エンジニア出身の私が読んだ「コンサルタント3年目までの必修ビジネススキル」
エンジニア出身の私が読んだ「コンサルタント3年目までの必修ビジネススキル」
――若手コンサルタントが越えるべき“7つの要所”と、プロとしての心構え
はじめに:技術職から「思考職」への転身
私はITエンジニアとしてキャリアを積み重ねてきたが、今年からコンサルタントとしての授業・業務にも携わり始めた。
エンジニアとしては、ロジックや技術力に一定の自信がある。
しかし「コンサルタント」という立場になると、まるで未知の世界に足を踏み入れたような感覚があった。
プロジェクトの目的を定義し、課題の本質を見極め、解決策を構想する。
――これまでの“どう作るか”ではなく、“なぜ作るのか”を問う世界。
そんな新しい役割の中で、自分の立ち位置を再構築する必要を感じて手に取ったのが、望月安迪氏の
『コンサルタント3年目までの必修ビジネススキル ― キャリアを踏破するためのサバイバルマップ』だった。
この本は、コンサルタントが日々直面する悩み・不安・壁を「7つの要所」として描き出し、
それを乗り越えるプロセスを通じて“プロフェッショナルとしての在り方”を教えてくれる。
7つの要所:思考と行動の地形を読み解く
本書で提示される「7つの要所」は、若手コンサルタントがキャリアの初期に必ず通過する“成長の地形”として設計されている。
- 思考の密林 ― 論理の複雑さに迷い、課題をどう整理するかを学ぶ
 - コンサルワークの急流 ― プロジェクトのスピードと多忙さを乗り切る作法を身につける
 - マインドセットの洞窟 ― 不安・焦り・迷いと向き合い、プロ意識を確立する
 - チーム連携の裂け目 ― 仲間と成果を出すための“自律と協調”のバランス
 - 上司連携の峠 ― 指導を受け、信頼を築くための報連相設計
 - クライアントフェイシングの断崖 ― 顧客の前で自分の考えを“言葉にして価値化”する
 - 自己完結性のプラトー(高原) ― 自走力と再現性を備えたプロフェッショナルへの昇華
 
この構成は、単なるスキルセットの羅列ではない。
むしろ、「自分との向き合い方 → チーム・上司・顧客との関わり → 自立への到達」 という成長の軌跡を示している。
特に前半の「密林」「急流」「洞窟」は、自分自身との対話が中心だ。
“どう考えるか”、“どう動くか”、“どう立ち向かうか”。
この3つの問いを通じて、自分の中にあるプロフェッショナリズムの軸を磨いていく構造が非常にわかりやすい。
命のろうそく(ライフマネジメント):疲弊を前提に設計する
本書の中で特に印象的だったのが、「命のろうそく」という考え方だ。
著者は明確にこう述べる――
「コンサルティングワークは過酷であることを前提に設計せよ」 と。
つまり、“どうすれば疲れないか”ではなく、
“疲れることを前提にどうマネジメントするか”を考える。
この考え方を支えるのが、ライスポイント・MP(マジックポイント)という概念だ。
自分の限界・集中力・回復方法を可視化し、日々の仕事をエネルギーマネジメントの視点で最適化する。
これはまさに「人間というシステムを運用する設計思想」であり、エンジニア出身者には非常に馴染みやすい。
特に、「どれほど優秀でも不安や焦燥は避けられない。重要なのは、それを制御可能にすることだ」というメッセージは強く響いた。
不安を排除するのではなく、 前提として認めた上で自分を設計する
この視点が、プロとしての第一歩だと痛感した。
対外関係のマネジメント:チーム・上司・顧客を統合する
中盤から後半では、「チーム」「上司」「クライアント」という3つの関係軸が登場する。
ここでは、コミュニケーションスキルを超えた関係設計の技術が語られる。
- チーム連携の裂け目では、報連相は単なる情報伝達ではなく、“目的共有”のプロセスだと説く。
 - 上司連携の峠では、「上司をマネジメントする」視点を持つことが提唱される。指示を受けるだけでなく、上司の期待を読み解き、先回りして成果を出すという姿勢だ。
 - クライアントフェイシングの断崖では、顧客の前で“考えを言語化する力”が問われる。ここで求められるのはプレゼン技術ではなく、「曖昧な課題を、構造化された提案に変換する力」である。
 
エンジニアとしての自分にとって、特にこの“外在化する思考”は大きな挑戦だった。
それまで頭の中で完結していた論理を、他者が理解できる言語に変える。
この一連のプロセスは、まさに「思考を可視化する技術」であり、
コンサルタントとして最も磨かねばならない能力の一つだと感じた。
結論:プロフェッショナリズムとは「迷いを設計すること」
本書は、コンサルタントのためのスキル教本ではない。
むしろ、「不安」「混乱」「消耗」といった現実を前提に、
それをどうマネジメントし、どう越えていくかを描いた思考のサバイバルマップである。
若手コンサルタントとして大切なのは、迷わないことではなく、
“迷いながら進むための地図を持つこと” だ。
この一冊は、まさにその地図を与えてくれる。
エンジニアとしての論理力を土台にしつつ、
人・組織・顧客と向き合う「思考職」としての自分をどう鍛えるか。
その答えが、本書の中に凝縮されていた。
おわりに:すべての“越境者”へ
技術からビジネスへ、専門職から思考職へ。
越境する人間にとって、最初にぶつかるのは「自分の限界」だ。
本書は、その限界を恐れず、構造的に乗り越える方法を教えてくれる。
「プロとは、迷いながらも設計できる人間である」
この言葉に尽きる。
これからコンサルタントとして歩み始める人に、そして自分自身のキャリアを再設計したい全ての人に、
強く薦めたい一冊だった。
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