第二回zenncafeにお呼ばれされたので、お話ししてきました【生成記事に対して思うこと】
はじめに
本日開催されました「Zenncafe#2日比谷 - 生成AIで変わる仕事・知見の伝え方」にて、パネルディスカッションのパネラーとして登壇してきました。
本当に多くの方が話を聞いてくれました。出席してくださった皆様ありがとうございます。
(一時期は120人以上登録されていたことも。来れなくなった方が、わざわざキャンセルをして枠を開けてくださったようです。結果として参加できるようになった方も多いと思います。ありがとうございます)
パネルディスカッションに参加して思ったこと
本日のパネルディスカッションでは、主に下記のテーマでお話しさせていただきました。
- zennに挙げられる記事のトレンドの変化
- 開発業務への生成AI導入について
- 今後のtechブログはどうなっていくか
主に、一番最後がzennチームとして議論をして欲しい内容なのかなと思っており、今日の日までに色々考えてからお話しさせていただきました。
zennチームとしても、生成AIにはいい面もあれば、脅威となる面もあると考えており、どう対応していくべきか検討しているようです。
コミュニティを巻き込んで、一緒に考えていこうとしているのは面白いなと思いました。
色々、パネルディスカッションでお話しさせていただいたり、懇親会で色々な方とお話しさせていただいた内容を踏まえ、改めて個人的な意見をつらつら書いていこうかなと思います。
(以下独り言です)
生成AIで執筆された記事について思うこと
執筆者の立場では、生成AIで執筆された記事に対して、あまり良いイメージはないです。
ただし、これは生成AIを「利用しているから」ではなく、「記事の質が低いから」 です。
ここでいう「質」とは、「文章の読みやすさ」とか「誤字脱字がないこと」や「正しい日本語を利用している」という表面的なものではなく、「著者のこだわり」 や 「著者だけの知見」、「著者の思いやり」 といった熱量を指しています。
例えばGoogle Cloudへのデプロイ方法を紹介する記事だとしたら、AIで書かせると、全ての情報が同じ濃度で(箇条書きとかで)記事になっていると思います。
しかし、著者がこだわりを持って記事を書いていれば、「この操作の部分、ボタンが探しにくくて詰まりそうだな」とか「この部分で似たボタンが複数あるから注意してほしいな」みたいな時に、スクリーンショットを貼ってあげたりとか、より強調して書いてあげるといった「思いやり」が記事の中に出てくるはずです。
将来的には、熱量込めて記事を書くAIも出てくるとか、ワークフローをちゃんと組めば、思いやりのある記事も書けるとか、色々反論はあると思いますが、そんなことは百も承知で書いており、
現時点で、熱量込めて執筆できるAIやワークフローはほとんど出ておらず、あったとしても、世の中の多数の生成記事が粗造な記事であることが全てだと思っています。
(結局のところ、本気でワークフローを改善し、適切なAIモデルを選定し、価値のあるAI生成記事を書ける人は、「AIを使わなくても質の高い記事を書ける人」 であり、世の中の「AI使って楽に記事を書こうとしている人たち」の大部分は、そういう人ではないので、世の中には質の低い記事がこれからも蔓延するのだろうなと感じています)
これまではどうだったか
では、生成AIが出る前は、全ての記事が高品質だったか、というとそうではありませんでした。
普通に、間違った情報が書かれている記事であったり、ソースコードしか乗っておらず参考にできない記事もありました。
とはいえ、以前は記事を書くのに一定のハードルがあったことから、ある程度の質が担保されていました。
また、記事を書くモチベーションとして、「備忘録」として残すという考えがあり(私もこの考えです)、その観点で言えば、解説がほとんどなくソースコードだけの記事だったとしても、著者個人としての意図を感じられるので、それはそれで良いのかなと思っています。
生成AIの出現により
しかしながら、生成AIを利用して記事を書くことができるようになれば、記事を書くための時間(コスト)のハードルが大幅に下がるため、誤った内容や、内容の薄い記事が量産されるようになってしまいました。
読み手の立場からすると、ファクトチェックもされているか分からない、質もそんなに高くない記事に時間をかけることは損失なので、やめてほしいなという感覚です。
とはいえ、記事を執筆するモチベーションとして、私のように備忘録として残すというモチベーションだけでなく、「自身のキャリアアップの材料のため」や「自身のサービス、会社の認知度を上げるため」、「自身のコミュニティに誘導するため」といった様々な理由があると思います。
