レビュー設計:その2「いつレビューすべきか?タイミングと負荷の最適化」
レビュー設計:その1「どこまで見るか。レビューのスコープと粒度の設計術」の続き。
「レビュー出したのに、誰も見てくれない」
「レビューが一気に来て、さばききれない」
こんな声を開発現場で聞かれることは少なくありません。コードレビューのプロセスが適切に設計されていないと、レビューがボトルネックになって、開発効率を悪化させます。
とくにスタートアップや少人数のチームでは、開発者同士が互いにレビューし合うため、タスクの集中・分散に大きな偏りが生まれがちです。
PRがどんどん積み上がり、レビューされないまま時間が過ぎていく…これが定常化すると、コードレビューは品質向上のための仕組みではなく、開発を遅らせるボトルネックになってしまいます。
本記事では、こうしたレビューの遅れや負荷集中といった課題を、レビュータイミングの設計によってどう解決できるのかを解説します。
レビューのタイミング設計という考え方
レビューの問題は、「誰が」「何を見るか」だけでなく、「いつ行うか」も存在します。コードレビューに、タイミング設計という発想を持つことで、レビュー待ちの渋滞やレビュアーの負荷集中を効果的に防げるようになります。
依頼するタイミングを意識する
まず意識すべきは、いつレビューを依頼するかです。多くのチームでは、開発者がコードを書き終えたタイミングでPRを出し、レビューを依頼します。しかし、依頼のタイミングが夕方や金曜日の終業前だった場合、レビューが放置される可能性は高まります。
- 午前中の早い時間にPRを出す
- スプリントレビューの前日を避ける
- 他メンバーの作業が集中していないタイミングを選ぶ
といった、レビュアーが動きやすい時間帯を考慮したレビュー依頼は、小さな工夫ですが効果的です。
対応する側の視点も設計する
レビューは対応する側(レビュアー)にとって、大きな時間と集中力が求められます。レビュアーがタスクで手一杯のときに大量のレビューが届くと、どうしても対応が後回しになりがちです。
- 朝の集中タイムにはレビュー対応を避ける
- 午後の時間帯にレビュータイムを設定する
- レビュー対応時間をチームのカレンダーに入れておく
レビューを見る余裕があるタイミングを明示しておくことで、レビューを受ける側の「放置されている感」を軽減できます。また、各自の負荷が見えることで、レビュアー同士の負荷分散に繋がります。
バッチ依頼は避け、こまめなレビュー依頼を
ありがちな失敗として、一気にPRをまとめて出すパターンがあります。たとえばスプリント終盤に複数タスクが完了し、PRを10本まとめて提出されたらどうなるでしょうか。レビュアーは混乱し、十分な時間の確保が必要になるでしょう。スプリント終盤ではそんな時間的余裕はなく、結果的にレビューが遅れてしまうはずです。
こうしたレビュー渋滞を避けるには、以下の工夫が有効です。
- PRを小さく分割し、できるだけ早めに出す
- WIP(Work in Progress)PRで、途中レビューを依頼する
- 一斉レビュー依頼ではなく、順番に出していく
コードレビューを作業の終わりではなく、開発進行中に挟むステップと捉え直しましょう。これはレビュー渋滞を防ぎ、心理的なハードルも下げられる効果が期待できます。
“Shift Left”のすすめ
レビューを、コードを書き終えた後にするものと決めつけていないでしょうか。実はそれこそが、レビュー渋滞や手戻りの原因になっているかもしれません。
有効なのは「Shift Left(左に寄せる)」という考え方です。これは、レビューや検証といったプロセスを、開発工程のより早い段階に組み込もうというアプローチです。
コードを書く前にレビューする「設計レビュー」のすすめ
コードが完成してからレビューを始めると、設計ミスや方針のズレが発覚した際の手戻り工数が大きくなります。それを防ぐのに有効なのが、設計段階でのレビューです。PRを出す前に、以下のような内容をあらかじめ共有・レビューしておくと、後の手戻りを大きく減らせます。
- 実装方針を記したメモやNotionドキュメント
- フォルダ構成や命名ルールの意図
- 簡易なクラス図や処理フロー図
設計レビューを通してから実装に入ることで、コードの品質を高めるだけでなく、チーム全体の理解も深まります。手戻りが減らせれば、開発効率が向上します。
コードレビューが一発勝負ではない
