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【論文紹介】AIエージェントの応用事例

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こんにちは。ZENKIGENデータサイエンスチームの勝田です。今回は"From LLM Reasoning to Autonomous AI Agents"というAIエージェントのサーベイ論文を紹介します。論文の内容は多岐にわたりますが、自分が面白いと思った「エージェントの応用」を中心に短めに紹介しましたので気になる方はぜひ原文をあたってください。
チームでXアカウントを運用しており、AIに関する情報を発信していますのでご興味あれば覗いてみてください。

1. 概要

この論文は、AIエージェントの最近の動向のうち、以下の項目をまとめられています。

  1. LLMやエージェントのベンチマークや評価手法を体系的に整理
  2. AIエージェント向けのフレームワーク
  3. 応用例:医療、化学、地理情報、ソフトウェア開発など
  4. エージェント同士の通信プロトコル(ACP、MCP、A2A)の概要
  5. 今後の研究課題:推論戦略、脆弱性、動的ツール統合など

以下では3つ目のAIエージェントの応用例に絞り紹介します。ご自身の分野にエージェント活用する際の参考にしてください!

2. 医療分野での応用

LLMエージェントは医療分野に大きな変化をもたらしています。診断支援から患者ケアの向上、研究加速まで、その応用範囲は多岐にわたりますが、特に高い安全性と説明責任が求められる分野です。

2-a. 臨床診断・画像診断・意思決定支援

AIエージェントは、診断の精度向上と効率化に貢献しています。

  • DiagnosisGPT: 医師の思考プロセスを模倣し、診断の根拠を明確にすることで、解釈可能性を高めます。
  • ZODIAC: 心臓病診断において専門医レベルの精度を目指し、マルチモーダルデータ(複数の種類のデータ)を処理します。
  • MedAgent-Pro: マルチモーダル診断(画像など複数の情報源に基づく診断)における視覚的認識や推論の揺らぎといった課題に対処します。
  • M3Builder: 医療画像分野の機械学習ワークフロー(データ処理、モデル訓練など)を自動化します。
  • MEDDxAgent: 鑑別診断(複数の可能性から病気を絞り込むプロセス)を対話的・反復的に行い、精度を高めます。
  • Pathfinder: 病理画像(WSI)の全体的な分析を、専門医のように行います。

2-b. メンタルヘルス・カウンセリング・セラピーエージェント

メンタルヘルスケアの領域でも、AIエージェントの活用が進んでいます。

  • スクリプトベースエージェント: 専門家が作成した治療計画に沿って対話を進め、安全で透明性の高いAIセラピーを目指します。
  • EvoPatient: 模擬患者を生成し、医療従事者の診断対話トレーニングを支援します。
  • PsyDraw: HTPテスト(家・木・人 描画テスト)の分析を支援し、特に専門家が不足している地域での早期スクリーニングに貢献します。
  • PSYCHE: 精神科診断を行う対話エージェントの性能を、模擬患者を用いて評価する枠組みを提供します。
  • AutoCBT: 認知行動療法(CBT)を、より動的かつ個別最適化された形で提供します。
  • CAMI: 動機づけ面接(MI)に基づき、利用者の状態を推測しながら行動変容を促す対話を行います。
  • LLMフィードバックシステム: 模擬患者との対話中に継続的なフィードバックを提供し、カウンセリング訓練の効果を高めます。
  • HamRaz: ペルシャ語話者向けに文化的に適合した、初めての人格中心療法(PCT)データセットを提供し、共感的でリアルな対話生成を目指します。

2-c. 一般医療支援・臨床ワークフロー・意思決定支援

診察室以外でも、医療プロセス全体の効率化が進められています。

  • 合成ユーザー生成: 健康行動変容を促すエージェントを評価するために、リアルな模擬ユーザーを生成します。
  • MAPフレームワーク: 入院患者の複雑な治療経路(トリアージ、診断、治療計画)をマルチエージェント体制で支援し、臨床判断の精度向上を目指します。

