[2025年10月3日] Sora2は多分何かを壊してしまった (週刊AI)
こんにちは、Kaiです。
私たちのチームで開発した「CareNet Academia」について、AWS様のブログでも事例として取り上げて頂きました。Bedrockによるクロスリージョン推論並列化などについてご紹介頂いておりますので、よろしければぜひご一読ください。
さて、しばらく嵐の前の凪が続いたあと、大きいリリースが立て続けに来ましたね。Claude Sonnet 4.5、Claude Codeのメジャーアップデート、ChatGPTのショッピング機能にSora2と、盛沢山な週になりました。それぞれざっくり見ていきましょう。
Claude Sonnet 4.5については、一応ベンチ上最高性能をうたっていますが、それほど差を感じていませんし、Xを眺めていても似たような感覚だと思います。というよりも、もはやコーディングエージェントの性能よりも、ドキュメントやMCPをうまく整備出来ているかどうかや、使い方のノウハウの方が大きい差を生んでいるのではないかと感じます。Claude Codeのメジャーバージョンアップも似たような印象ですね。確かに順当な進化ではあるものの、驚きというほどではありませんでした。
次にChatGPT経由のショッピング。これはECの構造に大きい変化をもたらしそうです。というのも、「モールとしての集客力」の価値が低下するためです。特に、楽天のようにテナント型の場合、モールからの集客力とAIサーチからの集客力が競合する可能性が高いです。「高いテナント料を払うよりも、AIフレンドリーなAPIを用意した方がいいのでは」という未来が来ることが考えられます。一方、Amazonはロジスティクスに強みを持っているため、簡単には代替できないでしょう。注文ができても、物流に乗せられなければ意味がありません。未来のECサービスは、フロントを持たず商品情報をMCPやAPIで提供し、それらをAIが収集して提案する形になるのかもしれません。
最後にSora2です。これはもう敢えて説明するまでもありませんね。OpenAI謹製の、Veo3と比較してすら圧倒的な性能の動画生成サービスです。特徴的なのは、TikTokのように生成した動画をザッピングできるプラットフォームとして登場したことかと思います。
Sora2については著作権やオプトアウト契約など様々な議論が巻き起こっていますが、ここではその是非については触れません。表題に書いた、「何かを壊してしまった」という感覚についてだけ書いてみたいと思います。
私が不可逆かつ決定的な変化だと感じたのは、「AIが単独で生成したコンテンツが、人間の注意を10秒惹きつけられるようになった」 ということです。TikTokやYoutubeショートなどが、隙間時間にインスタントな快楽を得るためのツールになっているという批判は各所でされていましたが、この快楽は 誰か他の人が工夫して作る 必要がありました。つまり、人間のワークロードが、インスタントな快楽の上限値であり、「個人の興味 x 人間のワークロードの限界」が、快楽の総量規制をもたらしていました。
一方で、Sora2のプラットフォームでは、人間のワークロードの限界がありません。あるのは計算力の限界だけで、これは日々どんどん拡大しています。そして、生成されたAIショート動画は、生成プロンプトというAIが解析可能な形で蓄積 されています。あなたがどんな動画を生成したか、どんな動画に反応したかは、全て言語化されて解析可能になるわけです。
この結果として、遠くない未来に人間によるプロンプト入力も不要になるでしょう。「あなたがインスタント快楽を得られる、あなた専用のショート動画が永遠に、無限に生成され続ける」 ということが既に技術的には可能になってしまいました。
可処分時間の奪い合い、という表現が近年よく用いられています。人間の注意には限界があり、それを直接または間接にマネタイズするために、短時間あたりにより大きい快楽を与えるための努力が続けられてきました。しかしながら、Sora2が示唆する未来では、快楽の源泉はもはや「作る」ではなく、「生成する」ですらなく、空気のように「そこにある」ものになりうるでしょう。
私が「何かを壊してしまった」と感じたのはこの点です。人類がこの潮流に抗えるのか、それとも通勤時間に全人類がSoraアプリを開いて「あなただけに生成されたショート動画(広告を含む)」を見続ける未来が訪れるのか、興味深いところです。
では今回の冒頭ポエムはここまでにして、今週のトピックスです。
注意事項
- 直近収集したAIおよびWeb系の記事やポストが中心になります
