スケールするレビュー文化の作り方:その2「開発速度を落とさないレビュー運用とワークフロー」
スケールするレビュー文化の作り方:その1「組織に適したレビュー運用」より。
レビューは製品の品質を守る仕組みですが、同時に開発の流れを止めてしまう要因にもなります。承認が遅れるとリリース計画に影響し、細かすぎる指摘が重なるとやり取りが増えて手戻りが続きます。速度を優先しすぎれば品質が落ち、品質にこだわりすぎれば速度が落ちる。多くのチームがこの速度と品質のバランスで悩みます。
本記事では、レビューの速度を落とさずに文化として定着させるための運用やワークフローについて整理します。滞りを防ぐ仕組み、優先度付け、コミュニケーションの工夫、自動化との組み合わせなど、現場で実践しやすい観点を取り上げます。
レビューの滞りを防ぐ仕組み
レビューが滞る原因の多くは、依頼の集中とPRの扱いにあります。誰にアサインすべきかルールが決まっていないと、一部のメンバーに負荷が偏ってしまい、承認待ちが積み上がります。まずは着手までの目標時間を定め、SLAのようにチームで合意しておくと良いでしょう。誰が見ても「すぐ対応するべきPR」が分かる状態にしておくことが大切です。
PRの大きさも流れを左右します。機能追加や修正をまとめすぎると、レビューの時間がかかり、結局リリースが遅れてしまいます。適切なサイズに分割するルールを決め、粒度をそろえることが有効です。その際にはPRテンプレートを用意して、変更内容や目的、テスト結果を簡潔に記録するようにしましょう。説明責任を明示すれば、レビュアーは本質的な確認に集中できます。
レビューを滞らせないためには、誰がいつどの粒度で対応するかを仕組み化する必要があります。そうすれば属人化を防止し、チーム全体でレビューの流れを管理できるでしょう。
優先度とキュー管理
もう一つ、レビューが滞る原因として着手の順番が決まっていないことが挙げられます。多くのレビューが溜まってしまったために、どれから手を付けていいか分からない状態です。担当者は自分のPRから処理してほしいと思うでしょうが、優先順位を付けて取り組まないと、本当の大事な製品の品質向上にはつながりません。
最優先は障害対応やセキュリティ修正で、次にスプリントに含まれる変更です。その後、通常の機能追加や小さな改善を扱います。こうして順番を共有しておくと、誰が見ても着手すべきPRが分かります。
順番を決めても見えなければ機能しません。優先度やレビューの状況をタグで可視化すると良いでしょう。今後の改善を考えるならば、各レビューの開始までの時間と、実際に完了すまでの時間を測定しておくことをおすすめします。そうしてデータが蓄積されていくと、チームにおけるレビューの状況がわかり、改善策も検討できるでしょう。
なお、障害対応やセキュリティに関係するものは緊急性を要するので、例外的に優先度を上げて扱います。ただし、すべてが例外になると混乱するので、例外扱いする条件は明文化されていなければなりません。また、例外が増えるのは大きな問題であるため、対応後に記録とふりかえりを行い、根本原因の解消に努める必要があります。
コミュニケーションの工夫
レビューをスムーズに進めるために、コミュニケーションも工夫をしてみましょう。まず、指摘は一度に行うようにします。細かいコメントが何度も続くと、開発者は何度も手を止めて対応しなければならず、結果として全体の速度が落ちてしまいます。指摘事項はまとめて伝え、再依頼は最小限に抑えることが大切です。
PRをWeb上で非同期にやり取りする場合、文章の書き方も工夫しましょう。具体的には、要点を箇条書きにする、見出しを使って整理する、重要な情報を強調するなどの方法があります。また、小さな修正は提案で済ませ、設計や仕様の見直しが必要な場合はまとめて指摘します。曖昧な表現を避け、意図を明確に伝えることで、受け取る側の迷いを減らせます。
どうしてもテキストでは解決が難しい場合には、同期的な場を活用するのが有効です。短時間のペアレビューやハドルで直接確認すれば、往復回数を減らせます。リモート主体のチームでは難しい場合もありますが、無理にテキストだけで完結させようとすると、かえって時間がかかることもあります。適切な場の使い分けを心がけましょう。
