オルグ学入門

大衆組織化の意義とオルグ活動
オルグ (社会運動) - organizeまたはorganizerの略。(特に左派系の)組織を作ったり拡大したりすること。組織への勧誘行為。およびそれをする人(オルガナイザー)のこと。
団体が組織拡大のために、人を勧誘して構成員にすることを指す。過去において、この言葉そのものはいわゆる既成左翼の世界で主に使われていたが、現在ではさまざまな組織一般で用いられている。選挙前の後援会員勧誘活動などもオルグ活動との呼び名で定着している。

オルグの方法は2つに分類できる
- 特定のイデオロギーを中心に、このイデオロギーを道具にオルグしようとするもの
- イデオロギーよりも、実践的な勘や経験あるいは一時の思い込みを中心とするもの

イデオロギーよりも、実践的な勘や経験あるいは一時の思い込みを中心とするものには次の欠点がある
- 勘や経験、思いつきによる方法は、結果に関する保証がない
- オルグ活動は多くの場合実践しても、その成果の成否がオルグ本人に、直ちにわからない

大衆の自己中心性は以下の4つから生まれる。
①匿名性
②流動性(一時的な関係)
③①②から他人に対して責任を持たない。
④大衆としては自分の全面を曝け出すことができず、孤独感を抱きやすい。

日本の労働組合は組合費を給料の天引きにすることで、集金という活動を無くし、無関心層を増やす結果になっている

組織化はいくつかの段階を経て発展する
- 初動段階
- 弱少勢力段階
- 不安定段階
- 拡張段階
- 制度化段階
- 硬直化段階
各段階毎において求められるリーダーシップが異なる。初期段階では拡大指向のリーダーシップが求められ、徐々に管理型のリーダーシップが求められる
組織の発展に似ている

オルグ作戦とその計画の策定

オルグ活動の本質は、説得・勧誘・交渉のためのコミュニケーション活動ではなく、大衆が力を発揮するために大衆組織を発展させるための手段である
そのため、説得・勧誘・交渉のためのコミュニケーションはオルグが大衆を組織化するために使用するツールに過ぎない

作戦計画に必要なものは戦略と戦術である
説明 | |
---|---|
戦略 | 個々の戦術を効率的に統合して、作戦目的遂行のためにシステム化する時に使用する基本原則 |
戦術 | 個々の作戦場面に使用する闘い方の方法 |
つまり、作戦を成功させるためには
- 作戦目的が明確になっていること
- 個々の戦術に関してその戦術はどんなとき、どんな場面で用いれば、どのような効果があるか知識を持っている
- 戦術に関する知識を基礎に、感情と作戦目的並びに自分の勢力等を参考して、これらの戦術をシステム化する
これらの条件を揃えることで、戦略が定まり、この戦略に基づいて、作戦計画の細部が定まる

オルグ技術
理論オルグ
- 正統派理論オルグ
- 正統派だが大衆向けではなく効果は薄い
- マルクス主義の立ち場で理論武装、その他太守を組織化する活動では、理論学習と呼ばれる
- 大衆用理論オルグ
- 正統派のような理論の形は取らず、組織化されることによるメリットを全面に押し出す
- 理論において、論理的飛躍・矛盾は一切構わない
- 無関心層、関心層などの改変に効果があるが、教養がある人には不向き
- それよりも論理的飛躍や矛盾は一切かまわず現実利益を強調した方が、一般性があり効果がある。
感情オルグ
感情に訴えて興奮させ組織化すること。
- 恐怖喚起アピール
- 対象者に強烈な恐怖感・危機感を喚起させるような内容のコミュニケーションを行う
- 「それから逃れる方法はただひとつ、大衆組織に参加し、組合活動をすること」だと主張するもの
- それから逃れる方法が大衆組織に参加することなのかの説明は論理的でなくてもよい
- 都合の良い事実だけを挙げ、都合の悪いものは隠すことで恐怖喚起する
- スケープ・ゴート法
- 憎悪の対象となる生贄を用意し、すべての悪の責任をその人に押しつけ、そのひとを打倒するということで組織の団結を強化する
文化オルグ
文化活動を通じて親しみやすさをアピールすることで、無関心層をはじめ、組織内無関心層、敵対無関心層に対して仲間にする足掛かりを作る。
行動オルグ
衆の参加したくなるような行動(デモとかセレモニーとか)を行って大衆を集め、同一の集団行動とシンボルの共有で一体感を高める
理論闘争オルグ
理論闘争に勝利して優位性を示し仲間を増やす。ただし敵対勢力の翻意は難しい

