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日本数学オリンピック(JMO)2025年予選解答私的解説 その3

2025/01/23に公開

背景

さる2025年1月13日(月,祝)実施された、第35回日本数学オリンピック予選につき、公開された問題を解いてみましたので、解説を挙げています。
今回は最後ということで、その2までで解説した残りの問題について挙げていきます。

参考情報

解説

それでは、最後の「その3」では、問11,12の2問を解説していきます。
なお、解説がどうしても長くなるため、節目で更に章に分割してまとめます。

第11問

  • 問題: JMO星団は、はじめ5つの星O,A,B,C,Dからなっており、それぞれの星には重要度とよばれる値が割り当てられている。Oの重要度は0であり、A,B,C,Dの重要度は1である。また、OからAおよびCへ、AからBおよびDへ、BからOへ、CからBおよびDへ、DからOへ向かう一方向の直行便が開設されており、ほかに直行便はない。
    JMO星団では星の老朽化を防ぐために、次の一連の行動からなる操作を定期的に行うことにした。
    (1) 今ある全ての直行便を廃止し、すべての星を破壊する。
    (2) 今回の操作の(1)で廃止したすべての直行便fに対して、それに対応する星S_fを1つずつ建設する。その後、S_fの重要度として、fが出発する星と到着する星の重要度の和を割り当てる。
    (3) 今回の操作の(1)で廃止した2つの直行便の組(f,f')であって、fが到着する星とf'が出発する星が一致するようなものすべてについて、S_fからS_{f'}に向かう一方向の直行便を開設する。

    このとき、100回目の操作で建設した星の重要度の総和を求めよ。

  • 答え: \frac{2^{170}-2^{68}}{3}

流石ほぼ最終問。問題文を見ただけではさっぱり見当もつきません。
取り敢えず、星・直行便を次々作っていくやり方、その星に割り与えられる重要度、この2つが問題となるわけなので、前者から整理していくことにします。

星・直行便の作り方

ともかくは、問題の通りに作ってみましょう。
初期状態では、

  • 星: O, A, B, C, D の5個
  • 直行便: O\rightarrow A,~O\rightarrow C,~A\rightarrow B,~A\rightarrow D,~C\rightarrow B,~C\rightarrow D,~B\rightarrow O,~D\rightarrow O の8本

となっているわけですが、この直行便で X\rightarrow Y となるものに対し、新たな星を XY という名前で作ってみます。直行便については X\rightarrow Y,~Y\rightarrow Z があれば XY\rightarrow YZ が作られることになります。

  • 1回目で作られた星:
    OA,OC,AB,AD,CB,CD,BO,DO の8個
  • 1回目で作られた直行便:
    OA\rightarrow AB,~OA\rightarrow AD,~OC\rightarrow CB,~OC\rightarrow CD,
    AB\rightarrow BO,~AD\rightarrow DO,~CB\rightarrow BO,~CD\rightarrow DO,
    BO\rightarrow OA,~BO\rightarrow OC,~DO\rightarrow OA,~DO\rightarrow OC の12本

次も行ってみます。今度、XY\rightarrow YZ という直行便に対しては、中間の Y が重複しているので省いて XYZ という名前の星を作ることにします。直行便については WX\rightarrow XY,~XY\rightarrow YZ があれば XYY\rightarrow XYZ が作られるという寸法です。

  • 2回目で作られた星:
    OAB, OAD, OCB, OCD,
    ABO, ADO, CBO, CDO,
    BOA, BOC, DOA, DOC の12個
  • 2回目で作られた直行便:
    OAB\rightarrow ABO,~OAD\rightarrow ADO,~OCB\rightarrow CBO,~OCD\rightarrow CDO,
    ABO\rightarrow BOA,~ABO\rightarrow BOC,~ADO\rightarrow DOA,~ADO\rightarrow DOC,~CBO\rightarrow BOA,~CBO\rightarrow BOC,~CDO\rightarrow DOA,~CDO\rightarrow DOC,
    BOA\rightarrow OAB,~BOA\rightarrow OAD,~BOC\rightarrow OCB,~BOC\rightarrow OCD,~DOA\rightarrow OAB,~DOA\rightarrow OAD,~DOC\rightarrow OCB,~DOC\rightarrow OCD の20本

