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音響学入門:スピーカーシステムにおける混変調歪み(IMD)の測定と影響

2025/03/08に公開

スピーカーシステムにおける混変調歪み(IMD)の測定と影響

スピーカーの歪みには、高調波歪み(Harmonic Distortion) のほかに、混変調歪み(Intermodulation Distortion, IMD) があります。IMDは、スピーカーの非線形性 に起因し、複数の周波数成分が相互干渉を起こして新たな不要成分(側帯波)が発生する現象 です。

本記事では、混変調歪みの発生メカニズム、測定方法、影響について詳しく解説します。


1. 混変調歪みとは?

混変調歪み(IMD)とは、2つ以上の異なる周波数の信号がスピーカーの非線形部分で相互干渉し、入力信号に存在しない新たな周波数成分が発生する現象 です。

  • 高調波歪み(THD)単一周波数の整数倍の倍音成分 が発生するのに対し、
  • 混変調歪み(IMD)複数の異なる周波数の組み合わせ によって、新たな周波数(側帯波)が発生する。

IMDの主な原因

  1. スピーカーの振動板やボイスコイルの非線形性
    • 振動板が大きく振れると、高周波成分が変調される。
  2. エンクロージャーやクロスオーバーネットワークの非線形性
    • 周波数ごとの負荷特性が異なるため、信号間の相互干渉が生じる。

2. 混変調歪みの測定方法

スピーカーの混変調歪みは、2つの周波数を入力し、その干渉による不要成分を測定する 方法で評価されます。IMDの測定法として、CCIF法SMPTE法 の2種類があります。

(1) CCIF法(ほとんど使用されていない)

  • 2つの高い周波数(例:13kHzと14kHz) を加え、その干渉による1kHzの歪み成分 を測定。
  • 現在はほとんど使用されておらず、実際のスピーカー設計では SMPTE法 が一般的。

(2) SMPTE法(一般的なIMD測定法)

SMPTE法では、低音(50Hz~100Hz)高音(3000Hz~10000Hz)2つの正弦波を同時に入力 し、その相互干渉による歪み成分を測定します。

SMPTE法の測定プロセス

  1. 低音と高音の比率:

    • 低音:高音 = 4:1 のレベル比で信号を加える。
  2. スピーカーの動作:

    • 低音信号によってスピーカーの振動板が大きく振動 する。
    • 高音信号がこの大きな振動に重畳(変調)され、スピーカーの非線形部分 で変調歪みが発生。
  3. ハイパスフィルターによる処理:

    • 入力信号から低音成分を除去 し、変調された高音成分のみを観測。
    • この時、高音信号には歪みを伴った変調波形 が現れる。
  4. 混変調歪率(IMD%)の計算:

    • 測定された波形の変調率を以下の式で求める:
IMD (\%) = \frac{(a - b)}{(a + b)} \times 100
  • a: 変調された高音信号の最大振幅
  • b: 変調された高音信号の最小振幅
  1. スペクトラム解析:
    • 混変調歪みを周波数スペクトラムとして可視化 することで、どの周波数成分がどの程度影響を受けているかを分析。

3. 混変調歪みが音質に与える影響

混変調歪みが発生すると、スピーカーの出力音に 入力信号に含まれない音(側帯波成分) が混入し、音の明瞭度が低下します。

(1) 側帯波成分(結合音)の発生

混変調歪みが存在すると、入力信号に加えた周波数成分の および の周波数が発生します。

例えば:

  • 50Hzと5000Hzの信号を入力
  • その結果、以下の周波数成分が発生(側帯波):
    • 5000Hz ± 50Hz = 4950Hz, 5050Hz
    • 10000Hz ± 50Hz = 9950Hz, 10050Hz
  • これらの成分が不快な音質劣化を引き起こす

(2) 高音の不安定化

  • 混変調歪みが大きいと、高音域にゆらぎが発生し、音が不鮮明になる
  • 高音楽器やボーカルの細部が不自然に聴こえる。

(3) 低音の歪みが高音に影響

  • 低音信号が大きいと、振動板の動きに制約が生じ、高音の正確な再生が難しくなる
  • その結果、音の透明度が損なわれる。

4. 混変調歪みの低減方法

(1) スピーカーの設計の最適化

  • 振動板の材質を適切に選び、高剛性・低質量のバランスを取る
  • ダンパーやエッジの制御を強化し、不要な非線形動作を抑制

(2) クロスオーバーの適切な設計

  • 低音用・高音用スピーカーのクロスオーバーポイントを適切に設定
  • 高音ユニットに低音が過剰に入力されないようにする

(3) アンプとスピーカーの適正な組み合わせ

  • アンプのダンピングファクター(DF)を適切に設定し、スピーカーの制御を最適化。
  • インピーダンスマッチングを適切に行い、スピーカーの負荷を均一化。

まとめ

混変調歪み(IMD)は、スピーカーの音質に大きく影響を与える重要なファクターです。

  1. SMPTE法による測定が一般的 であり、50Hz~100Hzの低音信号と、3000Hz~10000Hzの高音信号を組み合わせて評価する。
  2. 側帯波成分(結合音)が発生することで、音の明瞭度が低下する
  3. 低減策として、スピーカーの設計・クロスオーバー調整・アンプの適切な選定が重要

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