AIエージェント連携プロトコルの現在と未来:MCP・A2Aの技術的考察

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はじめに

直近、自前でMCP Serverを実装していく中で、STDIOとStreamable HTTPに向き合う機会がありました。Claudeとこの辺議論しながら実装を進めていったのですが、STDIOとStreamable HTTPとのすみ分け、別の切り口として時系列で見た今後の発展について、私自身で腹落ちできる考察に至ったので共有します。以下、Claudeからのアウトプットですが、私自身の考えも加味したものになっています。一部私が加筆しています。MCPだけではなくA2Aについても視野にいれた考察になっており興味深い内容だと考えています。

MCPの2つの顔:STDIOとStreamable HTTP

STDIOトランスポート:ローカル実行の簡潔性

MCPのSTDIOトランスポートは、Unix哲学を継承した設計となっています。標準入出力を介したプロセス間通信により、以下の特徴を持ちます:

# STDIOサーバーの典型的な実装
@mcp.tool()
def execute_local_command(command: str) -> str:
    """ローカル環境での実行を前提とした設計"""
    return subprocess.check_output(command, shell=True)

直近、ネットワークが閉じたセキュアな環境下でSLM/Local LLMとコンポーネント(File, DBなど)との連携で発展余地があると考えています。

技術的利点:

  • セットアップの容易さ(環境変数とコマンドパスのみ)
  • 状態管理の単純性(プロセスライフサイクルに依存)
  • セキュリティモデルの明確さ(ローカル実行権限に依存)
  • 低レイテンシなので複数回呼び出しもOK

考慮事項:

  • スケーラビリティの限界(1対1の関係性)
  • リモートアクセスの困難さ
  • プロセス管理のオーバーヘッド

Streamable HTTP:分散システムへの進化

2025年3月に導入されたStreamable HTTPトランスポートは、MCPをクラウドネイティブな環境に適応させる試みです。SSEもありますが、Streamable HTTPが推奨されています。:

# Streamable HTTPサーバーの実装例
@mcp.tool()
@require_auth
@rate_limit(100, per="minute")
def secure_data_access(query: str, ctx: Context) -> dict:
    """マルチテナント環境を考慮した設計"""
    user_context = ctx.user_info
    return filtered_query(query, user_context)

現状は、LLMがリモート経由で外部サービスと連携する事例が多いですが、LLMからAIエージェントと連携する世界観もこの仕組みで実現する可能性が高い(もしくはそうなってきている)と考えています。

技術的利点:

  • ステートレス設計によるスケーラビリティ
  • ネットワークラウンドトリップ削減
  • 標準的なHTTPインフラストラクチャとの親和性
  • 認証・認可の標準的な実装パターン

考慮事項:

  • セッション管理の複雑性
  • レイテンシの増加
  • エラーハンドリングの必要性

A2Aプロトコル:エージェント間協調の標準化

GoogleのA2Aプロトコルは、MCPとは異なる層での問題解決を目指しています。

設計思想の違い

MCP: Agent → Tool (構造化された関数呼び出し)
A2A: Agent → Agent (自律的なタスク委譲)

A2Aの技術的特徴

  1. エージェントディスカバリー

    # エージェントカードによる能力の公開
    {
        "name": "DataAnalysisAgent",
        "capabilities": ["statistical_analysis", "visualization"],
        "negotiation_modes": ["text", "structured_forms"],
        "endpoint": "https://api.example.com/agent"
    }
    
  2. タスクベースの相互作用

    • 長時間実行タスクのサポート
    • 非同期的な結果通知
    • タスク状態の追跡可能性
  3. プロトコルネゴシエーション

    • 動的な通信方式の選択
    • 能力に基づく最適なエージェント選択

統合パターンと実践的考察

パターン1:MCPをインターフェース層として使用

# ユーザー向けのシンプルなインターフェース
@mcp.tool()
def analyze_market(company: str) -> dict:
    # 裏側でA2Aエージェントネットワークを利用
    task = create_a2a_task("market_analysis", {"target": company})
    return await execute_with_agents(task)

