意外と手軽、家庭用 10 Gbps+ イーサネットまとめ
我が家に NAS を導入するに当たり、業務用の価格にならず 10 Gbps 以上のイーサネットを導入したく、様々調査したのでいくつかまとめ記事を書こうと思います。結果的には $600 程度(8万円程度)でNAS 1台、クライアントPC 2台を 25 Gbps で接続できました。
この情報は2023年1月現在の情報に基づきます。また、筆者はアメリカに住んでいますので、調達できる機材はアメリカで入手できるものが中心ですが、軽く検索した感じ日本でも入手できるものが多そうでした。
途中に規格名など出てきますが、すべてを網羅するものではなく、代表的なものだけを挙げています。詳しくは他のサイト(Wikipediaやメーカーサイトなど)を参照ください。
速度と予算
下記に速度別に大まかな最低予算を示します。光のNIC予算にはトランシーバー(モジュール)費用も含みます。アメリカ価格で eBay や AliExpress を探した価格を参考までに記します。探した感じ、日本でもちょっとプラスぐらいで買えるものもあったりしますので、価格の傾向をつかむ参考になれば幸いです。
速度 | ケーブル | NIC予算 | スイッチ予算 | おすすめ度 | 中古 |
---|---|---|---|---|---|
2.5G | Cat5e | 標準~$20 | $200 | ○ | 限られる |
5G | Cat6 | $100 | $300 | ☓ | 限られる |
10G | Cat6a | $100 | $300 | △ | 限られる |
10G | 光 | $50 | $200 | ◎ | 豊富 |
25G | 光 | $140 | $1,000 | ◎ | ほとんど無い |
40G | 光 | $50(中古) | $500(中古) | 新品☓ 中古◎ | 豊富 |
100G | 光 | $150(中古) | $800 | ○ | NICは豊富、スイッチは無い |
この他、50G、200G、400G、800G も規格としては存在しますが、メリットが少なかったり、一般家庭で買える値段ではないので割愛します。 200G 以上必要な場合は場合によっては link aggregation などを使うと良いでしょう。
モジュールの価格は参考で、 Cisco などの純正品ではなく、FS.com や 10Gtek などのいわゆるジェネリック品の価格です。当然ですが価格は変動しますので、目安程度にお願いします。調査したのは2023年1月8日です。
ツイストペアか、光ファイバーか
LAN を構築するときに条件が全く変わってくるのがツイストペアケーブルを用いるか、光ファイバーケーブルを用いるかです。
ツイストペアケーブル(UTP)は入手性が良く、作りも頑丈なため取り扱いが気楽です。その半面、速度が限られ、10 Gbps 以上になると消費電力やレイテンシ、安定性という面で厳しくなってきます。
光ファイバーケーブルは速度面で非常に有利で、ネットワーク機器の消費電力が少なくてすみます。10 Gbps 以上のネットワークはこちらが中心になります。欠点としては金属では無いので扱いを少し気を使うところです(折れると危ない)。価格や意外と安く、例えば Amazon.co.jp で 「OM3 光ファイバー 」などと検索すると、数百円から数千円で買える光ファイバーが出てくると思います。
短距離(数メートル)であれば DAC と言われるケーブルを使うと、トランシーバー無しで安価に接続することも可能です。詳しくは FS の Use High Speed Direct Attach Cable for Data Center Interconnection などを参照ください。2, 3メートルを超える場合は通常通り光ファイバーを使ったほうが安くなる場合もあります。
光ファイバーの種類
光ファイバーにはシングルモード(SMF)とマルチモード(MMF)があります。違いは様々ありますが、近距離であればMMFが中心、100メートルまたは300メートルを超える距離はSMFが必要というのが最大の違いです。ケーブル自体はSMFが安く、機器はMMFが安い、という傾向があります。
現在一般的に 10G 以上のイーサネットで使われる光ファイバーの種類は次の4種類です。
規格 | 種類 | 25G での伝送距離 | ケーブル価格 | モジュール価格 |
---|---|---|---|---|
OM3 | MMF | 70 m (SR) | 中くらい | 安い |
OM4 | MMF | 100 m (SR) | 高め | 安い |
OM5 | MMF | 100 m (SR) | かなり高い | 安い |
OS2 | SMF | 10 km (LR) | 安い | 高い |
ファイバーそのものとは別に、コネクタにもいくつか種類があり、速度や規格によって使うものが異なります。
速度 | MMF コネクタ | SMF コネクタ |
---|---|---|
25G まで | LC (SR) | LC |
40G | MPO-12 (SR4) | LC |
