医療AIを使う前に知るべき大前提:“リージョン”と個人情報保護の基本ガイド
📚 この連載の記事一覧
- 医療AIを使う前に知るべき大前提:“リージョン”と個人情報保護の基本ガイド
- 医療AIを安全に導入!Azure OpenAIで始めるカルテ作成と音声認識のやさしい設定ガイド
- はじめての Google Cloud:AIを日本国内だけで安全に使うためのやさしい設定ガイド
- 完全ローカル運用で安心!WhisperとLM Studioを使った音声認識&AI活用入門
この記事は連載の序章です。
第2回:Azure で GPT を使うには
第3回:Vertex AI(Google Cloud)で AI を使うには
第4回:ローカルで完結する AI 活用法(Whisper+LM Studio)
1. まずは自己紹介
こんにちは。
診療の合間に趣味もかねて、カルテメイトというアプリを開発している開業医です。
人の雇用がしにくい社会環境、各種経費の増加、診療報酬の削減などに対応するためにも
AIの活用は欠かせないと思います。
ですが、医療現場でAIを活用するために、
医療情報を、個人情報を情報に配慮しながら使用するにはどうすればよいのか。
私自身開発しながら悩むところがありました。
-
「ChatGPTを診療記録に使ってみたい」
-
「でも個人情報とか、規制が怖い…」
-
「何が危なくて、どうすれば安全なのかよくわからない」
そんなモヤモヤに悩む開業医や勤務医の方へ向けて、
できるだけ噛み砕いて、分かりやすく書いていく記事です。
会話からカルテを作成する弊アプリ「カルテメイト」の設定も交えて、解説していきます。
2. 日本の医療情報と法制度
AIを医療で使ううえで、まず前提として押さえておきたいのが、
日本における医療情報の扱いです。カルテなどの医療データは、
個人情報のなかでも特に慎重な取り扱いが求められる「要配慮個人情報」に該当します。
📜 医療情報に関係する主な法制度
-
個人情報保護法
患者の診療記録、疾患名、服薬情報などは「要配慮個人情報」に分類され、
第三者提供(とくに国外移転)には本人の同意が必要です。 -
厚生労働省『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン』
医療機関は、医療情報を「日本国内に設置されたサーバー」で処理・保存することが原則とされています。
例外的に国外でも可とする条件はありますが、それには十分な説明責任と安全性の確保が求められます。 -
電子カルテ指針・クラウド指針
医療クラウドの利用についても、データの所在・バックアップの有無・利用者のアクセス権限管理など、
具体的な技術的要件が示されています。
これらのルールに照らすと、「ChatGPT」などの海外クラウド上でカルテを扱うことは、
原則としてガイドライン違反のリスクがあります。
とくに「データがどの国に送られるか不明」「そのままAIの学習に使われる可能性がある」といったサービスは注意が必要です。
このような背景をふまえ、「リージョン」という概念が重要になります。
3. なんで“リージョン”がそんなに大事なの?
🧳 ChatGPTにカルテを送る=海外旅行させるようなもの
例えば:
-
ChatGPTに「◯◯さん(58歳男性、神戸在住)」と入力すると…
-
その内容は 米国のデータセンターへ送られる
-
しかも、使い方次第では 将来のAIモデルの学習にも使われる可能性
これは、患者さんに無断で診療記録を海外へ持ち出し、
さらに「使って勉強してね」と言って渡しているのと同じです。
⚠️ それ、違法じゃないの?
日本では以下のルールがあります:
-
個人情報保護法:要配慮個人情報(カルテ)は海外移転するなら、
明示的な同意や説明が必須 -
厚労省の医療情報ガイドライン:「国内法の適用を受ける機器」で保存・処理するのが原則
つまり、「海外サーバー+学習に使われる可能性あり」は、
ガイドライン違反の可能性が高いとなります。
そこで登場するのが、AzureやGemini(Vertex AI 経由)です。
4. ChatGPTやGeminiと、Azure・Vertex AIって何が違うの?
❌ ChatGPT、Gemini、Claude … 手軽だけど“海外にデータ持ち出し”
サービス名 | アクセス方法 | データの行き先 | 学習に使われる? |
---|---|---|---|
ChatGPT(無料・Pro) | chat.openai.com | アメリカのサーバー | ✅ 使い方によっては学習に使われる |
Gemini(Vertex AI 経由) | gemini.google.com | アメリカ中心のクラウド | ✅ 規約上は学習に利用される場合あり |
Claude | claude.ai | 米Anthropic社サーバー | ✅ 利用データの保持あり得る |
これらは個人ユーザー向けのサービスです。
ブラウザから使える手軽さが魅力ですが、
海外にデータが送られ、どこでどう扱われるかがブラックボックスになりがちです。
❗つまり、患者の名前やカルテ内容を直接入れるのは基本NG。
「ちょっと使ってみた」が、ガイドライン違反になるリスクを孕んでいます。
✅ Azure や Vertex AI(Google CloudのAIサービス)… 企業・業務向けの“専用窓口”
サービス名 | 目的 | データ処理先 | 学習利用 | リージョン選択 |
---|---|---|---|---|
Azure OpenAI | 医療・金融など業務用途 | 日本リージョン(指定可能) | ❌ オフにできる | ✅ Tokyo/Osakaなど選択可 |
Vertex AI(Google CloudのAIサービス) | 業務向けAI(Gemini APIなど) | 東京などアジア圏 | ❌ 任意設定 | ✅ 東京など明示的に指定可 |
これらは企業や専門用途向けのAPIです。
ポイントは「どの国のサーバーで処理するかを指定できる」ことと、
「データを学習に使わないよう設定できる」ことです。
5. 結論、どうすれば安全にAIを使えるの?
✅ “日本リージョンに限定された業務用API”を使う
-
Azure OpenAI(Microsoft)
→ GPT-3.5やGPT-4を、日本リージョンで安全に使える -
Vertex AI(Google CloudのAIサービス)
→ Vertex AI 経由で Gemini モデルを、東京リージョンで使用可能
(*使用できないモデルもあり、別記事で後述)
✅ WhisperやLM Studioなどの“ローカル運用”も選択肢
-
完全に院内で完結 → データは一切ネットに出ない
-
文字起こし:Whisperをローカルで実行
-
LLM処理:LM Studio + Qwen3シリーズなどのローカルLLM
6. この連載で紹介するのは…
回 | タイトル | 内容 |
---|---|---|
第1回(本記事) | 医療AIを使う前に知るべき大前提:“リージョン”と個人情報保護の基本ガイド | 医療現場で配慮すべきガイドラインを法令、注意点について |
第2回 | 医療AIを安全に導入!Azure OpenAIで始めるカルテ作成と音声認識のやさしい設定ガイド | Azureの設定ガイド |
第3回 | Google Cloudで始める医療AI:日本リージョン対応のGemini活用&音声認識ガイド | Google Cloudの設定ガイド |
第4回 | 完全ローカル運用で安心!WhisperとLM Studioを使った音声認識&AI活用入門 | 院内だけで文字起こしとLLMを動かす方法の概論 |
7. 最後に
「ChatGPTすごいから使ってみた!」
でもその裏で、患者さんの情報が海外に送られ、学習されていたら…?
この連載では、「そんなつもりじゃなかった」では済まない話を、
できるだけやさしく、手順ベースで解説して、対応策を解説しています。
少しでも皆さんのお役に立てれば嬉しいです。
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