レビューのやり取りは、相手が理解しやすい形で伝える点を心がけましょう。コメントの精度と場の使い分けを意識すれば、速度を損なわずに質の高いコミュニケーションを実現できます。
並行開発との両立
機能追加や改善を複数同時に進めると、レビューの遅れが開発全体の停滞につながります。枝分かれしたブランチが長く放置されれば、統合時にコンフリクトが増え、レビューはさらに重くなります。
この状況を避けるには、変更を小さく分けて早めに統合することです。trunkベース開発(細かいブランチを頻繁にメインブランチにマージする方式)を採用すれば、ブランチは短期間で済み、レビューも軽くなります。リリース時のリスクが大きい場合には、フィーチャーフラグを活用して機能を無効化したまま統合すると安心です。
なお、並行開発の量が増えると合意形成のスピードが問われます。重要な論点を明確にし、判断に迷う点はチームで早めに相談しましょう。レビューについては、溜め込まずに出す姿勢が大切です。小さなレビューをこまめに行うことで、並行開発における課題は最小限に抑えられます。
自動化で補う領域
レビューの速度を落とさないためには、人が見なくても良い部分を自動化に任せることが効果的です。Linterによる構文チェックやCodeRabbitなどのAIコードレビューツール、単体テストの実行など自動化できる方法はいくつかあります。人が確認する前にこれらを済ませておけば、レビューの対象は本質的な部分に絞られます。
一方で、自動化できるのはいわゆる一般的なベストプラクティスベースになります。設計意図の妥当性やチームの合意が必要な判断は自動化が困難です。ビジネスロジックが要件に沿っているかといった点は、やはり人が目を通す必要があります。
もう一つレビューの負荷を減らす工夫として、自動でラベル付けやレビュアーの割り当てを行う仕組みも有効です。これにより依頼が特定の人に集中せず、チーム全体で公平にレビューを回せます。レビューはする側にとっても成長機会になります。人のコードを見る習慣を作り、知識共有の場として活用しましょう。
自動化をうまく組み込み、人が価値を発揮できる領域に時間を割くことができれば、速度と品質の両立につながります。
運用の振り返りと改善
レビューの仕組みは、一度決めたら終わりではありません。開発の状況や体制の変化に合わせて、定期的に振り返る必要があります。例えば、レビュー開始までの平均時間や承認までの所要時間を測定すれば、滞っている箇所が見えてきます。そこから改善策を検討し、実施していきましょう。
振り返りでは、数値だけでなくメンバーの声も大切です。コメントの粒度や指摘の伝え方について、負担になっていないかを確認しましょう。特定の人に依頼が集中しているなら、割り当て方法を見直すきっかけになります。
レビューはコード品質を守るだけでなく、チーム全体の知識共有の場でもあります。改善サイクルを回し続けることで、停滞を防ぎ、速度と品質を両立できる文化を育てていきましょう。
まとめ
レビューを文化として根づかせるには、速度と品質の両立が欠かせません。停滞を防ぐ上で、大事なポイントは3つです。
- 着手する順番を明確にする
- PRを適切な粒度で扱う
- コミュニケーションを工夫する
さらなる改善として、自動化を組み込んで、人が判断すべき部分に集中できる環境を整えましょう。そして、運用を定期的に振り返り、改善サイクルを回し続けることが、開発を止めないレビュー文化を育てる近道です。
おまけ:CodeRabbitの活用
CodeRabbitはAIコードレビューサービスで、GitHubやGitLabと連携してPRに対して自動的にレビューを実行します。開発者はCodeRabbitからの指摘を確認し、修正を行うことで、コードの品質を向上できます。最近リリースされたCodeRabbit for VSCodeを利用することで、ローカルでのレビューも「無料で」可能になりました。
ぜひ、CodeRabbitを活用して、コードレビューの効率化と品質向上を図ってください。
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