そして更にその次です。今度は中間の2文字分の重複を省きます。なお、直行便は多くなるので星だけを挙げます。

  • 3回目で作られた星:
    OABO, OADO, OCBO, OCDO,
    ABOA, ABOC, ADOA, ADOC, CBOA, CBOC, CDOA, CDOC
    BOAB, BOAD, BOCB, BOCD, DOAB, DOAD, DOCB, DOCD の20個

…と試しに作ってみてお気付きになったでしょうか?
実は、これら作られる星というのは初期のO~Dの星を初期の直行便で辿る長さnのルートそのものであるということに。ここで、n回目に作られた星の場合、ルートの長さn ( ノード数n+1 ) に対応しています。
例えば3回目に作られた星の例で言うと、初期の星で O\rightarrow A\rightarrow B\rightarrow O という長さ3のルートが存在するのに対応し、OABO という星が作られている、そう言う話になっています。かつありうる全てのルートが作られる星に対応しています。
細かい証明は帰納法でなんとか、という話になるでしょうが、長さnS\rightarrow I_1\rightarrow I_2\rightarrow \cdots\rightarrow I_n というルートと I_1\rightarrow I_2\rightarrow \cdots\rightarrow I_n\rightarrow E という2つのルートをオーバーラップさせると S\rightarrow I_1\rightarrow I_2\rightarrow \cdots\rightarrow I_n\rightarrow E という長さ n+1 のルートができる、それが星が増えていく状況に対応していますので、何回目であっても「全てのルート」に対応する星ができるのです。

ともあれ、初期の星を初期の直行便で辿るルートが、新たに作られていく星に対応することが分かりました。
初期の直行便では、O\rightarrow A~or~C\rightarrow B~or~D\rightarrow O というように、O を基準として長さ 3 でループするような規則性がルートにあります。
なので、100回目としてありうる星に対応する長さ100、ノード数101のルートは、以下の3パターンで整理することができます。

  • O で始まるルート
    (O\rightarrow (A~or~C)\rightarrow (B~or~D)) 33回繰り返し \rightarrow O\rightarrow (A~or~C)
  • A~or~C で始まるルート
    ((A~or~C)\rightarrow (B~or~D)\rightarrow O) 33回繰り返し \rightarrow (A~or~C)\rightarrow (B~or~D)
  • B~or~D で始まるルート
    ((B~or~D)\rightarrow O\rightarrow (A~or~C)) 33回繰り返し \rightarrow (B~or~D)\rightarrow O

プログラミングに覚えのある人には、(O[AC][BD])\{33\}O[AC]([AC][BD]O)\{33\}[AC][BD]([BD]O[AC])\{33\}[BD]O という正規表現の方がしっくり来るかも知れません。
ともあれ、3パターンあるわけですが最後の2ノード分が周期から外れているため、ルート数(=星の数)には違いが現れてきます。これが後々祟ってくることになるのですが…。一旦そこは置いておきましょう。

重要度の計算

続いては星に割り当てられる重要度です。
初期の星だと O が 0、それ以外が 1、1回目の星だと OA 等の O が混じる星は 1、AB 等の混じらない星は 2 です。
これだけを見ると「星の名前に含まれる文字の 0/1 を足せばいいのか」と思えなくもないですが、それほど単純ではありません。次の2回目になると、例えば OAB という星は OAAB の重要度を足した 3 が割り当てられ、単純な和から外れてくるからです。

実は、これは各文字に係数をかけた重み付きの和として考えることができます。
0回目 (1文字) だと係数は 1、1回目(2文字)だと係数は 1,1、2回目(3文字)だと係数は1,2,1 といった具合にです。
そして、SI_{1}I_{2}\cdots I_{n}I_{1}I_{2}\cdots I_{n}E のオーバーラップから SI_{1}I_{2}\cdots I_{n}E という星が生まれることを考えると、この係数はパスカルの三角形的に推移していくことが分かります。
具体的には、最初の 1、1回目の 1,1、2回目の 1,2,1 に続いて 3回目は 1,2,1 を1つずらして足し合わせた 1,3,3,1、4回目は 1,4,6,4,1、…といった感じです。
そうすると、この係数は ~_nC_k の列挙になっているということで、100回目 (101文字) での係数は ~_{100}C_0,~_{100}C_1,_{100}C_2,\cdots,~_{100}C_{99},_{100}C_{100} の101個となります。

