Palette3による多色印刷(1) 〜概略〜
Mosaic社「Palette3 Pro」による多色印刷の実際を説明する前に、概略と基本構造などについて説明しておきます。
1.Palette3 Proの基本と特徴
Mosaic社のPalette3 Proは、汎用の多色印刷アダプタです。Prusa社のMMU2Sのように特定プリンター用のオプションではなく、多くのFDMプリンターに対応しています。
その主な特徴は以下の通りです。
- プリント順に合わせて各色のフィラメントを切り貼りし、1本のフィラメントを作成して
プリンターに送り出す - 切り貼りする際の各色フィラメントの量は、Gコードから消費量を予測して算出する
さらに細かい点では、
- 予測誤差が累積して破綻しないよう、情報のフィードバックループを形成して都度修正している
- 個々の予測誤算に対しては、マージンをもたせている
- 色替えの際は上記のマージン量を含めて廃棄するため、パージタワーはMMU2Sより多くなる
その他に、
- プリンターとUSBで接続、パソコンとはWiFiもしくはLANポート経由で接続
- Prusa MK3Sとの相性はすこぶるいい
- 初代Paletteから3世代目
- Palette3は4色、Palette3 Proは8色
などがあります。
製作例(よくよく見ると色移りなどの粗が気になります。対処法などは一連の記事の中で紹介します)
2.Palette3 Proの構造
以下の写真をもとにPalette3 Proの構造について説明します。
Mosaic社サイトよりPalette3 Pro画像を引用させていただき説明を付加しました
入力系(Ingoing)
- フィラメント選択器
- 入力ギア
表裏に配置されたこれらの装置で、8色のうち1色を選択して入力します。色替えの際には入力ギアが反転して入口付近までフィラメントを戻し、新しいフィラメントを選択して送り出します。
切断と融着
1層あたりに必要な1色分のフィラメントを送り出したら「フィラメントカッター」で切断し、別の色のフィラメントを「フィラメント融着器」で融着させます。この中には、ヒーターとファンが組み込まれており、融着させたら冷却して剥がれないようにしています。融着の際の、
- 温度
- 圧力
- 冷却時間
がパラメータ化されており、フィラメント間で個別に設定できるようになっています。
出力系(Outgoing)
- 出力ギア
- バッファ
- ロータリーエンコーダー
作成したフィラメントを出力ギアで送り出します。通常動作ではこのギアは反転しません。順方向のみです。プリンター側の消費速度とPalette3側の送り出しの速度差を吸収するのがバッファです。わずかな空間にしか見えませんが、一般的なプリンタのフィラメントの消費速度では十分だと思います。爆速を売りにしたマシンだと間に合わないかもしれません。
フィラメント出口付近のロータリーエンコーダーで、実際のフィラメント消費量を計測しています。Gコードから算出した量通りに消費しているか判断し、予測値と異なれば生成側にフィードバックして増減させます。
正確に消費量計測を行う必要がありますので、プリンターのフィラメント挿入口には付属のチューブクリップを設置し、Palatte3の出口からプリンターまでガイドチュープを経由してフィラメントを導いています。
その他
メンテナンス用に透明アクリルカバーで覆われている
筐体と同じ黒のパネルをはずすと、冒頭の写真のようにフィラメントの経路や融着の過程が見られるようになっています。透明のアクリルカバーで覆われていますが、これはいくつかに分割されており、メンテナンス用に簡単に取り外しできるようになっています。
フィラメント切断時にカスが出たり、ごくまれに融着結果が太くなって途中の経路で詰まることもありますので、そのときはアクリル板を外して、原因を取り除きます。
技適取得済みのWiFi
確かめずに早期発注してしまいましたが、納品されて簡易マニュアルに技適マークが着いていたのを確認してホッとしました。3Dプリンター系では日本市場を二の次にしていて、技適を積極的に取らないメーカー[1]もありますので心配でした。なお、WiFiの他にLANポートも実装されています。
カメラ接続可能なUSB
ホスト側のUSBポートは2個あります。1個はプリンター制御に使いますが、もう1個はUSBカメラ用です。次回以降説明する専用WEBアプリの「Canvas」で、Palette3に接続したUSBカメラで映像を確認することが可能です。
3.動作概要
2種類の動作モード
Palette3の動作には以下の2つのモードがあります。
- コネクトモード・・USB経由でプリンターを制御
- アクセサリモード・・Palette3とプリンターは独立に動作
今後の記事ではコネクトモードを主に説明しますが、一部アクセサリモードの説明も行う予定です。USB経由で制御可能なプリンターならコネクトモードを使うことになろうかと思いますが、そうでないマシンでもアクセサリモードで使うことができます。
スライスおよびGコードの転送方法
以下の2つの方法があります。
CanvasはブラウザベースのスライサーおよびPalette3制御アプリです。Mosaic社のサイトに登録しログインすると使えます。各パーツの色指定やパージ量の指定などできます。
一方P2PPはMosaic社ではなくコミュニティ製作のPrusaSlicer用後処理アプリです。スライスにPrusaSlicerを使えるので、筆者はもっぱらP2PPを使用しています。
両者とも、WiFiなどで接続したPalette3に生成したGコードを転送できます。従来方法のUSBメモリ経由でも可能です。
使いこなせば難しいものではないですが、それまでが大変でしたので、それぞれ独立した記事として説明します。
操作手順の概略
詳しくは今後の記事で紹介しますが、操作手順の概略をここで説明します。
(1) CanvasもしくはPrusaSlicerを初期設定(初回のみ)
Canvas内で使用するプリンターを指定します。主要プリンターのプリセットが用意されていますのでPrusaの場合はマシンを選択するだけです。
一方P2PPを使用する場合は、インストールや初期Gコードの設定など初期設定の手順は若干複雑です。
(2) スライス(CanvasもしくはPrusaSlicer)
- 色ごとに分割されたSTLを読み込む
- 色やパージ量などを指定
- スライスしGコード含む専用コードをPalette3に送信
いままでの記事で紹介した手順と概略は同じです。とは言え特別な手順やCanvasとPrusaSlicerの違いもありますので、今後の記事で詳しく説明します。
(3) Palette3を操作してプリント開始
- ファイルを選択して実行
- 指示にしたがってフィラメントをPalette3に挿入
- 出力されたフィラメントをプリンターのエクストルーダーに挿入
- フィラメントの初期排出を確認してプリント開始
Palette3とプリンターを操作してプリントを開始したら、後は見ているだけです。色替え時のフィラメント切断と融着の動作は、最初のうちは感動モノです。
4.今後の記事の紹介
- Canvas編
- P2PP編
- まとめ
- Prusa MINIでの試用例
などがあります。先行した記事に記載した内容は、後続の記事では省略しているので、順番に読むことをおすすめします。
-
CoreXYで多色印刷オプションも用意している「Bambu Lab社 X1」は、技適取得していないため日本には出荷していない(執筆時現在)。KickStarterで支援募集していた際、技適のことを問い合わせたのだが「善処する」的な回答以降ナシのつぶてだ(執筆時現在)。 ↩︎
Discussion