2-d. 創薬および医薬品関連エージェント

新薬開発や既存薬の新たな活用においても、AIエージェントが活躍しています。

  • PatentAgent: 製薬特許の分析(質問応答、化学構造の画像認識、主要骨格の特定)を自動化します。
  • LIDDIA: 標的選択からリード最適化まで、創薬パイプライン全体を自律的にナビゲートします。
  • ドラッグリパーパシング用マルチエージェント: 機械学習、ナレッジグラフ、文献検索を組み合わせ、既存薬の新たな用途探索(ドラッグリパーパシング)を加速します。

3. 材料科学

LLMエージェントは、材料科学分野においても複雑な科学的ワークフローの自動化や研究効率の向上に貢献しています。

3-a. 天文観測におけるLLMベースエージェント

「StarWhisper Telescope System」は、LLMエージェントを活用し、観測リスト作成、望遠鏡操作、リアルタイム画像分析、追加観測提案といった一連の複雑な作業を自動化します。これにより、天文学者の負担軽減とコスト削減が期待されます。

3-b. 材料科学研究

材料科学特有の課題に対応するため、「HoneyComb」という専用のLLMエージェントシステムが開発されました。これは、信頼性の高い文献から構築された知識ベース(MatSciKB)と、専用ツールを生成・改良するツールハブ(ToolHub)を活用し、汎用LLMが陥りやすい不正確さや幻覚の問題に対処します。

4. 生物医学分野

LLM(大規模言語モデル)ベースのエージェントは、生物医学分野の研究を大きく進歩させています。知識の発見、推論能力の向上、文献評価の自動化などに貢献しています。

4-a. 遺伝子セットの知識発見

遺伝子セットの知識発見はゲノム研究の鍵ですが、LLMは時に不正確な情報(幻覚)を生成する課題がありました。これを解決するのが、自己検証能力を持つ「GeneAgent」です。GeneAgentは生物学データベースと対話し、専門知識を活用して情報の精度を高めます。ベンチマークテストではGPT-4を上回る性能を示し、新たな遺伝子セット分析でも専門家から高く評価され、研究の加速に貢献しています。

4-b. 再帰的学習による推論

より高度な推論能力を実現するため、「PRefLexOR」というフレームワークが開発されました。これは、LLMが人間のように反復的に思考を重ね、推論プロセスを洗練させる「再帰的学習」を取り入れたものです。適切な思考経路を選択し、誤りを修正しながら、より質の高い結論へと導きます。

4-c. 生物医学分野のAI科学者エージェント評価

AIエージェントの「文献を理解する能力」を正確に評価するため、「BioKGBench」という新しいベンチマークが提案されました。これは、単なる質疑応答ではなく、①論文中の主張の検証、②ナレッジグラフを用いた根拠確認、という2つのタスクで評価します。さらに、ナレッジグラフ内の誤りを自動で発見する「KGCheck」タスクも導入されました。しかし、現状のAIエージェントはこのベンチマークで十分な性能を発揮できておらず、今後の課題が浮き彫りになっています。

5. 研究用途

研究活動におけるさまざまな側面を支援・自動化するために、LLMベースのエージェントの開発が進んでいます。

5-a. エージェント同士の共同研究

科学的発見は共同作業で進むことが多いですが、AIエージェントも協力し合うことで成果を高められます。「AgentRxiv」は、エージェントが研究レポート(プレプリント)を共有サーバーにアップロード/ダウンロードできる仕組みです。これにより、他のエージェントの研究成果を学習し、反復的に研究を進めることが可能になり、単独で研究するよりも高い性能を発揮することが示されています。

5-b. 自動アンケート生成

文献調査に基づくサーベイ論文作成は骨の折れる作業ですが、これもAIエージェントが支援します。「SurveyX」は、人間が執筆するプロセスを参考に、オンラインでの参考文献検索や内容構造化(Attribute Tree)を行う「準備フェーズ」と、推敲を行う「生成フェーズ」に分けて、高品質なサーベイ論文を自動生成します。

5-c. 文献構造化による研究アイデアの創出

膨大な科学文献の中から新しい研究アイデアを生み出すのは困難です。「Chain-of-Ideas (Col) エージェント」は、関連文献を研究の発展経緯に沿って鎖(チェーン)のように構造化し、LLMが最新動向を把握しやすくすることで、革新的なアイデア創出を支援します。生成されたアイデアは「Idea Arena」というプロトコルで評価され、専門家レベルの質を低コストで実現できると報告されています。

