令和エンジニアの学習法 〜生成AIを使って挫折を回避する〜
序文
2022年末頃、ChatGPT3.5が世間を驚愕させてから今日までたったの3年。この3年間で生成AIは目覚ましい進化を遂げてきました。テキストの生成に限らず出力範囲は画像や動画にまで及び、その精度は日夜進化する一方です。進化を元に新たなサービスが生まれ、今や生活のあらゆるシーンで生成AIを利用することが普通になってきました。
過渡期である現在、生成AIを活用した新たな開発手法や、どこまで人間が関わっていくのかといった議論が日夜交わされているものの、セキュリティ的な事情や金銭面などの都合から、人間の力で回していかなければいけない現場も多く残っていると思います。
本記事は、まだ人間の力で頑張らなければいけない現場に居る貴方に捧げます。今、目の前の技術を習得際に挫折しないこと、生成AIが世の中に浸透したタイミングで新たな現場に飛び込む皆さんの苦しみが少しでも軽いものになるよう作成いたしました。
スライド
そもそも学習に意味があるのか?

生成AIの進化を見ていると、今やっている学習が馬鹿らしく感じるかもしれません。ですが、学習に意味はあります。そもそも、技術というものはいずれ陳腐化するものです。生成AIが出る/出ないに関わらず、いずれ貴方の学んだ事のだいたいは業務で使わなくなります。
なのに何故学ぶのか?それは今現場で必要とされている技術だからに他ならないでしょう。そもそも、生成AIで出力された成果物の責任を取るのは使用者です。技術について全くの無知である人が、生成AIを利用してお客様の要望に応える事は今現在難しいでしょう。

そもそも生成AIを用いたからといって開発の全てが代替される訳でもありません。必ずどこかで人間が介入する必要があり、その介入には知識が必要です。今後、生成AIが活用される場面が増えていくにせよ、生成AIをいかに上手く使うか?そして、人間の判断をいかに素早く、上手くやるかが今後のビジネスの鍵になっていくと私は考えています。
何にせよ、10年、20年先は分かりませんが過渡期の今は生成AI活用にあたって責任を取れるだけの知識を身につけることに無駄は無いでしょう。
なぜ学習は難しい?

さて、学習をしようと意気込んでみるものの習得までの道のりは険しいです。
なぜ学習は難しいのでしょう?
- 知らない単語が大量に出てきて萎える
- 説明を読んでも理解できない、イメージが付かない
- 理解を深めるためにインターネット上の記事や書籍を読んでみても似たようなことが書いてある
- 書籍を読み進めていると、前半の知識が前提に書かれているため後半で躓く
未知の概念や知識というものは、学ぶための足掛かりが無く1から覚えなければなりません。しかし、私たちには生成AIが居ます。現場で使えないとしても、個人学習での生成AI利用は自由です。
体系的な知識を学ぶ
さて、例えばPythonであったりJavaのような言語、あるいは人気のフレームワークについて学ぶと仮定しましょう。その学習の全てを生成AIに頼ろうとすると、かなりの工夫が求められます。まずは、世の中に出ている学習用の書籍を手に取ることをオススメします。
例えば、以下のような出版社であればPDF、もしくはepub形式で書籍を提供しています。書籍の流れに沿って1ステップごと学びを深めましょう。更に、電子書籍であるということは生成AIの力を借りやすいということです。
- 翔泳社
- O'Reilly
- 技術評論者
- 達人出版会
では、生成AIの頼り方に触れていきましょう。
読書に便利なツール1: NotebookLM
NotebookLM は、電子書籍(主にPDF)を始めとしてWebサイトやYoutube、プレーンなテキストファイル(.txtや.md)を読み込んで数多くの支援を行ってくれるツールです。以下が、2025年12月3日現在 NotebookLM が対応している機能と生成してくれるコンテンツの一覧です。
- チャットによる回答
- 音声解説の生成
- 動画解説の生成
- マインドマップの生成
- レポートの生成
- フラッシュカードの生成
- テストの生成
- インフォグラフィックの生成
- スライド資料の生成
NotebookLM は、学びをサポートしてくれる非常に協力なツールです。おすすめの学び方は以下の通りです。
- スライド資料の生成を行い、書籍に記載されている重要な要素を先に見ておく
- 可能なら音声解説や動画解説などを利用してざっくりと概要を掴む
- 書籍を読んで理解できない部分をチャットによって解説させる
- テストを作成して理解度の確認を行う
学習において、粒度の細かい知識を詰め込んでいくというのは大勢の人にとってなかなか骨の折れる作業です。まずは書籍が重要としている箇所やこれから学ぶことについて NotebookLM に解説させましょう。
書籍を読み進めていくと、少し触れたり理解した概念が出てくるようになるので理解が進みやすくなります。分かりづらい部分や噛み砕いて理解したい部分はチャット機能を利用して解消しましょう。
最後にテストです。読んだだけでは知識の定着度はイマイチです。テストを行うことで書籍を読み返し、思い出すというステップを踏むことで知識はかなり定着します。
読書に便利なツール2: ChatGPT Atlas
NotebookLM を利用していると、ピンポイントでここが分からない!という箇所が少し指定しづらいです。そんな時は OpenAI が提供しているブラウザツール、ChatGPT Atlas を利用しましょう。
文章を反転させて生成AIに「この内容を解説して」とか「分かりやすい説明にして」などのお願いをすれば解説を行なってくれるでしょう。
書籍を読み進めながら、書籍のコンテキストで解説を行ってくれる生成AIがすぐそばで使えるというのは非常にありがたいことです。今後、Google Chrome にも Gemini が組み込まれるという噂がありますので、リリースされた際には利用してみると良いでしょう。
読書に関する備考
以上、NotebookLM と ChatGPT Atlas を利用することで読書体験が大幅に変わります。ただし、書籍がepub形式だった場合はこれらのツールで読み込む事はできないため、ChatGPT やGemini に読み込ませる事しかできません。その場合でも、チャットによる質問と書籍のコンテキストを含んだ回答を行ってくれるため、積極的に活用してみてください。

