レビュー設計:その1「どこまで見るか。レビューのスコープと粒度の設計術」
「どこまでレビューで見ればいいんだろう」そんな疑問を抱いたことはないでしょうか。レビュー対象のPull Request(PR)に数百行の変更が含まれていたり、ロジックやUI、ドキュメントも含まれていたりすると、すべてを細かくチェックするのは容易ではありません。結果としてレビューに時間がかかりすぎたり、逆にざっくりと確認して不具合を見逃したりしてしまうこともあります。
レビューは大事だとわかっていても、毎回「全部見る」スタンスで向き合っていると、チーム全体の開発速度にも悪影響を与えかねません。レビューがボトルネックになるという話はよく聞かれます。
では、どこまで見れば適切なのでしょうか。今回はレビューにおける「スコープ」と「粒度」という2つの視点から、効果的なレビューの設計方法を考えていきます。
レビューを「スコープ」と「粒度」を分けて考える
コードレビューを設計するうえで、まず大切なのは「どこまでチェックするか」を、2つの軸に分解して捉えることです。それがスコープ(何を対象とするか)と粒度(どの程度深く見るか)という視点です。
スコープ:レビュー対象のカテゴリを定める
スコープとは、レビューにおいて「何をチェックするのか」を定義するものです。たとえば、以下のような観点が考えられます。
- ロジック
処理の正しさ、条件分岐やループの妥当性 - 命名
変数名や関数名が意味を正しく表しているか - テスト
ユニットテスト・E2Eテストが適切に書かれているか - 設計
責務分離、レイヤー構造、クラスの役割分担 - パフォーマンス
ボトルネックやメモリ効率の懸念がないか - セキュリティ
入力値の検証、公開範囲の適切さ - ユーザビリティ
UI/UXに影響する変更であればその体験
なお、これらをすべて毎回チェックするのは非現実的です。そのため、「レビューではどの観点を中心に見るか」をあらかじめ決めなければなりません。
粒度:どこまで細かく見るか
一方、粒度とはレビューにおける深掘り度です。同じスコープ内であっても、見る深さを調整すること、でレビューの負担と効果をバランスできます。
たとえば「命名」がスコープに含まれていても、以下のように粒度を変えることが可能です。
- 浅い粒度
致命的に意味が通じない名前があれば指摘する - 深い粒度
業務ドメインと照らし合わせて適切か吟味する
この粒度は、開発フェーズによって調整されるべきものです。設計初期のWIP(Work in Progress)段階で、完璧な命名を求めるのは非効率ですし、逆にリリース直前のコードに対してロジックの大枠だけを確認して進めるのはリスクが大きいでしょう。
スコープと粒度を切り分けて設計する
「ロジックのレビュー粒度は中くらい」「テストは今回は見ない」といった具合に、スコープと粒度を個別に設計することが、効率的で効果的なレビューの第一歩です。
この視点がないままレビューを行うと、「全部中途半端に見て、結局なにも拾えなかった」「枝葉ばかり指摘して、本質的な問題を見逃している」といったアンバランスなレビューが生まれがちです。
レビューを受ける側としても、見てほしい部分が見てもらえなかったり、逆に些細な部分の指摘ばかり受けて、フラストレーションがたまる結果につながるでしょう。
フェーズに応じたレビュー対象の絞り方
コードレビューは常に同じ観点・粒度で行うものではありません。むしろ、開発フェーズに応じて、見るべきポイントを絞り込むと、レビューの効果と効率を両立できます。
設計・WIP段階では「方針」と「意図」を見る
実装が始まる前、あるいは実装途中のPull Request(WIP PR)は、コードそのものよりも考え方や方針に目を向けるのが有効です。この段階では以下のような観点が重要になります。
- 実装の方向性が要件に合っているか
- 責務やモジュール構成など、設計上の分離ができているか
- 大きなアンチパターンが存在しないか
この時点では、ロジック自体が大きく変わる可能性が高いため、細かい構文や変数名を指摘するようなレビューは不要です。それよりも、「なぜこういう設計にしたのか」といった意図の確認や擦り合わせを重視すべきです。
実装段階では「構文・命名・テスト」を丁寧に
ロジックがある程度固まってきたら、具体的なコードの品質をチェックするタイミングになります。このフェーズでは、以下の観点に重点を置くとよいでしょう。