これにより、100回目のある星に割り当てられる重要度は、上記101個の係数のうち、O でない文字の位置に対応するものの和であることが分かります。
最終的に求めたいのは全ての星の重要度の和なので、k文字目の文字がA\sim Dとなる星の数Q_{A}(k)\sim Q_{D}(k) に対して、重要度の和 T は次のように表されます。
※なお、係数の ~_{100}C_kk0\sim 100 なのに合わせるため、k文字目も0開始で考えます。

  • T=\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k(Q_A(k)+Q_B(k)+Q_C(k)+Q_D(k))

ここで、各星は次の3パターンのルートに対応していることが分かっています。そしてそれぞれで末尾の候補の数が変わってくるため、「何文字目の、A\sim D のどの文字か」によって計算が変わってくることになることに注意が必要です。

  • (O\rightarrow (A~or~C)\rightarrow (B~or~D)) 33回繰り返し \rightarrow O\rightarrow (A~or~C)
  • ((A~or~C)\rightarrow (B~or~D)\rightarrow O) 33回繰り返し \rightarrow (A~or~C)\rightarrow (B~or~D)
  • ((B~or~D)\rightarrow O\rightarrow (A~or~C)) 33回繰り返し \rightarrow (B~or~D)\rightarrow O

そうして Q_{A}(k)~Q_{D}(k) を計算すると次のようになります。3文字ずつの繰り返しという規則性があるため、3で割った余りによって分類できます。

  • k=3j の場合
    Q_{A}(k)=Q_{C}(k)=2\cdot 4^{32}\cdot 4,~Q_{B}(k)=Q_{D}(k)=2\cdot 4^{32}\cdot 2
    Q_A(k)+Q_B(k)+Q_C(k)+Q_D(k)=2(2\cdot 4^{32}\cdot 4+2\cdot 4^{32}\cdot 2)=3\cdot 2^{67}
  • k=3j+1 の場合
    Q_{A}(k)=Q_{C}(k)=2\cdot 4^{32}\cdot 2,~Q_{B}(k)=Q_{D}(k)=2\cdot 4^{32}\cdot 4
    Q_A(k)+Q_B(k)+Q_C(k)+Q_D(k)=2(2\cdot 4^{32}\cdot 2+2\cdot 4^{32}\cdot 4)=3\cdot 2^{67}
  • k=3j+2 の場合
    Q_{A}(k)=Q_{C}(k)=2\cdot 4^{32}\cdot 2,~Q_{B}(k)=Q_{D}(k)=2\cdot 4^{32}\cdot 2
    Q_A(k)+Q_B(k)+Q_C(k)+Q_D(k)=2(2\cdot 4^{32}\cdot 2+2\cdot 4^{32}\cdot 2)=2^{68}=3\cdot 2^{67}-2^{67}

考え方としては、例えば Q_{A}(70) だとしたら、(O\rightarrow (A~or~C)\rightarrow (B~or~D)) 繰り返し33回中、1回が (O\rightarrow A\rightarrow (B~or~D)) の2通り、32回はそれぞれ4通りということでここまでで 2\cdot 4^{32}、これに末尾2文字分 \rightarrow O\rightarrow (A~or~C) の2通りをかける、そういったところになります。
Q_{A}(99) とかはこの考え方に合わないんじゃないかと思われるかも知れませんが、3文字周期の区切りをずらして考えれば結局同じなので、規則性は変わりません。

これで Q_A(k)+Q_B(k)+Q_C(k)+Q_D(k) の値が判明したわけなので答えも計算できるはず…なのですが。k=3j+2 のパターンだけ値にズレが出ています。これが「後々祟ってくる」と言っていたものの正体です。
ともあれ、T の式を整理します。

  • T=3\cdot 2^{67}\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k - 2^{67}\sum\limits_{0\le 3j+2\le 100} ~_{100}C_{3j+2}

