【翻訳】Hyperstructures - ハイパーストラクチャー | メンテナンス、中断、仲介者なしに無料で永遠に実行可能な暗号プロトコル
日本語訳 序文
2022年6月、『Hyperstructures』というエッセイに出会いました。
著者はNFT分散型プロトコル『Zora』[1]のファウンダー Jacob氏です。Zoraは国内でも2023年の1、2月あたりから注目されるようになり、日本人NFTクリエイターも利用していたと思います。
彼の提唱するハイパーストラクチャーという思想は、インターネットをより良い技術にしたいと思うすべての人にとって、アイデアを創造・実現していく過程で役に立つ考え方だと思います。
分散型インターネットやブロックチェーンという言葉を何となく知っている人であれば、誰でも読めるようにしたつもりです。翻訳元に脚注はありませんが、理解の足しになればと思い、僭越ながら脚注[2]も振っています。
こんなにもスピードの早いこの分野で、1年以上たった今でも全く色褪せないエッセイです。多くの日本人にも読んでもらいたいと思い、翻訳に至りました。素敵な考え方を共有してくれたJacob氏に感謝します。
Thank you to Jacob for sharing such wonderful thoughts and for kindly granting permission to translate the blog post. I hope that this article will help spread your idea to japanese.
Hyperstructures - ハイパーストラクチャー
By jacob ❍
Published January 16, 2022
Zoraの開発に2年間を費やした結果、私たちのアプローチがいかに独特であるかを実感しました。この違いは、暗号プロトコル[3]で可能なこと(そして既に起っていること)についての根本的に新しい価値観(New mental model)に由来しています。
暗号プロトコルの性質は、貴重な公共インフラを作るための、根本的に拡張性のある新しいモデルを開拓することを可能にします。このような考え方は非常に独特であり、新しい言語が必要です。
このエッセイでは、ハイパーストラクチャーとは何か、どのように機能するのか、今後数十年にわたってインターネットの基礎となる理由について、ハイパーストラクチャーの概念を説明していきたいと思います。
Paolo Soleri's "hyperstructure" in ground-level view. The figure to the right is the Empire State Building at the same scale.
Definition - 定義
Hyperstructure
メンテナンス、中断、仲介者なしに無料で永遠に実行できる暗号プロトコル
ブロックチェーンによって「ハイパーストラクチャー(Hyperstructure)」と呼ばれる新しいタイプのインフラが登場しました。
ハイパーストラクチャーは、ブロックチェーン上で実行されるプロトコルの形をとっています。ハイパーストラクチャーと考えられるのは、次のような場合です。
- Unstoppable(止められない): このプロトコルは誰にも止めることができない。基盤となっているブロックチェーンが存在する限り、実行される。
- Free(無料): プロトコル全体にかかる手数料が0%であり、ガス代[4]だけで正確に実行される。
- Valuable(価値がある): 蓄積される価値[5]は、オーナーによってアクセス可能であり、必要に応じて取り出すことができる。
- Expansive(拡張性がある)[6]: プロトコルの参加者[7]に対してインセンティブが組み込まれている。
- Permissionless(許可不要): 普遍的にアクセス可能で検閲に強く、開発者やユーザは、プロトコルからブロックされたり排除されることがない。
- Positive sum(ポジティブ・サム): 同じインフラを利用している参加者に対して、Win-Winの環境を生み出す。
- Credibly neutral(信頼できて中立的): プロトコルはユーザに依存しない。
注目すべきは、あるアプリケーションがプロトコルベースだからといって、それがすぐにハイパーストラクチャーだとは限らないということです。たとえば、OpenSea[8]で利用されているWyvern protocol[9]は、プライベートなデータベースでオフチェーン注文が維持されていないと運用することはできません。
これはつまり、もしOpenSeaやその他のプラットフォームがダウンしてしまえば、マーケットも一緒に機能しなくなるということです。これは暗号資産取引ができるコインベースのようなプラットフォームにも当てはまり、それがダウンした場合は、取引所のマーケットも一緒にダウンすることになります。
細かいニュアンスの違いを含む例にはなりますが、完全にオンチェーンのプロトコルでも、プロトコルのルールをアップグレードできて、変更できるような権限を管理者が持っている場合、それらはハイパーストラクチャーではなく、プラットフォームです。この例えは、本質的にプラットフォームが悪いと言っているのではなく、それらが単純にハイパーストラクチャーではないということです。
ハイパーストラクチャーは完全にオンチェーンで、参加者にポジティブ・サムを生み出す公共財です。以下、ハイパーストラクチャーのそれぞれの主な特徴について詳しく説明していきます。
Unstoppable - 止められない
Ripple, from Mashin Hero Wataru.
