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音響学入門:スピーカーで生じる歪みの種類(2)

2025/02/11に公開

スピーカーで発生する混変調歪みと過渡歪みを解説

スピーカーで発生する歪みの中でも、混変調歪みと過渡歪みは、音楽再生のクオリティを大きく左右する要素です。本記事では、それぞれの歪みのメカニズムや観測方法、音響設計における対策について解説します。


混変調歪みとは

定義

混変調歪みは、入力側に2つ以上の正弦波信号を加えた際に、出力側にこれらの和周波数または差周波数成分が発生する非直線歪みです。
この現象は、スピーカーの非線形特性が原因となります。

発生の仕組み

混変調歪みの主な原因は以下の通りです:

  1. 振動板の非線形動作:
    • 複数の周波数信号が同時に入力されると、振動板が非線形的に動作し、周波数の合成成分が出力されます。
  2. 磁気回路の非線形性:
    • 磁気回路の設計が不適切な場合、入力信号に対して出力が非線形となり混変調歪みを増幅します。

音楽再生における混変調歪み

音楽再生時には複数の周波数成分が同時に存在するため、混変調歪みが特に問題となります。

シミュレーション例

  1. 条件:
    • 入力信号として、低周波数で大振幅の信号と高周波数で小振幅の信号を4:1の比率で加えます。
  2. 観測される現象:
    • 振動板が低周波数の大振幅で動作しながら、高周波数成分が重畳される状態を再現。
    • 高周波成分が低周波の振動による影響を受け、音が大きくなったり小さくなったりする変調歪みが発生します。

混変調歪みの影響

  1. 音の変動:
    • 低い周波数成分により、高周波数の音量が周期的に変動します。
  2. 音質の劣化:
    • 原音に存在しない周波数成分が追加されるため、音楽再生のクオリティが低下します。

過渡歪みとは

定義

過渡歪みは、入力信号の振幅や周波数が急激に変化した際に発生する歪みです。特に音の立ち上がりや立ち下がり時に顕著です。

発生の仕組み

  1. 振動板の慣性:
    • 振動板が入力信号の急激な変化に追随できず、遅延が発生。
  2. 磁気回路の応答:
    • 磁気回路が急激な入力信号に適切に応答できず、エネルギーが不安定となる。

立ち下がり過渡歪み

過渡歪みは、特に信号が急激に減少する立ち下がり時に多く発生します。これにより、音の余韻や減衰部分において不自然な音が生じます。


観測方法: 累積スペクトラム特性

過渡歪みや混変調歪みは、従来の周波数応答だけでは観測しにくいため、エネルギータイムレスポンス累積スペクトラム特性で解析されます。

観測方法

  1. エネルギータイムレスポンス:
    • 入力信号のエネルギーが時間とともにどのように変化するかを観測。
    • 過渡歪みの遅延特性を確認する際に有効。
  2. 累積スペクトラム特性:
    • 周波数成分と時間成分を同時に観測可能。
    • スペクトログラムに近い3次元表示で、過渡歪みや混変調歪みの影響を詳細に評価できる。

まとめ

スピーカーで発生する混変調歪みと過渡歪みは、音質劣化の主な要因です。それぞれの歪みの特性を理解し、適切な対策を講じることが重要です。

  1. 混変調歪み:

    • 複数の周波数信号が同時に存在する場合、和周波数や差周波数成分が発生。
    • 音量の変動や不要な周波数成分の混入が問題となる。
  2. 過渡歪み:

    • 信号の急激な変化に振動板や磁気回路が追随できず発生。
    • 特に立ち下がり時のエネルギー応答に歪みが現れる。
  3. 観測と対策:

    • 累積スペクトラム特性やエネルギータイムレスポンスを用いて歪みを観測。
    • 振動板や磁気回路の設計を最適化し、非線形性を抑制することで歪みを軽減可能。

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