コードを書く
プログラミングおよびコーディングについて学ぶ時、NotebookLM や ChatGPT Atlas はあまり役に立ちません。しかし、コーディングに特化して生成AIが世の中には数多く登場しています。代表的なものは以下の3つでしょう。
- Claude
- GitHub Copilot
- ChatGPT Codex
コーディングタスクにおいて精度が高いと言われている Claude ですが、初学者向けにおすすめなのは GitHub Copilot です。理由は単純に Visual Studio Code で利用する場合に無料枠が存在するからですね。Agent 機能を使わずにコード補完やチャットでの質問をするだけであれば十分利用できます。
導入方法についてここでは説明しませんが、主に以下2つの使い方をしてみると良いでしょう。
1. コードの説明をさせる
書籍などに掲載されているサンプルコードをもとに学習するスタイルでは、コードの全てを説明することなく要点のみ記載されていることが多いでしょう。しかし、ただ写経しているだけでは知識として定着しづらいものです。
そのため、サンプルコード中に気になったものを生成AIに尋ねてみましょう。主に書籍で触れられている関数やコードでも良いですし、周辺のあまり関係ないコードについて尋ねるのもよいでしょう。書籍の内容より一歩踏み込むことで、より強固な知識が身に付く切っ掛けになります。
2. エラー原因を探らせる
初めて学んでいる言語のエラーというのはなかなかに厄介なものです。エラーメッセージを読めば大方の予想は付くものの、直感的に分かりづらいエラーもあります。そんな時、エラーメッセージを生成AIに尋ねることでエラー原因そのものや、真実に近いものを回答してくれます。
今まではインターネット上の掲示板や身近な有識者に聞いて解決しなければいけなかったところが、生成AIによって簡単に解決できるようになりました。(もう、「その情報だけでは原因を絞り込めない」と怒られるようなことは無いのです!)
3. コードレビューやコードの提案を参考にする
いずれはパフォーマンスに優れたコードや可読性に優れたコードを書けるようになりたいものです。しかし、習得までには高いハードルがあります。2025年12月3日現在、生成AIも設計や可読性の高いコードというものを得意としている訳ではありません。
ただし、小規模な範囲で生成AIの提案を受けたり、自身のプログラムについて意見をもらうというのは選択肢として挙がるでしょう。もっと効率の良い書き方が無いか生成AIに聞いてみて、その提案を吟味することで設計力を磨いていきましょう。
コードを書く備考
コーディングや開発手法に関する生成AIの利用方法や、そのもの自体の精度は日夜変化してきています。その全てを追う事は難しいですし、そもそもその全てを追う事は良い選択とは言えません。
まずは、コーディングの学習において躓く要因であるコード理解とエラー原因の部分を生成AIにケアさせて、得られた知識を現場で役立てましょう。

