音響学入門:振動板の音放射と制御方式
振動板の音放射と制御方式を徹底解説
スピーカーの振動板は、音波を効率的に放射するための重要な要素です。振動板が持つ物理特性や音放射を制御するための技術を理解することで、より優れた音響設計が可能になります。本記事では、振動板の音放射に関わる放射インピーダンスの基本概念と、慣性制御、抵抗制御、弾性制御の各方式について詳しく解説します。
振動板の音放射と放射インピーダンス
放射インピーダンスとは
振動板が音波を放射する際、空気との相互作用で振動板に対抗する力が発生します。この力を表す量が放射インピーダンスです。放射インピーダンスは、次のように放射抵抗と放射リアクタンスの和で表されます:
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: 放射インピーダンス [Pa·s/m³]Z_r -
: 放射抵抗分(エネルギーの放射に関与)R_r -
: 放射リアクタンス分(空気の質量や弾性に由来)X_r
円形ピストン振動板の片面放射インピーダンス
円形ピストン振動板では、片面放射インピーダンスが周波数や振動板の半径に依存します。特に低周波数域では、放射抵抗が小さく、放射リアクタンスが支配的となります。このため、振動板の特性に基づいた設計が必要です。
直接放射形スピーカーと慣性制御
音響出力を一定にするための制御
直接放射形スピーカーでは、周波数に関係なく一定の音響出力を得るために、振動板の振動速度を周波数に反比例させる制御が行われます。この方式は慣性制御に基づいています。
慣性制御の原理
慣性制御では、次の条件を満たすように振動系が設計されます:
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低周波数域に共振周波数を設定:
- 振動系の共振周波数を低い周波数域に設定することで、必要な帯域内で制御がしやすくなります。
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質量リアクタンスの優位性:
- 振動系の機械インピーダンスをほとんど質量リアクタンスが支配する状態にします。
- この条件下では、振動速度が周波数に反比例し、一定の音響出力が得られます。
抵抗制御
ホーンインピーダンスとカットオフ周波数
ホーンスピーカーでは、カットオフ周波数以上で放射インピーダンスがほぼ一定の抵抗値となります。この抵抗と振動系を整合させることで、音響出力の効率を高めることが可能です。
抵抗制御の設計
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共振周波数を設定:
- 振動系の共振周波数をカットオフ周波数に近い位置に設定します。
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制御抵抗の追加:
- 大きい制御抵抗を設けることで、Q値(共振の鋭さ)を低下させ、帯域を広げる設計が行われます。
この方式は、広帯域で高効率の音響出力を実現するための基本的なアプローチです。
弾性制御
密閉空間での音放射
弾性制御では、密閉空間内での音圧変化が振動板の動作に影響を与えます。この場合、音圧は振動板の振幅に比例します。
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: 音圧 [Pa]P -
: 振動板の振幅 [m]A
弾性制御の設計
弾性制御では、次のような条件が重要です:
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振動系の共振周波数を高い周波数域に設定:
- 共振周波数を高めることで、振幅が周波数に影響されない範囲を確保します。
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音響出力の安定化:
- 振動板の振幅が一定であるように制御し、音響出力を周波数に関係なく一定に保ちます。
まとめ
振動板の音放射における制御方式を理解することで、スピーカーの効率や性能を発揮することが出来ます:
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放射インピーダンス:
- 放射抵抗と放射リアクタンスの和で表される。
- 円形ピストン振動板では、特に低周波域で放射リアクタンスが支配的。
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慣性制御:
- 共振周波数を低く設定し、質量リアクタンスが支配する状態で振動速度を制御。
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抵抗制御:
- ホーンスピーカーでは、共振周波数をカットオフ周波数付近に設定し、Q値を低下させて広帯域化。
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弾性制御:
- 密閉空間での音響出力を安定化させるため、振幅が周波数に依存しない範囲を設定。
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