このパターンは、既存のMCPクライアント(Claude Desktop等)との互換性を保ちながら、高度な機能を提供できます。

パターン2:A2Aによるオーケストレーション

# 複数のMCPツールを持つエージェントの協調
class OrchestratorAgent:
    async def handle_complex_task(self, task):
        # 必要なMCPツールを持つエージェントを発見
        agents = await discover_agents_with_tools(task.required_tools)
        
        # タスクを分解して並列実行
        subtasks = decompose_task(task)
        results = await parallel_execute(subtasks, agents)
        
        return synthesize_results(results)

エンタープライズ環境では、このような階層的なアーキテクチャが有効です。

技術選定の指針

MCPを選択すべきケース

  1. ツール統合が主目的

    • データベースアクセス
    • API呼び出し
    • ファイルシステム操作
  2. 即時応答が必要

    • リアルタイムデータ取得
    • 短時間で完了する処理
  3. シンプルな統合要件

    • 単一目的のツール
    • 明確な入出力定義

A2Aを選択すべきケース

  1. 複雑なワークフロー

    • 複数ステップの処理
    • 条件分岐を含む処理
    • 人間の介入が必要な承認フロー
  2. エージェント間の協調

    • 専門性の異なるエージェントの連携
    • 動的なタスク分解と統合
  3. 長時間実行タスク

    • バッチ処理
    • 定期的な監視と通知

アーキテクチャの進化段階

AIエージェントシステムのアーキテクチャは、段階的な進化を遂げつつあります。この進化の過程を3つの世代として整理することで、現在地と今後の方向性が明確になります。

第1世代(現在):直接的なツール統合

Human → Claude → Simple MCP Tools → Database/API

現在の主流は、LLMが直接MCPツールを呼び出すシンプルな構成です。この世代の特徴:

  • 実装の容易さ:単純な関数呼び出しモデル
  • 即時性:リクエスト・レスポンスの直接的なやり取り
  • 制約:複雑なワークフローの実現が困難
# 第1世代の典型的な実装
@mcp.tool()
def get_user_data(user_id: str) -> dict:
    return database.query(f"SELECT * FROM users WHERE id = {user_id}")

第2世代(移行期):オーケストレーション層の導入

Human → Claude → MCP Server → Dify/LangChain Agent → Complex Workflows

MCPサーバーが、より高度なエージェントシステムへのゲートウェイとして機能します。この世代の特徴:

  • 抽象化の向上:複雑性をMCPサーバー内に隠蔽
  • ワークフローの実現:複数ステップの処理が可能に
  • 段階的移行:既存のMCPクライアントとの互換性を維持
# 第2世代の実装例
@mcp.tool()
async def intelligent_analysis(query: str) -> dict:
    # 背後でDifyエージェントを起動
    agent_result = await dify_client.run_workflow(
        "advanced_analysis_workflow",
        {"query": query}
    )
    return simplify_for_user(agent_result)

第3世代(理想):分散エージェントエコシステム

Human → Meta-Agent (Claude) 
           ↓
    MCP Protocol (標準化された通信)
           ↓
    ┌──────┴──────┬──────────┬──────────┐
    │             │          │          │
Dify Agent   Custom Agent  Other AI   Legacy Systems
    │             │          │          │
    └─────────────┴──────────┴──────────┘
              相互に連携・学習

メタエージェントが、多様なエージェントやシステムを統合的に活用します。この世代の特徴:

  • 相互運用性:異なるプラットフォーム間での seamless な連携
  • 自律的協調:エージェント間での動的なタスク分配
  • 継続的学習:実行結果のフィードバックによる改善
# 第3世代の概念的実装
class MetaAgentOrchestrator:
    async def handle_request(self, user_intent: str):
        # 1. 意図を分析し、必要な能力を特定
        required_capabilities = self.analyze_intent(user_intent)
        