100G | MPO-12 (SR4), LC (SWDM4) | LC |
ご覧のように、SMF はどれだけ早くなっても同じコネクタでどこまでも使い回せますが、MMF は 40G からコネクタが変わってきます。LC は行き帰り2本のファイバーで通信(duplex)しますが、MPO は複数のファイバーを束ねてつなぐ規格です。当然ファイバーの本数も変わってきます。
40G や 100G で使われる MPO-12 は、数字の通り12本の光ファイバーを束ねて使うもので、相応に値段が高くなります。ある程度の距離になると SMF にしたほうがトータル安い場合があります。例えば 50 m の MTP-12 OM4 は FS.com で $329 します。特に中古の光モジュールが安く手に入る場合は、SMF を検討してみましょう。
短距離(100 m 以下)でファイバーの交換が比較的しやすいところで LC 端子の規格を使う場合は、モジュール価格の安い OM3 や OM4 が良いでしょう。家の壁の中を通す場合で、将来 40 Gbps 以上を使う可能性がある場合は SMF を引くほうがファイバー交換の手間を考えると無難だと思います。
40G 以上は現状 MMF は MPO を使うのがメインですが、100G に限ると、従来の LC コネクタで 25G までと互換性を保つ規格がいくつか提案(SWDM4, VR1, SR1 など)されているので、それらが手頃な価格になるころには既存ファイバーを使い回せるかもしれません。
200G 以上はまだ個人では難しいと思いますが、SMF OS2 ケーブルの LC コネクタを使う規格は引き続き存在します(200GBASE-FR4、400GBASE-FR4 は FS.com のジェネリック品でそれぞれ$1,000しますし、そもそもジェネリック品を買わない大企業メインだと思います)。一方 MMF は、200GBASE-SR4 では MPO-12、400GBASE-SR8 では MPO-16 と、ファイバーの本数が増えていきます。 SMF を引いておけば子の代まで大丈夫でしょう。
光モジュール
光ファイバーを NIC やスイッチに接続する場合に、通常のツイストペアケーブルのように直接挿すのではなく、SFP+, SFP28 といった規格の端子に挿さる、光モジュール(トランシーバー)を使います。一般的に MMF 用のモジュールは安価、SMF 用のモジュールは同額(10G)か高価(25G以上)です。
最近の機器で一般的に使われる端子の種類は下記のとおりです。
速度 | 規格 | 互換性 |
---|---|---|
1G | SFP | - |
10G | SFP+ | SFP と後方互換 |
25G | SFP28 | SFP+ と後方互換 |
40G | QSFP+ | SFP+ に4分割できるケーブルあり |
100G | QSFP28 | QSFP+ と後方互換, SFP28 に4分割できるケーブルあり |
ベンダーによっては自社ブランドの光モジュールしか使えないようにロックインしている場合があります。Gigabit and 10-gig Ethernet fiber SFP slots and lock-in に少し情報がありますが、Cisco, Intel などはロックインしてるようです。心配な場合は互換品で特定のベンダーにファームウェアを調整しているものを買いましょう。
光コネクタ・アダプタクリーナー
光ファイバーはホコリが付くと正常にリンクしなくなります。クリーニングキット(例えばペン型のこういうの、二種類あるが KOC-125 が LC コネクタ用)を一つ持っておくと便利です。コネクタの露出しているところを清掃するだけなら、キムワイプでもいいらしいです。
直接接続か、スイッチ利用か
10 Gbps を超えるとネックになるのはスイッチ(ハブ)の価格です。 10 Gbps までであれば、ツイストペア、光ファイバーともにスイッチが数万円で手に入りますが、25 Gbps、100 Gbps となってくると最低でも十万円以上となってきます。クライアントの数が2台以下であれば、デュアルポートのNICなどを活用し、直接接続するのも手です。
10 Gbps 未満
1 Gbps を超え、 10 Gbps に満たない中、家庭で気軽に導入できるのは 2.5GBASE-T と 5GBASE-T の二種類です。 Cat5e または Cat6 のケーブルを再利用できるのが最大のメリットで、機材の価格も新品でも2万円以下で手に入るものが多いです。5GBASE-T は専用品というものは探した限りほとんど無く、10 Gbps 対応品が5 Gbps も対応する、というものが多いです。
最近のハイエンドPCでは 2.5G が標準搭載というものも多いので、そういう場合にも費用が抑えられます。一方 5G が活躍する場面は、Cat6 を転用しないといけない場合に限られると思います。
気軽な反面、速度は限られます。既存のケーブルをどうしても使いまわしたい場合か、PoE を利用して電源供給したい場合に限られるでしょう。
規格 | 速度 (Gbps) | ケーブル | 伝送距離 |
---|---|---|---|
