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スケールするレビュー文化の作り方:その1「組織に適したレビュー運用」

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コードレビューに正解はありません。開発人数が一人のときと、数十人のときでは求められる運用がまったく異なります。また、外部委託が多い開発体制と、完全内製の場合でも異なるでしょう。他にも、スタートアップで自社サービスと、SIerで顧客向け開発を行う場合でも異なります。

今回は特に組織にフォーカスして、スケールするレビュー文化を作るための要件を解説します。このときの肝になるのが、「規約」と「責務」の2つになります。

レビューが停滞する原因と背景

開発人数が増えると、レビューの流れは遅くなります。特定の人に依頼が集中し、その人が手を離せないだけで開発プロセス全体が止まってしまうからです。また、基準も人ごとに異なり、同じ論点が繰り返される場面も少なくありません。

外部委託が多い体制では、知識や背景の差がやり取りを長引かせます。逆に内製中心の体制では暗黙の了解(暗黙知)が多く、新しく加わった人には基準が見えにくい状態になります。こうした状況が重なると、レビューは品質を高めたり知識共有を行う場ではなくなり、ただの形式的な手続きに変わってしまいます。

少人数で回っていたやり方をそのまま広げると、現状にそぐわない歪みが生まれます。属人化した知識や更新されないルールが積み重なり、やがてレビューは本来の役割を果たせなくなるでしょう。この背景として、組織や開発体制の変化に合わせた仕組みの見直しが行われていないという問題があります。

規約(ガイドライン)の設計

レビューを組織で機能させるには、まず共通の規約(ガイドライン)が必要です。規約は、レビューが何を目的にしているのかを明示する役割を持ちます。この中では品質の担保や知識共有について含む一方、開発者の評価や人事的な査定は対象外とします。目的とそれ以外を切り分けておくことで、余計な摩擦を避けられます。

PRを受け入れる・拒否する基準も、規約として定めておきます。例えば「テストコードが付いていない場合は承認しない」といった基準があると、判断を人に依存させずに済みます。逆に「命名に少し違和感がある」といった軽微な指摘や人によって判断が異なるものは、修正を強制せず提案として扱う方が適切でしょう。この線引きを明文化しておくと、レビューする側とされる側の認識がそろいます。

また、技術的・非技術的な観点を分けることも有効です。セキュリティやパフォーマンスのように明確な基準で評価できるものと、可読性や表現の工夫といった裁量が大きいものを区別して扱います。両者を混ぜてしまうと、レビューの議論が長引きやすくなります。

なお、規約には具体例と反例を添えるとさらに実用性が高まります。これまでのレビュー履歴の中から「この範囲の変更はApproveできる」「この状態では再修正を依頼する」といった例を示せば、新しく加わったメンバーも迷いません。レビュー文化をスケールさせるには、規約を単なるルール集ではなく、現場がすぐ参照できる実用書として設計するのが理想です。

まとめると、規約の設計では以下の点を押さえるといいでしょう。

  • 目的とそれ以外を分離
  • 受け入れ基準と拒否基準の明確化
  • 技術的観点と非技術的観点の区別
  • 具体例と反例の活用

責務の設計と所有権

レビューを組織的に運用する際には、役割と責務を明確化が欠かせません。作成者(Author)、レビュアー(Reviewer)、管理者(Maintainer)という三つの立場を整理するだけでも、流れが明確になります。各担当者の役割は以下の通りです。

  • 作成者
    変更内容を説明する責任
  • レビュアー
    品質を確認し改善点を提案
  • 管理者
    最終的な承認とマージを行い、リリースの品質を担保

この分担があいまいだと、誰がどこまで責任を持つのか分からなくなり、レビューが滞ります。特に新人や外部委託メンバーが多い場合は、レビュアーが指導役を兼ねる場合があります。しかし、レビューの場で育成まで抱え込むと負荷が偏ったり、コミュニケーションが多くなるため、レビューとメンタリングの役割と場所を分ける設計が有効です。