- 条件分岐やループ処理の正確性
- 命名の一貫性と可読性
- テストコードの網羅性と明快さ
- 再利用可能な構造になっているか
このフェーズになると、スコープと粒度のバランスが求められます。たとえば「命名」はスコープに含めるとしても、誤解される表現は修正する、ドメイン的に正確かどうかは検証しないといった粒度調整が有効です。
マージ前の最終レビューでは「統合性」と「安全性」を確認する
レビューの最後の砦ともいえるのが、マージ直前の最終レビューです。ここでは、主に以下の点を確認します。
- 他の機能と整合性が取れているか
- ドキュメントやコメントが不足していないか
- セキュリティ的な懸念がないか
- テストが通っており、CI/CDに影響がないか
この段階では、「このコードをマージして本当に問題がないか」という視点でチェックする必要があります。本質的な設計の問題が残っていたら、手戻りのコストが相当大きい状態になります。そうならないためにも、ここまでのフェーズで適切にレビューを分担しておくことが重要です。
明文化することで効率化できる
レビューのスコープと粒度を明確にすることの重要性は、前述のとおりです。しかし、どんなに良い設計であっても、それがレビュアーや開発者に共有されていなければ意味がありません。レビュー観点を明文化することが、チームのレビューを効率化する鍵になります。
「今回のレビュー観点はこれです」と伝える習慣
レビュー依頼する際に、どういった観点でレビューしてほしいか伝えるだけで、レビュアーの負担はぐっと軽くなります。たとえば「今回は、主に命名と設計方針を見てください」といった具合です。
逆に、スコープが曖昧なままPRを出されると、レビュアーは全部見るべきなのかと迷い、時間と工数を浪費してしまいます。レビューの観点と粒度を伝えることは、手を抜くためではなく「見るべきことに集中する」ための設計です。
特にWIP段階のPRでは「まだテストは未実装です」「まずはロジックだけ見てください」などといった明示が効果的です。
PRテンプレートやレビューチェックリストの活用
こうした明文化を仕組みとして取り込む方法もあります。たとえばGitHubのPull Requestテンプレートに、以下のような欄を設けると良いでしょう。
- このPRで見てほしい観点
- [ ] ロジック
- [ ] 命名
- [ ] テスト
- [ ] 設計
- [ ] パフォーマンス
- [ ] セキュリティ
- [ ] ユーザビリティ
- 見なくていい箇所
- [ ] ロジック
- [ ] 命名
- [ ] テスト
- [ ] 設計
- [ ] パフォーマンス
- [ ] セキュリティ
- [ ] ユーザビリティ
- [ ] その他(例:UI周りは別PRで対応予定)
また、チームで共通のレビューチェックリストを用意しておくのも効果的です。すべてを毎回チェックする必要はありませんが、「今回のレビューはこの3項目だけに絞ろう」といった使い方で、観点の明示と粒度調整が簡単になります。
まとめ
コードレビューは、毎回すべてを一律に細かく見るものではありません。開発フェーズに応じてどこをどれだけ、どの深さで見るのかを適切に設計・共有することで、レビューが負担から価値ある対話へと変わっていきます。
大事なポイントは以下の2点です。
- スコープと粒度を切り分け、チームで共通認識を持つ
- レビューを受ける側が観点を明示し、効率よくレビューを進める
この積み重ねがコードの質だけでなく、開発体験そのものを向上させてくれるはずです。
続き。レビュー設計:その2「いつレビューすべきか?タイミングと負荷の最適化」
おまけ:CodeRabbitの活用
CodeRabbitはAIコードレビューサービスで、GitHubやGitLabと連携してPRに対して自動的にレビューを実行します。開発者はCodeRabbitからの指摘を確認し、修正を行うことで、コードの品質を向上できます。最近リリースされたCodeRabbit for VSCodeを利用することで、ローカルでのレビューも「無料で」可能になりました。
ぜひ、CodeRabbitを活用して、コードレビューの効率化と品質向上を図ってください。
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