最後の計算

では、最後に残された次のような T の計算ですが…

  • T=3\cdot 2^{67}\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k - 2^{67}\sum\limits_{0\le 3j+2\le 100} ~_{100}C_{3j+2}

前半にある \sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k これは 2^{100} として計算できるので簡単です。
しかし、後半は2つおきに取った値の和となっていて同じようには行きません。流石終盤の問題、簡単には計算させてくれません。

ところで、前半が 2^{100} と計算できるのは、二項定理からくる (x+1)^{100}=\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k\cdot x^kx=1 を適用したからです。
ここに同じようにして 1 の複素三乗根\omega ( \omega^3=1,~\omega^2+\omega+1=0 ) を利用することで、2つおきという状況を解決することができます。
x(x+1)^{100}=\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k\cdot x^{k+1} と少し変形してから x=1,~\omega,~\omega^2 をそれぞれ代入します。

  • 2^{100}=\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k
  • \omega(1+\omega)^{100}=\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k\cdot \omega^{k+1}
  • \omega^2(1+\omega^2)^{100}=\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k\cdot \omega^{2(k+1)}

これを辺々足し合わせると、次が得られます。

  • 2^{100}+\omega(1+\omega)^{100}+\omega^2(1+\omega^2)^{100}=\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k(1+\omega^{k+1}+\omega^{2(k+1)})

ここで、この式の右辺 (1+\omega^{k+1}+\omega^{2(k+1)}) これをよく見ると、(1+\omega+\omega^2) あるいは (1+\omega^2+\omega) となって 0 として消え、k=3j+2 の時に限って 3 が残る形になっています。なので、これが 2つおきという状況を丁度表しています。
そのため、

\begin{align*} \sum\limits_{0\le 3j+2\le 100} ~_{100}C_{3j+2}&= \frac{1}{3}\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k(1+\omega^{k+1}+\omega^{2(k+1)}) \\ &= \frac{1}{3}(2^{100}+\omega(1+\omega)^{100}+\omega^2(1+\omega^2)^{100}) \\ &= \frac{1}{3}(2^{100}+\omega(-\omega^2)^{100}+\omega^2(-\omega)^{100}) \\ &= \frac{1}{3}(2^{100}+\omega^{201}+\omega^{102}) \\ &= \frac{1}{3}(2^{100}+2) \\ \end{align*}

と、計算ができます。

最終的に、

\begin{align*} T &=3\cdot 2^{67}\sum\limits_{0\le k\le 100} ~_{100}C_k - 2^{67}\sum\limits_{0\le 3j+2\le 100} ~_{100}C_{3j+2} \\ &=3\cdot 2^{67}\cdot 2^{100} - 2^{67}\cdot\frac{1}{3}(2^{100}+2) \\ &=\frac{2^{170}-2^{68}}{3} \end{align*}

と計算された T が答えとなります。

実際に星・直行便の構成をシミュレートして規則性を見つけ、最後に規則性が一部崩れた和の計算を解決するまで、何個もハードルを越えていく感じのする問題でした。

第12問

  • 問題: 円\Omegaに内接する五角形ABCDEがあり、AC=ADおよびBC\parallel DEをみたしている。また、\OmegaAを含まない方の弧CD上に点Pをとり、直線AB,BC,CD,DE,EAに関してPと対称な点をそれぞれP_1,P_2,P_3,P_4,P_5とすると、PC:PD=P_{1}P_{2}:P_{4}P_{5}=2:3, CD:P_{2}P_{4}=4\sqrt{2}:11が成立した。このとき\frac{P_{1}P_{3}}{P_{1}P_{5}}の値を求めよ。
    ただし、XYで線分XYの長さを表すものとする。
  • 答え: \frac{\sqrt{37}}{10}

ということで、最後の問題は図形ものです。
最後最難関かつ幾何、解けるかどうか非常に厳しいところでしたが何とか解けました。
ただ、それでもそれなりに三角比の計算が大変な解法になっています。幾何的にもっとエレガントな方法があるかもしれませんが、その点はご了承ください。