- 私のアンテナに引っかかった順なので、多少古い日付のものを紹介する場合があります
- 業務状況次第でお休みしたり、掲載タイミングが変わったりします
AI新着モデル、サービス、アップデート
OpenAI: Sora 2
もう詳しく述べる必要はないでしょう。SNSに成果物があふれかえっています。
OpenAI: Agentic Commerce Protocol
めちゃくちゃ簡単に言うと、ChatGPT経由で買い物が可能に。所感は冒頭に書いた通りです。
Anthropic: Claude Sonnet 4.5
いつものぬこぬこさんがよくまとまっているのでこちらに集約。もはやベンチでは測れない領域なので、使用感もいくつか。
(使用感)Anthropic: Claude Code 2.0
メジャーバージョンアップになります。詳細は以下ポストがよくまとまっているのでご紹介。
Anthropic: Claude in Slack
Slackに組み込んで使えるように。
その他AI系話題
AWSナレッジMCPサーバ公開
これはいいですね、グラウンディングさせることでかなり精度が上がりそう。
コーディングエージェントのauto-compactの仕組みを読み解く - タスク引継ぎの再現性を高める方法
これ、全てのAIコード生成で意識すべきと思っています。自動圧縮前に申し送りドキュメントを出力させて、セッションをリセットする。それだけでかなり違います。
AIのコード全部チェックしてる?difitで『目が滑る』問題を解決
AI生成したコードのレビュー負荷が上がっているのでいいかも。単純なdiffではなく、コメントを付けてそのままAIに渡せるようになってるのがポイントですね。
そのAI生成コード、全部レビューしますか?全部信じますか?
こちらもAI生成コードのレビュー話題。ノウハウというより、問題提起と考え方の整理といったところ。
恐らく世界初、悪意あるMCPサーバ
postmark-mcpというかなり使われていたMCPサーバに、メールを盗む(BCCで開発者に自動で送る)悪意あるコードが仕込まれていたとのこと。MCPは広がるスピードに比してガードレールはないに等しいので、開発者側での防衛も必要。
LLM のアテンションと外挿
LLMにおいて、CoTや外挿が構造的になぜ成立しうるかを解説した内容。昔は「次の単語を推測するだけ」と揶揄されていましたが、こういった背景を理解すると、きちんと「思考」のようなものが生まれていることが分かってきます。
AI Readyなナレッジマネジメント〜議事録の利活用を例に〜
これめちゃくちゃ重要だと思っていて、未来を考えるなら全ての文書をAIフレンドリーなテキストで残すべきだと感じます。
5分でわかるMastraの魅力
Mastra、一瞬流行ったあと他のツールに押されている印象がありますが、結局手触りの問題に帰着するのかも。
WEB開発系話題
Why React!?? Next.jsそしてReactを改めてイチから選ぶ
私たちのチームでも、色々な理由からメインをVueからReactに変えました。迷っている方はご参考に。
Web 標準動向 2025年9月版
すぐに何がどうこう、ではないにせよ、最新情報のキャッチアップとして。
Amazon ECSマネージドインスタンス発表
素EC2、Fargateに加えて、EC2をマネージド運用する選択肢が追加。使い分けは頭のどこかで意識しておきたいところ。詳細な解説記事も出ていましたので紹介します。
(解説記事)その他一般テック話題
「技術負債にならない・間違えない」 権限管理の設計と実装
とても大事なポイントです。権限管理が必要なシステムは何度か手がけましたが、マトリックス状になりがちなんですよね。そしてメンテナンスが難しくなるという。概念の分割と実際のコード例について紹介されており実際的です。
全プロセスが一秒止まる不具合、原因はLinuxカーネルにあり?
こういう、「謎の不具合」を検証していくプロセス、探偵みたいで好きなんですよね。
おうちではじめる セキュアなハニーポットの戦略
一度やってみる、というのは大切なこと。自前でサーバ立てたことがある人なら、公開した瞬間攻撃されて治安の悪さを感じたはず。
We are hiring!
私の所属するAI技術開発室では、AIを応用した医療系サービスを手掛けています。先日は以下の「CareNet Academia」をリリースしました。
積極採用中ですので、こういった医療xAIの領域に興味のある方は、是非以下からご応募ください!
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