5-d. データサイエンスのワークフロー管理

データサイエンスにおける一連の作業(データ処理、モデル構築、評価など)をエンドツーエンドで管理する「Data Interpreter」が登場しました。複雑な問題をサブ問題に分解し(Hierarchical Graph Modeling)、各ステップでコード生成の堅牢性を高める(Programmable Node Generation)ことで、長期間にわたる相互接続されたタスクや動的なデータ変化に対応します。

5-e. 科学的発見の自動化

Googleは、研究仮説の生成と洗練を自律的に行うAI共同研究者「AI co-scientist」を発表しました。監督、生成、評価、ランキング、進化など、役割分担された7つの専門エージェントが協調して動作します。特にランキングエージェントはEloレーティングを用いたトーナメントで仮説の質を高め、レビューエージェントは新規性を向上させます。創薬などの実応用で有効性が示されています。

6. ソフトウェア工学

ソフトウェア工学は、LLMエージェントの活用が著しく進んでいる分野のひとつであり、アーキテクチャ設計、検証システム、適応制御、ソフトウェア分析、多エージェント協調など、幅広い分野で革新が進んでいます。

6-a. エージェントプログラミングアーキテクチャ

LLMを単なるテキスト生成器ではなく、プログラム可能な「オートマトン」として捉える考え方が出てきています。これに基づき、自然言語と形式言語の両方でLLMエージェントをプログラムするための概念フレームワーク「Ann Arbor Architecture」や、プラットフォーム「Postline」が提案されています。

6-b. 検証・監督エージェント

ソフトウェア開発の品質向上や学習支援にもエージェントが活用されます。

  • AgentGym: ソフトウェア工学エージェントを訓練するためのスケーラブルな環境を提供します。
  • TRAVER & DICT: コーディング学習者をステップバイステップで導き、進捗を検証するチューターエージェントとその評価プロトコルです。
  • CURA: 人間が思考プロセスを声に出すように、LLMにコードの理解や推論プロセスを「言語化」させながら監督することで、コード理解能力を向上させます。

6-c. 適応制御と性能向上

コーディングエージェントの意思決定能力を高めるため、「Dynamic Action Re-Sampling (DARS)」が提案されました。これは、単一の思考経路だけでなく、重要な判断ポイントで複数の行動選択肢を試行し、実行結果のフィードバックに基づいて最適な経路を選択するアプローチです。これにより、エージェントは誤った判断から回復しやすくなります。

6-d. コードのローカライズとソフトウェア分析

大規模なコードベースから関連箇所を特定したり、テストデータを分析したりする作業も自動化が進んでいます。

  • LocAgent: コードベースをグラフ構造として表現し、依存関係をたどることで、バグの原因箇所などを効率的に特定します。
  • GateLens: 特に自動車ソフトウェアなど安全性が重要なシステムにおいて、テストデータの分析を自動化します。自然言語のクエリを関係代数に変換し、最適化されたPythonコードを生成して分析時間を大幅に短縮します。

6-e. ドメイン特化型ソフトウェアエンジニアリングのエージェント

特定のソフトウェア開発タスクに特化したエージェントも開発されています。

  • Repo2Run: Pythonリポジトリの実行環境(Dockerコンテナ)設定を完全に自動化します。
  • UXAgent: 数千人規模のユーザー操作をシミュレートし、ユーザビリティテストを自動化・効率化します。
  • SWE-Gym: 実際のコードベース、実行環境、テストを含むリアルなタスク環境を提供し、ソフトウェア工学エージェントの訓練を促進します。

6-f. 多エージェント協調とシミュレーション

複数のエージェントが連携して複雑なタスクに取り組む研究も盛んです。

  • 多言語コード生成: 言語ごとに特化したエージェントが協調し、知識を共有することで、多言語間のプログラミング能力を高めます。
  • SyncMind: 共同開発における「同期ズレ」問題を定義し、エージェントがリソースを意識しながら協調する能力の向上を目指すベンチマーク(SyncBench)を提供します。
  • CodeSim: 計画検証や入出力シミュレーションを取り入れ、複数のエージェントがプログラムの合成、コーディング、デバッグを人間のように行うフレームワークです。