形の整理

それでは、例によって後半の図形問題ということで図が描かれてないので、そこを自分で描いて整理するところからです。

しかし、問題文を鵜呑みにしない方が良い場合もあったりします。
問題文では「五角形」とありますが、そのことは忘れます。そうではなく、円\Omegaの周上に、点が A,B,C,P,D,E の順に6個並んでいる、そちらの方が大事です。
ここで、AB,BC,CP,PD,DE,EA の中心角をそれぞれ 2a,2b,2c,2d,2e,2f、円\Omegaの中心をW 半径を \omega としておきます。
※英文字とギリシア文字の使い方が逆じゃないの? と思われるかもしれませんが、角度の方がたくさん出るため解説でギリシア文字をたくさん書くのが面倒なので読む人がギリシア文字たくさんあると読み辛いかもしれないので、角度の方を英字にしています。

このようにしておくと、例えば CD=2\omega\sin(c+d) のように、各線分の長さを sin を使って表すことができます。
また、図中紫と緑の色をつけている AC,ADBE,CD ですが、これは同じ長さであることを表しています。前者は問題の条件そのまま、後者はBC\parallel DEということで、円に内接する \square BCDE が等脚台形になるところから来ています。
※なぜ等脚台形になるのか? というのは、円に内接する四角形の向かい合う角の和が180°になることと、平行という条件から同側内角にあたる角の和が180°になることを組み合わせて、同じ大きさの角が現れることから示せます。

ここまでで、6つおいた角の条件が幾つか挙げられます。

  • a+b+c+d+e+f=180\degree …(1)
  • a+b=e+f …(2)
  • c+d=f+a …(3)

なお、長さが等しい ( sinの値が等しい ) ということだけだと、例えば(2)の条件は a+b+e+f=180\degree という可能性も考えらえるのですが、そうすると(1)の条件に照らし合わせて残りの c,d で非正の角が現れてしまうので除外できます。

また、後で使うので今の内に挙げておきますが CD の中点 MAW と同一直線上にあり、CD の垂線にもなっています。

あともう一点重要な点があります。
この問題で長さは比の形でしか使用しないため、図形全体の大きさは任意に決めて問題ありません。なので例えば \omega=1 と決めてしまえば分かり易いのでは? とも思えます。しかし、より条件を楽にできる長さの決め方を期待し、具体的な長さを決めるのは保留しておきます。

対称な点の条件

続いて厄介な条件は、各直線に関してP線対称となっている P_1,P_2,P_3,P_4,P_5 です。
一般に線対称と言うと次の図のような状況であり、PP_i の垂直二等分線が、それぞれ対象の直線になっているということです。

とは言え線対称なんて、どう整理すればいいのかということで困りそうになります。

…しかし、よく見てみるとそれらの点の条件は、全て「線分P_iP_jの長さ」としてしか現れません。他の点との絡みがないのです。
であれば、P_i等 ではなく、各直線への垂線の足 Q_i が代替として使えます。

この図の通り、P_iP_j=2Q_iQ_j という関係があるからです。
Pを中心としてP_i等を半分に縮小した位置にQ_i等が来ることになります。

ということで、Q_1,Q_2,Q_3,Q_4,Q_5 を配置します。

では、これらの点に関連した長さを探っていきます。

まず、色々直角が出てくることから、隣接する添え字の Q_iQ_j に関しては、次の図のように \Omega とは別の円が活用できます。

例えば Q_1Q_2 であれば、P,B,Q_1,Q_2 が同一円周上にあり、PB がその直径になっており、Q_1Q_2=PB\sin\angle ABC=PB\sin(a+b) のような計算ができます。
問題の条件で絡むところをまとめると、次の通りです。

  • P_1P_2=2Q_1Q_2=2PB\sin\angle ABC=2PB\sin(a+b) …(4)
  • P_4P_5=2Q_4Q_5=2PE\sin\angle DEA=2PE\sin(e+f) …(5)
  • P_1P_5=2Q_5Q_1=2PA\sin\angle EAB=2PA\sin(f+a) …(6)

続いて Q_2Q_4 は添え字が隣接ではないので上と同じように計算はできませんが、Q_2,P,Q_4 が一直線上に来ることから Q_2Q_4=CD\sin\angle BCD で計算できます。

すなわち、

  • P_2P_4=2Q_2Q_4=2CD\sin\angle BCD=2CD\sin(b+c+d)

