衛星データを使った事業開発をするなら、NIIRS(二アーズ)は押さえておきましょう、という話
はじめに
タイトルのとおりで、衛星データを使った事業開発を検討したい/行っているのであれば、NIIRS(二アーズ)は押さえておきましょうという話です。NIIRSを理解することで、光学衛星・SAR衛星を問わず、衛星データで何ができて何ができないかを具体的に把握することができるようになります。これにより、現実的な事業開発を進めやすくなったり、エンジニアへの過度な要求も避けられるようになります。
NIIRSとは
NIIRSは、「National Image Interpretability Rating Scales」の略です。日本語に直訳するのが難しいですが、無理やり翻訳すると、「国家画像判読格付け基準」のような表現になると思います。
その名称のとおり、目的は、画像で何が判読できるかを定量・定性的に示すことです。具体的には、0から9までの10段階で画像の解像度に応じて、どのような対象物をどこまで詳細に判読できるかを評価する基準です。例えば、「この解像度では航空機の有無が判別できる」「この解像度なら航空機の機種まで特定できる」といったように、実際に判読可能な内容を段階的に定義しています。
もともとは1970年代初期に米国の政府やコミュニティが軍事目的で開発し、1974年から運用を開始したと言われています。主に軍事施設や装備(航空機、電子機器、地上車両、ミサイル、艦艇)について、画像から何が判読できるのかを評価することを想定して作られました。が、現在では民間の衛星画像分野でも広く活用されている評価基準となっています。
各段階の評価は、ある解像度の画像で「実際に遂行可能な最も高度な判読タスク」に基づいて決定されます。つまり、理論上の可能性ではなく、実際の利用場面で「何を判読できるか」を基準にしているのが特徴です。そのため、衛星データを使った事業開発でも、クライアントから解析相談があった際に、NIIRSを用いることで実現可能性を客観的に判断できるようになります。
NIIRSのカテゴリー
NIIRSは、以下の4つのカテゴリーに分類されています。
- Visible NIIRS(可視光)
- Radar NIIRS(レーダー)
- Infrared NIIRS(赤外線)
- Multispectral NIIRS(マルチスペクトル)
衛星データ解析においては、これらすべてのカテゴリーは重要な役割を果たしますが、本記事では可視光とレーダーに焦点を当てることにします。
以下の表に、Visible NIIRS(可視光)とRadar NIIRS(レーダー)について、解像度ごとにどのような判読が可能なのかを整理してみました。
【Visible NIIRS(可視光)】
NIIRS Level | 解像度[m] | 可能な判読タスク |
---|---|---|
1 | 9.00以上 | 中規模な港湾施設; 大規模な飛行場にある地上走行路と滑走路 |
2 | 4.50-9.00 | 海軍施設の大型建造物(倉庫等); 病院などの大型建造物 |
3 | 2.50-4.50 | 大型航空機の主翼形状; 港に停泊している大型船舶の種類 |
4 | 1.20-2.50 | 大型戦闘機の種類; 集団車両; 鉄道路線; 管制塔 |
5 | 0.75-1.20 | 地対地ミサイル(全長約6m) |
6 | 0.40-0.75 | 小型/中型ヘリコプターの種類; 中規模トラックのスペアタイヤ; 自動車 |
7 | 0.20-0.40 | 電子機器搭載車両のポートやはしご、通気口; 線路の枕木 |
8 | 0.10-0.20 | 携帯式防空ミサイルシステム; 車両のワイパー |
9 | 0.10未満 | ロープの網目(直径2.5cm~7.6cm); 線路の枕木を止める固定釘(犬釘) |
注1:分かる人ようにお伝えすると、ここでの解像度はGRDを指しています。
注2:NIIRS 0 に可能な判読タスクは割り振られていないため、割愛しています。
上の表から、現在広く利用されているSentinel-2は解像度が10-20mなので、NIIRS 1に相当することが分かります。NIIRS 1だと中規模な港湾施設や大規模な飛行場の地上走行路と滑走路を判別可能とされていますが、これはSentinel-2を実際に利用している方の肌感と一致するのではないでしょうか(ハッキリくっきり写ってるわけではないですが、、)。
