🫖

格安SMDはんだ付け練習キットから学ぶ

に公開

背景

SMD(表面実装部品)のはんだ付けを練習したくて、格安のSMDはんだ付け練習キットを買ってみた。ただ無意味に抵抗が並んでいるだけでは楽しくないので、動作するもの、できるだけ安いもの、と探していたところ、以下のキットを見つけた。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0DMJD6B94

どうやらLEDが光りながら回転するらしい。部品数も十分多くて好ましい。もし失敗しても3つ入りなので安心である。さらに説明書には以下のようなポジティブな記載が。

単なるはんだ付け練習にとどまらず、総合的なスキル向上のプラットフォームです。組み立てを通じてはんだ付けスキルを向上させるだけでなく、回路設計や部品の機能、プログラミング・ロジック。を深く理解することが可能です。

はんだ付け技術だけでなく、学習者の論理的思考力、問題解決能力、実践力を養成することを目的としています。

やはり、ひたすら抵抗を並べるよりも得るものがあるよね、と考え購入した。安いし。[1]

内容物

翌日、届いたものはこちら。(正確には、同じものがあと2つ)

予想通り説明書は入っていないのは良いとして、回路図や部品一覧なども一切ない。会社名や商品名が書かれた紙の一枚も入っていない。論理的思考力、問題解決能力、実践力が養成されるというのは、つまりそういうことか・・・。

例えばRと記されたところには抵抗を付ける、Dと記されたところにはダイオードを付けるなどと確信できるのだけど、複数種類あるからね。ダイオードは向きも不安。[2]

なにより、そもそもどういう動作をするものなのかも分からないので、動作確認もままならない。

決意

次に購入する人のために、苦労の成果をまとめておこうと思う。

キットの説明

このキットは2つの部分から成り立っている。

  • 各種サイズの素子をはんだ付けするだけの回路(練習部分)
  • LEDを順番に点灯させる回路(メイン部分)

入っていた部品

予備を含めて多めに入っていた。()付きのものは、キットによっては違う値がバラバラであったので、そのうち1つを示す。

部品名 パッケージ 数量 印字
抵抗 3216 15 (431) (430 Ω)
抵抗 2012 18 102 1 kΩ
抵抗 2012 6 103 10 kΩ
抵抗 2012 2 106 10 MΩ
抵抗 2012 15 5R36 5.36 Ω
抵抗 1608 17 (39C) (24.9 kΩ)
抵抗 1005 19 なし 不明
ダイオード LL34 4 なし
LED 2012 13 なし 赤色
LED 2012 4 なし 青色
コンデンサ 2012 15 なし 不明
コンデンサ 2012 3 なし 0.01μF (測定値)
コンデンサ 1608 17 なし 不明
トランジスタ SOT-23 4 J3Y NPN型
タイマIC SOP-8 1 NE555
カウンタIC SOP-16 1 CD4017BM

練習部分

練習部分は単に抵抗やコンデンサを並べているだけである。抵抗は直列、コンデンサは並列に接続されているので、合成抵抗・合成容量を測定すれば正しくはんだ付けできたか確認することができる。

メイン部分とは独立しているので、やらなくてもOKである。

素子 inch表記 mm表記
抵抗 1206 3216 12
抵抗 0805 2012 12
コンデンサ 0805 2012 12
抵抗 0603 1608 14
コンデンサ 0603 1608 14
抵抗 0402 1005 14

なお、サイズの1608などは「長辺が1.6mm、短辺が0.8mm」という意味である(mm表記の場合)。基板にはinch表記で表記されている。

当たり前だがとても小さい。床に落としてしまったら、もう見つからないだろう。

メイン部分

555タイマと10進カウンタを使ってLEDを順番に点灯させる回路になっている。タイマICの発振周期は0.15秒程度。LEDは3種類に分かれている。

  1. 中央の赤色LEDは、タイマICの出力をそのまま表示(0.15秒周期で点滅)
  2. 円周上の赤色LEDは、10進カウンタの出力を表示(0.15秒ごとに点灯箇所が移り、1.5秒で一周)
  3. 四隅の青色LEDは、10進カウンタの一周に合わせて点滅する(1.5秒周期の点滅)

