AIが人の意識を変えられるか ~ 持続可能性への意識を高めるゲーム EcoEcho
こんにちは。ZENKIGENデータサイエンスチームの川﨑です。所属チームでXアカウントを運用しており、AIに関する情報を発信していますのでご興味あれば覗いてみてください。
図1. 本研究で作成されたゲーム「EcoEcho」のイメージ図。Can AI Prompt Humans? Multimodal Agents Prompt Players' Game Actions and Show Consequences to Raise Sustainability Awarenessより引用。
論文は以下になります。
背景
化石燃料の大量消費といった行動は持続不可能である、と先進諸国では広く認識されていると思います。しかし、持続不可能な行動がもたらす影響は長期的に現れることが多いため、個人の行動の影響を認識し省みることは難しいと考えられます。
そこで、本研究ではプレイヤーが自身の行動の結果をすぐに体験できるようなゲーム環境を提供することで、持続可能性への意識を高めることができるかを検証しました。
EchoEchoとは
図2. EcoEchoのゲームステージを描写した図。Can AI Prompt Humans? Multimodal Agents Prompt Players' Game Actions and Show Consequences to Raise Sustainability Awarenessより引用。
EcoEchoはエネルギー開発に関する意思決定を行うロールプレイングゲームです。プレイヤーは近未来から現代にタイムトラベルし、クリーンエネルギー開発を妨害するという役割を演じます。
図3. EcoEcho内の行動により、環境が変化する様子を示した図。Can AI Prompt Humans? Multimodal Agents Prompt Players' Game Actions and Show Consequences to Raise Sustainability Awarenessより引用。
ゲームは様々なNPCとの対話を通して進行し、プレイヤーの選択によって環境が変化する様子が視覚的に表現されます。ゲーム中で度々プレイヤーは元いた未来に戻るのですが、その際にタイムトラベルした行動の結果を体験します。
この過程でプレイヤーはゲームの目的と自身の倫理観との間で葛藤を感じることとなります。プレイヤーが操作するキャラクターの個人的な動機と社会の利益のトレードオフに直面するような展開となっており、プレイヤー自身が持続可能な開発の難しさを深く考える仕組みです。
実験概要
23名の参加者を対象に、以下の手順で実施されました。
1. 事前調査
ゲームセッションの2週間前に、参加者のバックグラウンドと環境持続可能性に対する意識を調査するアンケートを実施しました。
環境問題に対する態度と持続可能な行動を測定するために、一般生態学的行動(GEB)と新生態学的パラダイム(NEP)の尺度を利用しています。
2. ゲームセッション
参加者は各自のPCで提供されたオンラインリンクにアクセスしてゲームをプレイしました。
ゲームは様々なNPCとの対話を通して進行し、最終的にプレイヤーの選択によって環境が破壊された未来となるか、環境が保たれた未来となるかが決まります。
ゲーム中にいくつかアセスメントが組み込まれており、持続可能なエネルギーに対する参加者の態度から、ゲーム中の行動に変換されることでゲームが進行します。また、AIエージェントとの対話ログも記録し、ゲーム中の対話を分析しました。
また、セッションは約60分間続き、謝礼として10ドルのギフト券が贈られているとのことです。
3. 事後調査
ゲーム終了後、事前調査と同様の質問票を用いてアンケートを実施し、参加者の環境持続可能性に対する意識を評価しました。また、ゲームの様々な側面に対する満足度を調査しました (今回の記事では割愛しています)。さらに、半構造化インタビューを実施し、AIエージェントとゲーム自体が、ゲームプレイを通じてエネルギー問題に対する参加者の態度にどのような影響を与えたかを定性的に調査しました。
結果
ゲーム内投票の結果
図4. EcoEcho内で取得される、持続可能なエネルギー政策に対する態度をリッカート尺度で回答した結果をヒートマップで表した図。Can AI Prompt Humans? Multimodal Agents Prompt Players' Game Actions and Show Consequences to Raise Sustainability Awarenessより引用。
図4は、EcoEcho内で取得された持続可能なエネルギー政策を支持するかの投票の結果です。
各行が参加者のことを示し、各列は左から順に何度目の投票かを示しています。色が濃いほど持続可能な政策に賛成、薄いほど反対な態度を意味します。ゲームプレイの過程でプレイヤーは4回、投票を行う機会があります。
最初の投票は、環境に対する態度が多様に分布していることがわかります。
そこからゲームが進み2, 3回目の投票(中央2列)ではほとんどのプレイヤーがゲームの目的に従い、持続可能なエネルギーの政策に反対する投票を行っています。
しかし、ゲーム終了後の4回目の投票(右側の列)では、多くのプレイヤーが持続可能なエネルギーの政策に賛成する投票を行っていることがわかります。
態度と行動の変化
図5. 実験参加者の一般生態学的行動(GEB)と新生態学的パラダイム(NEP)という尺度が、参加前後でどう変化したかを比較した図。Can AI Prompt Humans? Multimodal Agents Prompt Players' Game Actions and Show Consequences to Raise Sustainability Awarenessより引用。
本研究では、持続可能性に対する態度と行動を測定するために、一般生態学的行動(GEB)と新生態学的パラダイム(NEP)という尺度を使用しています。GABは行動を測定する尺度で、NEPは態度を測定する尺度です。
図5のa, cより持続可能性に対する行動は有意に増加しましたが、図5のb, dより持続可能性に対する態度は大きな差はないことがわかります。統計的仮説検定でも、有意差は見られませんでした。
また、何名かの参加者は、プラスチックの使用量を減らしたり電気自動車の購入を検討したりするなど、現実の世界でも持続可能な行動をとるようになったと報告しています。
ゲームの中ではエネルギー政策といった日常の生活で関わることがあまりないと考えられるコンテンツを通して、日常の生活の行動に変化が現れたという内容は非常に興味深いと感じました。
まとめ
以上、EcoEchoというAIを用いたゲームで人の持続可能性への意識を高めることができるかを検証した研究の紹介でした。論文内ではNPCの設定や、対話 / ストーリー展開を決定する仕組みといったEcoEchoの仕組みの解説も詳細に行われています!興味がある方は、ぜひ論文も読んでみてください!
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