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LLMで障害事前分析とプレモーテム生成
はじめに
「顧客データが消失した」「システムが数時間ダウンした」... 想像するだけで恐ろしいですよね? 実際に、過去にはこのような大規模なインシデントが数多く発生し、ビジネスに甚大な影響を与えてきました。
このような事態を未然に防ぐための強力なツールが、プレモーテム(事前分析) です。プレモーテムは、システムやサービスに障害が発生する前に、潜在的な問題点やリスクを洗い出し、対策を講じるための事前分析手法です。
しかし、プレモーテムには以下のような課題もありました。
- 時間と労力がかかる: 障害シナリオを網羅的に洗い出すには、多くの時間と労力が必要です。
- 属人化しやすい: 経験豊富なエンジニアの知識や勘に頼る部分が大きく、属人化しやすい傾向があります。
- 網羅性の不足: 人間の思考には限界があり、想定外の障害シナリオを見落としてしまう可能性があります。
これらの課題を解決するために、LLMで プレモーテム生成を生成させてみました。
LLM によるアイデア生成
Meincke らの論文では、LLM が人間のアイデア生成能力を凌駕する可能性が示唆されています。特に、LLM は以下の点で優れています。
- 質の高いアイデアを効率的に生成できる: LLM は、大量のデータを学習しているため、人間では思いつかないような斬新なアイデアや、質の高いアイデアを効率的に生成することができます。
- 多様なアイデアを生成できる: LLM は、様々な視点からアイデアを生成することができるため、より多様なアイデアを生み出すことができます。
LLM とプレモーテムの融合
LLM の持つ強力なアイデア生成能力をプレモーテムに活用することで、従来のプレモーテムの課題を解決し、より効果的な障害対策を講じることが可能になります。
具体的には、LLM に以下の情報を入力することで、プレモーテムを生成させることができます。
- システムの概要: システムの構成、機能、利用技術など
- 想定される利用者: 利用者の属性、利用シーン、利用頻度など
- 過去のインシデント: 過去に発生したインシデントの種類、原因、影響など
- 懸念事項: 現在懸念していること、リスクが高いと考えていることなど
LLM が生成したプレモーテム:
インシデントシナリオ | 根本原因 | 影響範囲 | 対策 | 事前チェックリスト | インシデント発生時の対応方法 |
---|---|---|---|---|---|
SQL インジェクション攻撃により、顧客情報が漏洩する。 | 1. Web アプリケーションの入力値検証の不備 2. データベースユーザーの権限設定が不適切 3. エラーメッセージに詳細な情報が含まれている | 1. 顧客の個人情報(氏名、住所、クレジットカード番号など)が漏洩する 2. 顧客からの信頼が失墜する 3. 法的責任を問われる可能性がある 4. 企業のレピュテーションが低下する | 1. 入力値検証を徹底する(バリデーション、エスケープ処理) 2. データベースユーザーの権限を最小限にする 3. エラーメッセージを一般化し、詳細な情報を表示しない 4. WAF(Web Application Firewall)を導入する 5. 定期的な脆弱性診断を実施する | 1. 入力値検証のテストケースが網羅されているか 2. データベースユーザーの権限が適切に設定されているか 3. エラーメッセージが一般化されているか 4. WAF の設定が適切に行われているか 5. 最新の脆弱性診断が実施されているか | 1. 攻撃を検知したら、直ちに Web アプリケーションを停止する 2. 影響範囲を特定する(漏洩した可能性のある情報、顧客数など) 3. 関係各所(顧客、監督官庁、セキュリティ専門家など)に報告する 4. 原因を調査し、再発防止策を講じる 5. 漏洩した情報が悪用されないように監視する |
