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コミュニケーションAIを「弱いロボット」から考える

2024/08/23に公開

こんにちは。ZENKIGENデータサイエンスチームの勝田です。今回は「弱いロボット」をヒントにコミュニケーションのあり方について考えてみました。
所属チームでXアカウントを運用しており、AIに関する情報を発信していますのでご興味あれば覗いてみてください。

自分主体のコミュニケーション

2010年以降、AIが当たり前に日常に溢れるようになって我々の生活は便利になりました。Amazonはいい感じの商品を、Netflixはいい感じの作品をお勧めしてくれる。夕食がめんどくさいときはUberに頼む(これも最適解の計算にAIが使われているはず)。

シンプルに言うと「自分の期待したこと」の実現が容易になったと言えます。ChatGPT以降、AIと自然言語をインターフィエイスとしたやりとり = 対話が自然になり、今まではAIができることに合わせて人間が妥協していた部分が、自然言語の曖昧さを学習したAIによって妥協する必要が無くなりつつあります。

サービスとはユーザーの期待(〜欲望)を満たすもの。それはそうなのですが、そこにフォーカスしすぎたサービス設計は隙がなくなります。「ハンドルのあそび」がなくなるというか。目的に沿ったコミュニケーション、自分の期待通りに動くサービス。それらに囲まれたとき、果たして我々は幸せといえるのでしょうか?

自分の欲望が満たすためのコミュニケーションは、他者との対話ではありません。自分自身の独り言のようなものになるのでしょうか?

弱いロボット

弱いロボットとは、何でもできるドラえもん的なロボットとは異なる方向性を目指したロボットのことで、研究者の岡田美智男さんが提唱・開発してきました。私の理解でざっくり説明すれば、サービスが自己完結しておらず、周囲の人間やロボットの動きを取り込むことで完成されるシステムのことです。

何のこっちゃだと思うでしょうが、以下の動画(3分程度)がよくまとまっていますのでぜひ。

https://www.youtube.com/watch?v=2I5v4x_6Xzg&t=126s

「ユーザーの欲望を満たすことを目的にしていない」ことが「弱いロボット」の大事なポイントだと私は思いました。岡田さんと情報学研究者のドミニク・チェンさんとの対談も参考になります。「ロボットにゴミを入れよう」なんて、そもそも最初の時点ではユーザーは思いもしなかった。ロボットが困ってそうだから何となく協力した。「協力することで優しい気持ちになれる」効果がある、と最もらしいことを言えるかもしれませんがあくまで副次的な効果。それを主目的にしたら「弱いロボット」の良さがなくなってしまいます。

仮説

目的のあるコミュニケーションは確かにあります。営業でお客さんのニーズを掴んだり、旅行代理店で旅行先を決めたり。しかし目的のないコミュニケーションもあります。友人や家族との雑談などがそうですね。

ただ個人的にはAIと雑談をするのはまだ抵抗があります。そもそも雑談が得意ではないというのもありますが、別に仲良くなるつもりもないしなぁと。いきなり場をセットされて「無目的に対話してください」と言われてもそれはそれで迷子になります(リモートワークのときに流行った?「雑談MTGを設定する」というモヤモヤに似ているかもしれません)。

そこで弱いロボットをヒントにしてみます。弱いロボットでは彼らの動きや発声に合わせてユーザーが動きたくなります。これは一種のアフォーダンスでしょう(アフォーダンスとは「ドアに回せる突起があれば、それを持って回す」ように環境側から人間の行動を促すようなことを指します。詳しくはWikipedia参照)。

ユーザーの目的に沿いすぎず、アフォードするような会話が設計できないだろうか?ユーザーは求めてないのに、勝手にAI側からやってくる。でも手伝ってやるかとユーザーが思えるような。たとえば、悩み事相談とかに似ているのかな?と仮説を立ててみました。悩みを受ける側は、悩みを持ち込まれる事を予め期待したりはしない(占い師でもない限り)。でも悩みを聞いてあげるのは悪い気はしない、場合もある。心に余裕があるときとか?むしろ悩みを受けることで余裕が少しできるのでしょうか?

そんなことを考えてみました。

試行

というわけでお悩み後輩botを作ってみました。公開リンクなので興味あれば試してみてください。

ボットが悩みを持ってくるので、ユーザーは先輩になったつもりで相談に乗ります(最初にこちらから「悩みがあるの?」と聞かないといけませんが)。ユーザーへのメリットの設計は特にしていないです。ビジネスのサービス設計のセオリーは完全無視。あえて言うなら先輩風を吹かしたい人向け?そのくらい無意味な感じ。目的志向ではなく、向こうから来るコミュニケーションの在り方ができるのか試してみました。

会話例は以下のようなりました。


感想

「逆の視点から話すことで、かえって自分の考えが整理できた」みたいなことはポイントではないです。それでは目的志向になってしまい、最初から「メンターAI」を作り込めば良いので。ここでのポイントは「自分は別に悩んでいない」が外部から勝手に持ち込まれた情報に反応することなのだと思います。今、特に自分が想定もしていない話を聞いたので、ちょっと考えてみる。するとそこにエアポケットのようなものができる。目的志向ではないコミュニケーションには、そのような志向や心の余裕を作る働きがあるのではないかなぁと感じました。

実際に作って会話してみて(ビジネスに役に立つかどうかはともかく)コミュニケーションには多様な側面があることを忘れずに日々サービス開発をしていこうと改めて思いました。

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