エンジニアの引っ越し対策:集合住宅の配線方式
はじめに
エンジニアはネットワークにうるさい生き物です。そんなエンジニアが新居に引っ越すとき、気になるのはネット回線の品質です。しかし若手のうちはお金に余裕があるはずもありません。そして安くて古い物件に引っ越そうとするとネットワーク環境の問題にぶつかります。
私事ですが、今回新居を探すにあたってネットワークの品質確保に苦労しました。そのため、これから引っ越しを行う方向けに、集合住宅における配線方式の概要を調べてまとめたいと思います。
なお、私はインフラの専門家でもネットワークの専門家でもありません。そのため、この記事も専門家の方に向けたものではありませんのでご了承ください。とってもカジュアルな記事です。
代表的な配線方式
代表的な方式として光配線方式、LAN配線方式、VDSL方式の3つがあります。建屋によっては複数の方式を採用することもあったり、これら以外の方式もありうるので、あくまで代表的なものだけということにご留意ください。
集合住宅外の回線 | 集合住宅内の回線 | 一般的な最大速度 | 品質 | |
---|---|---|---|---|
光配線方式 | 光ケーブル | 光ケーブル | 1~10 Gbps | 🥳 |
LAN配線方式 | 光ケーブル | LANケーブル | 100 Mbps | 🙂 |
VDSL方式 | 光ケーブル | 電話回線 | 100 Mbps | 🙄 |
配線方式といっても、基本的に集合住宅の外には違いはありません。その入り口までは光ケーブルが届いています。つまり、その後に各部屋まで何で繋いでいるかによって方式が異なるということですね。イメージをまとめると次のようになります[1]。
MDF (Main Distribution Frame) とは、外部(NTT収容局)へ繋がる光ケーブルや電話回線等の配線を束ねている装置のことです。主配電盤ともいい、それが置かれている部屋のことをMDF室といいます。
プロバイダとの契約プランにもよりますが、基本的に光配線方式なら安心できます。一般的な方(たとえば家での通信機器はスマートフォンしか触らないなど)なら他でも満足できるかもしれません。しかし大きなテレビで高画質のAmazonプライムビデオやNetflixを見たりする場合、光配線方式以外では悲しい思いをする可能性があります。
これらの方式は壁に埋め込まれたポート(差込口)を確認すればわかります。こういう点を気にする人は、内見に行くとすぐに壁の隅ばかりを確認する悲しい生き物になりがちです。注意しましょう。
配線方式 | ポート | 見た目 |
---|---|---|
光配線方式 | 光コンセント | 一体型と分離型がある。「光」の記載がある |
LAN配線方式 | LANポート | 「LAN」と記載がある |
VDSL方式 | モジュラージャック | 「TEL」と記載があることが多い |
それぞれ実際の画像を検索してみれば、すぐにイメージをつかめると思います。とくに光コンセントは「光」という文字があるのですぐにわかります。すぐに安心できます。デザインもうちょっとなんとかならなかったのでしょうか。
各配線方式の概説
ここからは各方式の詳細をざっくりと見ていきます。
🥳光配線方式
現在主流の方式です。電柱から棟内共用スペースに光ケーブルを引き込み、スプリッタで分岐します。そこから各々の部屋に繋ぐのにも光ケーブルを使います。築10年未満ならこの方式が多いのではないでしょうか。
部屋まで直接光ケーブルが来ていることが大きな特徴です。このような方式をFTTH (Fiber to the Home) といいます。光ケーブルが届けるものは単なる光信号なので、終端装置(ONU)を利用してデジタル信号に変換する必要があります。基本的にONUはレンタル機器なので、プロバイダが提供してくれるはずです。
「機器がひとつ増えるなんてダメじゃないか」と考える方もいるかも知れません。しかし後述するように、ONUが各部屋に個別にあること自体が光配線方式のメリットとも言えます。
図中の光ケーブルAは1 Gbpsか10 Gbpsの規格が使われます。時期にもよりますが、1 Gbpsの機材が導入されていることが多いようです。したがって、各部屋から光ケーブルBで大量の通信を行った場合、光ケーブルAがボトルネックとなる可能性が0ではありません。といっても概ね数100 Mbpsは出るはずなので、それで困ることは少ないはずです。
メリットとして部屋まで直接光ケーブルが届いているため、もっとも品質の劣化が少なく高速です。また、スプリッタは電源が不要であるため工事も楽になります。
🙂LAN配線方式