電力網やソーシャルメディア・プラットフォームのような従来のインフラは、維持・運営するために信頼できる仲介者を必要とします。仲介する運営者がいなければ、インフラは劣化し、あるいは完全に機能が停止してしまう可能性があります。
このような運営者とは、民間企業や国が管理する組織であり、長期にわたって目的を果たすためには、利益、労働力、および/または補助金を必要とします。
ブロックチェーン上で動作するハイパーストラクチャーは、運営がいなくても永遠に動作することができます。メンテナンスを行う人や運営者がいなくても、継続的に機能し、ブロックチェーンが動作している限り、少なくとも10年間は稼働し続けることができます。
ハイパーストラクチャーは止めることができません。この性質は、私たちが過去に経験したことのない超能力のようなものです。
1回限りの作成コストがあれば、デプロイ後は正確に設計通りに劣化することなく稼働します。
ハイパーストラクチャーを維持するために、追加の労力や資本は必要ありません。
もしハイパーストラクチャー上に構築されたコアチームやプラットフォームが消えてしまったとしても、設計通りに数十年にわたって完全に稼働し続けるのです。
止められない(Unstoppable)ことは、ブロックチェーンによって可能になった新しい能力であり、インフラの経済的性質を変える能力だと私は考えています。
抽象度を1段階上げれば、ブロックチェーンはハイパーストラクチャーの信頼できるトラストレスなオペレーター(The trusted trustless operator)[10] と呼ぶことができます。
Free - 無料
Bjork GIF.
さて、止められない(Unstoppable)ことをまったく新しい機能として確立しました。そこで、私は最もたたき台となるような、議論の余地のある提案をしたいと思います。
ハイパーストラクチャーは、永遠に無料(Free)で利用できると同時に、所有することに非常に価値があるものになることでしょう。これは、ハイパーストラクチャーが止められないからこそ可能になることです。プロトコルを維持し、永久に動作させ続けるためのコストはかかりません。一度導入すれば、劣化することなく、設計通りに動作します。
例えば、Uniswapのチームとウェブサイトが今日消滅したとしても、プロトコルは永久に稼働し続けます。これは今まで不可能だったことです。
ただし、ハイパーストラクチャーは正確にコスト通りに動きますが、誰かがその時点でそれを運用するためのガス代を支払う必要はあります。
Valuable - 価値がある
ハイパーストラクチャーは、無料(Free)に使えると同時に、所有し、管理することが非常に価値のあるもの(Valuable)になる可能性があります。これはNFTに見られるお馴染みの価値モデル[11]です。メディアは普遍的に無料で消費することができますが、個人またはグループとして所有し管理することに価値を見いだすことができます。
Sampled GIF source unknown, remixed by me.
しかし、この文脈で所有権とは何を意味するのでしょうか。それはプロトコルを超えてオンにすることができる手数料スイッチの存在(および制御)です。これにより「手数料の脅威(Threat of the fee)」と呼ばれるダイナミズムが生まれます。つまり、ハイパーストラクチャーの所有者は、投票[12]によっていつでも基本レベルでプロトコル全体の手数料をオンにする権利を持っているのです。それをオンにすることが長期的な価値破壊に繋がるため、まさに手数料の脅威です。手数料をオンにすると、新規の参入者たちが自らフォークを行う明確な理由ができるため、すぐにインセンティブ付きのフォークを引き起こすこととなる[13]ので、価値破壊的な行為となります。
この価値を破壊する権利(破壊権)は、NFTの所有者がバーン[14]する権利を持っているのと同じように所有権なのです。合理的行為者(A rational actor)[15]はそれを実行することはありませんが、実行しようと思えば実行できてしまうのです。私の考えでは、この破壊権は、人々が広く提供されている価値とユーティリティを守ろうとするため、真の価値に起因する自然な市場力を生み出します[16]。
手数料スイッチを販売・譲渡する権利も所有権の一つです。この販売と譲渡できる能力は、市場が交換するための直接的な媒体[17]を提供し、それによって価値を付け加える手段を提供します。DAOは、プロトコルの手数料スイッチを他の団体に販売するような選択肢も生まれ、価格を形成し、保有できる価値を作り出すことができます[18]。
プロトコルの手数料をオンにする権利やその手数料による価値を受け取る権利に加え、他の所有権には、新しいバージョンをデプロイする権利やエコシステムの資金調達と開発のためのDAOのトレジャリー(Treasury)[19]に対するガバナンスも含めることができます。
「利益」と「価値」、ひいては、「利益の引き出し」と「価値の創造」には微妙な違いがあります。短期的に利益を引き出すことは十分に可能ですが、これはおそらく長期的な成功や価値の創造とは、真正面から対立関係にあります。
私は「利益目的(for-profit)」であることはスキューモーフィック(skeuomorphic)な運用形態[20]であり、プロトコルの上にある多様なプラットフォーム・エコシステムから生まれる幅広い機会を逃す局所的な最適解に過ぎないだろうと思っています。それはトークンの所有権と不変性という媒体の性質が、価値の創造を実現するために利益を引き出す必要がなくなったことを意味します[21]。
私たちは、ハイパーストラクチャーで創造された価値が、目先の利益をはるかに超え、社会全体に提供する価値として認められる新しい基盤システムを持ち、「公共目的(for-public)」に生み出すことができるようになったのです。
Expansive fees - 拡張的な手数料
Diagrams for Deleuze & Guattari's A Thousand Plateaus by Marc Ngui.
