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AIエージェント構築ガイド:8本の資料を横断して要点を整理

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AIエージェント構築ガイド:8本の資料を横断して要点を整理(2025-09-11時点)

以下のリンクに含まれる内容を読み合わせ、重なり・相違・実装の勘所をまとめました。
対象資料:Anthropicの実践ガイド、OpenAIの公式PDF、LangChainの「Context Engineering」、Cognitionの提言、Lilian Wengの体系記事、長文コンテキストの失敗例、Anthropicのマルチエージェント研究の要点まとめ(Zenn)、および添付画像(トピックのアイキャッチ)。


まず全体像(要約)

  • 「まずは単純に、必要なときだけ複雑に」:多くの成功事例は、巨大なフレームワークよりもシンプルで合成可能なパターンから始めている。複雑化(マルチエージェント化など)は効果が実証できる段階で段階的に導入するのがよい。(t.co)
  • OpenAIの公式観点:エージェントは「LLMがツールを使いながら自律的にワークフローを遂行する仕組み」。まず単一エージェント+ツールで作り、必要に応じてマネージャー型分散(ハンドオフ)型のマルチエージェントへ拡張する。評価・ガードレール・人手介入の設計が中核。
  • コンテキストは生命線:エージェントが長時間・多ツールで動くほど「何を文脈に入れるか(Context Engineering)」が最重要課題になる。選ぶ/書く/圧縮する/隔離する、の4戦略で制御するのが現在の主流。(t.co)
  • 「長いコンテキスト=強い」ではない:長大なプロンプトは中毒・混乱・衝突・分散注意などの故障モードを誘発し、性能を落とす。要約・選別・ツール選定のRAG化などで必要最小限を入れるべき。(t.co)
  • マルチエージェントは両刃:Anthropicは調査系などで有効事例を提示する一方、Cognitionは**「むやみにマルチにするな」**と警鐘。並列化の旨味はあるが、文脈共有と意思決定の一貫性を壊しやすい。(t.co)
  • 古典だが有用:Lilian Wengの総論は、計画・記憶・ツール使用を柱に据えたエージェント設計の基礎を整理。現在の議論の土台。(t.co)

各資料の要旨(時系列順)

1) Lilian Weng「LLM Powered Autonomous Agents」(2023-06-23)

  • エージェントを計画(Task分解・自己反省)/記憶(短期・長期)/ツール使用で構成。ReAct、Reflexion、CoH、ToTなど代表手法を概説。(t.co)

2) Anthropic「Building effective agents」(2024-12-19)

  • 単純で合成可能なパターンから始める勧告。ワークフロー(固定経路)とエージェント(動的決定)の峻別。プロンプト連鎖/ルーティング/並列化/オーケストレーター-ワーカー/評価者-最適化ループなどの設計パターンを提示。(t.co)

3) OpenAI「A practical guide to building agents」(公式PDF)

  • 定義:LLMが意思決定し、ツールで外部作用し、失敗時は停止・移譲できるシステム。

  • いつ作るか:ルール自動化が苦手な曖昧・例外多い業務や非構造データ中心の業務で効果が高い。

  • 基礎:モデル選定→ツール設計(Data/Action/Orchestration)→明確な指示(手順化・分岐・例外)→オーケストレーションへ。

  • オーケストレーション

    • 単一エージェントを基本に、ループ(run)で終了条件まで回す。
    • マルチマネージャー型(エージェントをツールとして呼び出す)と分散ハンドオフ型(状態を渡して引き継ぐ)。
  • ガードレール:関連性・安全・PII・モデレーション・ツール安全度などを層状防御で。人手介入も明示。

4) LangChain「Context Engineering」(2025-07-02)

  • 選んで入れる/外に書く(スクラッチパッド・記憶)/圧縮(要約・トリミング)/隔離(サブエージェントやサンドボックス・状態オブジェクト)の4類型に整理。LangGraph/LangSmithで状態管理・長期記憶・評価を支援。(t.co)

5) Drew Breunig「How Long Contexts Fail」(2025-06-22)

  • 失敗モードを4Cで整理:Poisoning/Distraction/Confusion/Clash

    • 例:ツールを多く渡すほど関数呼び出し精度が低下(BerkeleyのFunction-Calling L/B観察)、段階的プロンプト“分割”で大幅性能低下(Microsoft+Salesforceの研究)。(t.co)

6) Anthropic「How we built our multi-agent research system」要点(Zennの抄訳・解説、2025-06-15)

  • オーケストレーター-ワーカー構成で調査を並列化。トークン投下量が性能に強く相関、ただしコストは高騰(通常チャット比で単体≈4倍、マルチ≈15倍という目安)。プロンプト設計・ツール選定・人員(エージェント数)配分の運用則を提示。(t.co)

7) Cognition「Don’t Build Multi-Agents」(2025-06-12)

  • 原則1:文脈を共有(完全なトレース共有)原則2:行為は暗黙の決定を内包(矛盾は破局)
  • マルチは意思決定の分散と文脈不整合で壊れやすい。基本は単一スレッドの直列エージェント+履歴圧縮モデル(必要なら微調整モデル)で長期運転。(t.co)

共通テーマと相違点

  • 共通

    • 最小構成→実証→拡張の順で進める(単一エージェント+ツールから)。(t.co)
    • コンテキスト管理が決定打。長ければ良いわけではなく、選別・要約・隔離が鍵。(t.co)
    • 評価とガードレールを早期から組み込む(関連性・安全・PII・人手介入)。
  • 相違

