音響学入門:モーショナルフィードバック(MFB)方式と負帰還回路
モーショナルフィードバック(MFB)方式と負帰還回路
スピーカーシステムの制御技術のひとつとして、モーショナルフィードバック(MFB)方式 が存在します。この方式は、スピーカーの振動系を含めた増幅回路に負帰還(Negative Feedback, NFB)を適用することで、音響特性を改善する手法 です。
本記事では、モーショナルフィードバックの仕組みと、負帰還回路の基本概念、さらにMFBで用いられる各種検出方法 について解説します。
1. モーショナルフィードバック(MFB)方式とは?
(1) MFBの基本構造
モーショナルフィードバック(MFB)方式は、スピーカー振動系の動作をリアルタイムで検出し、その信号を負帰還回路に送り、アンプの動作を補正する方式 です。
- 一般的なスピーカーシステムでは、駆動アンプが出力した信号をそのままスピーカーに送る。
- しかし、スピーカーの振動板は慣性や空気負荷、スピーカーエッジやダンパーの影響により、入力信号通りには動かない。
- MFB方式では、実際の振動を検出し、それをフィードバックすることで、より正確な音の再生を実現 する。
(2) MFB方式のメリット
✅ 低音域の歪みを大幅に低減
✅ スピーカーの位相特性を改善し、正確な音像定位を実現
✅ 振動系の共振による音のブーミーさ(こもり)を抑制
✅ アンプの負荷特性を改善し、適切なダンピングファクターを維持
2. 負帰還回路とは?
(1) 負帰還(Negative Feedback, NFB)の基本
負帰還とは、増幅回路の出力の一部を入力側へ戻し、増幅率を制御する回路技術 です。負帰還をかけることで、以下のメリットが得られます。
✅ 歪みを低減する
✅ ゲイン(増幅率)の安定化
✅ 周波数特性の向上
✅ 出力インピーダンスの低減
負帰還には、以下の2つの基本方式があります。
-
直流負帰還(DC Negative Feedback)
- アンプの動作点を安定化 し、DCオフセットを抑制する。
-
交流負帰還(AC Negative Feedback)
- 歪みを低減し、帯域特性を改善 する。
MFB方式では、スピーカーの動作を検出して負帰還信号として活用するため、負帰還回路の設計が重要になります。
3. MFB方式における検出方法
MFB方式では、スピーカーの動作を正確に把握するため、さまざまなセンサ技術 を用います。以下に代表的な検出方法を紹介します。
(1) 静電式(振幅帰還型)
- ボイスコイルの変位を静電容量の変化として検出 する方式。
- コンデンサーの静電容量が変化 することで、振幅情報を電気信号に変換。
- 応答速度が速く、精密な検出が可能。
メリット
✅ 高精度な振幅検出が可能
✅ 非接触で測定できるため、スピーカーの動作に影響を与えない
デメリット
⚠ 検出回路が複雑でコストが高い
⚠ 湿度や温度の影響を受けやすい
(2) 導電式(速度帰還型)
- 導電コイルを設け、ブリッジ回路で検出 する方式。
- ボイスコイルの速度変化を電流変化として検出。
メリット
✅ シンプルな回路設計で低コスト
✅ 速度情報を直接得られるため、低音域の補正に適している
デメリット
⚠ 検出精度が静電式に比べて低い
⚠ 高周波帯域の応答特性がやや劣る
(3) 圧電式(加速度帰還型)
- 圧電素子(ピエゾセンサー)を用いて加速度を検出 する方式。
- 振動板の加速度変化を電圧信号として取得。
メリット
✅ 高速な応答特性を持ち、高音域の補正に適している
✅ 小型で搭載が容易
デメリット
⚠ 低音域の補正には不向き
⚠ 設置位置や取り付け方法によって精度が変化
(4) 光電式(振幅帰還型)
- 光センサーを用いてボイスコイルの変位を測定 する方式。
- 光の反射や透過量の変化を検出し、振幅情報を取得。
メリット
✅ 非接触で測定可能
✅ 高精度な振幅制御が可能
デメリット
⚠ 光の反射特性によるノイズが発生しやすい
⚠ 環境光の影響を受けやすい
(5) 音響式(加速度帰還型)
- マイクロフォンを使用し、スピーカーの実際の音響出力をフィードバックする方式。
- 音圧を電圧信号に変換し、フィードバックをかける。
メリット
✅ 実際の音響出力を直接制御できる
✅ スピーカーの周囲の環境に適応可能
デメリット
⚠ マイクの設置位置によって検出特性が変化
⚠ 外部ノイズの影響を受けやすい
4. まとめ
モーショナルフィードバック(MFB)方式は、スピーカーの振動系の動作をリアルタイムでフィードバックし、音響特性を大幅に改善する技術 です。
✅ MFB方式の主なメリット
- 低音の歪みを低減し、精度の高い音再生を実現
- 位相特性の向上により、よりクリアな音像定位を実現
- 振動系の過剰な共振を抑制し、音のブーミーさを低減
✅ 主な検出方式
- 静電式、導電式、圧電式、光電式、音響式など、さまざまなセンサ技術が活用される
- それぞれの方式にはメリット・デメリットがあり、用途に応じた適切な選択が必要
Discussion