ハイパーストラクチャーには拡張的な手数料(Expansive Fees)[22]があります。この手数料は、プロトコルの上にコード化され、付加価値を提供する人が誰でも利用可能なインセンティブ[23]です。これらの手数料は透明であり、エコシステム全体で利用できます。
ハイパーストラクチャー上でこれらの手数料を効果的に稼ぐには、プロトコルで定義された望ましい価値を提供する必要があります。これらのインセンティブの存在はハイパーストラクチャーのコミュニティ拡張のためのメカニズムを提供し、ここでの優れたメカニズム・デザインは、おそらくプロトコルの長期的な生存にとって重要なものとなります。
拡張的な手数料の優れた例は、UniswapのLP手数料[24]です。LP手数料は、重要なリソースである流動性を提供する参加者にインセンティブを与えます。この手数料はプールに流動性を提供するすべての人に支払われますが、Uniswapに支払われるわけではありません。流動性提供者は、Uniswapのユーティリティを拡大しますが、そのユーティリティを提供する独占的な権利を持っているわけではなく、自ら参加者が生み出しているものに対してのみ価値を得ることができます。
もう一つの例として、Zora Finder's Fee [25]があります。この手数料は、重要なリソースであるNFTの販売や流通を促進する参加者にインセンティブを与えるものです。この手数料は、NFTの落札者または最終的な買い手を見つけた人に支払われます。ファインダーはZoraの有用性を拡大し、NFT市場を独占することはなく、ファインダーは自ら作り出すものに対してのみ価値を得ることができます。
ハイパーストラクチャーにおいて、参加者が得る価値は、その参加者が生み出した価値と同義です。逆もまたしかりであり、(直接的な価値の創造なしに)自由に価値を引き出せる第三者や法人があれば、そのシステムはハイパーストラクチャーではありません。
Permissionless - 許可不要
パーミッションレスはブロックチェーン上に展開される暗号プロトコルに特有の保証[26]です。パーミッションレスとは次の場合です。
- 普遍的にアクセス可能で、誰もが偏見なく完全に利用することができる。
- 核となる操作機能を変更することができない。
パーミッションレスであることは、ブロックされたり排除されたりすることなく、ハイパーストラクチャー上に、誰もが安心して独自のプラットフォーム、アプリケーション、経済モデルを構築できることを意味します。APIキーは必要ありませんし、突然プラットフォームが気まぐれであなたのプロジェクトを終了させるという心配もありません。
The Uncensored Library in Minecraft that features inaccessible journalism.
同様に、ハイパーストラクチャーは、インフラ利用のアクセスを制限することできる裁定者や中央機関が存在しないため、個人レベルでの検閲に対する抵抗力(Censorship resistance)[27]を提供します。
Credibly Neutral - 信頼できる中立性
Source unknown.
ハイパーストラクチャーは、許可が不要であり(Permissionless)、止めることができない(Unstoppable)ため、信頼できて中立的な存在(Credibly Neutral)となります。
ユーザーに依存することはありません。言い換えれば、特定の人を差別したり、不利に扱ったりせず、すべての人を公平に扱うということです。
ハイパーストラクチャーは、独自のシステムに、誰もが利用でき、その上にアプリケーションを構築でき、統合することができ、普遍的にアクセス可能です。プラットフォームからのブロックされたり、排除されたりするリスクは一切ありません。
ハイパーストラクチャーズは、すべての参加者を公平に扱います。ただし、それは人々の能力やニーズが異なる世界で、人々を公平に扱うことがどの程度可能かは限られています(Buterin, 2020)。
Positive-sum - ポジティブ・サム
Two-person non zero-sum games by Giovanni Neglia.
