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音響学入門:モーショナルフィードバック(MFB)方式と負帰還回路

2025/03/23に公開

モーショナルフィードバック(MFB)方式と負帰還回路

スピーカーシステムの制御技術のひとつとして、モーショナルフィードバック(MFB)方式 が存在します。この方式は、スピーカーの振動系を含めた増幅回路に負帰還(Negative Feedback, NFB)を適用することで、音響特性を改善する手法 です。

本記事では、モーショナルフィードバックの仕組みと、負帰還回路の基本概念、さらにMFBで用いられる各種検出方法 について解説します。


1. モーショナルフィードバック(MFB)方式とは?

(1) MFBの基本構造

モーショナルフィードバック(MFB)方式は、スピーカー振動系の動作をリアルタイムで検出し、その信号を負帰還回路に送り、アンプの動作を補正する方式 です。

  • 一般的なスピーカーシステムでは、駆動アンプが出力した信号をそのままスピーカーに送る
  • しかし、スピーカーの振動板は慣性や空気負荷、スピーカーエッジやダンパーの影響により、入力信号通りには動かない
  • MFB方式では、実際の振動を検出し、それをフィードバックすることで、より正確な音の再生を実現 する。

(2) MFB方式のメリット

低音域の歪みを大幅に低減
スピーカーの位相特性を改善し、正確な音像定位を実現
振動系の共振による音のブーミーさ(こもり)を抑制
アンプの負荷特性を改善し、適切なダンピングファクターを維持


2. 負帰還回路とは?

(1) 負帰還(Negative Feedback, NFB)の基本

負帰還とは、増幅回路の出力の一部を入力側へ戻し、増幅率を制御する回路技術 です。負帰還をかけることで、以下のメリットが得られます。

歪みを低減する
ゲイン(増幅率)の安定化
周波数特性の向上
出力インピーダンスの低減

負帰還には、以下の2つの基本方式があります。

  1. 直流負帰還(DC Negative Feedback)

    • アンプの動作点を安定化 し、DCオフセットを抑制する。
  2. 交流負帰還(AC Negative Feedback)

    • 歪みを低減し、帯域特性を改善 する。

MFB方式では、スピーカーの動作を検出して負帰還信号として活用するため、負帰還回路の設計が重要になります。


3. MFB方式における検出方法

MFB方式では、スピーカーの動作を正確に把握するため、さまざまなセンサ技術 を用います。以下に代表的な検出方法を紹介します。

(1) 静電式(振幅帰還型)

  • ボイスコイルの変位を静電容量の変化として検出 する方式。
  • コンデンサーの静電容量が変化 することで、振幅情報を電気信号に変換。
  • 応答速度が速く、精密な検出が可能

メリット

✅ 高精度な振幅検出が可能
✅ 非接触で測定できるため、スピーカーの動作に影響を与えない

デメリット

⚠ 検出回路が複雑でコストが高い
⚠ 湿度や温度の影響を受けやすい


(2) 導電式(速度帰還型)

  • 導電コイルを設け、ブリッジ回路で検出 する方式。
  • ボイスコイルの速度変化を電流変化として検出

メリット

✅ シンプルな回路設計で低コスト
✅ 速度情報を直接得られるため、低音域の補正に適している

デメリット

⚠ 検出精度が静電式に比べて低い
⚠ 高周波帯域の応答特性がやや劣る


(3) 圧電式(加速度帰還型)

  • 圧電素子(ピエゾセンサー)を用いて加速度を検出 する方式。
  • 振動板の加速度変化を電圧信号として取得。

メリット

✅ 高速な応答特性を持ち、高音域の補正に適している
✅ 小型で搭載が容易

デメリット

⚠ 低音域の補正には不向き
⚠ 設置位置や取り付け方法によって精度が変化


(4) 光電式(振幅帰還型)

  • 光センサーを用いてボイスコイルの変位を測定 する方式。
  • 光の反射や透過量の変化を検出し、振幅情報を取得。

メリット

✅ 非接触で測定可能
✅ 高精度な振幅制御が可能

デメリット

⚠ 光の反射特性によるノイズが発生しやすい
⚠ 環境光の影響を受けやすい


(5) 音響式(加速度帰還型)

  • マイクロフォンを使用し、スピーカーの実際の音響出力をフィードバックする方式
  • 音圧を電圧信号に変換し、フィードバックをかける。

メリット

✅ 実際の音響出力を直接制御できる
✅ スピーカーの周囲の環境に適応可能

デメリット

⚠ マイクの設置位置によって検出特性が変化
⚠ 外部ノイズの影響を受けやすい


4. まとめ

モーショナルフィードバック(MFB)方式は、スピーカーの振動系の動作をリアルタイムでフィードバックし、音響特性を大幅に改善する技術 です。

MFB方式の主なメリット

  • 低音の歪みを低減し、精度の高い音再生を実現
  • 位相特性の向上により、よりクリアな音像定位を実現
  • 振動系の過剰な共振を抑制し、音のブーミーさを低減

主な検出方式

  • 静電式、導電式、圧電式、光電式、音響式など、さまざまなセンサ技術が活用される
  • それぞれの方式にはメリット・デメリットがあり、用途に応じた適切な選択が必要

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