外部から届いた光ケーブルの信号をONUでデジタル信号に変換し、スイッチングハブで分離して各部屋にLANケーブルで繋ぎます。イーサネット方式とも言います。光配線方式には劣りますが、後述のVDSL方式よりはまともな回線です。
このように光ケーブルが集合住宅の入り口まで届いているものをFTTB (Fiber to the Building) といいます。
このLANケーブルはカテゴリ5 (Cat5, 最大100 Mbps), カテゴリ5e (Cat5e, 最大1 Gbps) が多いようですが、後者であれば光ケーブルと遜色ありません。ではなぜ速度に差が出るのかというと、その要因として
- ONUを集合住宅全体で共有している
- スイッチングハブの性能限界
が考えられます。設備は古いままなのにサービスが要求する通信量は爆発的に増加しているのですから、限界に達するのも当然かもしれません。ただ、以下の報告を読む限りでは、設備の更新ができれば1 Gbpsまで回線の性能を引き出すことも可能なようです。
また、新規に集合住宅を建てる場合は、次の理由から光配線方式が優先されるようです。いずれも工事面なのでオーナー側のメリットですね。
- 光ケーブルはLANケーブルより細く、設置するほうが簡単[2]
- 光配線方式のスプリッタとは異なり、スイッチングハブには電源が必要
🙄VDSL方式
VDSLとはVery high-speed Digital Subscriber Lineの略です[3]。ざっくり言えばLAN配線方式のLANケーブルが電話回線(メタルケーブル)に代わったものです。かつてADSLというものがありましたが、それの高速版だと捉えてもよいです。
ONUやスイッチングハブ(電話回線の場合はVDSL集合装置で分離します)を共有しているという点はLAN配線方式と同じです。しかしそれ加えて、電話線の最大速度は100 Mbpsなので原理的に上限値が低いのです。また、電話回線はノイズ対策を行っていないものが多く、周囲の家電製品の影響を受けます。電子レンジの影響なんて考えたくありませんね。さらに一般にレイテンシーが遅い場合が多く…とデメリットを挙げ出したらきりがありません。
メリットとして導入コストの低さがあります。もとからある電話回線を利用できるため、集合住宅のオーナーからすると最低限の手間でインターネット対応住宅を謳うことができます。もちろん、以前は一般的だったので、そのまま放置しているケースも多いです。
まとめとどうしようもない場合には
代表的な配線方式について私が調べた限りをまとめました。こちらに記載ではカバーできていないもの(とくに大手通信事業者以外を利用する場合)もたくさんあります。新居を探す際に気になる場合は、まず仲介業者を通して管理会社に確認するところから始めるとよいと思います。
また、例外もあると思いますが、インターネット無料を謳っている物件は基本的に期待できません。ひとつの回線を複数の入居者で利用することになるため、速度はもちろん安定性が低いです[4]。一応「別途プロバイダ契約はできるか?」と確認してから考えるのもよいです。
以上を踏まえて、光配線方式ならおそらく問題ないはずです。しかし、それ以外の物件に住みたい場合は悩ましいところです。その場合はホームルーターも検討しましょう。私に利用経験はないのですが、まずはNURO Wireless 5Gやドコモ home 5Gなどの対応エリアを調べるのもありかもしれません。
参考ページ
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集合住宅からNTT収容局までは同じですね。この収容局の先はプロバイダに繋がっています。 ↩︎
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一般的なLANケーブル(スタンダードタイプといいます)は外径5.7mm、光ケーブルは外径1.7〜2.0mm程度です。 ↩︎
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ChatGPTにジョークを考えてもらったら、Very Delayed Speed LineやVery Disappointing Speed Limitを挙げてくれました🫠 ↩︎
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実体験としてSUUMOやHOME'Sなどを毎日毎日見ていましたが、インターネット無料物件はかなり多いです。プリンシプル住まい総研の調査によると全国35.3%の物件が無料だそうです。管理会社側に詳しくない方も多いでしょうし、トラブルも絶えないんだろうなと想像してしまいます。 ↩︎
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