必要な素子の種類とサイズは以下の通りだと思われる。

部品名 パッケージ 数量 印字
抵抗 2012 15 102 1 kΩ
抵抗 2012 5 103 10 kΩ
抵抗 2012 1 106 10 MΩ
ダイオード LL34 4 なし
LED 2012 11 なし 赤色
LED 2012 4 なし 青色
コンデンサ 2012 2 なし 0.01μF (測定値)
トランジスタ SOT-23 4 J3Y NPN型
タイマIC SOP-8 1 NE555
カウンタIC SOP-16 1 CD4017BM

先に練習部分をはんだ付けする場合は、必要な素子(特に2012サイズの抵抗とコンデンサ)を使ってしまわないように気をつける必要がある。

作成に必要な機材

  • はんだごて
  • はんだ
  • フラックス
  • ピンセット

は絶対に必要。

  • フラックスリムーバー(あるいはイソプロパノールとか)
  • キムワイプ
  • ルーペ
  • テスター

もないと辛い。

基板の解読

基板から直接回路を読み取り、回路図を起こし、必要な素子を推測した。そもそも完成形がわかっていないので、タイマ部分の抵抗は違う可能性もある [3]

全体像



部品表

リファレンス 印字 数量 用途
R48 103 10 kΩ 1 タイマ周期の制御
R49 106 10 MΩ 1 タイマ周期の制御
R50-R60 102 1 kΩ 11 赤色LEDの電流調整
R61-R64 103 10 kΩ 4 トランジスタのベース抵抗
R65-R68 102 1 kΩ 4 青色LEDの電流調整
C27 0.01μF 1 タイマ周期の制御
C28 0.01μF 1 タイマICのデータシートの指示通りのアース
D1 赤色LED 1 タイマICの出力表示
D2-D11 赤色LED 10 カウンタICの出力表示
D12-D15 スイッチングダイオード 4 トランジスタへのノイズ防止
D16-D19 青色LED 4 カウンタICの繰り上り(CarryOut)表示
Q1-Q4 Y3J NPN型トランジスタ 4 青色LEDの点灯制御
U1 NE555 タイマIC 1
U2 CD4017BM カウンタIC 1

作成手順

一度に全部をはんだ付けしてしまうと、動作しない場合に原因箇所の特定が難しくなる。段階を追って、動作確認を挟みつつ作成すべきである。以下におすすめの作業手順を示す。

1. タイマ部分

  1. U1を取り付ける。向きに注意。点が打ってあるピンが左下になるように。
  2. R48, R49, R50, C27, C28を取り付ける。
  3. D1を取り付ける。向きに注意。アノード(陽極)側が上側になるように。
    • 向きは裏側を見ればわかる。凸字の長い方がアノード側である。

以下の写真も参考に。

この状態で、基板の下中央に5Vを供給すると、D1が素早く点滅することを確認できる。なおR49が大きく、C27が小さいせいか、精度はあまり良くない。指でC27付近を触ると、明らかに点灯周期が短くなる。フラックスが残っていても同様。

回路の説明

タイマIC NE555はとてもポピュラーなICで、使い方も複数ある。動作原理は色々なところで解説されているので、ここでは触れない。

ここではAstable(無安定)モードで動作するように接続されている。このモードでは出力Qから方形波が出力され、その周期はR48, R49, C27によって以下の式で決まる。

\begin{align*} &周期& T&= T_H + T_L \\ &\text{high時間}& T_H &= 0.693 \times (R{48} + R{49}) \times C{27}\\ &\text{low時間}& T_L &= 0.693 \times R{49} \times C{27}\\ \end{align*}

今回はR48 \ll R49 であるため、T_H \fallingdotseq T_L、 つまりduty比はほぼ50%である。理論上の周期はT=0.139sとなる。

タイマICで作った方形波(回路図ではClockと表記)は、R50を通してD1に供給される。LEDに5Vを掛けると過電流で壊れるので、R50で電流を制限している。[4]

https://ana-dig.com/timer555/

https://www.digikey.jp/ja/resources/conversion-calculators/conversion-calculator-555-timer