2.5GBASE-T | 2.5 | Cat5e | 100 m |
5GBASE-T | 5 | Cat6 | 100 m |
10 Gbps
10 Gbps ではツイストペア(Cat 6a)と光ファイバーの両方が存在します。光の方が価格が安い、消費電力が低い、安定している、伝送距離が長い、中古が豊富などの特徴がありますので、光を導入するのをおすすめします。ただし、既存の壁配線が Cat6a である場合など、ツイストペアを活用したい場面もあると思います。その場合は 10GBASE-T を選択することになるでしょう。
光ファイバーを使った規格は 10GBASE-SR (MMF), 10GBASE-LR (SMF) を筆頭に多数存在しますが、通常はこの二種類になると思います。10 G に限って言えば MMF と SMF の機器の価格差はほとんど無いので、どちらを使っても良いと思いますが、40G 以上にアップグレードする場合は上で書いた通りコネクタの種類が微妙に変わってくるので、ラック内やデスク周辺は MMF、壁の中は SMF とするのがおすすめです。
スイッチの価格もさほど高くなく、新品でも5万円以下で買える選択肢が非常に多いので、バランスの多い選択肢でもあります。家庭内LANで接続したいクライアント数が多い場合などは第一の選択肢になってくるでしょう。私は最初に 10GBASE-T を検討し、買った NIC が不安定だったので光ファイバーの導入に切り替えました。
おすすめ NIC: AliExpress や eBay で Mellanox Connect-X 3 の中古が$30から、新品が $50から購入可能です。
規格 | ケーブル | コネクタ | 伝送距離 | モジュール価格(新品/中古) |
---|---|---|---|---|
10GBASE-T | Cat6a | RJ45 | 100 m | $45/$35 |
10GBASE-SR | MMF(OM3/OM4) | LC | 300 m/400 m | $15/$8 |
10GBASE-LR | SMF(OS2) | LC | 10 km | $15/$9 |
10GBASE-CR | Twinax | - | 7 m | 1 m で $11/$10 |
10GBASE-T を SFP+ で使う注意点
SFP+ で 10GBASE-T を使う場合の注意点は 3 つあります。
- 10GBASE-SR が 1 W 未満の消費電力で動作する中、10GBASE-T は 3 W 前後のモジュールがほとんどです。5ポートだと 10GBASE-SR が 3~4W に対して、10GBASE-T だと 15 W 近くになります。当然発熱が増え、複数使用するとかなり熱くなります。スイッチの電源回路によっては不安定になるものもあるようです。
- 10GBASE-T の 100 m 上限とは別に、多くのモジュールは 30m までの動作を想定しています。中には 80m までのモジュールもあります(例: FS SFP-10G-T)が、相応に価格が高く、発熱も増えます。
- 中には 2.5GBASE-T や 5GBASE-T 非対応の製品があります。
10GBASE-T の SFP+ モジュールに関しては、詳しくは STH のレビュー記事 その1、その2 が参考になります。
25 Gbps
25 Gbps からは光ファイバーのみになります(規格としては25GBASE-T, 40GBASE-T が存在しますが、私の知る限り製品は存在しません)。NIC の価格はそれほど高くないので、機器同士を直接接続する場合におすすめです。反面、新しい規格なのでスイッチの価格が高く、中古が少ないです。光モジュールは SFP28 という規格を採用し、SFP+ と後方互換性があります。
おすすめNIC: AliExpress や eBay で、Mellanox Connect-X 4 の中古が $100 ぐらいから手に入ります。新品でも $150 から $200 程度です。
スイッチが必要な場合、$1,500 以下で選択可能な選択肢はたいへん限られます。軽く調べたところ、次の3つが主な選択肢になると思いますが、ポート数も多く半分業務用に足を突っ込んでしまいます。ハイエンドGPUぐらいの価格ではあるので、必要であれば検討する価値はあるでしょう。
- UniFi Switch Pro Aggregation ($899)
- QNAP QSW-M5216-1T ($1,199)
- Mikrotik CRS518-16XS-2XQ ($1,490)
規格 | ケーブル | コネクタ | 伝送距離 | モジュール価格(新品/中古) |
---|---|---|---|---|
25GBASE-SR | MMF(OM3/OM4) | LC | 70 m/100 m | $25/無 |
25GBASE-LR | SMF(OS2) | LC | 10 km | $50/$40 |
25GBASE-CR | Twinax | - | 5 m | 1 m で $26/無 |
中古価格はぱっと eBay で検索した限り、LR 以外見つかりませんでした...
