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音響学入門:スピーカーで生じる歪みの種類

2025/02/09に公開

スピーカーで生じる歪みの種類を徹底解説

スピーカーは音声信号を再生する際に様々な歪みが発生します。本記事では、スピーカーで生じる歪みの種類と発生要因を周波数帯域ごとに詳しく解説し、特にヒステリシスループコンプレッションについても解説します。


スピーカーで生じる歪みの種類

スピーカーで生じる歪みには以下の種類があります:

  1. 高調波(ハーモニックス)歪み:
    • 入力信号に正弦波を加えた際、出力信号に高調波成分(入力周波数の整数倍)が現れる現象。
    • 非直線歪みの一種で音質を劣化させる要因。
  2. 低調波歪み:
    • 入力信号より低い周波数成分が出力に現れる歪み。
    • 振動板や駆動部の非直線性によって発生。

低音域での非直線歪み

発生要因

低音域では、振動板の振幅が大きくなり、以下の要因で高調波歪みが発生します:

  1. 駆動力の非直線性:
    • ボイスコイルの駆動力が振動板の大きな振幅に対して非直線的になる。
  2. エッジやダンパーの機械的非直線性:
    • 振動板を支持するエッジやダンパーが SS 字形に動作し、剛性が非線形となる。
  3. 空気の非対称性:
    • 大振幅時の空気流の乱れに起因する非対称な反作用。

中音域での非直線歪み

発生要因

中音域では、振動板の非軸対称振動磁気回路のヒステリシスループが歪みの主な原因です。

  1. 非軸対称振動:
    • 振動板が一体的に動作せず、部分的にたわむことで発生。
  2. ヒステリシスループ:
    • 磁気回路の特性がボイスコイルの動作に影響を与えます。
    • ヒステリシスループとは、磁気回路の磁束密度BBと磁界強度HHの関係がループを描く現象です。
    • 磁気回路の特性による損失や遅延が駆動力に影響し、結果として音放射に歪みを与えます。

ヒステリシスループの影響

  • ループが大きいほど損失が増大し、非線形性が強くなります。
  • 高透磁率の素材を使用した磁気回路設計が、この歪みを抑える鍵となります。

高音域での非直線歪み

発生要因

高音域では、振動板の軸対称モードが破綻し、歪みが生じます。また、ホーン型スピーカーにおけるコンプレッションも大きな影響を与えます。

  1. 軸対称モードの破綻:
    • 振動板が軸対称に振動せず、部分的に異なる振動を起こす。
  2. コンプレッションの非線形性:
    • ホーン型スピーカーでは、音波がホーン内で圧縮されることにより、空気の非線形性が顕著になります。
    • 空気が一定以上に圧縮されると、音速が周囲の条件に依存して変化するため、波形が歪みます。

コンプレッションの影響

  • ホーン型スピーカーの効率性を高める一方で、大音量時に非線形歪みが増大。
  • 適切なホーン形状設計や空気の流れを最適化することで、歪みを軽減可能。

スピーカー設計における考慮点

スピーカーで発生する歪みを最小化するためには、以下のポイントが重要です:

  1. 低音域の歪み軽減:

    • エッジやダンパーの剛性を適切に設計。
    • ボイスコイルの駆動力が線形になるように設計する。
  2. 中音域の歪み軽減:

    • 振動板の剛性を高め、非軸対称振動を防ぐ。
    • 高透磁率の磁気回路素材を使用し、ヒステリシス損失を抑制する。
  3. 高音域の歪み軽減:

    • 振動板の形状と材質を最適化して軸対称モードを維持。
    • ホーン型スピーカーの場合、ホーン形状を最適化し、コンプレッション効果を制御する。

まとめ

スピーカーで生じる歪みには、周波数帯域ごとに特有の原因があります:

  1. 低音域:
    • 駆動力や支持部の非線形性、大振幅時の空気の影響が歪みの主因。
  2. 中音域:
    • 振動板の非軸対称振動や磁気回路のヒステリシスループが影響。
  3. 高音域:
    • 軸対称モードの破綻やホーン型スピーカーでのコンプレッションによる非線形性が主な原因。

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