ハイパーストラクチャーは、無料(Free)であり、拡張性があり(Expansive)、止められず(Unstoppable)、管理者による許可も不要で(Permissionless)、信頼があって中立的(Credible neutral)であるため、ポジティブ・サム(Positive sum)の環境を生み出します。
ハイパーストラクチャーは、永遠に無料であるため、誰かが同じ機能を1対1で複製する動機がありません。付加価値の獲得やリスクの最小化ができず、複製するメリットがないためです。社会的なレベルでは、ハイパーストラクチャーは一度だけ構築されればよいのです。これはイノベーションを起こすインセンティブがないという意味ではありません。人々は、より優れた、差別化された機能を持つ代替品を作ろうとするインセンティブは存在し続けるでしょう。ただ単に同じ機能を持つ複製品を作るだけでは勝者になることはできません。
ハイパーストラクチャーは、拡張的な手数料を設定することで、システムそのものと競合することなく、参加者がシステムのために創造した価値から直接利益を得ることができます[28]。
ハイパーストラクチャーは、止められないため、システムに依存している参加者の運用リスクはありません。彼らは、自分たちでシステムを再構築して運用することなく、システム上で運用することができます。
ハイパーストラクチャーは、パーミッションレスであるため、上記の条件はすべて変わらないことが保証されます。つまり、誰かが自分でシステムを再構築する必要はありません。ただ単にそのシステム上にアプリケーションを作成し、提供する独自の価値を開発することができます。
ハイパーストラクチャーは、信頼があって中立的な存在であるため、排除されるグループやコミュニティはありません。これはシステムがニーズを満たしている場合、再構築する必要はないということです。
したがって、潜在的に競合関係にあった参加者が同じインフラ上で組織化し、利用することで、共有された流動性とシステムの統合によるネットワーク効果[29]を通じて、全員にとって利益のある豊かな生態系を作ることができるのです。
Building a Hyperstructure - ハイパーストラクチャーの構築
Sim City 2000.
ハイパーストラクチャーの構築の詳細については、時間をかけて詳しく説明しますが(私たちはZoraでまだ学びながら進んでいます)、ここで価値のある簡単な考えをいくつか言及したいと思います。
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Hyperstructureは1つのアプリケーションだけでなく、様々なアプリケーションがプロトコルを利用できるように作られています: メカニズムやプロトコルレベルの何かを構築するときは、それができるだけ汎用的であるようにしてください。
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手数料はエコシステムを拡大するために利用するものであって、そこから利益として引き出すために利用するものではありません: 短期的には価値を引き出すことができるかもしれませんが、プロトコル上にある多様なプラットフォームのエコシステム全体から得られる様々な機会を逃すことになるかもしれません。
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プロトコル・ファーストなアプローチを取る: 開発者の採用に重点を置き、可能な限り多くの統合を作成することで、重要なネットワーク効果を生み出し、デフォルトとしてのHyperstructureを確立します。
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流動性を構築する: オンチェーンの流動性を確保することで、他の新規参入者がエコシステムに参加することがより有益になり、他のすべての人にも利益をもたらします。これは重要なネットワーク効果であり、複製品を構築する動機も減らします。[30]
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可能な限り所有権を持ち、必要な場合にはガバナンスを行う: オーナーシップとガバナンスは、絶対に必要な場合のみ作りましょう。どちらもやりすぎると、ハイパーストラクチャーに歪んだインセンティブ[31]を生じさせる可能性があり、攻撃のリスクにさらされる可能性もあります。
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長期間の開発サイクルがある: この方法でプロトコルを開発することは、ソフトウェアというよりハードウェアを開発することに近いです。長い設計期間や大きな摩擦を伴う移行[32]があり、導入には高いハードルがあります。
Societal Infrastructure - 社会インフラ
The Eden Project: The largest greenhouse in the world is home to over one million types of plants.
不変性と永続性という性質を備えたブロックチェーン技術によって、我々の寿命よりも長く存在することができる文明基盤を生み出すチャンスができました。これらはいずれもインターネットに固有のものです[33]。
これまで劣化やコモンズの悲劇(Tragedy of the commons)[34]に陥ったりすることなく、何世代にもわたって設計通りに機能するソフトウェアベースのインフラを生み出すツールはありませんでした。私たちは、はじめてそんな基盤を構築する特権を持った幸運な世代であり、一世一代の瞬間にいます。
取引所、マーケットプレイス、レンディングプール、オプションなど、あらゆる金融ユーティリティ[35]において、ハイパーストラクチャーが出現する可能性があります。
同様に、ドメイン名、レジストリ、アイデンティティ、キュレーション、タグ、評判、絵文字、既読通知など、現在Web2やソーシャルメディアが実行・運用している非金融ユーティリティに関しても言えることです。
インターネット全体が暗号とブロックチェーンを核とするWeb3という形で再構築されつつあります。過去40年間のインターネットの機能を中央集権的な管理から解放して再構築し、以前は不可能だった全く新しいものを生み出すチャンスを得たのです。
The Facebook Social Graph in 2010, featuring 500 Million people—the one of the largest actors of the platform era.