その他、オルグを行う場所や対象によって戦略・戦術を変える
- 組織内敵対者はグループオルグで排除する
- 早い段階でその芽を摘む
- 人は損失を最小化し、利益を最大化するとイメージしたものによって行動する
- このイメージは外部からの刺激を自分の認知に基づき変換したものである
仲間を増やすには、
- 相手の今を地獄と思わせる(コスト最大化)ことによる相手の行動を否定する
- 将来の利益を約束(利益最大化)する
- 1.2.で変容した行動を納得させるための善悪の基準を用意する
- 自己犠牲を強調することで2.の利益を与えなくても不満を抱かせない
如何に組織に属し、活動することにメリットが有るかを訴える

オルグに必要な心理知識とその利用
オルグ活動の効果を上げるには、オルグされる側の心理について、科学的な知識を持ち、その知識を活用することである
まんまコーチング・カウンセリングじゃん

人間がどんな心理のときに、行動変容を起こすのか? 面白そう
社会的交換理論では人間は有形無形の様々な“報酬”の交換によって人間関係を形成・発展していく
つまり、コストの最小化と報酬の最大化を行う

悩みがある状態は「コストが高い状態」なので行動変容が行われやすい
カウンセリングによってコストが高い状態を認識し、その行動から分離するように促す

オルグの基本公式
社会的行動変容をベースとして、抵抗を排除して、行動変容を起こさせる
- 第一公式
- 従来の行動を変えることへの抵抗を排除する
- つまり、従来の行動を分離しないといけない気持ちを起こさせる
- つまり、今の状態を地獄であるとイメージを植え付ける
- 第二公式
- 行動変容がコスト最小化報酬の最大化につながるというイメージを植え付ける
- 新しい行動を取ることで、コスト最小化・報酬の最大化につながることを2種類に分けて提示する
- 理想あるいは空想の社会をえがき、それに到達することで、本人が獲得する精神的・物質的利益
- それを獲得する一番手近な手段としての現実的報酬
- 第一公式の後の世界を描く
- 第三公式
- 従来の行動を続けることが人間として悪であることを植え付ける
- 従来の行動は自己利益の追求に過ぎないことを強調・正当化する
- 第四公式
- 新しい行動はコスト最小化報酬の最大化の自己犠牲になる可能性がある
- あえて自己犠牲を選択愛他的行動に出ることにして、新しい行動の理由付けをする
鬼だな

基本公式だけでは理論的で感情的に訴えるには不十分なので、肉付けをする
鬼畜や
- 理解を容易にする方法
- 比喩や例を多用する
- フィクションでも構わない
- 信頼させる方法
- 誰もが尊敬している人の言葉を借りる
- よく知られている格言・ことわざあるいはそれに近い人生訓・処世訓を多用する

対象の考え方をかえるには、自身と対象の行動を同一にするだけでは不十分である。
- 対象の今までのものの見方・考え方を変容させる
- 変更先の見方・考え方を自身のものと一致させる
ただし、理論を持ち出して行動変容を起こさせては、対象を警戒させてしまう。相手に気付かれないように実施する。

たとえ敵対する主義主張のほうに傾倒しているひとであろうと、反対の主義主張の話でも、好意を寄せている人の話であれば聞く気持ちになる
やべぇ。これが芸能人を使ったりする理由か

理論オルグの訴求力
理論オルグが正統派と言われるが、感情オルグに比べてその効果が低い
理論オルグ
理論を道具にして、ターゲット(対象者)を説得し、組織に引き込む技術

理論オルグに関する疑問点
- 理論オルグ以上に、容易にオルグの効果が上がるオルグ技術があるが、理論オルグが正統派とされる
- 対象をオルグしやすい状況に追い込み、オルグをすれば簡単にオルグができる
- つまり、弱みに付け込む
- これは卑劣計画と呼ばれる
- 理論オルグが正統派とされるのはマルクス主義がベースにある
- 対象をオルグしやすい状況に追い込み、オルグをすれば簡単にオルグができる
- 今日のような理論的説明の仕方で、大衆が果して説得できるか
- 説得的コミュニケーションの効果を誰も検証していない
- 理論によって説得できたとしても、果して説得された人が理論に基づく行動に出るのか?
- 説得的コミュニケーションは相手との対立を生み出す
- 人間の行動は理性よりも情緒によるものが大きい
- 理性で理解していても情緒の動きを抑圧すれば反発が起き、逆に理性を抑え込む
- 説得とは「反対の意見を持っている人が、反対の意見を捨てて、伝え手の意見に承服し、自分の意見として行動すること」である
- これが対立を生み出す
- 理論闘争に破れた人は、情緒的に反発する
理論オルグは知的エリートには効果があるが、一般大衆にはこのような理由から反発を生み出す。