その場合、各々個人が自分の利益を最大化しようとしたら、zennには非常に多くの質の低い生成記事が溢れかえるのだろうなと思いますし、やめるように強制することは(一読者の立場では)できないのだろうなと思います。
zenn様へのお願い
パネルディスカッションの最後でもお伝えしましたが、ぜひ勇気を持って、質の低い記事にはbadをつけられる機能を導入していただきたいです。
意図は2点あります。
1. 質の低い記事を書く著者の記事かどうかをあらかじめ把握したい。
例えば、一度badをつけた記事の著者の新しい記事を読む際に、ページトップに赤字で
「本記事は、過去にbadをつけた記事の著者が書いた記事です」
と注意書きを入れてくれれば、その記事を読む際に「生成記事かもしれないから少し注意して読もう」とか、そもそも「時間がないからこの記事はスキップしよう」というのを記事読む前に把握できます。
生成AIの進化は非常に早く、キャッチアップするにも時間は有限です。
質の高い記事にアクセスできる確率を上げる施策はぜひ入れていただきたいです。
2. 質の低い記事がトレンドに上がることや初学者が見てしまうのを防止してほしい。
一定数以上の人が、特定の記事に「質が低い」判定した記事は、「トレンドにあげない」という対処をしたり、記事のトップに「本記事は生成AIで執筆された可能性があります」などの注意書きを入れていただけると、初学者の方が注意して記事を読めるのかなと思います。
(私個人としても、注意書きされている記事を避けることができるので時短になります)
論文などと異なり、techブログは「あまり技術に詳しくない人」も読むPFだと思っています。
なのでユーザ側の自治により、質の低い記事が淘汰されるような工夫があると嬉しいなと思います。
今後どういう記事に価値が生まれるのか
基本的にAIが書けるような記事や、AIが解決できる記事には、備忘録以上の価値は無くなっていくんだろうなと思います。
例えば、「エラー解決記事」などは、これまであまりバズらないけど必ず誰かの役にたつとても有用な記事として扱われていたと思います。
しかし、今現在、コーディングで意図不明のエラーが発生した時に記事を見に行きますでしょうか?
おそらくは、生成AIに投げて解決してもらうと思います。
それで無理だったら、他のプロバイダの生成AIに投げて解決してもらおうとして、それでもダメだったらエラー文で検索する流れが多いです。
この通り、AIが解決できるエラーに関する記事というのは(そもそも検索されないため)、今後かなり価値が低くなっていくのだろうなと思います。
もちろんAIが書ける内容の記事に関しても同様だと思います。
(AIが解決できないエラーに関しての記事にはまだ需要はありますが、モデル性能が向上するにつれて少なくなっていくと思います)
では、どんな記事に価値が生まれるかというと、冒頭の話に戻りますが、「著者の熱意が感じられる記事」 だと思います。
例えば、私の下記の記事は非常にいろいろな方に評価をいただきました。
これは、「ただホットな論文をわかりやすく紹介したから」というわけではなく、私自身の「ここが伝わってほしい」という熱が、読んでくださった方に正しく伝わったからかなと思っています。
(もちろん、トレンドに載った内容だったというのは大きいですが、同じくDeepSeekの解説をしている方はたくさん他にもいらっしゃったわけで。)
上記の記事で私が一番伝えたかったのは下記でした。
絶対に、学習データの量を減らさずに、計算量を徹底的に削減してやろうという著者らの執念を感じるとともに、こういう工夫に積み重ねが、高性能と圧倒的に格安なAPI料金の両立を達成しているのだろうなと感じました。
上記の説明に対して「胸が熱くなった」と表現してくださる方もいらっしゃり、「私の熱量が伝わったのだな」と、とても嬉しく思ったのを覚えています。
他にも、「〜やってみた」系の記事(AI関連)はこれからも評価されると思います。
今までの技術記事の傾向として、「〜やってみた」や「〜作ってみた」系の記事は、初学者が書くような記事だと揶揄されることもあったかと思います。
しかし、生成AIに関しては、毎日のように新しいプロダクトが出てくるので、みんな「初学者」です。
したがって、AIに関しては、「使ってみた。」とか「こういうプロンプトで聞いたら良くなった」とか、「こういう形で業務に使えた」みたいな体験談や知見は、大勢が知りたいと言う段階なので、著者だけが持っている知見や経験談などの「地に足ついた解説」はとても価値があるだろうなと思います。
使ってみないと肌感覚が分からないという状況が増えたので、その感覚を共有してくれる方の記事は非常に重要です。
生成AIは記事執筆に使ってはいけないのか?