衛星データを使った事業開発を検討する際には、地物に焦点を当てて考えることになりますが、リモセンで古典的な自動車検出となると、解像度が最低でも0.4-0.75m(NIIRS 6)が必要であることが分かります。ただし、経験上、解像度0.75mでは自動車の直接的な検出は難しい印象を受けます。
将来的な実現可能性は分からないですが、解像度0.10m未満になると、ロープの結び目まで判読できるらしく、衛星データでロープの結び目を判読できる、これはロマンを感じますね。
では、Radar NIIRS(レーダー)に移りたいと思います。
【Radar NIIRS(レーダー)】
NIIRS No. | 解像度[m] | 可能な判読タスク |
---|---|---|
1 | 9.00以上 | 埠頭と倉庫を基に港湾施設; 密林地帯の大規模な伐採地 |
2 | 4.50-9.00 | 大型の爆撃機または輸送機; 既知の港湾施設の大型船舶; スタジアム |
3 | 2.50-4.50 | 中型航空機; 中規模(約6路線)の鉄道操車場 |
4 | 1.20-2.50 | 大型回転翼機(ヘリ)と中型固定翼機を区別; 既知の駐車場で並んだ車両 |
5 | 0.75-1.20 | 中型ヘリの計数; 貨物列車の隙間(貨車を計数) |
6 | 0.40-0.75 | 小型支援車両と戦車を区別 |
7 | 0.20-0.40 | 小型戦闘機(約64㎡)の種類; 市街地や軍事施設内の道路/街灯 |
8 | 0.10-0.20 | 特定のヘリを区別; タンク車の通気口 |
9 | 0.10以下 | エンジンが運転席の真下にあるトラックと運転席の前にあるトラックの区別 |
上の表から、現在広く利用されているSentinel-1は解像度が10mなので、NIIRS 1に相当することが分かります。NIIRS 1だと、密林地帯の大規模な伐採地を判別可能とされていますが、こちらも肌感と一致する気がしています。
では、自動車を検出したいとなると、どれくらいの解像度が必要でしょうか。
NIIRS 7ぐらいは最低でも必要そうです。先ほどの光学画像では、NIIRS 6で車両の検出が可能でしたので、レーダー画像は光学画像と比較して、解像度と判読可能なタスクが1段階劣ることが分かります。
また、0.3mの解像度を持つ光学画像では車両の種類まで識別できる一方、同程度の解像度のレーダー画像では車両の存在の有無を確認できる程度に留まります。このことから、レーダー画像は光学画像と比べて、対象物の視認性が大幅に低下することが明らかになります。
他にも、着目すべき点として、限定的な形での判読タスクになっていることが垣間見えます。例えば、NIIRS 4では車両検出が挙げられていますが、車両検出ができるのはあくまで「既知の」駐車場の範囲となっています。つまり、画像から見えてるものが車両と分かっていることに加えて、駐車場は別途、他の手段で把握しておく必要があるということですね。
こう見ると光学画像の方が絶対的に良さそうに思えますが、光学画像の弱点として雲や雨の日には観測できません。レーダー画像、衛星分野ではSAR衛星でいうと、雲や雨の日でも地表を観測できるという利点もあるので、解像度が良いから光学画像の方が絶対的に優れているということではないです。
また、SAR衛星の場合には、InSARやコヒーレンスといった位相を使った解析も可能なので、光学画像とは違ったアプローチができるのも事実です。
したがって、衛星データを活用した事業開発においては、それぞれのセンサーが持つ特性を十分に理解し、目的に応じて適切に使い分けることが重要と考えられます。
おわりに
今回は、衛星データを使った事業開発の検討にあたって便利ツールとなるNIIRSを紹介しました。衛星データを使うと何ができるんだろう、これまで肌感で何ができるかできないかを回答していた、という方には参考になるかと思います。
衛星データの解析技術は日進月歩なので、工夫次第でNIIRSを超えたタスクもできることがあります。ただし、衛星データを使った事業開発ではそうした最先端技術を取り入れられる場面は多くありません。そのため、NIIRSを基本とした意思決定は非常に有用です。
最後に、衛星データは光学・SAR以外にも、地表面温度、夜間光、大気組成といった様々なデータが存在します。これらの衛星データをいかに組み合わせるのか、効果的に活用するのかを考えることは、衛星データの事業開発の醍醐味とも言えます。衛星データ以外のデータも有用です。
今後も衛星データに関する情報を発信できればと思います。
衛星データコミュニティが設立されましたので、ご関心ある方はご参加ください。
参考資料
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