理論オルグが効果を発揮するためには、理論の持つ訴求力が重要なポイントになる。つまり、理論がコピーされ拡散することが重要である。
SNSの発展で、自由に意見が言え、容易にコピー/拡散出来る状況はオルグをする側にとっては好都合なんだろうなと

理論が論理的で矛盾が無いことは知的エリートに対しては非常に重要である。
一方で、一般大衆は矛盾が無いことにはあまり意味がなく、論理飛躍があったとしても、わかりやすく情緒に訴えることが重要である。

理論オルグの訴求力を増すためには次の3点がポイントになる
- オルグにあたる人自身がいずれも、オルグに使用する理論そのものについて十分な理解を持つように努力すること。これによって理論の変質を防ぐ
- 理論の本質を損なうことなく、訴求力を変化させるような知的作業が遂行できるように理論オルグ養成の訓練を受ける
- あらかじめオルグが対象とする人を決め、それに対応可能なような訴求力のある理論パターンをいくつも身につける

第5章 理論オルグのための整備作業と内容分析
理論オルグの訴求力を高めるということは、ターゲットにとって好ましいイメージを伝達することに他ならない。そのためには、準備作業=整備作業が必要である。理論オルグの整備作業とは具体的には次の2つである
- あらかじめ伝える理論内容を分析して、それがどのような要因から構築されているのか、それを明らかにする
- 明らかにされた各種要因の内容から見て、それをどのように再構築すれば、相手に対して訴求力をあげるイメージを与える情報として伝達できるか
ターゲットにとって好ましいイメージを構築するためには、次に示す理想目標、中間目標、現実目標、実践目標の4つを明確にし、ターゲットに伝えなくてはならない:
- 理想目標:自由とか平等など、多くの人々に受け入れられる崇高で抽象的な目標
- 現実目標などの背後にあって価値を与えるバックとしての効果がある
- その意味で 後背効果 と呼ばれる役割を果たすスローガンのようなもの
- 現実目標:組織に加わることによって実現される具体的かつ現実的な目標
- 賃金値上げとか労働時間短縮とか明確な利益のこと
- 相手への訴求力をあげるためには非常に重要なポイントになる
- 中間目標:理想目標と現実目標の間にあって、現実目標の達成を繰り返すことによって達成される目標
- 中間目標がいよいよ実現されそうだ、という状況になると、中間目標は現実目標と呼ばれるようになる
- 現実目標(かつての中間目標)と理想目標の間に新たな中間目標が設定されるようになる
- 実践目標:現実目標を達成するために日々行われる実践的な目標
- 極めて現実的な目標で、多種多様で、数が非常に多い
- 実践的な目標があって初めて、ターゲットを説得しやすい
しかし、ターゲットに理想目標、中間目標、現実目標、実践目標の4つを示すだけでは訴求力が不足している。訴求力をつけるためには次の2つを満たすことが必要である。
- ターゲットにとって各目標が魅力あるものとすること
- ターゲットにとって各目標が正当なものに見えるようにすること
目標が魅力的であるということは、「目標がターゲットの欲求にフィットしたものである」ということである。ターゲットの欲求を分析することも準備作業として必要である。
目標が魅力的であることも大事だが、同時に目標の正当性も大事である。人間はある程度正しさを求める傾向がある。魅力的でも非倫理的あるいは非合理的な目標を掲げていては組織化活動を継続できない。
そして、各目標を実現するための戦略・戦術を選択し、ターゲットに伝えることも必要である。このとき、様々な戦略・戦術がある中で、所定の戦略・戦術を選択した正当な理由を述べる必要もある。
また、各目標を実現する際の阻害要因と促進要因とを把握し、これらをターゲットに伝えることも必要である。
さらに、各目標を実現することが可能であるというイメージ作りも必要である。この際利用されるのが、歴史解釈である。歴史解釈とは、過去の事例に基づいて、各目標の実現性が高いことを示すことである。
整理すると、理論オルグを実施する前には次のような事項を整理しておく必要がある。
- 組織の目指す、理想目標、中間目標、現実目標、実践目標の4つの目標を明確にする
- 各目標に魅力を持たせる
- 各目標に正当性を持たせる
- 各目標実現に向けた戦略・戦術の選択と正当化を行う
- 各目標の実現性の高さを示す