40 Gbps
40GBASE の規格は、中身は 10GBASE を4本束ねたような構造になっており、光モジュールも QSFP+ という SFP+ を4本束ねたものを使います。中古が多く、安く高速なネットワークを構築できるメリットはありますが、規格としては行き止まりで、新製品の中心は 25G と 100G に移行しています。
中古を集めて安価に 25G を超える速度を実現するにはおすすめです。スイッチも業務用の中古をうまく見つければ数百ドルで手に入るでしょう。
NIC は eBay で中古の Mellanox ConnectX-3 が $30 程度から手に入ります。
規格 | ケーブル | コネクタ | 伝送距離 | モジュール価格(新品/中古) |
---|---|---|---|---|
40GBASE-SR4 | MMF(OM3/OM4) | MPO-12 | 100 m/150 m | $40/$10 |
40GBASE-LR4 | SMF(OS2) | LC | 10 km | $300/$40 |
40GBASE-CR4 | Twinax | - | 7 m | 1 m で $30/$10 |
100 Gbps
100 Gbps は家庭用として入手性が良く、価格が高くなりすぎない中では最高速度のイーサネットです。現在の 100GBASE は 25GBASE を4本束ねたような仕組みをしています。光モジュールも QSFP28 という、SFP28 を4本束ねたものを使います(他にもありますが新しいのは QSFP28 が多いです)。
スイッチはさすがに高価なものが増えますが、Mikrotik CRS504-4XQ-IN が新品で $800、QSFP28 を4ポート備えた品となっています。その他に Mikrotik CRS518-16XS-2XQ ($1,490) も QSFP28 を2ポート備えています。
NIC の予算としては、eBay で中古の NIC (例: Mellanox ConnectX-4 VPI MCX455A-ECAT) が $120 ぐらい、100GBASE-SR4 のモジュールが $50 ぐらいから入手可能です。PC2台を直接接続する場合は、$120 x 2 + DAC ケーブル 1m $32 で、合計 $300 に収まるといった感じです。
規格 | ケーブル | コネクタ | 伝送距離 | モジュール価格(新品/中古) |
---|---|---|---|---|
100GBASE-SR4 | MMF(OM3/OM4) | MPO-12 | 70 m/100 m | $100/$50 |
100GBASE-CWDM4 | SMF(OS2) | LC | 2 km | $190/$100 |
100GBASE-LR4 | SMF(OS2) | LC | 10 km | $500/$200 |
100GBASE-CR4 | Twinax | - | 5 m | 1 m で $32 / $35 |
100GBASE-LR4 のトランシーバーは、新品価格で SR4 の5倍ぐらいしますので、距離が短い場合には特に理由がなければ MMF を利用するほうが良いと思います。CWDM4 はトラブルが多いという話を見ますが、実際に使ったことは無いのでよくわかりません。
まとめ
私が最終的に買ったのは、Mellanox ConnectX-4 Lx MCX4121A-ACAT の新品を1枚 $130 で3枚で、スイッチ無しの直接接続です。モジュールは FS.com から 25GBASE-SR SFP28 の新品を一つ $39、4つで $156 でした。合計 $546 です。
2台の機器を接続するだけであれば 100G イーサネットでも数百ドル(数万円相当)で導入でき、10G であればスイッチを使ってもポート単価$200少々で構築できることがわかると思います。なかなか資料が無くて一歩目が踏み出せないマルチギガ・イーサネットですが、実際に調べてみると予想してたよりずっとお手軽でした。NAS を使っているなど、高速なネットワーク接続が必要な方はぜひ検討してみてください。
Discussion
Free5gcの実験用に10G機材をヤフオクでジャンク漁りしています。nicも4ポートの光とメタル両方ゲット。L3Switch はdellのが3千円代でゲットしました。PCこみで三万目標です。
Cisco機器で他社製SFPが使えないロックインですが、解除することができます。
最終行のように
service unsupported-transceiver
がそのコマンドです。手前味噌で恐縮ですが、シスコ機器で光ファイバを使ったため記事貼っておきます。
そもそも、Ciscoの場合、ライセンスがよく分からないので中古購入はしたことがないです。
アライドテレシスなんかのSwitchをあさっています。今回はDELLのスイッチですが、日本語の情報が全くないです。