について

この件でググっているさなか、クラスメソッドさんの記事に出会いました。”全力”というキーワードを含む項で、スプリントゴールの達成率がどの程度であれば適切かという話が紹介されていました。

https://dev.classmethod.jp/articles/the-essence-of-scrum-that-i-want-to-explain-to-customers/

誤解を招きそうで怖いと思ったこと

この Zenn の記事を書きながら読み返してみると、スプリントゴールの達成率の文脈で”開発チームはこのスプリントのゴールを達成するために全力を尽くします”と表現されていて、詳細は後述していますがその指標は 50%となっています。これを”全力”を誤解している状態で読み進めると、、、

  • 「たくさん頑張って 50%になるくらいが適切なのか」
  • 「もっとたくさん(リソースを投下して)頑張らなきゃ」

というように、誤解が加速しそうで怖いなと思いました。

あと、これはちょっとした愚痴になりますが、日本語の情報源をあたってる内は「開発チームはスプリントゴール達成のために全力を尽くす」というところまでは出てくるのですが、より質の良い情報、つまりは”全力”を噛み砕いて表現して、抽象的にはこうで具体的にはこうでという説明が出てこなくて有用とは感じられませんでした。

記事内で紹介されている指標

この記事で紹介されてる指標としては達成率 50%、自分の想定よりもかなり低いものでした。

スプリントゴールの達成率が 50%ということは、より高いゴールのために実験とチャレンジを継続しているということの現れであり、これはスクラムが健全に機能していることを表していると解釈できます。
もしこの達成率が 80%や 90%となった場合、何かしらのバッファを含めたゴール設定となっている可能性があり、ジェームス・コプリエン氏は『これはチートだ!』と仰っていました。

この数値について厳密なものでは無いと思いますが、健全とする根拠としては実験とチャレンジを素早く届けるために行動していたら、これくらいになるでしょうということだと受け止めています。

確かに、このようなスタンスで仕事をできたらとても楽しそうです。

スプリントゴールの達成率についての意見

私は全ての PJ でこの状態を目指すべきだとは思わなかったです。

PJ にはあらゆる制約があって、例えばその PJ は期限付きのもので 2−3 年で解散になるかもしれません。2−3 年で何を達成するかを考えたときに「スプリントゴールの達成率が 50%」というのは、数ある目指したい理想を細かく具象化させた例の1つに過ぎないと思うからです。

他から「それはなんちゃってスクラムだね」なんて揶揄されようが、その PJ が何を至上命題にして動いているか、何をトレードオフとするかなんてことは、その PJ のステークホルダーどうしで決めるべきだと思うからです。

どう向き合うか?

個人的には”全力”の正しい認識を持つことと、PJ の状態に合った指標は何かということをメンバー全員で合意を持つことが大事だと思いました。

PJ には色んなフェーズがあるでしょうし、PJ の社内的な立ち位置というのもあるでしょう。その PJ にはどの程度の挑戦が求められているのか・適切かという判断を、状況が変わる・変わりそうな都度行って、指標として持つ。そして指標として掲げた背景の要因をチームメンバーで共有しあって、メンバー全体でのメンタルモデル=納得感を持ちながら PJ を進行できたなら、”全力”という要素が達成したかった自組織化という目標により近づけるのではないかと思いました。

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