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統計のための行列代数 第12章 練習問題 解答例

2022/09/24に公開

はじめに

統計のための行列代数 練習問題 解答例まとめを参照

第12章 練習問題

1.

補助定理12.1.1を証明せよ.

補助定理12.1.1. \mathbf{Y}を線形空間\mathcal{V}の中の行列, \mathcal{U},\mathcal{W}\mathcal{V}の部分空間,\{\mathbf{X}_{1},\ldots,\mathbf{X}_{s}\}\mathcal{U}を張る行列の集合,\{ \mathbf{Z}_{1},\ldots,\mathbf{Z}_t\}\mathcal{W}を張る行列の集合とする.このとき,i = 1,\ldots, sに対して\mathbf{Y}\cdot\mathbf{X}_{i} = 0のときかつそのときに限って, \mathbf{Y}\perp\mathcal{U}である.すなわち, \mathbf{Y}が行列\mathbf{X}_{1},\ldots,\mathbf{X}_sの各々に対して直交するときかつそのときに限って, \mathbf{Y}\mathcal{U}に直交する. 同様に,i = 1,\ldots, sj = 1,\ldots,tに対して\mathbf{X}_{i}\cdot\mathbf{Z}_{j} = 0のときかつそのときに限って, \mathcal{U}\perp \mathcal{W}である. すなわち,行列\{\mathbf{X}_{1},\ldots,\mathbf{X}_{s}\}の各々が行列\{ \mathbf{Z}_{1},\ldots,\mathbf{Z}_t\}の各々に直交するときかつそのときに限って, \mathcal{U}\mathcal{W}に直交する.


1つ目の命題の検証
(\Rightarrow)
\mathbf{Y} \perp \mathcal{U} と仮定する。
\mathbf{X}_i \in \mathcal{U} なので、\mathbf{Y} \cdot \mathbf{X}_i=0(i= 1, \ldots s)が得られる。

(\Leftarrow)
i=1, \ldots, s に対して、\mathbf{Y} \cdot \mathbf{X}_i=0と仮定する。
それぞれの行列 \mathbf{X} \in \mathcal{U} について、\mathbf{X}=c_1 \mathbf{X}_1+\ldots+c_s \mathbf{X}_sを満たすスカラーc_1, \ldots,c_sが存在する。
従って以下の結果が導かれる。

\mathbf{Y} \cdot \mathbf{X}=c_1\left(\mathbf{Y} \cdot \mathbf{X}_1\right)+\cdots+c_s\left(\mathbf{Y} \cdot \mathbf{X}_s\right)=0

その上\mathbf{Y}\mathcal{U} 内の全ての行列と直交する。
すなわち、\mathbf{Y} \perp \mathcal{U}.

2つ目の命題の検証

(\Rightarrow)
\mathcal{U} \perp \mathcal{W}と仮定する。
\mathbf{X}_i \in \mathcal{U},かつ,\mathbf{Y}_j \in \mathcal{W}なので、\mathbf{X}_i \cdot \mathbf{Y}_j=0(i=1, \ldots, s ; j=1, \ldots, t)が得られる。

(\Leftarrow)
i=1, \ldots, sj=1, \ldots, t に対して、\mathbf{X}_i \cdot \mathbf{Z}_j=0と仮定する。
それぞれの行列\mathbf{X} \in \mathcal{U}について、\mathbf{X}=c_1 \mathbf{X}_1+\cdots+c_s\mathbf{X}_sを満たすスカラーc_1 \ldots, c_sが存在する。
それぞれの行列\mathbf{Z}\in \mathcal{W}について、\mathbf{Z}=d_1 \mathbf{Z}_1+\cdots+d_{\mathrm{t}} \mathbf{Z}_{\mathrm{t}}を満たすスカラーd_1,\ldots,d_tが存在する。
従って以下の結果が導かれる。

\mathbf{X} \cdot \mathbf{Z}=\sum_i c_i\left(\mathbf{X}_i \cdot \sum_j d_j \mathbf{Z}_j\right)=\sum_i c_i \sum_j d_j\left(\mathbf{X}_i \cdot \mathbf{Z}_j\right)=0

すなわち、\mathcal{U} \perp \mathcal{W}.

2.

