マックス・ウェーバーの4つの行為類型でリファクタリングを整理する
マックス・ウェーバーの4つの行為類型でリファクタリングを整理する
リファクタリングは、しばしば「きれいなコードを書くこと」そのものが目的であるかのように捉えられがちです。
しかし、本来リファクタリングは、保守性・可読性・品質向上など、より大きな目的を達成するための「手段」です。
ここでは社会学者マックス・ウェーバー(Max Weber)の行為類型論を参考にして、リファクタリングにおける行為のステップを整理し、その理想的な進化プロセスを考えてみましょう。
ウェーバーは人間の行為を4つの類型に分けました。
- 目的合理的行為 (Zweckrational):特定の目標達成のために合理的に手段を選択する行為
- 価値合理的行為 (Wertrational):ある価値観に基づいて行われる行為
- 伝統的行為 (Traditional):慣習や伝統に従って無意識に行われる行為
- 感情的行為 (Affectual):感情や衝動に突き動かされて行われる行為
リファクタリングが、単なる「目的なき美化」に陥ることなく、長期的なチーム文化として根付き、感情的な暴走を避けるためのステップを、これら4つの類型を軸に解説します。
1. まずは「目的合理的行為」としてのリファクタリング
リファクタリングは手段であって目的ではない 、この考えをもっとも明確に表すのが目的合理的行為です。
ここで重要なのは「何のためにリファクタリングを行うのか」をはっきりさせることです。
-
明確な目標設定:
「このクラス構造を整理することでテストを容易にする」「コードベースをシンプル化して新機能の開発スピードを上げる」など、リファクタリングが達成すべき具体的なゴールを明示します。 -
効果測定の重視:
バグ発生率の減少、レビュー時間の短縮、新機能実装までの時間短縮など、数値や定性評価を通じて改善が実感できるようにします。
この段階では、感情や直観ではなく、目的と手段の合理的な対応関係が行動の動機となります。
「この問題を解決したい」という明確な意図がリファクタリングを駆動するのです。
2. 「価値合理的行為」への昇華:リファクタリングを価値観で支える
目的合理的に進められたリファクタリングが繰り返されると、その行為は徐々に「価値合理的行為」へと進化します。
この段階では、単なる問題解決手段という枠を超えて、チームが共有する価値観がリファクタリングを支えます。
-
価値観の共有:
「可読性の高いコードがチーム全体の生産性を支える」「品質向上はユーザー体験とビジネス価値につながる」といった抽象度の高い、けれど強固な価値観が醸成されます。 -
行為の内面化:
コードを書いているとき、レビューをしているとき、自然と「この部分は改善できる」と感じられるようになり、リファクタリングはチームの中で当たり前の「善」へと近づいていくのです。
ここではもはや「この問題を解決するため」という個別の動機を超え、「より良いプロダクトを作る」という価値基準が行動の根底にあります。
3. 「伝統的行為」として根付く:リファクタリングの習慣化
価値合理的行為が十分に浸透すると、リファクタリングは特別な「イベント」や「行為」として捉えられなくなり、自然と行われる「伝統的行為」に転化します。
-
定期的な微調整が当たり前に:
コードを書いていて気になる部分があれば、その場で軽い修正を加える。新機能を実装する前に、関連箇所を整える。これらが特別な決定を必要とせず、常態化します。 -
全員参加の改善文化:
リファクタリングは特定の人の担当でもなければ、勇ましい掛け声も必要ありません。すべてのチームメンバーが自然とコードを整えていく、この状態こそが「伝統的行為」による文化の醸成です。
ここに至れば、リファクタリングは「気合いを入れて行うもの」ではなく、呼吸するように行われる自然な営みになっています。
4. 「感情的行為」を避けるために
これは感情や衝動に駆られて行動することで、リファクタリングの場合、「なんとなく気に入らないから直したい」「自分が嫌いなコードだから消してしまう」といった非合理的な行為に陥る可能性があります。
-
客観的根拠への立脚:
リファクタリングを議論する際、改善の理由や期待効果を明確なデータやロジックで語るようにしましょう。そうすれば感情的な対立を回避できます。 -
チームでの合意形成:
感情的行為を避けるためには、チーム全体で納得できる基準を定め、常にそれに立ち返って意思決定を行うことが重要です。
感情的行為に堕ちないためには、常に理性と価値、そして伝統化された習慣という3つの段階が築いてきた基盤を活用します。
まとめ
マックス・ウェーバーが定義した4つの行為類型「目的合理的行為 → 価値合理的行為 → 伝統的行為 → (回避したい)感情的行為」に沿ってリファクタリングを整理すると、以下のような理想像が浮かび上がります。
-
目的合理的行為としてのリファクタリング:
具体的な問題解決を目指した、合理的な手段選択として始める。 -
価値合理的行為への昇華:
チームが共有する価値観によって、リファクタリングは「良いこと」として内面化される。 -
伝統的行為としての定着:
特別な意識をせずとも、日常的にリファクタリングが行われ、改善が自然と積み重なる。 -
感情的行為の回避:
理性・価値・伝統の3段階を踏むことで、衝動的・感情的な判断による非合理的な行為を防ぐ。
このステップを意識すれば、リファクタリングはチームにとって健全なプロセスとして根づき、プロダクトと組織の成長を長期的に支え続けることでしょう。
Discussion