高専/専攻科のすゝめ
すっかり遅くなってしまいましたが、pyspa 2021アドベントカレンダーの12月22日目の記事です。
- 21日: Shinichi Nakagawaさん
- 23日: Yutaka Matsubaraさん
はじめに
高専ってご存知ですか? 多分知ってる方は多いと思います。
それでは、専攻科はご存知ですか?こちらは、高専ほど知られていないのではないかと思います。
そこでもっと高専や専攻科を知ってほしい!!と思い、この記事を書きました。
本記事は、高校受験について考えている中学生とそのご両親、そして現役の高専生/専攻科生を対象にしています。
まとめ
- 高専とは5年制の教育機関であり、中学卒業後(15歳)から入学することが可能です
- 実践的技術者を養成する機関であり、専門的な知識を学ぶことができます
- 高専を卒業=準学士と称することができます
- 卒業後は、大学進学、専攻科進学、就職を選ぶことができます
- 高専は全国に 51箇所 あり、就職率は ほぼ100%
- 専攻科とは、高専卒業後に進学可能な、2年間の高度な技術者教育の機関です
- 社会人技術者の受け入れもあり、企業との共同研究も可能となります。
- 専攻科を修了かつ学位授与機構の条件を満たす=学士の学位を得られます
- 卒業後は、大学院進学、就職を選ぶことができます
- 高専、専攻科は選択肢(可能性)を多く持てる機関だと思います
- 大学進学までを視野にいれると、公立高校→国立大学と比較して高専→専攻科のほうがおよそ100万円安くなるため、技術者を目指す人にとってはコスパが良いです
- 高専に7年通いながら技術者を目指して学士の称号を得るほうが経済的にはお得です
- 高専, 専攻科について知りたい場合は国立高等専門学校機構のページ を参考にすると良いです。
- 高専、専攻科を経由する進学ルートは大きく以下の5パターンです(Fig.1参照):
- 中学卒業後に進学
- 高等学校卒業後に高専4年生として編入学
- 高専卒業後に大学3年生として編入学
- 高専卒業後に専攻科に進学
- 専攻科修了後に大学院へ入学
Fig.1 高専、専攻科関連の進路(国立高等専門学校機構 国立高等専門学校の学校制度上の特色 を参考に筆者が作成)
高専/専攻科 はいいぞ!!!!
以降は、経験談や上記要約の詳細がダラダラと続きます。
ここまで読んでいただいてありがとうございました!
高専(KOSEN)とは?
- 5年制の学校で、全国に 51箇所 あります(全国高専リンク)
- こちらのページに置いてある KOSEN 2020年度より抜粋
- 実践的技術者を養成する機関であり、専門的な知識を学ぶことができます
- 機械工学、電気工学、電子情報工学、物質工学、建築学、商船、など
- 高専を卒業すると、準学士 の称号を得ます
- 2005年10月までは短期大学卒業者も準学士でしたが、それ以降は 短期大学士 となっているそうです(NIC-Japan 日本の教育制度等についての質問 より抜粋)
専攻科とは?
- 高専5年間を学んだあとに通うことができる2年間の技術者教育を行う機関です
- 専攻科を修了し、学位授与機構の定めた条件を満たすと 学士 の学位を得ることができます。
- 大学卒業時と同じ学位です
ここからは、高専/専攻科の特徴を紹介していきます。
高専の特徴
私が伝えたい高専の特徴について、両親目線と学生目線の2つから紹介していきます。
良いか悪いかは各自で判断していただければ!!