第6章 理論オルグの技術
準備作業を経て、いよいよ理論オルグを実施する。理論オルグを展開する場合にはオルグする側、される側にかなり抽象度の高い論理的な知的作業を必要とする

正統派理論オルグを実現するために、オルグの対象に大衆を組織化する活動に参画して一緒に活動することが正しいことということを理論的知識を使って説明する。
しかし、この方法には落とし穴がある。正統派理論オルグの説明をする際に学者・研究者と同じように講義・講演・論文発表の形式で相手に伝えようとする。これが間違いで、これらの方法はオルグを前提にしていないし、オルグの対象が自身で調査することを前提にしている。つまり、ハードルが非常に高い。
講義・講演・論文発表で通じるのは既に興味がある人を対象にしているときである。

理論オルグでは、伝える理論的知識の中心は、正当性を明らかにする理論的知識に絞られる
- 選択目標の明確化
- 目標要因を第一に伝える必要があり、現実目標・中間目標・理想目標の3つを伝える
- 選択目標の正当性
- 選択した目標が妥当であり、正当であることを伝える
- この目標の妥当性を理論的に明確にするために理論的知識を伝える
- ここがオルグの中心的な部分である
- 理論知識は矛盾・不一致がないようにする
- 選択目標戦略の明確化
- 現実目標・中間目標・理想目標の3つを実現するためのロードマップを示す
- 戦略の正当性
- 選択目標戦略の明確化の正当性を明らかにする

理論オルグに対して反論があることは当然である。この反論を隠すのではなく、あえて反論を明らかにして、その反論に妥当性がないことを説明することで理論オルグの妥当性を強調する
反駁できそうにない反論についてはあえて隠す
反論では次の方法を使う
- 戦略に対する反論
- それ以外の戦略が存在することを明らかにする
- 当然現実目標・中間目標が変わってくるので、この部分に対する反論を行う
- 歴史解釈に対する反論
- 理論オルグでは、歴史解釈の情報を加えて、それよりも妥当であることを説明することで補助材料になる
- 問題提起に関する反論
- 現実認識が変われば問題提起のプロセスも変わってくる
- 問題提起が変われは選択目標も変わってくる
- この問題提起の仕方に問題があることを指摘する

反論を示すとは、誤りを指摘することで主張する理論知識の正しさ、客観的妥当性を明らかにすることである。反論を示し、それに対して反駁することは大きな意味がある
- 戦略に対する反論の反駁法
- 反論する戦略を選択したときの犠牲の程度を推定する
- 反論する戦略を選択したときに目標が達成できるか、その可能性の保証はあるか
- 歴史解釈に対する反論の反駁法
- 歴史解釈では矛盾するような史的事実を指摘する
- 問題提起に対する反論の反駁法
- 問題提起の根拠となっている反論の現実認識が間違っていることを示す

正統派理論オルグにおける、話し方の順序の一例を
- 出会いの話しかけ
- 現状認識による問題提起
- 現実目標の策定と正当化
- 中間目標の明確化と正当化
- 理想目標の明確化と正当化
- 目標選択と目標達成手段選択(戦略)の正当化
- 歴史的解釈による裏付け
- 戦略に対する反論
- 現実認識に対する反論
- 戦略に対する反論反駁
- 現実認識に対する反論反駁
- 帰結としての主張の正当性と大衆組織化のすすめ
8~11に反論の提示とそれに対する反駁を示しているが、これは話している内容に説得力を持たせるためのテクニックである。あらかじめ予想される反論を示し、それを反駁することによって、オーガナイザの主張の正しさを強調するわけである。

これは、オルグの基本公式に沿った話し方である
①1. 相手の心を開かせるオルグの基本公式を進めるための準備
②2. 第1公式(地獄のイメージ)
③3.~5. 第2公式(極楽のイメージ)
④6.以降 第3公式(合理化)