これと問題の条件 CD:P_{2}P_{4}=4\sqrt{2}:11 から、次のように単純化できます。

  • \sin(b+c+d)=\frac{11}{8\sqrt{2}} …(7)

さて、残るは Q_1Q_3 ですが、しかしこちらは単純にはいきません。

CDの中点MA,W が一直線上に来ることを利用し、AB の中点を F とするとき、各所の直角から PQ_1\parallel WF,~PQ_3\parallel AM と2組の平行が分かりますから、角度が1か所だけ導けます。

  • \angle Q_1PQ_3=a …(8)

ここから、この角に関する余弦定理で Q_1Q_3 を表して計算を進めることもできなくはないですが、要求される計算が膨大なものとなるため現実的ではありません。一旦 P_1P_3=2Q_1Q_3 については保留します。

この余弦定理の話も含め、この時点で三角比のみで必要数の条件を揃えることはできるのですが、長さの比からくる条件をどうにかできる気がしません。そこで、三角比の計算を進めず図形的にもう少し条件を探ることにします。

比の条件の攻略

では PC:PD=P_{1}P_{2}:P_{4}P_{5}=2:3 について整理を進めます。

  • a+b=e+f …(2)
  • P_1P_2=2Q_1Q_2=2PB\sin\angle ABC=2PB\sin(a+b) …(4)
  • P_4P_5=2Q_4Q_5=2PE\sin\angle DEA=2PE\sin(e+f) …(5)

これまで出たこの3つの条件から、P_1P_2:P_4P5=PB:PE となるため、問題の条件は PC:PD=PB:PE=2:3 となります。さて、これをどう扱うかですが…。

ここで、一般の話として線分XY があるときの PY:PX=2:3 という条件を満たす P は、アポロニウスの円という軌跡上にあるものです。
この円は YX2:3 に内分・外分する点を直径の両端とするもので、それぞれの長さの比は次の図のようになっています。
しかも OX\cdot OY=OP^2 も満たすため、\triangle PXY ができるなら OP はその三角形の外接円の接線となっていることも分かります。

それでは問題に戻って PC:PD=PB:PE=2:3 ですが、これは PCD,BE から決まる2つのアポロニウスの円、両方の上にあることを示します。
しかしそうすると、等脚台形BCDEを核として左右対称になっているこの図形で、2つの円も対称になっており、P としてありうる点は次の図のように、その対称軸上に限られることになってしまいます。

これは P が弧CD上にあるという条件に合いませんから、問題を解くどころではなくなってしまいます。

…実は「2つの円が交わる」と考えるところに問題がありました。
逆に考えると、2つの円が交わると不整合が発生するため2つの円が完全に一致するという強力な条件がここで生まれているのです。

改めて、一致するアポロニウスの円の中心をOとして図を再整備します。ついでに、DE の中点を H としておきます。
そしてここで、今まで保留していた図のサイズとして、アポロニウスの円の半径OPを12とします。そうして長さも反映したのが次の図です。

長さのみならず、新しい角として x,y,z も定めています。角・長さの条件を挙げると次のようになります。

  • アポロニウスの円の半径として OP=12
  • OB=OC=8
  • CD=BE=10 その半分の長さとして MC=MD=5
  • \Omegaの半径として WP=WD=\omega
  • \angle ODH=\angle OWM=x
  • \angle OWP=y
  • \angle DWM=z

なお、図中 \angle OPW=90\degree なのは、アポロニウスの円の説明でしたように、OP\triangle PCD の外接円、すなわち \Omega の接線になっているからです。

話を戻して、この図から三角比絡みの条件を整理すると次のようになります。

  • OW=\frac{13}{\sin x}
  • OW\sin y=12 これより \sin y=\frac{12\sin x}{13} …(9)
  • OW\cos y=\omega これより \omega=\frac{13\cos y}{\sin x}
  • \omega\sin z=5 これより \sin z=\frac{5\sin x}{13\cos y} …(10)

また、新しい角x,y,zと元の角a,b,c,d,e,fの関係も整備します。

この2つを対比し、

  • x=f+a+b
  • y=b+2c
  • z=c+d

これと、最初に整理した次の条件を併せます。

  • a+b+c+d+e+f=180\degree …(1)
  • a+b=e+f …(2)
  • c+d=f+a …(3)