両親目線
学士取得までの期間で比較すると、コストが低い
高専→専攻科へと進学した場合、公立高校→国立大学と比較すると約100万円安いです。
Table.1-1, 1-2 および Table.2-1, 2-2 は下記の進学ルートにおける入学金+授業料の総額を比較した表です。
(A) 高専5年間+専攻科2年間
(B) 公立高校3年間+国立大学4年間
Table.1-1 各教育期間における入学料/授業料の目安(支援金制度を受けられる場合)
教育機関 | 入学料(初年度のみ) | 授業料(年間) | 在学年数(年) | 授業料(合計) | 支援金制度 | 総額 |
---|---|---|---|---|---|---|
高等専門学校(1) | ¥84,600 | ¥234,600 | 5 | ¥1,173,000 |
¥356,400 (2) |
¥901,200 |
専攻科(1) | ¥84,600 | ¥234,600 | 2 | ¥469,200 | 0 | ¥553,800 |
公立高校(3) | ¥5,650 | ¥118,800 | 3 | ¥356,400 |
¥356,400 (4) |
¥5,650 |
国立大学(5) | ¥282,000 | ¥535,800 | 4 | ¥2,143,200 | 0 | ¥2,425,200 |
Table. 1-2 高専+専攻科と公立高校+国立大学の比較(支援金制度を受けられる場合)
教育機関 | 総額(7年間) |
---|---|
高等専門学校 + 専攻科 | ¥1,455,000 |
公立高校 + 国立大学 | ¥2,430,850 |
Table.2-1 各教育期間における入学料/授業料の目安(支援金制度を受けられない場合)
教育機関 | 入学料(初年度のみ) | 授業料(年間) | 在学年数(年) | 授業料(合計) | 総額 |
---|---|---|---|---|---|
高等専門学校 | ¥84,600 | ¥234,600 | 5 | ¥1,173,000 | ¥1,257,600 |
専攻科 | ¥84,600 | ¥234,600 | 2 | ¥469,200 | ¥553,800 |
公立高校 | ¥5,650 | ¥118,800 | 3 | ¥356,400 | ¥362,050 |
国立大学 | ¥282,000 | ¥535,800 | 4 | ¥2,143,200 | ¥2,425,200 |
Table.2-2 高専+専攻科と公立高校+国立大学の比較(支援金制度を受けられない場合)
教育機関 | 総額(7年間) |
---|---|
高等専門学校 + 専攻科 | ¥1,811,400 |
公立高校 + 国立大学 | ¥2,787,250 |
中学卒業してからの3年間で見ると圧倒的に公立高校のほうが安く済みますが、大学卒業までを視野に入れた場合は、高専→専攻科のほうが約100万円安くなります。
選択肢が豊富
再びこの図を使って説明します。
Fig.1 高専、専攻科関連の進路(国立高等専門学校機構 国立高等専門学校の学校制度上の特色 を参考に筆者が作成)
高専、専攻科の進路である図中の青の矢印について補足します:
- 中学卒業後に進学
- 高等学校卒業後に高専4年生として編入学
- 高専卒業後に大学3年生として編入学
- 高専卒業後に専攻科に進学
- 専攻科修了後に大学院へ入学
高専に進学した場合の多くは、以下のタイミングで選択肢が現れます。
- 高専5年: 大学編入 or 専攻科進学 or 就職
- 専攻科2年: 大学院入学 or 就職
15歳から寮生活を経験させることができる
高専は各県に1つ以上という状況ですので、居住地によっては寮に入る学生も少なくないと思います。実際に寮生だった同級生は下記のようなことをコメントしていました:
- 洗濯と掃除もやるし、必需品(ボディソープ、洗剤、夜食)も買わないといけないからお金のやりくりを早くからやれてた。好きなもの買うためにおやつ我慢ってのはあったかも
- 学科の壁を超えて人と繋がれる機会が多いため、良い刺激を受けやすかった
受験が簡単になった
国立高等専門学校機構は、来春入試から、受験生が居住地の最寄り会場で全51校の国立高専を受けられる制度を本格的に導入する。新型コロナウイルスで都道府県を越えた移動に対する懸念への対応と経済的な負担の軽減で、中学生が高専受験に挑戦しやすくする。
(【独自】全国の高専入試、最寄り会場で…移動に配慮し経済的負担より一部抜粋)
昨今の国内の状況を鑑みると、とてもありがたい配慮ですね。
学生目線
さてここからは学生目線での特徴を説明していきます。
「生徒」から「学生」へ
私が高専に入学したてのときに、先生から教えられました。高専は工業高等教育機関であり、大学と同じカリキュラムということで「学生」としての自覚を持て、と。
最初は不安だけどすぐ慣れる
シラバス(講義要目)って何?単位
って何?と最初はサッパリでしたが、先輩かやたら詳しい同級生が親切に教えてくれるのですぐに慣れます、大丈夫です。
16〜20歳の熱い時期を5年間一緒に過ごせる仲間は一生モノ
高専の仲間とは今でもオンラインで話したり、自宅IoTの環境構築についてああでもないこうでもないと言い合えるような仲です。自分が1年生の頃の5年生はめっちゃ怖かったり、カッコよかったり、なんだか憧れました(すごい大人の人という印象)こんな経験ができるのも、高専の醍醐味かなと思います。
赤点は60点、なんにも勉強しないと留年する可能性はある
赤点が60点(もともと50点でしたが、途中から変わりました)なのは厳しいですが、ちゃんとノートを取っていれば回避はできると思います(少なくとも3年までは)4年からの専門科目については、先生の出題傾向を把握することと、とにかく質問しまくることがポイントだと思います。テスト前はみんなでファミレスに行って夜遅くまで勉強...というか遊んでました笑。