いままでに示した話し方の順序のモデルでは、実践目標が出てこない。これは、正統派理論オルグというのは、もともとオーガナイザの組織に興味を持っているターゲットや、すでに組織に加わっている者に対して行う活動であり、組織の理論を深く理解してもらうための活動なので、実践目標はとりあえず引っ込めてある。
実践目標が必要なのは、オーガナイザの組織についてあまり知識のない人、一般の人を対象に行う、大衆用理論オルグを実行する場合である。

大衆用理論オルグでは、次のような話し方のモデルが用意されている
- 出会いの話しかけ(アイスブレーキング)
- 実践目標の明確化
- 現状認識による問題提起
- 実践目標の再提示と理想・中間・現実目標との関係の解説
- 実践目標達成に向けた戦術の提示
- 戦術に対する反論
- 戦術に対する反論反駁
- 使命感(組織活動への献身)の植え付け
このモデルでは、具体性に重みを置き、実践目標達成による現実的利益の享受について語ることで、オーガナイザの組織について興味がなかった人々をも引き付けようとしている。

大衆オルグが優先するのは理論ではなく、大衆が払う犠牲を最小限にすることを第一にしている。そのうえで、受けられる報酬の最大化を目指している。
そのため、大衆オルグでは正当化の理論は無用である。その代わりに、目標達成を感情的に確実視できるような材料を集めることが必要になる。

感情オルグの技術
感情オルグとは、オルグ対象の感情に働きかけ、対象者を強烈な心理的興奮状態に導き入れ、感情が高揚したことを利用して、オルグするやり方である。
感情オルグは伝える情報が矛盾があろうが論理的に破綻していようが関係なく、ただひたすら相手の感情に訴える方法で、ひらすらに訴求力が重視され、必要性と感性との理論である

感情オルグは、支持・同調する人には広く受け入れられ、敵対する人にはその理論の矛盾によってかえって強い反発を生む。そのため、オルグする対象によっては扱いに気をつける必要がある

感情オルグを行う場合の話し方のモデル
- 挨拶
- 「われわれは何をするべきか」という問題提起する
- 問題提起の答えとして、現実目標とそれ達成するための実践目標を提示
- 実践目標の達成のためには組織拡大・団結強化が必須であると述べる
- 現状分析によりターゲットが何によって抑圧されているか(阻害要因)を述べる
- 阻害要因を打破することで実践目標が達成できることを強調する
- 帰結
- 「われわれがなすべきことは明白である」と宣言し、実践目標を再提示する
- 実践目標達成のため組織拡大・団結強化が必須であると再強調する

話し方のテクニックとして以下のものがある
- 札かくし
- 論旨を進める上で都合がいい事実のみを拾う
- 都合が悪い事実は一切切り捨てる
- ハーフ・トゥルース
- 真実が少しでもあれば針小棒大に誇張する
- 価値付与
- 目標を達成するために取ろうとする戦術は美化した表現をする
- 価値剥奪
- 目標を達成ために障害となるものは悪い感じを与える言葉で表現する
- 焦燥感
- すぐに従わないものは損すると強調する
- 「バスに乗り遅れるな」
つまり、論理矛盾は気にせず、自分が主張したいことを強調して相手に伝える

感情オルグは相手の感情に訴える方法なので以下のテクニックを使って対象を興奮状態にする
- ハンド・クラッパー(サクラ)の投入
- アジ演説(プロパガンダ)の最中に合いの手やヤジを入れる
- ヤジを入れることで、周りの聴衆が演説に引き込まれていく
- ヤジは支援のヤジと反対のヤジがあり両方とも利用する
- 反対のヤジはそれに対する反論を用意する
- あらかじめトラブルも用意して、それによってムードを一変させる
- 成極化
- アジテーション(アジ演説)は暗示をかけることが主目的になる
- 相手の被暗示性が昂進していると効果的である
- 成極化は、ただひとりのみに集中して注意を向けられるようにして昂進状態に引き込む
- たとえば、スポットライトを当てる、対象の顔をずっと見るなどを行う
- 威光暗示
- 自分以外の強力な援助を借り、アジ演説に信憑性をもたせる
- 演説する人が高い台の上にいる
- 先輩の遺品を持ち出す
- 権威のシンボルを背後に置く
- etc...
- 演説する人以外に演出をする人を用意する
- 自分以外の強力な援助を借り、アジ演説に信憑性をもたせる
- 省略
- 詳細をあえて省く
- 省略した部分を「皆さん御存知の通り」などと表現することで、知らないことが悪い気持ちにさせる