これらのインフラの規模、重要性、大志は、博物館、送電網、運河、ダム、古代の道路と同じように、やがて称賛されるようになるでしょう。
ハイパーストラクチャーは、私たちがこれまで見たことのない規模になり、今日のソーシャルメディア・プラットフォームさえも凌ぐほど重要なものになる可能性があります。また、ハイパーストラクチャーは、長期間公共にとって利用可能か、実用的かで判断されるでしょう。
ハイパーストラクチャーを設計する際には、長期的な視点は極めて重要であり、短期的な利益を追求するWeb3の世界では、たいてい欠けているものです。重要なことは、不変で永続的な性質により、私たちは、最も純粋で、自由で、美しい形で、楽観的にハイパーストラクチャーを構築しなければならないということです。
これらのハイパーストラクチャーは、私たちの子孫が利用する可能性が高いので、彼らのことを心に留めながら構築する責任があり、彼らに誇れるようなものを構築しなければならないのです。
Children of the Future, by Holly Herndon and Mat Dryhurst. Minted as an NFT
今では、永遠に無料で運用できるハイパーストラクチャーを構築することが可能になっているため、私たちはこの論点を出発点とすべきであり、避けたり無視したりすべきものではありません。
新しいパラダイムには新しい価値観が生まれます。ハイパーストラクチャーには、永遠に無料で利用できる公共財を創造する機会があると同時に、今後何年にもわたって社会全体に役立つ貴重なシステムを構築し、貢献した開発者や参加者には、その貢献に応じて報酬が与えらることになるでしょう。
実現に向かって構築し、可能性を見出すことには意味がありそうです。
We're entering the unknown, let's embrace it and discover what's possible.
References
- Positive Sum Worlds: Remaking Public Goods by Toby Shorin, Sam Hart, Laura Lotti
- Credible Neutrality by Vitalik Buterin
- The Network State by Balaji Srinivasan
- Website clock: Canary Yellow by Virgil Abloh
- Site structure & CSS: Other Internet
- Manhattan Island by Herbie Hancock
- history of the entire world, i guess by Bill Wurz
- IQ Bell Curve / Midwit
- Thanks to Tyson, Dee, Shayne, Mat, Riva and Pete for their contributions to this essay.
- 🌜🌞🌛
私たちはZoraというインターネットにおけるマーケットプレイス・プロトコルのハイパーストラクチャーを構築しています。Zora Labsで雇用しており、Zora DAOへの貢献者を探しています。もし興味があればTwitterまで連絡してください。
⌐◨-◨ 2022 jacob ❍ — essay to be minted
あとがき
NFT分野は、市場に身を任せた結果、あまり好ましくない方向に進んでいると感じています。OpenSeaとBlurという二大NFTマーケットプレイスが熾烈な戦いを繰り広げており、大きな転換期のなか、それぞれのプライヤーが疲弊しています。
Exhausted
ここにポジティブ・サムが生まれないことは確かです。富むものは更に富み、貧しき者は更に貧しくなります。エアドロップという響きの良い飴玉のようなインセンティブが市場を混乱させ、NFTマーケットプレイスは本来の用途とは全く違った用途で使われ始めました。
そこにどれほど社会的な価値があるのか、私にはわかりません。歪んだインセンティブが作用しているように見えます。今こそ原点に返り、ゆっくり立ち止まって考えたいです。この世界はあまりにも情報量が多く、スピードが早すぎます。
幸いなことに、ここには洞察に富んだエッセイがあります。ハイパーストラクチャーはブロックチェーンの思想や特徴を最大化し、(プラットフォームではなく)プロトコルの発展を最大化しているようだと私は感じました。構築する過程は、オープンソースのプロジェクトに近いかもしれません。かなり理想の高い暗号プロトコル形態ですが、突き詰めていけば確かにハイパーストラクチャーのような考え方に当たります。
Silver bullets - Silver bullets everywhere
留意すべき点はハイパーストラクチャーが銀の弾丸であるとは言及されていない点です。中央集権自体が悪であれば、GoogleやAmazonのサービスを一切使わずに自宅でサーバーを構築しなければなりません。そんなことはしないわけです(Moxie, My first impressions of web3, 2021)。分散がすべてに勝ることがないように、ハイパーストラクチャーもまたすべてに勝ることはありません。