    • マルチエージェントの評価:Anthropicは調査系での有効性を主張(並列思考容量の増加)。Cognitionは実運用では脆いとし、文脈共有と意思決定一貫性を満たせない設計は避けるべきと警告。(t.co)

実装の勘所(具体)

1) いつエージェント化するか

  • 曖昧さ・例外が多い/ルール保守が困難/非構造データ主体の業務(例:返金審査、保険請求、複雑なCS対応)。

2) 設計の順序

  1. モデル選定:まず最強モデルでベースライン→小型モデルへ置換でコスト・遅延最適化

  2. ツール設計

    • Data(検索・R/W取得)/Action(副作用)/Orchestration(他エージェント呼び出し)を明確化。
  3. インストラクション:既存手順をLLM向け手順に落とし込み、明確なアクションと分岐・例外を定義。

  4. オーケストレーション

    • 基本は単一(runループ+終了条件)。
    • マルチマネージャー型(サブエージェントをツールとして呼ぶ)かハンドオフ型(状態ごと移譲)。どちらも文脈の受け渡しを設計。

3) コンテキスト設計(Context Engineering 4手)

  • Write(外に書く):スクラッチパッド・長期記憶。長対話の要約や計画の保存に使う。(t.co)
  • Select(選ぶ):メモリ/RAG/ツール定義もRAGで選択して過多を防ぐ。(t.co)
  • Compress(圧縮):階層・再帰要約、自動コンパクト等で履歴を縮約。(t.co)
  • Isolate(隔離):サブエージェントやサンドボックス実行状態オブジェクトで重いデータをLLM外に保持。(t.co)

4) 長文文脈の落とし穴(対策)

  • 4C対策

    • Poisoning:要約時の事実検証/ツール結果の書き戻しレビュー。(t.co)
    • Distraction:モデル毎の**注意上限(Distraction ceiling)**を把握し、閾値超えで要約・トリム。(t.co)
    • Confusion:ツールのRAG選択で同時提示数を絞る。(t.co)
    • Clash:段階取得の際は**初期仮説の“残骸”**を残さない要約・整合処理。(t.co)

5) 評価と運用

  • 自動評価の導入(正解率・成功解決率・ツール誤用率・トークン/成功あたりコスト)。人手介入の基準:失敗閾値超過高リスク行為(返金・支払など)。

6) コスト設計の現実

  • 調査系マルチ構成は性能↑だがトークン激増(例示:単体≈4倍、マルチ≈15倍)。まず単一強化新モデル移行で効率を上げ、その後に並列化を検討。(t.co)

役立つ設計パターン(いつ使うか)

  • プロンプト連鎖(Prompt Chaining):工程を分割、各工程を小タスク化して精度↑。校正→翻訳など。(t.co)
  • ルーティング:問い合わせ種別で下流処理・モデルを切り替え(例:Haikuへ簡易質問、Sonnetへ難問)。(t.co)
  • 並列化(セクショニング/投票):複数視点での評価・検知、スピード最適化。(t.co)
  • オーケストレーター-ワーカー:未知の下位タスク数が多い開発・検索で有効。(t.co)
  • 評価者-最適化ループ:明確な基準がある場合に反復改善。(t.co)
  • マネージャー型マルチ:各専門エージェントをツール化して呼ぶ(文脈一元化しやすい)。
  • 分散ハンドオフ型マルチ:役割ごとに実行権限を移譲(トリアージ→専任)する運用向け。

最小構成チェックリスト

  • 問題特性は曖昧・例外多い・非構造か?(そうでなければ従来自動化を検討)

  • 単一エージェントで開始(終了条件・リトライ上限・失敗時停止を実装)。

  • ツールは最小限から(Data/Action/Orchestrationを明記、説明文は短く用途を限定)。

  • Context Engineering

    • 重要事実はスクラッチパッドへ書き出し
    • RAGで選別し、閾値超えで要約
    • 必要ならサンドボックス/状態で隔離 (t.co)
  • ガードレール+人手介入を初期から(関連性・安全・PII・ツール安全度、エスカレーション条件)。

  • 効果検証:成功率・コスト/成功・ツール誤用率をダッシュボード化し、小型モデル置換で最適化。


まとめ(実務メッセージ)

  1. まず単一エージェント+少数ツールで価値検証 → 評価とガードレールを敷いてから段階的に拡張。
  2. 文脈を“設計”する:入れる・書く・縮める・分けるを意図的に。長文一括投入は避ける。(t.co)
  3. マルチは目的限定:調査の並列や役割分担には効くが、文脈共有と意思決定整合の設計ができないなら避ける。(t.co)

出典

  • Anthropic: “Building effective agents” (2024-12-19). (t.co)
  • OpenAI: “A practical guide to building agents” (公式PDF).
  • LangChain: “Context Engineering” (2025-07-02). (t.co)
  • Drew Breunig: “How Long Contexts Fail” (2025-06-22). (t.co)
  • Zenn(ML_Bear): Anthropic「How we built our multi-agent research system」要点(2025-06-15/17)。(t.co)
  • Cognition: “Don’t Build Multi-Agents” (2025-06-12). (t.co)
  • Lilian Weng: “LLM Powered Autonomous Agents” (2023-06-23). (t.co)

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