『CDO思考』読後レビュー:変革は仕組みではなく、態度から始まる
『CDO思考』読後レビュー:変革は仕組みではなく、態度から始まる
はじめに
最近、社内で「せっかく整えたのに使われない」「期待したほど活用が進まない」と感じる場面に直面することが増えてきました。
私はデータ分析基盤の開発に携わっており、まだ道半ばながらも、必要な機能が整いはじめ、利活用のフェーズへと進みつつあります。
しかしその過程で、「整えること」と「使われること」の間には想像以上の隔たりがあると痛感するようになりました。
たとえば、必要とされているはずのデータが用意されていなかったり、ユーザーにとっての“価値ある体験”が設計されていなかったり。単に仕組みを作るだけでは、使われる環境は生まれません。
そんな気づきから、私は「技術的に整えるだけでは足りない。文化や関係性の中に入ることが必要なのではないか」と考えるようになりました。
ちょうどそのころ「RevOps(Revenue Operations)」という概念に出会い、“仕組み”と“人のマインド”の乖離について思いを巡らせていました。
その流れで手に取ったのが、石戸亮さんの著書『CDO思考 日本企業に革命を起こす行動と習慣』です。
この本は、テクノロジーの話に入る前に、「変化を進める人のあり方」に焦点を当てています。
読み進めるうちに、「変化が進まないのは“使う側の問題”ではなく、“関係性の持ち方”にあるのではないか」と視座が変わっていく感覚を得ました。
本書が描くCDO思考の本質
本書を通じて印象に残ったのは、CDO(Chief Digital Officer)という役割が「技術を使う人」ではなく、「組織を変える人」であるという点です。求められるのは、以下のような視点と行動です。
1. 鳥の目・虫の目・魚の目を持つ
全体を俯瞰する鳥の目、現場を見つめる虫の目、変化の兆しを捉える魚の目――。
CDOに必要なのは、これらを自在に行き来しながら、必要な変化を見極め、設計する力です。
2. ハードスキルとソフトスキルを統合する
AIやデータ分析の知見と並んで、共感・傾聴・対話といったソフトスキルが重視されます。
CDOには、技術の力を活かして他者を支援する“裏方のリーダーシップ”が求められるのです。
3. 「伝える」ではなく「伝わる」を意識する
相手に届く言葉を選び、文化や背景を理解したうえで接すること。
これは単なる言い換えではなく、組織への敬意や信頼を形にする営みです。
4. DXは導入ではなく、文化の変革である
どんなに優れた仕組みでも、「なぜ使われないか」に向き合わなければ定着しません。
現場の信頼や心理的安全性が土台にあってこそ、DXは根付くものなのです。
CDOが向き合うもの:氷山モデルが示す“見えない課題”
CDOの役割は、表面化している課題の背後にある“見えにくい構造”と向き合い、組織の行動や文化に働きかけることです。
その視点を補助するフレームとして、本書では「氷山モデル」が紹介されています。
氷山の上(見えているもの)
- ツール導入
- デジタル人材
- データ分析
- AI活用
- 業務改善
氷山の下(見えにくいが本質的な原因)
- 組織構造やルール
- 感情、心理的安全性、無意識のバイアス
- 共感や敬意といった人間関係の質
- 「なぜ働くのか」という動機や価値観
DXは“表面の施策”ではなく、“土壌の改革”から始まる。
本質的な変化は、こうした見えない領域へのアプローチからしか生まれないのです。
自分の中に生まれた問いとこれから
私はこれまで、技術を活用した仕組みづくりに注力してきました。
けれど、せっかく作った仕組みが活用されない体験を幾度も繰り返す中で、本当に向き合うべきは“仕組みの外側”――組織の土壌や関係性なのだと感じるようになりました。
「DX化やデジタル人材採用によって解決しようとしている不具合が、実は旧来の構造や文化に起因しているケースは少なくありません。」
本書はその気づきを言語化し、次にどう歩むかを示してくれました。
今後は、CDO思考を日々の開発やコミュニケーションに取り入れながら、
「相手の困りごとをともに解決する姿勢」でチームや組織に貢献していきたいと思います。
「私は毎日営業メンバーが入力するところを見せてもらい、彼らが困っていることをすべてメモし、優先度をつけて改善を進めました。」
この本は、エンジニア、RevOps、DX推進担当者、AI活用に携わるすべての人に向けて、
「技術に入る前に、まず人と向き合おう」 というメッセージを届けてくれます。
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