問題提起の際、聴衆(ターゲット)の心を揺さぶるために、つぎの危機強調の技術を駆使する
- 恐怖喚起アッピール
- 対象者に強烈な恐怖感・危機感を喚起させるような内容のコミュニケーションを行う
- その後、それから逃れる方法はただひとつ、大衆組織に参加し、組合活動をすることだと主張する
- そのためには裏づけになる都合のよい事実のみをあげ、都合の悪い事実は隠す
- なぜそれから逃れる方法が大衆組織に参加することなのかの説明は論理的でなくてもよい
- スケープ・ゴート法
- いけにえをつくり、すべての悪の責任をその人に押しつけ、そのひとを打倒するということで組織の団結を強化する
恐怖喚起アッピールは関係のない2つの事象を組み合わせて恐怖を喚起する

恐怖喚起アッピールは人々の不安や恐怖につけ込む方法である
妖怪などの迷信や噂や「〇〇しないとついていけなくなる」などの表現を使って相手の行動を変える

感情オルグでの表現は相手に訴えるために様々なテクニックを利用する
- 接続詞の過剰挿入
- 過剰に挿入することで主張が強調される
- それによって聞き手に与えるインパクトが大きくなる
- 再表現
- 一言で言えば済むことをあえて冗長な表現にする
- 「見聞きする」→「見ました。聞きました」
- 反対結合
- 反対の意味が強い形容詞を接続する
- 「おそろしくきれい」
- おそろしくというマイナスの意味を持つ形容詞をプラスの意味を持つきれいとくっつける
- これによって強く感情に訴えるようになる
- 強調点反復
- 強調したいことを繰り返す
- 反復は宣伝の常套手段である
- イメージ語の使用
- 感情オルグでは、理論的な説明は省略して、その感情を抱くようなイメージを与える表現を使う

街頭オルグをする前にオープニングショウを実施し、オルグの効果を高める。つまり、オルグ対象を心理的興奮状態に引き込む準備を行う
オープニングショウを行う際には次の原則に従って行う
- 規格外の原則
- 人々の注意を引くものを利用する
- 規格外の行動・動作・服装・道具・持ち物・飾り・その他シンボルを使う
- 価値付加の原則
- 良いイメージがあるものの情報は聞きやすい
- 清潔感のあるもの、力強い感じを与えるもの、優美なもの、上品なものを使う
- 正当性の原則
- わざわざ足を止めて見ることにやましさをもたせてはいけない
- ☓:グラビアアイドル・タレント
- ○:演奏・劇
- わざわざ足を止めて見ることにやましさをもたせてはいけない
- 動きを伴うこと
- 見る人が飽きないようにする
- リズミカルな動作があることで飽きずに見ることができる

第8章 個人オルグとその技術

オルグ活動の基本は個人を説得すること、すなわち個人オルグである。理論オルグという手を使うにせよ、感情オルグという手を使うにせよ、個人オルグというのはパーソナル・コミュニケーションの一種である。

個人オルグは集団に対してオルグをする時に比べて効果が得られやすい
- 対面で話すことで言葉だけでなく身振り手振りなど、音声以外の言語も重要な役割を持つ
- 音声で感覚言語を裏付ける
- 音声で伝えにくい内容をジェスチャーで伝える
- 対面で話すことでフィードバックを得ることができる。このフィードバックを使って内容を修正できる

対面で話すことと比べて媒体(テレビ・ラジオ・紙面)を介して伝えると次の効果がある
- 受け手が既に支持同調している時には、その支持同調を補強する
- 受け手が関心を持っているものの、実際に行動に出ていなかったときには、関心を顕在化させ、行動に移らせる
- 無関心だったときには、何ら効果を得られない
- 近くに支持同調者がいると支持同調者に改変する
最後の、改変は近くの支持同調者からの影響、つまり、個人オルグされていたことが補強され、理解を深める結果になったためである。
パーソナルコミュニケーションが効果が高いのは真実味の薄い噂話でも伝搬力があることからも裏付けされている

