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マックス・ウェーバーの4つの行為類型でリファクタリングを整理する

2024/12/10に公開

マックス・ウェーバーの4つの行為類型でリファクタリングを整理する

リファクタリングは、しばしば「きれいなコードを書くこと」そのものが目的であるかのように捉えられがちです。
しかし、本来リファクタリングは、保守性・可読性・品質向上など、より大きな目的を達成するための「手段」です。
ここでは社会学者マックス・ウェーバー(Max Weber)の行為類型論を参考にして、リファクタリングにおける行為のステップを整理し、その理想的な進化プロセスを考えてみましょう。

ウェーバーは人間の行為を4つの類型に分けました。

  1. 目的合理的行為 (Zweckrational):特定の目標達成のために合理的に手段を選択する行為
  2. 価値合理的行為 (Wertrational):ある価値観に基づいて行われる行為
  3. 伝統的行為 (Traditional):慣習や伝統に従って無意識に行われる行為
  4. 感情的行為 (Affectual):感情や衝動に突き動かされて行われる行為

リファクタリングが、単なる「目的なき美化」に陥ることなく、長期的なチーム文化として根付き、感情的な暴走を避けるためのステップを、これら4つの類型を軸に解説します。

1. まずは「目的合理的行為」としてのリファクタリング

リファクタリングは手段であって目的ではない 、この考えをもっとも明確に表すのが目的合理的行為です。
ここで重要なのは「何のためにリファクタリングを行うのか」をはっきりさせることです。

  • 明確な目標設定
    「このクラス構造を整理することでテストを容易にする」「コードベースをシンプル化して新機能の開発スピードを上げる」など、リファクタリングが達成すべき具体的なゴールを明示します。

  • 効果測定の重視
    バグ発生率の減少、レビュー時間の短縮、新機能実装までの時間短縮など、数値や定性評価を通じて改善が実感できるようにします。

この段階では、感情や直観ではなく、目的と手段の合理的な対応関係が行動の動機となります。
「この問題を解決したい」という明確な意図がリファクタリングを駆動するのです。

2. 「価値合理的行為」への昇華:リファクタリングを価値観で支える

目的合理的に進められたリファクタリングが繰り返されると、その行為は徐々に「価値合理的行為」へと進化します。
この段階では、単なる問題解決手段という枠を超えて、チームが共有する価値観がリファクタリングを支えます。

  • 価値観の共有
    「可読性の高いコードがチーム全体の生産性を支える」「品質向上はユーザー体験とビジネス価値につながる」といった抽象度の高い、けれど強固な価値観が醸成されます。

  • 行為の内面化
    コードを書いているとき、レビューをしているとき、自然と「この部分は改善できる」と感じられるようになり、リファクタリングはチームの中で当たり前の「善」へと近づいていくのです。

ここではもはや「この問題を解決するため」という個別の動機を超え、「より良いプロダクトを作る」という価値基準が行動の根底にあります。

3. 「伝統的行為」として根付く:リファクタリングの習慣化

価値合理的行為が十分に浸透すると、リファクタリングは特別な「イベント」や「行為」として捉えられなくなり、自然と行われる「伝統的行為」に転化します。

  • 定期的な微調整が当たり前に
    コードを書いていて気になる部分があれば、その場で軽い修正を加える。新機能を実装する前に、関連箇所を整える。これらが特別な決定を必要とせず、常態化します。

  • 全員参加の改善文化
    リファクタリングは特定の人の担当でもなければ、勇ましい掛け声も必要ありません。すべてのチームメンバーが自然とコードを整えていく、この状態こそが「伝統的行為」による文化の醸成です。

ここに至れば、リファクタリングは「気合いを入れて行うもの」ではなく、呼吸するように行われる自然な営みになっています。

4. 「感情的行為」を避けるために

これは感情や衝動に駆られて行動することで、リファクタリングの場合、「なんとなく気に入らないから直したい」「自分が嫌いなコードだから消してしまう」といった非合理的な行為に陥る可能性があります。

  • 客観的根拠への立脚
    リファクタリングを議論する際、改善の理由や期待効果を明確なデータやロジックで語るようにしましょう。そうすれば感情的な対立を回避できます。

  • チームでの合意形成
    感情的行為を避けるためには、チーム全体で納得できる基準を定め、常にそれに立ち返って意思決定を行うことが重要です。

感情的行為に堕ちないためには、常に理性と価値、そして伝統化された習慣という3つの段階が築いてきた基盤を活用します。

まとめ

マックス・ウェーバーが定義した4つの行為類型「目的合理的行為 → 価値合理的行為 → 伝統的行為 → (回避したい)感情的行為」に沿ってリファクタリングを整理すると、以下のような理想像が浮かび上がります。

  1. 目的合理的行為としてのリファクタリング:
    具体的な問題解決を目指した、合理的な手段選択として始める。
  2. 価値合理的行為への昇華:
    チームが共有する価値観によって、リファクタリングは「良いこと」として内面化される。
  3. 伝統的行為としての定着:
    特別な意識をせずとも、日常的にリファクタリングが行われ、改善が自然と積み重なる。
  4. 感情的行為の回避:
    理性・価値・伝統の3段階を踏むことで、衝動的・感情的な判断による非合理的な行為を防ぐ。

このステップを意識すれば、リファクタリングはチームにとって健全なプロセスとして根づき、プロダクトと組織の成長を長期的に支え続けることでしょう。

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