また、所有権の考え方も重要です。コードの責任範囲を明確にしておくことで、誰がレビューを担当するのかが自動的に決まります。GitHubのCODEOWNERSのように所有権をファイル単位で割り当てれば、依頼の偏りを減らせます。ただし、専任とするのは属人化につながる恐れがあるので注意しましょう。各境界領域は複数人の共有とし、代替のレビュアーを登録しておくことで、特定の人が不在でもレビューを回せるようにします。

まとめると、責務と所有権の設計では以下の点を押さえてください。

  • 担当者、レビュアー、管理者の役割を明示
  • レビューとメンタリングの分離
  • 所有範囲を定義し、自動でレビュアーを割り当てる仕組みを導入
  • 共同所有や代替レビュアーで、不在時のリスクを回避

レビュー深度と優先順位の決め方

すべてのレビューに同じだけの時間をかけていては、開発がすぐに停滞します。リスクの大きさに応じて、レビューの深さを変えるのは大事です。データモデルやセキュリティの変更は影響範囲が広く、サービス全体に波及する可能性があります。こうした部分は複数人で確認し、仕様や設計の観点まで掘り下げるべきです。

一方で、ログ出力やコメントの修正といった軽微な変更まで厳密に扱うと、時間ばかりがかかってしまいます。自動チェックやフォーマッタに任せ、人によるレビューは必要最低限の確認にとどめる方が効率的です。レビューの深度を調整するためには、変更の種類ごとに優先度を明示しておくと効果があります。

レビューはすべてを一律に見る必要はなく、システムへの影響度に応じて力点を変えるべきです。そうした意味においても、チームであらかじめ基準を共有しておきましょう。そうすれば指摘の重み付けがそろい、レビューのやり取りは無駄なく進みます。

実務の共通基盤と文書化・ロールアウト

レビューを文化として根づかせるには、日常的に迷わず使える仕組みを整えることが重要です。特に次の3つが肝になります。

  1. チェックリストと模範事例
  2. 文書化と共有
  3. 導入とロールアウト

チェックリストと模範事例

チェックリストを用意して、設計やテスト、セキュリティや可読性など、レビューするポイントを明確にしましょう。さらに、過去の模範PRを例示し、新しく加わったメンバーが参照できるようにします。これは、新しくレビュアーになったメンバーにも役立つでしょう。

チェックリストは、レビュー粒度を揃えるのにも役立ちます。さらに欲を言えば「ここは指摘しないで良い」と示す逆チェックリストがあると、過剰な指摘を抑えて本質的な議論に集中できるようになるでしょう。

文書化と共有

仕組みを作っても、共有されなければ形骸化します。チェックリストや模範PRは誰もがアクセスできる場所にまとめ、更新履歴を残しておきましょう。変化の理由が分かることで納得感が生まれ、メンバーの参加意識も高まります。FAQや反例集を加えると、特に新しく加わった人にとって助けになります。

これらはドキュメントとして一度まとめたら終わりではなく、日常的に参照・更新できる必要があります。例えば、WikiやNotionのようなツールを使い、誰でも検索しやすく、更新しやすい形で整備すると良いでしょう。

導入とロールアウト

整備した基盤は、いきなり全体に展開せず小さなチームで試すのが現実的です。フィードバックを得ながら改定し、徐々に広げていく方が定着しやすいでしょう。その際にはトレーニングや振り返りを行い、実際に使われているかを確かめます。

使いづらい、使われていないルールがあれば、積極的に見直しましょう。レビューは組織によって運用方法が異なるため、各チームの実情に合わせた調整が必要です。

まとめ

レビュー文化をスケールさせるには、規約と責務の明確化が欠かせません。役割を整理し、所有権を定義し、チェックリストや模範PRを基盤として整えることで、誰が参加しても同じ水準でレビューを進められるようになります。

ただし、仕組みを作って終わりにせず、文書化して共有し、段階的に広げながら運用することが大切です。組織や体制は変化していくため、レビュー規約も常に更新されるべきものです。定着と改定を繰り返す姿勢こそが、文化を持続させる力になります。

続きはスケールするレビュー文化の作り方:その2「開発速度を落とさないレビュー運用とワークフロー」

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