2. カウンタ部分

続いてカウンタ部分を作成する。

  1. U2を取り付ける。向きに注意。点が打ってあるピンが左下になるように。
  2. R51を取り付ける。
  3. D2を取り付ける。向きに注意。シルクで印字されている通り、円の内側がアノード(陽極)側。

ここで一度動作確認ができる。電源供給すると、D1が10回点滅するごとに、D2が点滅する。

  1. R52-R60、D3-D11を取り付ける。当然、LEDの向きには注意。

これで、D2-D11が順番に点灯するようになる。

回路の説明

10進カウンタIC 4017もとてもポピュラーなICである。HC4017でCD4017でも基本的な使い方は変わらない。

CLKが立ち上がるたびに、Q0からQ9までの出力が順番にHighになっていく。Highになるのは、Q0からQ9のどれか1つだけである。Q9がHighになったら、次はQ0に戻ってくる。さらにQ0からQ4がHighの番はCoutもHighになり、Q5からQ9がHighの番ではCoutはLowになる。さらに中断(CKEN)やリセット(RESET)もできるが、この回路では使用しない。

https://bbradio.sakura.ne.jp/4017_1/4017_1.html

3. 四隅の青色LED部分

10進カウンタのCoutに合わせて、青色LEDを点滅させる。

  1. R61、R65、Q1を取り付ける。
  2. D16を取り付ける。向きに注意。シルクで印字されている通り左側がアノード(陽極)側。
  3. D12を取り付ける。向きに注意。アノード(陽極)側が下側になるように。
    • 黒いラインが入っている方がカソード(陰極)側である。
    • 従って、黒いラインが上側に来る。

これでD1が10回点滅するごとに、D16が点滅するようになる。なお、自分が下手なだけかもしれないがスイッチングダイオードのはんだ付けがとても難しかった。素子に対してパッド間隔が狭すぎると思うのだが、どうなんだろう・・・。

  1. R62-R64、R66-R68、Q2-Q4を取り付ける。
  2. D17-D19を取り付ける。向きに注意
  3. D13-D15を取り付ける。向きに注意

これで完成。D16-D19は全て同時に点滅する。

回路の説明

カウンタICで一度に5つのLEDを点灯させるのは、酷なので、D16-D19に関しては、NPN型のトランジスタを用いてスイッチングしている。D12-D15がなくてもいけそうな気がしたので、ショートさせてみたが、すると青色LEDが消灯すべきタイミングでもうっすらと点灯するようになってしまった。カウンタICのCarryOutがLowの時でも、トランジスタのベースに僅かに電流が流れてしまうのだろう。スイッチングダイオードは、そのノイズ除去のために必要である。

まとめ

以上、このキットを遊び尽くすことができた。Amazonの商品説明にあった通り、「はんだ付け技術だけでなく、学習者の論理的思考力、問題解決能力、実践力を養成」させていただいた。そういう意味で、非常にコスパが良いキットであった。

完成品

趣味でユニバーサル基板上のはんだ付けはよくやるのだけど、SMDのはんだ付けは生まれて初めて行った。SOP-16とか明らかにはんだごての先端より狭いピッチなのだけど、意外と簡単だった。異常な職人芸が必要かと思いきや、YouTubeで見た通り勝手にはんだがのってくれるんだね。一番難しかった作業は、裏返ってしまった極小サイズの抵抗をひっくり返すことと、リールのフィルムを剥がすことかな・・・[5]

この記事が、買って後悔している人の助けになれば幸いです。

脚注
  1. レビューには「3枚の基板にそれぞれ少しずつ違う練習パターン」とあるが、3枚とも同一のものであった。また、はんだ付けが初めての人には完成は難しいと思う。まずはDIP部品(基板の穴にリードを通すタイプ)で練習すると良いでしょう。 ↩︎

  2. 一部にはアノード側に+の印字がある。また中央部ではカソード側のシルクがやや太くなっているので、一応判別は可能。 ↩︎

  3. ただし、少なくともこれで動作はするし、きっとこの組み合わせが最も自然である。 ↩︎

  4. 試していないが、同包されていた同じサイズの抵抗5.36 Ωを使ってしまったら、ICやLEDが壊れるはず。 ↩︎

  5. 台紙を少しでも弾いてしまうと、カタパルトよろしく飛んでいく。 ↩︎

Discussion