インターネットとブロックチェーンにも同じことが言えます。従来のインターネットがブロックチェーンに置き換わるのではなく、融合し、発展する。そうやって視野を広げていけば、私たちの目の前には大きな余白があることに気づきます。
ハイパーストラクチャーの思想はきっと多くの人に考えるきっかけを与えてくれます。むろん開発者だけのものではありません。多様な属性の人々が協力し合って初めて理想に近づくものだと思います。子孫の代まで続く社会インフラ。まだまだ想像が追いつきませんが、同じ思想を持った仲間たちと全力で構築していけば、実現できそうな気がしてきます。
実現する価値がありそうです。
脚注
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Zora:
Zoraは、誰もがNFTを購入、販売、作成できるNFTの分散型プロトコルです。本格的なNFTを簡単に発行することができます。詳細はドキュメントを確認してください。 ↩︎ -
この注釈はパッと本文に戻れます。 ↩︎
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暗号プロトコル:
暗号プロトコルとは、ブロックチェーン技術を基盤にして構築されたプロトコルです。そもそもプロトコルとは「(前略)コンピューター間でデータ共有を可能にするための基本ルールのことです。暗号資産の場合、プロトコルはブロックチェーンの構造を確立します(後略)」 引用 ↩︎ -
ガス代:
ガス代(Gas fee)とは、ある取引に発生するブロックチェーン・プラットフォームへの手数料のことです。例えば、イーサリアムというブロックチェーン・プラットフォームを利用して、NFTを発行(Mint)したい場合、少量のETH(暗号資産)が必要になります。この手数料は、ブロックチェーン上で発生した取引の承認作業を行うマイナー(Miner)に支払われます。マイナーはブロックチェーンに記録するための演算処理(Mining)を実行してくれていますので、ガス代はブロックチェーン・プラットフォームを健全に維持するために必要不可欠な手数料・コストになっています。詳しくはブロックチェーンの仕組みを解説している記事を参照してください。 ↩︎ -
蓄積される価値:
プロトコルの発展や成長に伴って、価値が増幅し、プロトコルから得られる価値がオーナー自身の資産価値として蓄積される価値を指しています。以下、繰り返し「価値」という言葉があります。多くの場合、暗号資産を想像しますが、ここでいう価値とは必ずしもお金とは限りません。しかし、「お金」と変換した方が一般的には読みやすくなるかもしれません。 ↩︎ -
拡張性がある:
ここでは、主に新しい手数料形態、コード化された手数料のことを指しています。なぜ拡張性があるのかと言えば、インセンティブが組み込まれていることにより、プロトコルの成長、拡張が期待できるからだと言えます。後述の章を参照。 ↩︎ -
プロトコルの参加者:
以下、「参加者」という言葉が繰り替えし使われますが、参加者とはプロトコルを利用するユーザのことを指しています。 ↩︎ -
OpenSea:
OpenSea(オープンシー)は現時点(2023年3月4日)で世界最大級のNFTマーケットプレイスのプラットフォームのひとつです。日本国内のNFTクリエイターやコレクターが多く利用しています。 ↩︎ -
Wyvern protocol:
Wyvern protocolは、イーサリアム・プラットフォーム上で動作する分散型取引所を構築するための暗号プロトコルの1つです。注文情報がオフチェーンで保存されることから、ハイパーストラクチャーではないことがわかります。しかし、オンチェーンとオフチェーンの両方の特性を持つことにより、トランザクション数を減らし、スケーラビリティを向上し、セキュリティを維持できるという利点があります。 ↩︎ -
信頼できるトラストレスなオペレーター:
信頼できるインフラは、信頼できる第三者(Trusted intermediary)によって運営されています。しかし、ブロックチェーン上で構築されるハイパーストラクチャーは信頼できる第三者なしに運営することができます。したがって、ブロックチェーンは、信頼できるインフラを実現させるための、「信頼できる信頼の要らない運営者(The trusted trustless operator)」として機能することができるのです。 ↩︎ -
NFTに見られる価値モデル:
まず「価値モデル」とは、ある製品やサービスが提供する利益や価値に関するビジネスモデルや戦略のことです。NFTはデジタルのコンテンツを自分で所有でき、自分で管理できることに利点があるため、NFTを保有することによって、何らかの特典(ユーティリティと呼ばれています)が与えられる場合が多くあります。しかし、ここでいう「価値のあるもの」とは、そういった特典の話ではなく、NFT自体、ハイパーストラクチャー自体の価値のことを指していると解釈できます。 ↩︎ -