\mathcal{U}, \mathcal{V}\mathcal{R}^{m\times n}の部分空間とする.もし\dim(\mathcal{V}) \gt \dim(\mathcal{U})ならば,\mathcal{V}\mathcal{U}に直交する\mathbf{0}でない行列を含むことを示せ.


r=\operatorname{dim}(\mathcal{U}), s=\operatorname{dim}(\mathcal{V}) とする。
\left\{\mathbf{A}_1, \ldots, \mathbf{A}_r\right\}\left\{\mathbf{B}_1, \ldots\right., \left.\mathbf{B}_s\right\} をそれぞれ \mathcal{U}\mathcal{V} の基底とする。
r \times s 行列 \mathbf{H}=\left\{h_{i j}\right\}h_{i j} = \mathbf{A}_i \cdot \mathbf{B}_j で定める。

すると、\operatorname{rank}(\mathbf{H}) \leq r<s なので、\mathbf{H x}=\mathbf{0} を満たす非ゼロベクトル \mathbf{x} \in \mathcal{R}^s が存在する。

\mathbf{C}=x_1 \mathbf{B}_1+\cdots+x_s \mathbf{B}_s とおくと \mathbf{C} は非ゼロ行列である(なぜなら、もし零行列ならば \left\{\mathbf{B}_1, \ldots\right., \left.\mathbf{B}_s\right\} が基底なので \mathbf{x} = \mathbf{0} となり、\mathbf{x} \neq \mathbf{0} に矛盾する)。
i=1, \ldots, r に対し

\mathbf{A}_i \cdot \mathbf{C} =x_1\left(\mathbf{A}_i \cdot \mathbf{B}_1\right)+\cdots+x_s\left(\mathbf{A}_i \cdot \mathbf{B}_s\right) =\sum_j h_{i j} x_j =\left(\mathbf{Hx}\right)_i =0

であり、\mathbf{C}\mathbf{A}_1, \ldots, \mathbf{A}_r と直交する。よって補助定理 12.1.1 より \mathbf{C} \perp \mathcal{U} である。\mathbf{C}の定義から、\mathbf{C} \in \mathcal{V}であり、さらにこれは\mathbf{0}でない行列なので、題意が示された。

補助定理 12.1.1. (前半) \mathbf{Y} を線形空間 \mathcal{V} の中の行列, \mathcal{U}, \mathcal{W}\mathcal{V} の部分空間, \left\{\mathbf{X}_1, \ldots, \mathbf{X}_s\right\}\mathcal{U} を張る行列の集合, \left\{\mathbf{Z}_1, \ldots, \mathbf{Z}_t\right\}\mathcal{W} を張る行列の集合 とする. このとき, i=1, \ldots, s に対して \mathbf{Y} \cdot \mathbf{X}_i=0 のときかつそのときに 限って, \mathbf{Y} \perp \mathcal{U} である. すなわち, \mathbf{Y} が行列 \mathbf{X}_1, \ldots, \mathbf{X}_s の各々に対して直交するときかつそのときに限って, \mathbf{Y}\mathcal{U} に直交する.

3.

\mathcal{U}をすべてのm次元列ベクトルから成る線形空間\mathcal{R}^{m}の部分空間とする.\mathcal{R}^{m\times n}の部分空間\mathcal{M}を,「\mathcal{U}の中の適当なベクトル\mathbf{w}_{1},\ldots,\mathbf{w}_{n}に対して\mathbf{W} = (\mathbf{w}_{1}, \ldots, \mathbf{w}_{n})のときかつそのときに限って,\mathbf{W}\in \mathcal{M}」となるように定義する.\mathbf{Z}m\times n行列\mathbf{Y}\mathcal{M}上への(通常の内積に関する)射影,\mathbf{X}を列が\mathcal{U}を張る任意のm\times p行列とする.線形系

\mathbf{X}^{\prime}\mathbf{XB} = \mathbf{X}^{\prime}\mathbf{Y}\quad (\mathbf{B}に関する)

の任意の解\mathbf{B}^{\star}に対して\mathbf{Z} = \mathbf{XB}^{\star}であることを示せ.


\mathbf{y}_i\mathbf{Y}の第i列目として, \mathcal{U}(i=1, \ldots, n)に対する\mathbf{y}_iの内積による射影を\mathbf{v}_iとする. \mathbf{V}= \left(\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n\right)を定義しておく. 定義から, \mathcal{U}に含まれる任意のベクトル\mathbf{w}について, \left(\mathbf{y}_i-\mathbf{v}_i\right)^{\prime} \mathbf{w}=0 , なので\mathcal{M}のすべての行列\mathbf{W}=\left(\mathbf{w}_1, \ldots, \mathbf{w}_n\right) について,

\operatorname{tr}\left[(\mathbf{Y}-\mathbf{V})^{\prime} \mathbf{W}\right]=\sum_{i=1}^n\left(\mathbf{y}_i-\mathbf{v}_i\right)^{\prime} \mathbf{w}_i=0