個人オルグの効果を十分発揮させるためには次の2点を注意する
- オルグはできる限り、バーバル・ノンバーバルのコミュニケーションに注意して、効果が最大になるように振る舞う
- 相手に与える印象が変わってくる
- この印象が信頼の有無につながる
- 自分の振る舞うに注意するだけでなく、相手の振る舞いを観察し、それをフィードバックにして相手の反応に応じた振る舞いをする
- 自分が伝えたいことばかり伝えいても効果が薄い
- 相手の反応に応じて対応を変えることとで効果が増す
また、パーソナル・コミュニケーションでは第一印象が重要である。
一期一会
相手とのその一回の出会いで、生涯を通じての親交ができるよう全力投球を行うこと
一座建立
ターゲットがオーガナイザに対し好感と信頼を寄せるような人間関係を、わずかな時間の間に作り上げること
つまり、第一印象が良いことでいい関係を築きやすく、その後のオルグが行いやすい。

個人オルグを行うプロセス
- アイス・ブレーク
- オーガナイザとターゲットの間でリラックスした関係を作る
- オーガナイザがターゲットにとって良い聞き役になる
- 相手の心のなかにオルグに対して不信感がない状態にする
- 不信感無い状態は、相手がオルグに対して言いたいことをすべて言った状態といえる
- ターゲットが悩み事などを語るようにする
- 話をするうちに悩み事を話す関係になる
- この悩みを最大限利用してオルグを行う

いい聞き役とは次の振る舞いをする
- 消費会話
- 特に話さなくてもいい内容の話(天気など)をする
- 相手が話をしやすい雰囲気を作る
- 相手の話の先回りをさける
- 話の先回りをすると相手が話しづらくなる
- 相手が気持ちよく話せる雰囲気を作る
- 受け入れ
- 相手の会話に受け入れられないことがあっても、一回は工程の相槌をうつ
- これによって相手が承認されていると感じ、心を開いてくれるようになる
- 確かめ操作
- 確かめると、相手は熱心に聞いてるれると感じ、更に話をしてくれるようになる

話が途絶えたときの技術
- 二分間沈黙
- 沈黙に耐えられるように訓練する
- 沈黙が続くと話をしないといけない気持ちになる
- これを利用して相手に話をさせる
- すれ違い話題
- 全く無関係の話をする
- 話が転換することで話しやすくなる
- 感情に反応
- 感情こそオルグが訴えたいことである
- この感情を引き出す方法を探る

オーガナイザが良い聞き役となる、というのは、カウンセリングと類似している。しかし、オルグ活動とカウンセリングとでは、ターゲットの悩み事を解決する方向に大きな違いがある。
カウンセリングの場合は、ターゲットがターゲット自身の内面を見つめなおすという方向で悩みの解決を図る。
しかし、オルグ活動では、ターゲットの悩みを外部、すなわち社会などの改変によって解決することを目指す。そうすることによって、オーガナイザはターゲットの興味を組織活動に向けさせるわけである。

オルグ活動では相手の不安を利用する。つまり、相手の不安を増大させて、それを解消する方法こそが集まることとして、オルグ活動をする

行動オルグの方法と文化オルグ
定義 | |
---|---|
文化オルグ | 大衆文化や集団的レクリエーションをイベントとして実施してオルグの足がかりを作る |
行動オルグ | 大衆の参加したくなるような行動(デモとかセレモニーとか)を行って大衆を集め、同一の集団行動とシンボルの共有で一体感を高める |
このように行動オルグと文化オルグは対象をオルグすることが目的ではなく、対象が自発的に行動や文化活動に参加することを目的にする

理論オルグにせよ、感情オルグにせよ、ターゲットとの出会いの場がなければ機能しない。そこで、オーガナイザとターゲットとの出会いの場を作るのが、行動オルグや文化オルグである。

行動オルグにはある種のカッコよさ、そして正当性が必要である。また、行動オルグには旗やスローガンのような、行動オルグを象徴するシンボルが必要である。
行動オルグは次の条件を満たしているものである
- 抑圧された欲求を満足させるもの
- 社会生活では何かしらの抑圧を受けている
- 行動オルグはこの抑圧されている欲求を満足させるものでなければならない
- ファッション性があるもの
- 大衆が自発的に参加する行動であること
- 大義名分(正当性)があるもの
- 真面目な人が参加するための意味があること
- 集団効果の上がるものであるもの
- 単独で行うより効果があるもの
- 大義名分が明確な行動である必要がある