「宿題」ではなく「レポート」
なんかカッコイイのでスムーズにレポートという単語が定着しました。やる量は多かったです。
「センパイ」ではなく「〜さん」
「〜さん」だと色々な状況の変化に対応しやすいんだとかなんとか。
就職先に高専出身の方がいると「高専あるある」で打ち解けやすい
実際にそうでした。
実験/演習天国
3年あたりから実験/演習が多くなりました。やってるときは超楽しいのですが、レポートが辛かったです。専用のレポート表紙と片/両対数グラフを買いに売店まで走ってたことを思い出します。
- 思い出に残る実験や演習:
- A4用紙1枚でなるべく頑丈な橋を作る実験
- A4用紙1枚を加工して、高所から落とした際の滞空時間を長くする実験
- Z80を使って簡単なアセンブラを書く(実験というか演習でした)
- HTMLタグを打って自分のホームページを作成する演習
- 好きなプログラミング言語を選んで、自分で考えたゲームをプログラムする演習
- 私はC言語でタイピングゲームを作りました。
- もうやりたくない実験:
- ノギスで金属の棒を100回くらい計測してその平均値などを求めるという物理実験
高い就職率
ほぼ 100% です。これは本当に凄いです。
就職率については 国立高等専門学校機構の 本科卒業者, 専攻科修了者の進学率 を参照してください。
校則が割と自由
当時、携帯電話は学校持ち込みOKでした。当然、授業中に鳴らすのはNGでしたが。
私は当時N504i→N901iCを使っていました。高専によりけりですが、バイトも許可を取ればOKでしたし、バイク通学も可能でしたのでありがたかったです。
1-3年は制服、4-5年が私服
これも高専によりけりで、1年次から私服の高専もあります。 私は4年から私服でした。
私服になって気づいたことは、制服はめちゃくちゃ楽だったということです。
イベントが豊富で、盛り上がる
球技大会、ロボコン、プロコン、高専大会、体育祭、文化祭(高専祭)などイベントごとが沢山あります。
特に体育祭、高専祭はもの凄く盛り上がります。高専にもよるかもしれませんが、高専祭のクオリティは異次元ですのでぜひ遊びに行くことをオススメします。
それと、英語のスピーチコンテストやホームステイなども興味があれば体験できます。
会いに行ける場所と人がいる!
高専はよっぽどのことがない限りはなくならないと思いますし、先生方もあまり異動はない印象です。いつでも母校に行くことができるし、恩師に会いに行けるというのは幸せなことだと思います。
専攻科の特徴
両親目線の特徴は、上記で出尽くしたためこちらでは省略します。
学生目線
他学科の分野のことも学べるので楽しい
私は情報系でしたが、機械学科のロータリーエンジンをバラす実験
や、建築学科のコンクリートを作って割裂試験をやる
など両手を真っ黒した経験は今でも覚えています。
プレゼンする機会が増えるため良い練習になる
専攻科でも本科5年時同様、2年間で課題研究を行いそれをプレゼンする必要があります。また、専攻科によっては外部発表あるいはインターンシップを必須とする専攻もあり、様々なジャンルのプレゼンを行うため良い練習になります。思い出すだけでも以下のプレゼンを行いました:
- 医療補助器具のプロトタイプを作ってプレゼン
- チャタリングを考慮に入れた原子電卓のプログラムをZ80あたりで書いてプレゼン
- ソーティングアルゴリズムの時間計算量の導出部分を説明するプレゼン
- インターン先での経験をまとめてプレゼン
- 世の中の不思議を1つ取り上げてそれをプレゼン
- 思いついたアイディアをカタチにしてそれをプレゼン
- 地域活性化の支援活動を行った結果をプレゼン
- 自身の研究発表
ほぼ研究に専念できる
最初の半年は講義が多いですが、残りはほとんど研究に専念できました。 マイ時間割を作って笑いが止まらない曜日ができたりします(丸一日研究、みたいな)
大学院試験に向けた勉強は自然とやれた
受けようとしていた大学院が難易度的に「勉強しないとマジでやばい」レベルだったためか、焦って過去問を調べて問題を解いてました。先生方、あの頃は特にお世話になりました。
履歴書を書くのが面倒
多分ですが、国立○○工業高等専門学校
だけでも問題ないと思います。私は正式名称を書かねばならんと思っていましたので、下記のように書いていました。
独立行政法人国立高等専門学校機構〇〇工業高等専門学校○○工学科 卒業
独立行政法人国立高等専門学校機構〇〇工業高等専門学校 専攻科 ○○○○コース 入学
独立行政法人国立高等専門学校機構〇〇工業高等専門学校 専攻科 ○○○○コース 修了
・・・長っ!!
おわりに
最後に私から高専生、そしてこれから高専生になる方へ向けたエールを。
- 専門科目の勉強頑張れ!卒研頑張れ!良いお年をお過ごしください。
- きっかけは何でもいい。将来設計も今はなくていい。考え続けることとやり抜くことが大事
- 私が高専を選んだ理由は「父が勧めたから」で学科を選んだ理由は「一番難しい学科だから挑戦してみたい」でした。最初はこんなものでした。
- 学生生活の中で「何をしてるときが一番楽しいか」「何をやりたくないか」「得意なことは何か」をなんとなく考え続けてみてください。一人じゃわからないときは先生や友達に話してみると整理しやすいと思います。
この記事を作成するにあたり、ヒアリングに協力してくれた同級生(寮生)の友人2名に感謝を。ありがとう!
トリビア
P.S. Zennで初めての投稿になります。次回は注釈の使い方をマスターしたい
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