大量の SELECT クエリにより、データベースの応答が遅延する。 | 1. 非効率な SQL クエリ(インデックスが適切に設定されていない、不要なカラムを取得しているなど) 2. データベースサーバーのリソース不足(CPU、メモリ、ディスク I/O) 3. 同時接続数が多すぎる | 1. データベースの応答が遅延し、Web アプリケーションのパフォーマンスが低下する 2. 顧客満足度が低下する 3. 最悪の場合、サービスが利用できなくなる | 1. SQL クエリを最適化する(インデックスの追加、不要なカラムの削除など) 2. データベースサーバーのリソースを増強する 3. キャッシュを活用する 4. ロードバランサーを導入し、負荷を分散する 5. スロークエリログを監視し、問題のあるクエリを特定する | 1. SQL クエリの実行計画を確認し、問題がないか 2. データベースサーバーのリソース使用状況を監視する 3. 負荷テストを実施し、パフォーマンスのボトルネックを特定する | 1. スロークエリログを分析し、原因となっているクエリを特定する 2. 該当クエリを修正または停止する 3. 必要に応じてデータベースサーバーのリソースを増強する 4. 状況を監視し、再発しないことを確認する |
誤った WHERE 句の指定により、意図しないデータを抽出してしまう。 | 1. SQL クエリの記述ミス 2. テスト不足 3. レビュー不足 | 1. 誤ったデータに基づいて分析が行われ、誤った意思決定につながる 2. 誤ったデータが顧客に提供される可能性がある 3. 個人情報や機密情報が含まれていた場合、情報漏洩につながる | 1. SQL クエリのレビューを徹底する(複数人でのチェック) 2. テストデータを用いたクエリの動作確認 3. データバリデーション(抽出されたデータの型、範囲などをチェック) | 1. SQL クエリの WHERE 句が正しく記述されているか 2. テストデータを用いたクエリの実行結果が期待通りか 3. 抽出されたデータのサンプルチェック(件数、項目など) | 1. 誤ったデータが抽出されたことを検知したら、直ちにデータの利用を停止する 2. 正しいクエリを再実行し、データを抽出する 3. 誤ったデータに基づいて行われた分析結果や意思決定の影響を評価し、必要に応じて修正する 4. 原因究明と再発防止策を検討・実施する |
LLM を活用したプレモーテムの具体的な手順
LLM を活用してプレモーテムを実施するには、以下の手順を踏みます。
- プロンプトの準備: LLM に適切な指示を与えるためのプロンプトを準備します。プロンプトには、システムの概要、想定される利用者、過去のインシデント、懸念事項などを含めます。
- LLM への入力: 準備したプロンプトを LLM に入力します。
- プレモーテムの生成: LLM がプレモーテムを生成します。
- プレモーテムの評価: 生成されたプレモーテムを評価し、必要に応じて修正・加筆します。
- 対策の実施: プレモーテムで特定された対策を実施します。
- 定期的な見直し: 定期的にプレモーテムを見直し、LLM を用いて更新します。
プロンプト例
以下は、LLM にプレモーテムを生成させるためのプロンプト例です。
あなたは経験豊富なSREです。
データベースから顧客の行動ログをSQLで抽出する作業を実施します。
この作業における潜在的なリスクを特定し、対策を事前に検討するため、プレモーテムを3個作成し影響が大きい順に並べてください。
以下の項目を含む形式で出力してください。
またフォーマットはマークダウンです。
1. インシデントシナリオ: (**サービス安定化**を阻害する可能性のあるインシデントを記述)
2. 根本原因: (インシデントの根本原因となりうる技術的、運用的な要因を、**リスク**の観点から列挙)
3. 影響範囲: (インシデントが発生した場合のサービス、顧客、ビジネスへの影響を、**サービス停止時間**、**データ損失**、**顧客への影響**などを具体的に記述)
4. 対策: (インシデントを予防または軽減するための具体的な対策を、**リスク軽減**、**サービス安定化**の観点から記述)
5. 事前チェックリスト: (リリース前に実施すべき具体的なチェック項目を、**リスクを事前に潰し込む**観点でリストアップ)
6. インシデントが発生した時の対応方法: (**サービスを迅速に復旧**させ、**影響を最小限に抑える**ための対応を記述)
まとめ
LLM を活用することで、よりすばやく効果的な障害対策を講じることが可能になります。LLM は、経験豊富な SRE のように、様々な障害シナリオを想定し、それぞれのシナリオに対する具体的な対策を提案してくれました。
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