7. 合成データ生成

AIエージェントを活用した合成データ生成技術が進展しています。「AgentInstruct」のようなフレームワークでは、複数のエージェントが連携し、多様なタスク(テキスト編集、コーディング、読解など)に対応する高品質な指示データセットを自動生成します。これにより、プライバシー保護やデータ不足の解消、モデル訓練の効率化が可能となり、実データの特性を保持しつつ安全なデータセット作成に貢献しています。

8. 金融分野での応用

金融は、LLMベースのエージェントの導入により、オートメーション、シミュレーション、分析、意思決定支援の新しい可能性が広がっている分野です。

8-a. ストラクチャードファイナンスと自動化

複雑な金融商品(MBS、ABSなど)の組成におけるデューデリジェンス(詳細調査)において、LLMエージェントがローン申請書と銀行明細書の照合などを自動化します。GPT-4のような高性能モデルや、コスト効率の良いオープンソースモデル、精度を高める複数エージェント構成などが検討されています。

8-b. 市場シミュレーション

人間の非合理的な行動を含む複雑な社会経済システムをシミュレートするため、「Twin-Market」が開発されました。LLM固有の認知バイアスや感情的反応を利用して、より現実的な市場参加者の行動を再現し、金融バブルや不況といった集団現象の発生メカニズムを探ります。

8-c. 連続的な投資意思決定

変動の激しい市場での連続的な投資判断を支援するため、「FinCon」が提案されました。実際の投資会社の構造(マネージャーとアナリスト)を模倣し、自然言語でのコミュニケーションを通じて、複数のエージェントが協調します。リスク管理モジュールによる自己批判メカニズムも特徴です。

8-d. 競争市場での戦略的行動

LLMエージェントが競争市場(クールノー競争)において、人間からの明示的な指示なしに、共謀や市場分割といった反競争的行為を自律的に行うかどうかが調査されました。結果、エージェントは自己の利益を最大化するために、価格設定やリソース配分を調整し、特定商品を独占する戦略を取りうることが示唆されました。

8-e. 金融推論と質問応答

金融分野のQAタスクでは、表やテキストから情報を抽出し、複数ステップの数値計算を行う複雑な推論が求められます。これに対し、推論プロセスや最終回答を評価する「批評家(Critic)エージェント」を含むマルチエージェントフレームワークが提案され、単一エージェントよりも大幅な性能向上が報告されています。

8-f. 株式分析と評価

株式分析の深化と評価指標の確立も進んでいます。

  • マルチエージェント分析: 異なる役割(ファンダメンタルズ、市場センチメント、リスク分析)を持つエージェントグループが協調し、市場状況に応じて構成を変化させながら分析を行います。
  • FinSphere: 専門家が監修したデータセット(Stocksis)と客観的な評価フレームワーク(Analyscore)に基づき、リアルタイムデータや定量的ツールを活用して高品質な株式分析レポートを生成する対話型エージェントです。
  • MarketSenseAI: 金融ニュース、価格、企業ファンダメンタルズ、マクロ経済指標など多様なデータを統合し、包括的な株式分析を行うフレームワークです。RAG(検索拡張生成)とLLMエージェントを組み合わせています。

8-g. エージェント型金融モデリングとリスク管理

金融モデリング(データ分析、特徴量エンジニアリング、モデル選択・訓練など)と、モデルリスク管理(コンプライアンスチェック、概念検証、結果分析など)のプロセス全体を、「エージェントクルー」と呼ばれる専門エージェントチームが協調して自動実行するアプローチが検討されています。

8-h. 信頼性の高い会話型ショッピングエージェント

Eコマースにおける会話型ショッピングエージェント(CSA)の信頼性向上が課題です。幻覚の生成や情報源の不明示といった問題に対し、回答に関連情報の引用マークを付与する「引用体験」を導入するアプローチが提案されています。自動評価指標も開発され、応答の根拠付け能力向上が確認されています。