幅広い情報収集
短期的には前段までに述べてきた学習方法を実践することが大切です。しかし、世の中は常に進化し続けており、気を抜いているとあっという間に置いてけぼりにあってしまいます。そうならないよう、現場以外の環境にアンテナを張っておくことが重要なのです。
アンテナ1: RSSリーダーによるニュースチェック
RSS自体は非常に昔から存在する技術ですが、今でも有用な技術であることに変わりはありません。簡単に説明すると、複数のWEBサイトから更新情報のみを取り出して一元的に管理・閲覧することができます。
私のオススメは10年近く使い続けている Feedly ですが、他にも使いやすい鉄板アプリが存在します。出来ることに大きな違いはないでしょうから、お好きなものを選んで利用してみてください。
真に大切なのは、どのサイトをウォッチするかです。友人や先輩エンジニアに普段閲覧しているWEBサイトを聞いてみましょう。他にも、興味がある技術・分野のニュースをまとめているサイトを調べて登録してみましょう。
登録したら、朝・夕時間を決めてSNSやソーシャルゲームの代わりにニュースをチェックしてみましょう。気になったニュースを見つけたら読んでみて、友人やSNSにシェアしましょう。自分の学習のため、という意識が強すぎると途中で断念してしまいますが、誰かの為にもなると思うとモチベーションが少し上がります。
アンテナ2: 著名人のSNSをフォローする
ニュースサイトの記事を読むのも良いですが、より新鮮で現場に近い情報を掴みにいくなら、その道で活躍している著名人のSNSをフォローすることがオススメです。
例えば以下のような人たちをフォローしてみましょう。
- 任意の言語・技術や、ライブラリの開発者およびコントリビューター
- カンファレンスで登壇を行っている人物
- 技術コミュニティの運営者
- Qiita や Zenn, Note などで有益な記事を書いている人
こうした人々は、常に現場で実践を行なっている人であることが多く、価値の高い情報を発信しています。内容が高度すぎるような事もありますが、生成AIを使って理解を深めてみたり、知識の存在を知るだけでも価値があります。
アンテナ3: 切磋琢磨できる仲間を見つける
ぜひ、同じ技術に触れている仲間を作りましょう。仲間を作る事で、自分の事を知っている人から自分向けの情報がダイレクトに届くようになります。他にも、インターネット上には公開できないここだけの情報が手に入るなど、仲間内だからこそ得られる情報が存在します。
こうした仲間は、学習のモチベーションを高めることにも有効です。ぜひ、技術について情報交換しながら造詣と関係を深めていきましょう。

学習は筋トレと同じ
最近気付いたことですが、学習というのは筋力トレーニングと同じだと考えています。筋力トレーニングにおいて、トレーニング種目や減量に向いている食事を知っているだけでは筋力はつきません。実際に筋肉を動かして初めて筋肉がつくのです。
学習においても同じ事が言えます。セミナーを受講したり、書籍を読んだだけで直ぐに実践に活かせるでしょうか?こちらも、実際にその技術を利用したり、アウトプットして初めて身に付くものだと思います。
アウトプットの例を挙げましょう。
- Qiita, Zenn, Note などで記事を書く
- 練習用の簡単なソフトウェアを作成する
- LTなど発表に挑戦する
- 資格試験を受ける
動画を見たり、本を読むことだけが学習ではありません。知識を身につけるという目的のためには、適切に知識を使う事も必要なのです。

まとめ
今日、明日の非常に短い期間で、我々の仕事の全てを生成AIが塗り替えるようなことはありません。現場で求められている技術を身につける事は今もなお必要とされています。ただし、これは短期的に見た結論です。
5年後、10年後の開発スタイルが大きく変わっているだろうという事は、もはや議論の余地もなく誰しもが感じている事だと思います。その流れについていくためには、やはり現場で求められている技術以外にも世間の動向に気を配って、新たな現場に飛び込んだ際に生成AIを用いたモダンな開発を知っている必要があるのです。
生成AIが過渡期である今、短期的と中期的の両方のバランスを取った学習を心がけていきましょう。ただし、生成AIが無くとも学び続ける事の重要性は昔から変わりません。必要以上に悲観したり、楽観したりせず、日々の学びを長期的に続けていくことこそが重要なのです。
皆様のこれからの学びが、実りに満ちたものであることを願っております。
それでは。
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