行動オルグをするにあたってシンボルがあることは非常に役に立つ。シンボルがあることで集団行動が起こしやすくなる
シンボルには次のものがある
- 物的シンボル:旗など
- 言語シンボル:シュプレヒコールなど
- 行動シンボル:右手を上げるなど
- 行動シンボルがカッコよく、大きな魅力があることが望ましい
シンボルには次の条件を満たしている必要がある
- 意外性:日常生活には溢れていないもの、簡単に区別しやすいもの
- 単純性:簡単に覚えられるもの、表現がしやすく共有しやすいもの
- 価値付与性:行動自体に価値があるもの、人前でやっても恥ずかしくないもの、恥ずかしくない表現
- 神秘性:意味が簡単に理解できないもの
- 神秘であることは意味付けがしやすく、理論とも結びつけやすい

行動オルグと文化オルグはオルグ対象と仲良くなることが目的である。仲良くなった後にオルグ活動を行う。オルグ活動は、感情オルグ/理論オルグのどちらでも構わない。
ただ、相手の弱みを知り、それを煽る形でオルグ活動を行うのが効果的である。

行動オルグ、文化オルグは敵対組織の無関心層に対して効果的である。
このオルグ活動から守るためには、定期的に集会を実施して、敵対組織からの影響を最小限に抑える。

理論闘争の技術
オーガナイザはターゲットとの間で論戦になった場合、理論闘争に勝たなくてはならない。また、組織の一員が他の組織からのオルグ攻撃を受けた場合、理論闘争によって、その身を守らなくてはならない。

相手の理論が、「風が吹けば桶屋が儲かる」といった類のこじつけ(ダーク・ロジックと呼ぶ)にすぎない場合、議論の各段階の妥当性、客観性をつつけば、相手の理論は崩壊する。
相手の理論が三段論法のようなしっかりしたものである場合には、相手の理論の根拠や相手の現状認識の妥当性や矛盾点について攻撃を加えることで、相手の理論を崩壊に導く。

理論闘争になったときには次の3つの方法で相手を攻撃する
- 相手の主張の論理的根拠の誤りをバクロする
- 相手の主張の大前提になっている論理的根拠の誤りを主張する
- 相手が小前提として使用している現実的根拠の誤りを主張する
- 主張を生み出す理論の論理的根拠の矛盾・不一致を主張する
- 相手の主張の現実的根拠を粉砕することで、相手の主張が誤りであることを明確に印象づける
- 相手の主張について、その主張を成立させている理論を構築している現実認識および理論的根拠が、推論するに足るほど、果して十分論理的に結びついているかのどうかを検証、矛盾があれば、その矛盾をつく

相手の主張が論理的であってもどこかにほころびはあるものである。そのほころびをつく
- 主張に曖昧さがないか
- 出典が明確か
- 出典の矛盾をつく

敵対理論については入念に調べる
- 相手の主張を分析する
- 各種目標選択の基準を明確化する
- 目標及び目標選択基準正当化の理論分析
- 目標を誘引とする際動員としての欲求分析
- 欲求素子の阻害要因と見るものの分析
- 欲求満足と目標としての妥当性分析
- 正当化の根拠の分析検討

理論闘争では、最初に相手(ターゲットや他の組織の一員)にしゃべらせておいて、あとからオーガナイザが質問して相手の理論を崩すのが鉄則だが、逆に相手からオーガナイザに質問が来る場合がある。この場合には次のような回答テクニックが挙げられている
理論闘争の技術 | |
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認識操作 | 認識に相違があるので、回答できないとつっぱねる |
争点操作 | 相手の質問をすり替えて、的外れの回答を行う 質問の意味を勝手にすりかえて長々と答え、聞く相手があきれ疲労退屈し、再度質問する意欲を失わせる |
前提操作 | 相手の知らない事実や理論を持ち出して、それらを勉強してから質問するように、とつっぱねる |
次元操作 | 相手と自分とでは問題の次元が違うので回答できないとつっぱねる 「あなたは現在(一部、現象、たてまえ)のみを問題にしている。私は将来(全体、本質、本音)を問題にしているのだ」など |
立場操作 | 相手と自分とでは立場が異なる。自分と同じ立場に立つ人物からはそんな質問は出ない、とつっぱねる |
戻し質問・リレー質問 | あなただったらどう考えますか?答えられなかったら、質問者自身もわからない質問には答えられない、と突き放す |
本心操作 | そのような質問をする人の心の中はだいたい見当がついている そのような否定的態度をとる人に対しては何を答えても無駄である、と質問を封殺するる |