以上から、

  • a=90\degree-x+\frac{z}{2} …(11)
  • b=x-z …(12)
  • c=\frac{-x+y+z}{2} …(13)
  • d=\frac{x-y+z}{2}
  • e=180\degree-x-z
  • f=x+\frac{z}{2}-90\degree …(14)

また、x=b+c+d でもあるため、\sin(b+c+d)=\frac{11}{8\sqrt{2}} …(7) と併せ、

  • \sin x=\frac{11}{8\sqrt{2}} …(15)

これで大体の情報が集まりました。

最後の条件

残るは最後の条件 P_1P_3=2Q_1Q_3 です。
が、その前に P_1P_5=2Q_5Q_1=2PA\sin\angle EAB=2PA\sin(f+a) …(6) に、c+d=f+a …(3) \omega\sin z=5 …(10前半)を適用し、次のように変えておきます。

  • P_1P_5=2PA\sin(f+a)=2\cdot 2\omega\sin(a+b+c)\sin(f+a)=20\sin(a+b+c) …(16)

そうして、いよいよ各所の直角により現れる外接円を元に、次のように図を整理します。

\angle Q_1PQ_3=a …(8) を図に反映し、また \Omega における AE の円周角 \angle ABE=f から次の2条件が分かります。

  • Q_1Q_3=TP\sin a
  • OT=\frac{OB\sin OBT}{\sin\angle OTB}=\frac{8\sin f}{\sin a}

そして、\triangle OTP における余弦定理と \angle POT=\angle PWM=x-y から TP が次のように分かります。

  • TP=\sqrt{OP^2+OT^2-2OP\cdot OT\cos\angle POT}=\sqrt{144+\frac{64\sin^2 f}{\sin^2 a}-\frac{192\sin f\cos(x-y)}{\sin a}}

以上により、P_1P_3=2Q_1Q_3 が表せます。

  • P_1P_3=2Q_1Q_3=2TP\sin a=2\sqrt{144\sin^2 a+64\sin^2 f-192\sin a\sin f\cos(x-y)} …(17)

結局余弦定理かよ、と思われるかも知れませんが、ここについてはもっと綺麗な形を見つけることはできませんでした。それでも \triangle PQ_1Q_3 で余弦定理を適用するよりは楽になっているはず…です。

三角比の計算

では最後に残った計算です。
角度・三角比の条件としては、次の7条件

  • \sin x=\frac{11}{8\sqrt{2}} …(16)
  • \sin y=\frac{12\sin x}{13} …(9)
  • \sin z=\frac{5\sin x}{13\cos y} …(10)
  • a=90\degree-x+\frac{z}{2} …(11)
  • b=x-z …(12)
  • c=\frac{-x+y+z}{2} …(13)
  • f=x+\frac{z}{2}-90\degree …(14)

長さの条件としては次の2条件

  • P_1P_3=2\sqrt{144\sin^2 a+64\sin^2 f-192\sin a\sin f\cos(x-y)} …(17)
  • P_1P_5=20\sin(a+b+c) …(16)

ただ、余弦定理を使った影響でルートが現れていますので、平方した形に変えます。

  • P_1P_3^2=576\sin^2 a+256\sin^2 f-768\sin a\sin f\cos(x-y)
  • P_1P_5^2=400\sin^2(a+b+c)

ということで、答えを \alpha とし、\alpha^2=\frac{P_1P_3^2}{P_1P_5^2} を計算すると \frac{37}{100} となるため、\alpha=\frac{\sqrt{37}}{10} が分かるのですが…。
ここから先はそれなりに大量の計算になりますので、一応「人力でなんとかできるよ」という経緯として見て頂ければと思います。