        # 2. 利用可能なエージェントを発見(MCP/A2A混在)
        available_agents = await self.discover_agents(required_capabilities)
        
        # 3. 最適な実行計画を立案
        execution_plan = self.create_execution_plan(
            user_intent, 
            available_agents
        )
        
        # 4. 並列・逐次実行を組み合わせて実行
        results = await self.execute_plan(execution_plan)
        
        # 5. 結果を統合し、学習
        final_result = self.synthesize_results(results)
        self.learn_from_execution(execution_plan, results)
        
        return final_result

世代間移行の技術的課題

各世代への移行には、以下の技術的課題の解決が必要です:

  1. 第1世代→第2世代

    • レガシーツールのラッピング
    • 状態管理の外部化
    • エラーハンドリングの高度化
  2. 第2世代→第3世代

    • エージェント間の信頼モデル
    • 分散トランザクションの管理
    • 動的なサービスディスカバリー

この進化の過程で、MCPとA2Aは異なる役割を果たします。MCPは主に第1世代から第2世代への移行を支援し、A2Aは第2世代から第3世代への進化を可能にする技術として位置づけられます。

今後の技術的展望

短期的展望(2025年内)

  1. プロトコルの成熟

    • エラーハンドリングの標準化
    • セキュリティモデルの確立
    • パフォーマンス最適化
  2. エコシステムの拡大

    • 主要クラウドプロバイダーのネイティブサポート
    • エンタープライズ向けツールの充実
    • 開発者ツールの改善

中長期的展望(2026年以降)

  1. プロトコルの収束

    • MCPとA2Aの相互運用性向上
    • 業界標準の確立
    • 認証・認可の統一
  2. 新たなユースケース

    • マルチモーダルエージェントの連携
    • エッジコンピューティングへの展開
    • リアルタイム協調システム

実装における技術的推奨事項

セキュリティ設計

# レイヤードセキュリティアプローチ
class SecureAgentGateway:
    def __init__(self):
        self.auth_provider = OAuthProvider()
        self.rate_limiter = TokenBucket()
        self.audit_logger = AuditLogger()
    
    async def handle_request(self, request):
        # 認証
        user = await self.auth_provider.authenticate(request)
        
        # レート制限
        if not self.rate_limiter.allow(user):
            raise RateLimitExceeded()
        
        # 監査ログ
        self.audit_logger.log(user, request)
        
        # 実行
        return await self.execute_with_context(request, user)

スケーラビリティの考慮

  1. ステートレス設計の徹底

    • セッション情報の外部化
    • 冪等性の保証
    • 水平スケーリングの容易性
  2. 非同期処理の活用

    • イベント駆動アーキテクチャ
    • メッセージキューの活用
    • バックプレッシャーの実装

まとめ

MCPとA2Aは、AIエージェントの相互接続性という共通の課題に対して、異なるアプローチを提供しています。MCPは「ツールとの接続」を、A2Aは「エージェント間の協調」を重視しており、これらは競合ではなく補完的な関係にあります。

アーキテクチャの進化という観点から見ると、我々は現在、第1世代から第2世代への移行期にあります。この移行において、MCPのStreamable HTTPは重要な役割を果たし、A2Aは第3世代への道を開く技術として期待されています。

今後、エンタープライズシステムにおいては、両プロトコルを適材適所で使い分け、場合によっては統合的に活用することが重要になるでしょう。技術選定においては、要件の複雑性、スケーラビリティの必要性、既存システムとの統合要件を慎重に評価することが求められます。

AIエージェントの相互接続性は、まだ発展途上の分野です。しかし、これらのプロトコルの登場により、より構造化された議論と実装が可能になりました。エンジニアとして、これらの技術の本質を理解し、適切に活用することで、次世代のAIシステム構築に貢献できるでしょう。特に、第3世代の分散エージェントエコシステムの実現に向けて、今から準備を進めることが重要です。

Accenture Japan (有志)

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