投票:
DAOやプロトコルなど分散型の運営形態を持っている場合、意思決定を投票で行うことが多くあります。 ↩︎ -
インセンティブ付きのフォーク:
ハイパーストラクチャーの所有者が手数料を課すことを決定した場合、その結果として新しい競合するプロトコルが作られることを意味しています。新しいプロトコルは、既存のプロトコルよりも低い手数料を提供することにより、新しいユーザを呼び込むことができます。これにより、既存プロトコルの市場シェアが低下する可能性があり、新しいプロトコルの開発者やユーザには、その新しいプロトコルを使用することにより手数料を節約できるというインセンティブがあります。このように、新しいプロトコルの開発に関わる人々、ユーザにとっては、フォークすることによって、すぐにインセンティブが生じることになるのです。 ↩︎ -
バーン:
バーン(Burn)とはNFTを破壊することです。バーンすることで、NFTは自分という唯一の所有者から離れ、誰も管理できない状態になります。一度バーンすると元に戻すことは不可能になりますが、NFTとしてのデータはブロックチェーンに刻まれているため消滅することはありません。 ↩︎ -
合理的行為者:
経済学やゲーム理論の文脈で使用される概念であり、自己利益に基づいて意思決定を行う理性的な人物や組織を指します。この考え方によれば、ある個人や組織は、自分自身にとって最も利益の大きい選択を行うことを常に目指すとされています。このような行動は、自己利益を最大化することによって市場や社会全体にとって最適な結果を生むという理論に基づいています。 ↩︎ -
自然な市場力を生み出す:
あるハイパーストラクチャーの所有者が、破壊権を持つことで、そのハイパーストラクチャーの真の価値を決定する自然な市場力を生むだろうということです。つまり、もしハイパーストラクチャーが本当に価値があるものであれば、人々はその価値を守りたいと思うため、ハイパーストラクチャーを破壊することは合理的な行為ではないと思うことでしょう。例えば、あるNFTを所有する人が、そのNFTをバーンすることができるとした場合、そのNFTが本当に価値があるものであり、もっと言えば現金に変えることができてお金になる場合、その所有者はバーンすることを選ばないはずです(ここではバーンをすれば無価値になり、新しいNFTが貰えるなどのユーティリティはないものと想定しています)。なぜなら、他の人々がそのNFTに対して同じくらいの価値を見出しているため、バーンすればその価値が損なわれるからです。同様に、あるハイパーストラクチャーが本当に価値があるものであれば、その所有者はそのハイパーストラクチャーを破壊せず、その価値を守ろうとします。そのため、ハイパーストラクチャーの真の価値を決定する力が所有者が持つ「破壊権」なのです ↩︎ -
買い手と売り手の間によって価格が形成されるような直接的な取引のことを指しています。 ↩︎
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この所有権をプロトコルの参加者が持つことによって、プロトコルにどのくらいの値打ちがあるのか、その手数料スイッチの価格を決定することができるようになります。このように、市場における需要と供給のバランスで「手数料スイッチ」という資産の価値が変動することになり、それゆえ、参加者は「手数料スイッチ」を所有することに対して、将来的な利益を期待することができます。 ↩︎
-
DAOのトレジャリー:
組織の銀行口座のような場所であり、資金をプールしておく場所。 ↩︎ -
スキューモーフィックな運用形態とは:
この文脈では、従来のビジネスモデルや方法論に固執しているような運用形態という意味です。旧態依然、つまり、昔からのやり方を変えず、あまり進歩が見れられないことを非難するような意味で言っています。 ↩︎ -
利益を引き出す必要がない:
トークン所有権と不変性の特性を利用することで、トークン保有者は、トークンが価値を持つことで、その価値を共有することができるため、利益を抽出する必要がなくなったということです。トークン保有者(もしくはプロトコルの参加者)は、プロジェクトが成功すれば自分の所有するトークンの価値も上がるという利益を享受することができると解釈できます。 ↩︎ -
拡張的な手数料:
参加者に対するインセンティブのことです。「拡張的」とは、インセンティブが組み込まれていることによって、プロトコルのシステムやコミュニティが拡大することが期待できるため、その意味を含んでいます。 ↩︎ -
誰でも利用可能なインセンティブ:
このインセンティブは、プロトコル上で望まれるような新しい価値を参加者が提供することによって、誰でも稼ぐことができる価値です。「稼ぐことができる価値」とは金銭的なお金だったり、お金じゃなかったりします。 ↩︎ -
LP手数料:
このLP手数料(Liquidity provider fees)とは、Uniswapの資金プールに流動性を提供をした人に対して支払われるインセンティブです。詳しくは公式へ。 ↩︎ -
Zora Finder's Fee:
「ファインダーズ・フィーは、自身のNFTの最終的な買い手を見つけるために、市場にインセンティブを与えることができる仕組みのことです。NFTを出品するときに設定できます。ファインダーズ・フィーは、UIでプログラムを利用するか、リンクを生成してアドレスを記載するだけで、買い手を見つけた場合にその報酬を得ることができます。(後略)」by 引用 ↩︎ -
特有の保証:
暗号プロトコルがブロックチェーン上に展開されることで得られる「許可不要(Permissionlessness)」という保証は、暗号プロトコルに固有のものであるということです。ブロックチェーン上にあることで、他のプロトコルにはない「許可不要」という独自の保証が得られることを意味しています。 ↩︎ -
個人レベルでの検閲に対する抵抗力:
つまり、検閲耐性のことです。ブロックチェーン上にあることで、システムの利用を制限されることがないため、検閲の対象にはなりません。これは、ブロックチェーン技術の最も重要な特徴の一つ、個人が自由にブロックチェーンを利用することができる(Permissionless)という特徴があるからです。 ↩︎ -
システムと競合する:
ここで参加者は自分たちがシステムにもたらす価値に応じて報酬を得ることができ、システム自体と競合する必要はありませんと言っていますが、「システムと競合する」とはどのような状況でしょうか。たとえば、あるシステムに参加すると、そのシステムが提供する機能やサービスを使う際には、たいていの場合、手数料が必要になります。手数料を払えばシステムを使えますが、手数料を払えなければ使えないことになります。この場合、手数料を払える人と払えない人で、システムを利用する機会が別ものになるはずです。つまり、そのシステムと参加者が競合する状況が生じます。手数料を払える人と払えない人でも、システムを利用する機会に違いが出ることで、参加者同士が競争し始めます。もちろん、手数料を払える人は、より多くの利益を得られる可能性があります。そのため、システム内で行われるトランザクションや活動に対して手数料を支払うことができる人は、より多くの機会を利用できる可能性があり、その利益を得るために他の参加者と競争することになると言えるでしょう。一方、手数料を支払うことができない人は、システム内での活動が制限されたり、利益を得ることができなかったりするため、不利な立場に置かれることになるかもしれません。 ↩︎ -
システムの統合によるネットワーク効果:
他の製品やサービスとの相互運用性が高まることで、ますますネットワーク効果が強くなることを意味しています。それを通じて、異なるビジネスモデルを持つ多様な参加者が同じインフラを利用することで、相互に利益を得ることができるようになる。結果、ポジティブサムを生み出すことができることを意味しています。 ↩︎ -
流動性の提供と新規参入者:
ブロックチェーン上での流動性の提供によって、新しい参入者がエコシステムに参加しやすくなります。これにより、エコシステム全体の価値が向上し、他の競合プラットフォームがフォークする可能性が低くなることで、参加者にとっても利益が生まれることでしょう。 ↩︎ -
歪んだインセンティブ:
例えば、所有権が過剰になりすぎると、特定のグループがハイパーストラクチャーを支配する状況ができてしまい、その結果として、そのグループの利益に合わせてインセンティブが組み込まれる可能性があります。もし特定のグループが所有権を持ってしまうと、短期的な利益を求めたインセンティブが仕込まれる可能性が高くなることでしょう。 ↩︎ -
摩擦を伴う移行:
インターネットによる既存のシステムからブロックチェーンの新しいプロトコル(ハイパーストラクチャー)に移行することは困難を極めるということです。 ↩︎ -
インターネットに固有のもの:
ブロックチェーン技術がインターネットというプラットフォーム上で発展することで、従来のインターネット(Web2)にはなかった新しいユーティリティ(機能)やインフラ、エコシステム、コミュニティを生み出し、新しいインターネットの一部となる可能性があるということを指して、インターネットに「固有」と表現を使っているのだと思います。インターネットには不変性と永続性という性質はありませんが、ブロックチェーン技術が生まれたことにより、これからのインターネットにはそれらの性質が付与されると解釈することができます。 ↩︎ -
コモンズの悲劇:
共有資源(commons)を利用する人々が個々の利益追求によって過剰に利用し、環境破壊や資源の枯渇を引き起こす現象です。 ↩︎ -
金融ユーティリティ:
金融の効率的な運用や利用を可能にするための基盤や仕組みを指している。金融の機能。 ↩︎
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