私は、生成AIで執筆された記事に良いイメージはありませんが、生成AIを記事に利用することは否定していません。
記事の質を上げるためにAIを使うのは推奨されるべきだと思います。
例えば、誤字脱字の検出に使うことや、(ファクトチェックをすることは前提で)Deep Researchを事前調査に使い、さらっと一次情報を集めてくるとか、(私は言語化が苦手なので)頭の中のモヤモヤを言語化してもらう手伝いをしてもらうような使い方は、私も日常的に実施しています。
また、もっと積極的に生成AIを記事執筆に利用した本もあります。下記です。
LangChainはネットで調べると、古い記法の記事が検索に大量にヒットするため、初学者が混乱してしまうという課題を解決するため、LangChainの初学者むけに「これだけ覚えれば一旦十分!」といった最小限の内容をまとめ、最終的にはDeep Researchの実装を目指す書籍になります。
この本の中では、下記の通り生成AIが出力した文章を使って本を執筆しています。
「一度も生成AIを使って記事を執筆したことがないのに、zenncafeみたいな大舞台で、生成記事に文句ばっか言うのは違うよな」 と思い、登壇の話をいただいてから焦って使い始めたことがきっかけです。
ここで思ったのは(AIが出力した内容を全てチェックするのは大前提として)、こだわりがある部分は別として、本筋に関係ない章(「はじめに」や「まとめ」など)の執筆には、生成AIを利用して省力化すると言う使い方は、現状でもアリだなと感じました。
そしてこだわりのある箇所だけ自分で書いていくことで、より本質的な部分に時間が使えるようになると思いました。
ただ、こだわりがある部分をAIに記載してもらうのは、まだ難しいです。
(というかそれは私の記事ではないですね)
ただ、生成AIを活用しなければ、上記の本は2週間では書けなかったと思います。
(ほぼ全ての章が普段の記事と同じようなボリュームのため)
そう言う意味で、時短ができた恩恵は無視できないですね。(気を抜くと、AI使ってサボるようになりそうで怖いなとも思いました)
最後に
最後に誤解してほしくないので、改めて記載しますが、私は生成AIに記事を「執筆させる」ことに反対しておらず、生成AIを記事執筆に「利用」することは推奨しています。
とにかく、「質」の高い記事が世の中に溢れるようになれば良いことだと思います。質が全てです。
それが、どんな手段で執筆されたものかと言うのは些細な問題です。
その上で、生成記事の投稿者に言いたいのは、「その記事の全責任はあなたにあります」 と言うことです。
生成記事を投稿して、その記事に批判コメントなどがついたとして、それは「生成AIの質が低い」のが悪いのではなく、「あなたが悪い」 のです。
いつどんな時でも、記事を執筆しているのはあなたです。
例え全て生成AIで書いていたとしても、それを世の中に出す決断をした以上、あなたの責任です。
だからこそ、公開ボタンを押す前に「この内容を自分の名刺として差し出せるか」を自問し、胸を張って「はい」と言える記事だけを世に送り出してほしいなと思います。
終わりに
さて、ここまでつらつらと書いてきましたが、まだ言い足りない部分はあって(笑)
例えば、
- そもそも記事を書くと言う行為は、最も深いインプットを誘発するのだからAIに任せるのなんてもったいない!と言う考え
- 誰でも労力なく記事を執筆できるようになるので、キャリアアップのための記事執筆や、ブランディングのための記事執筆などの価値は無くなるだろうなと言う考え
など、話の流れ的に書く場所がなかったので省きました。
(これはパネルディスカッションの時に言及したので良いかなーとも思ったり)
うーん。深夜テンションで調子に乗りすぎたかな。めっちゃ批判来そう。
正直、この記事で生成AIは使ってないけど、自分の名刺にはしたくないな(笑)
最後に、本日のイベントを運営してくださったクラスメソッドの皆様、ありがとうございました!
とても楽しかったです!
Discussion
生成AIを使った技術記事について私の思ってたことをうまく言語化してくれている素晴らしい記事だと思いました!生成AIを技術記事で使うときには「AIに直接聞いたほうがいいじゃん」とツッコまれない記事にすることは最低限考えたほうがいいのかなぁと考えています。
あと、粗雑なAI生成の記事を防ぐためにbad機能を付けると著者のモチベーションが下がっちゃう可能性があるのが問題ですよね…。何回かある閾値以上のbadを食らった著者だけbad数を公開するとか何かしらbadの影響が直接こないような緩衝材の仕組みはあったほうが良いのではないかなとは思いました。
コメントありがとうございます!
私の悪い癖で言葉が強くなってしまったのが問題ですが、フラグ機能だけでも最初はいいかなと思っています。
一度でもフラグをつけた著者の記事のトップに、注意書きが出るだけ。
フラグがついているかどうかは、著者には通知しない。
くらいなら特にデメリットなく実装できると思うので、お願いしたいなーと。
Zenncafeでは単純な良い悪いでない深い考察をお話頂いてありがとうございました!
仕組みの部分について今改めて思ったのは、生成AI判定があった場合、いいね機能の無効化とFeature/For you機能への非表示が丸く収まるんじゃないかなあと思います。どちらも「シカト」するタイプの機能で、生成AIをアフィリエイト目的(いいね稼ぎ)で使うような人々にだけ特に刺さるかなと思います。生成AI判定だけでは防げないタイプに手動で対応できるように、他人には公開されないブロック機能を追加するとより完璧になりそうです
うさぎからアンサーきてて草