コードレビューを「最後の品質チェック」とだけ考えると、責任が重たくなり、レビューにかける工数がなかなか減らせません。また、レビューを受けた側も、「このタイミングでこれを直すのか…」という心理的抵抗が生まれやすくなります。
そうした問題を防ぐために、先に挙げた設計レビューをはじめ、細かく段階的にレビューを踏んでいくステップがおすすめです。
- 設計 → 中間レビュー → 最終レビュー
- 小さな変更のうちに都度チェック
- WIP PRで段階的にフィードバック
このような段階的なレビュー設計を導入することで、早い段階でチームメンバーの目を入れ、軽やかに軌道修正できる体制を作れます。小さな内容であれば、レビュアーも見るべきポイントが多くなくて済みますし、簡易的なものであれば常にシニアレベルのレビューを受けなくても大丈夫でしょう。
「早いレビュー」は心理的安全性も高める
早い段階でのレビュー(早期レビュー)はコードの品質だけでなく、チームの心理的安全性にも寄与します。
- 途中でも出していいと思える
- 指摘が方向修正で済むため、否定に感じにくい
- フィードバックの粒度もわかりやすい
こうしたレビューが続くと、メンバーは「レビューは怖いものではない」と感じるようになります。特にWIP PRでの早期レビューは、コードが未完成な状態でも意見をもらえるため、心理的なハードルが低くなります。特にジュニアレベルのプログラマーが多い開発チームでは、早期レビューによるアプローチが有効です。
レビュー時間の見積もりとチーム設計
コードを書く時間はタスク見積もりに含めるのに、レビューの時間は見積もられていないというのはよく聞かれる話です。コードレビューも立派な開発作業です。レビュー時間を意識的に確保することで、無理なく継続的に、高品質なレビュー体制を維持できます。
タスク設計時に「レビュー時間」を含める
レビューを受ける側はもちろん、レビューする側にも時間がかかります。たとえば、以下のような見積もりが現実的です。もちろん、これはチームによって異なりますので、実際の運用を通じながら補正していくのが良いでしょう。
タスクの種類 | レビュー時間の目安 |
---|---|
小さな修正PR | 15〜30分 |
中規模の機能追加 | 30〜60分 |
複雑なロジックを含む改修 | 1時間以上 |
こうしたレビュー工数を算出できれば、各タスクに対して必要なレビュー時間を見積もれるようになります。そうすれば、レビュー対応ができずにPRが溜まるといった事態を防げます。
スプリントや進捗計画にレビュー工数を組み込む
レビューは空き時間でやるもの、という意識では持続性に問題があります。レビューは開発の一部であり、計画的に行うべきです。スプリントプランニングや進捗管理の際に、レビュー工数を明示的に組み込み、チーム全体でレビューの重要性を共有しましょう。以下のように、レビューをチームの計画に組み込む運用を検討しましょう。
- スプリントプランニングで、レビュー作業の担当者を決めておく
- 朝会で今日レビューするPR、送信するであろうPRを共有する
- レビュー時間をチームのカレンダーで共有する
特に緊急性の高いPRを送る予定がある場合には、事前の共有が欠かせません。レビュアーも心構えができますし、他のメンバーもその時間を避けて作業できるようになります。
まとめ
コードレビューは、完成後に問題を洗い出す関所ではなく、開発の初期からチームで合意を築いていくプロセスだと捉えましょう。レビューのタイミングを設計すれば、レビュー渋滞や属人化を避け、スムーズで健全な開発サイクルを実現できます。
Shift Leftの考え方を取り入れ、設計段階からレビューを行うことで、手戻りを減らしてコードの品質を高められます。また、レビュー時間の見積もりとチーム設計を通じて、レビューが開発の一部として機能するようにしましょう。
続き。レビュー設計:その3「誰が見るべきか?体制と責任の設計パターン」
おまけ:CodeRabbitの活用
CodeRabbitはAIコードレビューサービスで、GitHubやGitLabと連携してPRに対して自動的にレビューを実行します。開発者はCodeRabbitからの指摘を確認し、修正を行うことで、コードの品質を向上できます。最近リリースされたCodeRabbit for VSCodeを利用することで、ローカルでのレビューも「無料で」可能になりました。
ぜひ、CodeRabbitを活用して、コードレビューの効率化と品質向上を図ってください。
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