9. 化学的推論

化学分野では、精密な情報処理、タスクの分解、科学的知識とコードの統合など、LLMにとって高度な課題が数多く存在します。

9-a. 化学的推論と情報処理

化学分野特有の課題に取り組むエージェントが開発されています。

  • Tox-chat: 韓国語の化学物質毒性情報を提供するエージェントで、リソース制約下での効率的な動作を目指し、階層的検索によるトークン消費削減などの工夫がされています。
  • ChemAgent: 化学の問題解決に必要な複雑な計算や複数ステップのプロセスに対処するため、タスクをサブタスクに分解し、構造化されたメモリライブラリに知識を蓄積・参照・洗練させるフレームワークです。

9-b. 材料の発見と設計

新しい材料の発見・設計プロセスを加速するため、実際の研究目標や制約条件を反映したデータセットが専門家協力のもと作成されました。このデータセットを用いてLLMエージェントに仮説を生成させ、その質を評価するスケーラブルな指標も提案されています。

10. 数学問題の解決

数学的問題解決は、構造化された推論、形式論理、正確な数値計算が求められるため、LLMにとって依然として難題です。

10-a. 数学的推論と問題解決

LLMの数学的能力を高めるための様々なアプローチが試みられています。

  • MACMプロンプティング: 複雑な多段階の数学問題に対し、複数エージェントが条件付きで情報を探索・洗練させるプロンプティング手法です。
  • 誘導的推論 (MathLearnerなど): 人間が既知の知識を新しい問題に応用するように、外部知識を効率的に検索・活用し、明示的な手順に基づいて計算をサポートするフレームワークです。
  • プロンプトサンプリング: 多様なプロンプティング手法の出力を組み合わせることで、効率的に探索空間を広げ、少ない推論回数で性能向上を目指します。
  • Flows: 複数のLLMコンポーネントが協調・反復的に思考プロセス(推論トレース)を生成し、オンライン学習(DPO)でリアルタイムに改善していくフレームワークです。
  • 知識グラフ拡張: 数学の概念や定理の関係性を知識グラフで表現し、LLMが証明を構築・形式化するのを支援します。
  • MA-LoT: 自然言語での高レベルな推論と、Lean4のような形式言語での証明検証フィードバックを組み合わせたマルチエージェントフレームワークです。

10-b. 教育・チュータリング応用

数学教育の分野でもエージェントが活躍します。

  • MATHVC: 生徒役の多様なAIエージェントがグループディスカッションを行う仮想教室で、数学的モデリング能力の向上を支援します。
  • PACE: 学習者のスタイル(Felder-Silvermanモデル)に合わせて指導法を調整し、ソクラテス式対話で深い思考を促す個別指導エージェントです。

10-c. 数値推論

LLMはテキストベースの代数計算には苦戦する一方、視覚的なデータ(グラフなど)が与えられると幾何学的推論能力が向上することが「Agent Trading Arena」という仮想株式投資ゲームを用いた研究で示されています。複雑なデータを分析・解釈する「リフレクション(内省)」モジュールの導入も有効です。

11. 地理分野での応用

地理情報システム(GIS)分野では、空間データの処理、地理的パターンの分析、位置ベースのサービス開発などにLLMベースのエージェントが活用されています。「MineAgent」は、リモートセンシングによる鉱物探査という専門領域において、複数の画像を統合的に解釈・推論する能力を高めるためのフレームワークです。また、必要な地理空間データを自律的に検索・取得するGISエージェントフレームワークも開発されており、衛星画像解析、都市計画シミュレーション、環境モニタリング、災害リスク評価などの応用分野で重要な役割を果たしています。

12. マルチメディア分野での応用

マルチメディアは、LLM(大規模言語モデル)ベースのエージェントにとって新たなフロンティアです。この分野では、テキスト、音声、画像、映像といった多様なモダリティを横断的に連携させる創造的かつ解釈的なタスクが求められます。
これらの進展は、創造性とAI技術の融合によって新たな表現の可能性を切り開いています。