まず、a,c,f で半角が現れてきますので形を整備します。

\begin{align*} &2\sin^2(a+b+c) \\ &= 2\sin^2(90\degree-\frac{x-y}{2}) \\ &= 2\cos^2\frac{x-y}{2} \\ &= 1+\cos(x-y) \\ &2\sin^2 a \\ &= 2\sin^2(90\degree-x+\frac{z}{2}) \\ &= 2\cos^2(x-\frac{z}{2}) \\ &= 1+\cos(2x-z) \\ &= 1+\cos 2x\cos z + \sin 2x\sin z \\ &2\sin^2 f \\ &= 2\sin^2 (x+\frac{z}{2}-90\degree) \\ &= 2\cos^2 (x+\frac{z}{2}) \\ &= 1+\cos(2x+z) \\ &= 1+\cos 2x\cos z - \sin 2x\sin z \\ &2\sin a\sin f \\ &= 2\sin(90\degree-x+\frac{z}{2})\sin(x+\frac{z}{2}-90\degree) \\ &= -2\cos(x-\frac{z}{2})\cos(x+\frac{z}{2}) \\ &= -(\cos 2x + \cos z) \\ \end{align*}

そうすると、\sin 2x,~\cos 2x,~\cos(x-y),~\sin z,~\cos z が必要になるため、これら三角比の値を用意します。

  • \sin x=\frac{11}{8\sqrt{2}} より \cos x=\frac{\sqrt{7}}{8\sqrt{2}}
    ここから、
    • \sin 2x = 2\sin x\cos x=\frac{11\sqrt{7}}{64}
    • \cos 2x = 1 - 2\sin^2 x=-\frac{57}{64}
  • \sin y=\frac{12\sin x}{13} より \sin y=\frac{33}{26\sqrt{2}},~\cos y=\frac{\sqrt{263}}{26\sqrt{2}}
    ここから、
    • \cos(x-y)=\cos x\cos y+\sin x\sin y=\frac{\sqrt{7\cdot 263}+363}{416}
  • \sin z=\frac{5\sin x}{13\cos y} より、
    • \sin z=\frac{55}{4\sqrt{263}}
    • \cos z=\frac{13\sqrt{7}}{4\sqrt{263}}

それでは最後の計算です。

\begin{align*} &\alpha^2 \\ &=\frac{576\sin^2 a+256\sin^2 f-768\sin a\sin f\cos(x-y)}{400\sin^2(a+b+c)} \\ &=\frac{288(1+\cos 2x\cos z + \sin 2x\sin z)+128(1+\cos 2x\cos z - \sin 2x\sin z)+384\cos(x-y)(\cos 2x + \cos z)}{200(1+\cos(x-y))} \\ &=\frac{416 + 416\cos 2x\cos z + 160\sin 2x\sin z+384\cos 2x\cos(x-y)+ 384\cos z\cos(x-y)}{200(1+\cos(x-y))} \\ &=\frac{208\cdot 416 + 338\cdot 64\cos 2x\cdot 4\cos z + 130\cdot 64\sin 2x\cdot 4\sin z+3\cdot 64\cos 2x\cdot416\cos(x-y)+ 48\cdot 4\cos z\cdot 416\cos(x-y)}{100(416+416\cos(x-y))} \\ &=\frac{208\cdot 416 - 338\cdot 57\cdot 13\sqrt{\frac{7}{263}} + 130\cdot 11\cdot 55\sqrt{\frac{7}{263}} - 3\cdot 57(\sqrt{7\cdot 263}+363) + 48\cdot 13\sqrt{\frac{7}{263}}(\sqrt{7\cdot 263}+363)}{100(416+\sqrt{7\cdot 263}+363)} \\ &=\frac{208\cdot 416 - 3\cdot 57\cdot 363 + 48\cdot 13\cdot 7 + (\frac{-338\cdot 57\cdot 13+130\cdot 11\cdot 55+48\cdot 13\cdot 363}{263}-3\cdot 57)\sqrt{7\cdot 263}}{100(779+\sqrt{7\cdot 263})} \\ &=\frac{28823 + 37\sqrt{7\cdot 263}}{100(779+\sqrt{7\cdot 263})} \\ &=\frac{37}{100} \\ \end{align*}

なんとか答えに辿り着きました。

おわりに

今回で最後の2問も終わりました。
流石最終版の問題は色々思考を飛ばしていく必要があり、大変でしたが何とか解けたという感じです。
ともあれこれで12問解説できたということで、皆さんの参考になれば幸いです。
来年ももし全問解ければ、また解説を挙げたいと思います。

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