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PRDL(音韻規則記述言語)の紹介

2021/12/22に公開

これは語学・言語学・言語創作 Advent Calendar 2021の22日目の記事です。

数年前にPRDLというものを発案しましたが、あまり知られていないようなので簡単に紹介します。

これは何

音韻規則記述言語、Phonological Rule Description Languageです。対象言語の音韻規則を記述するさいに紙面を節約するための略記法です。テキストのみ(IPA表記部分を除けばASCIIのみ)で表現するため、通常行われている表記法よりも貧しい表示環境でも使うことができます(数式レンダラのないSNSとか)。

PRDLは今のところ人間が読む用のものです[1]。紙面が限られていないならば使う必要はないです。しかしほとんどのケースでは、改行や改ページを極力抑えて音韻規則を一覧できた方がよく、特に表組で網羅的に記述する場合などは、長ったらしい文章でひとつひとつ説明していられません。

例えば、「短音節に挟まれた、長音節頭の/b/は無声化する」という規則は以下のように記述できます。

  • *̆./b/*ː.*̆ > [p]

使い方

基本

PRDLでは、規則を以下のように記述します。

  • 条件部1 > 結果部1; 条件部2 > 結果部2; ... 条件部n > 結果部n
  • 条件部1 条件部2 ... 条件部n > 結果部(同じ結果部になる場合の略記)

条件部は「どういう音韻論的文脈で、どの部分の音素が」、結果部は「どういう音声で現れるか」を記述します。つまり条件部は音素表記で、結果部は音声表記です。また、ここで各条件部には必ず一つのターゲットが現れなければなりません。ターゲットはスラッシュ(//)で囲い、結果部は角括弧([])で囲います。

  • V/g/V > [ɣ] := 母音に挟まれた/g/[ɣ]と発音される。

大文字の意味は私用領域として解放されていて、それぞれの議論において記述者が定義します。とはいえ、少なくとも「Vは母音」「Cは子音」といった慣習はそのまま通用するでしょう。「Xは喉音」「Rは流音」「Nは鼻音」とかになると注釈が必要かもしれません。

また、ターゲットや結果部は空であってもよいです。

  • m//g > [ŋ] := /mg/という並びがあったら緩衝音[ŋ]が間に入る。
  • /d/n > [] := /n/の前の/d/は発音されない。

特殊記号

音素以外の超分節的な音韻論的文脈を示すためにいくつかの特殊な記号が定義されています[2]

  • .(U+002E)は音節境界を表す[3]
  • *(U+002A)は音節(核)を表す[4]
  • -(U+002D)は語を表す。
  • +(U+002B)は句を表す。
  • =(U+003D)は文を表す。

音節境界の.のみ特殊で、その位置ではなく、その両隣の位置に音節があることを指示します。それ以外の記号は「その残りの部分がある方の位置」に置くものです。(一般にIPAでが一つの分節音のプレースホルダであるのと同じ仕方で)*は一つの音節を意味するプレースホルダであり、その音節について特に条件がない場合は省略できます。

  • -//. > [ˈ] := 語の後ろから二番目の音節に強勢アクセントが来る。
  • -/C/ > [] := 語末の子音は発音されない。
  • *ː/b/.N*̆- > [m] := 語頭の長音節末の/b/は、鼻音で始まる短音節が後続する場合に[m]になる。
  • =// > [↗] := 文末にかけて上昇調になる。

あとがき

たぶんこの記事含めた今ある資料だけでは厳密に意味を確定できないと思います[5]。将来的には機械処理する可能性も考えているので、これは課題だと思っていて、適用順序などの意味論の形式的定義も含めて近いうちにちゃんとアップデートしたいと思っています。その過程で特殊記号の意味などが若干変わったり追加されたりするかもしれません。

脚注
  1. 頑張れば機械処理できるかもしれませんが、いろいろ課題が残っています。 ↩︎

  2. 対象言語が当該の統語論的または音韻論的単位を持たない場合は、その記号の意味を記述者が再定義してよいことになっています。 ↩︎

  3. これはIPA由来です。 ↩︎

  4. これは今回の記事を書いている段階で必要じゃんと思っていきなり追加したやつです。すみません。 ↩︎

  5. 「こういう規則はどう書くの?」とか「この表現曖昧じゃない?」みたいなツッコミをいただけるととても助かります。@exographまで。 ↩︎

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