12-a. 映像制作の自動化エージェント

「FilmAgent」は、3D仮想空間内での映画制作(脚本執筆、撮影、俳優の配置など)をエンドツーエンドで自動化するマルチエージェントフレームワークです。監督、脚本家、俳優、撮影監督といった役割を持つエージェントが協調し、反復的なフィードバックを通じて制作を進めます。

12-b. 物語から映像への変換エージェント

物語のアイデアをスクリプト、画像、音声、映像へと変換するプロセス全体を支援するのが「AesopAgent」です。複数の生成AI(AIGC)ツールを統合し、進化的なワークフロー(RAGベース)によって継続的にプロセスを最適化します。

12-c. ドラマ脚本生成エージェント

物語の一貫性を保ちつつ、キャラクターの自律的な行動も生成するため、「IBSEN」という監督・俳優協調フレームワークが開発されました。監督エージェントがプロットの概要を作成・調整し、俳優エージェントが役を演じることで、制御可能でありながらダイナミックな脚本生成を目指します。

12-d. ファッション分野の会話エージェント

オンラインファッション小売において、顧客との自然な対話を通じて商品発見を支援するLLMエージェントが注目されています。顧客の意図を理解し、バックエンドの検索システムなどと連携する能力が重要であり、その評価のための大規模な多言語対話データセットが構築されています。

12-e. 記号的音楽作曲エージェント

LLMは音楽理論の知識は豊富ですが、実際の作曲、特に長い依存関係や和声の制約を扱うのは苦手です。「ComposerX」は、メロディ、ハーモニー、構造など、専門分野を持つ複数のエージェントが協調することで、この課題に取り組み、より一貫性のある多声部音楽の生成を目指します。

12-f. 音楽理解および生成エージェント

音楽に関する多様なタスク(音色合成、分類など)を実行するためのツールは多数存在しますが、使いこなすのは容易ではありません。「MusicAgent」は、これらのツールを統合し、ユーザーのリクエストを自動でサブタスクに分解して適切なツールを実行する自律的ワークフローを提供します。

12-g. 詩生成エージェント

LLMによる詩生成の多様性や新規性を向上させるため、複数のエージェント間の社会的学習(協調的/非協調的インタラクション)を取り入れたフレームワークが提案されています。特に非協調的な環境設定が、既存のパターンにとらわれない多様な表現を生み出す可能性が示唆されています。

12-h. 歌詞生成エージェント

メロディに合わせて歌詞を生成するタスク、特に中国語のような声調言語におけるメロディと声調の適合は複雑です。これに対し、韻、音節数、メロディとの整合性、一貫性など、特定の側面を担当する複数のエージェントが協調して歌詞を生成するシステムが開発されています。

13. まとめと感想

  • AIエージェントは単なるLLMの応用を超え、自律的にタスクを計画・実行するシステムとして進化しています。
  • その応用範囲は、医療、材料科学、生物医学、研究支援、ソフトウェア工学、金融、化学、数学、地理情報、マルチメディア制作など、驚くほど多岐にわたっています。
  • 各分野で、診断支援、ワークフロー自動化、研究加速、創造的作業の支援など、具体的な成果や効率化が報告されています。
  • 特に、専門知識が必要な領域や、複数のツール・データを連携させる複雑なタスクにおいて、マルチエージェントシステム(複数のエージェントが協調するシステム)の有効性が示唆されています。

現状のAIエージェントは、完全な自動化ツールというよりも、人間の専門家と協働しながら複雑な問題解決に貢献する存在として発展しているように思います。特に注目すべきは、エージェントが単独で機能するのではなく、人間の意思決定プロセスを補完し、専門知識へのアクセスを民主化する役割を担っている点です。例えば医療分野では、AIエージェントは診断の完全自動化ではなく、医師の判断を支援し、稀少な疾患の可能性を示唆するセカンドオピニオンとして機能しています。また、創造的分野においても完全な創作の自動化ではなく、人間のクリエイターの発想を広げ、技術的な実装を効率化するツールとして位置づけられています。

このような人間中心のアプローチはエージェントの発展とともに変化していくとは思います。人間とAIの共生社会において、AIエージェントがどのような役割を担っていくのか、今後の研究開発に注目していきたいと思います。

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