となり, \mathbf{Z}=\mathbf{V}である.
ここで, \mathbf{B}^*\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{X B}=\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{Y}の解であると仮定する.このとき, i=1, \ldots, nについて, \mathbf{B}^*i番目の列\mathbf{b}_i^*が線形系\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{X} \mathbf{b}_i=\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{y}_iの解になっている.
定理12.2.1から, \mathbf{v}_i=\mathbf{X} \mathbf{b}_i^*(i=1, \ldots, n)なので,

\mathbf{Z}=\mathbf{V}=\left(\mathbf{v}_1, \ldots, \mathbf{v}_n\right)=\left(\mathbf{X b}_1^*, \ldots, \mathbf{X b _ { n } ^ { * }}\right)=\mathbf{X} \mathbf{B}^*

定理12.2.1. \mathbf{z}n次元列ベクトル\mathbf{y}\mathcal{R}^{n}の部分空間\mathcal{U}上への(通常の内積に関する)射影,\mathbf{X}n\times p行列で列が\mathcal{U}を張るものとする.このとき,(無矛盾な)線形系

\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{X b}=\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{y} \quad(\mathbf{b} \text { に関する })
の任意の解\mathbf{b}^{*}に対して
\mathbf{z}=\mathbf{Xb}^{*}
である.

4.

12.2c の例

n=3, \mathbf{y}=(3,-38 / 5,74 / 5)^{\prime}

\mathbf{x}_1=\begin{pmatrix}0 \\3 \\6\end{pmatrix}, \quad \mathbf{x}_2=\begin{pmatrix}-2 \\2 \\4\end{pmatrix}, \quad \mathbf{x}_3=\begin{pmatrix}-2 \\1 \\2\end{pmatrix}
に対して\mathcal{U}=\operatorname{sp}\left\{\mathbf{x}_1, \mathbf{x}_2, \mathbf{x}_3\right\}の場合でのn次元列ベクトル\mathbf{y}\mathcal{R}^nの部分空間\mathcal{U}上への(通常の内積に関する)射影を求めよう. 明らかに,\mathbf{x}_1\mathbf{x}_2は 線形独立であり, そして\mathbf{x}_3=\mathbf{x}_2-(1 / 3) \mathbf{x}_1である.よって,\operatorname{dim}(\mathcal{U})=2である.

に対して,\mathbf{X}3\times 2行列

\begin{pmatrix}0 & -2 \\ 3 & 2 \\ 6 & 4\end{pmatrix}

にとり,次の2つのステップを遂行することで\mathbf{y}\mathcal{U}上への射影を再計算せよ.

(1) 正規方程式\mathbf{X}^{\prime}\mathbf{Xb} = \mathbf{X}^{\prime}\mathbf{y}の解を計算する.
(2) ステップ(1)で計算した解を\mathbf{X}の後ろから乗ずる.


ステップ(1): 正規方程式をそのまま計算すると

\begin{pmatrix} 45 & 30 \\ 30 & 24 \end{pmatrix} \mathbf{b}=\begin{pmatrix}66 \\ 38 \end{pmatrix}
\mathbf{b}=\begin{pmatrix} 45 & 30 \\ 30 & 24 \end{pmatrix}^{-1}\begin{pmatrix}66 \\ 38 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2 / 15 & -1 / 6 \\ -1 / 6 & 1 / 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix}66 \\ 38 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}37 / 15 \\ -3 / 2 \end{pmatrix}

となり、これは一意の解となる。

ステップ(2)\mathbf{y}\mathcal{U}上への射影は、ステップ(1)で計算した解を\mathbf{X}の後ろから乗ずると

\mathbf{z}=\mathbf{Xb} = \begin{pmatrix} 0 & -2 \\ 3 & 2 \\ 6 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix}37 / 15 \\ -3 / 2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix}3 \\ 22 / 5 \\ 44 / 5 \end{pmatrix}

となる。(これはP.195の例で得た答えと一致している。)

5.

\mathbf{X}を任意のn \times p行列とする.定理12.3.4の(1)-(3)より,もしp \times n行列\mathbf{B}^{\star}が(\mathbf{B}に関する)線形系\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{XB}=\mathbf{X}^{\prime}の解ならば,\mathbf{B}^{\star}\mathbf{X}の一般逆行列であり,\mathbf{XB}^{\star}は対称であることが分かる.逆に,もしp \times n行列\mathbf{G}\mathbf{X}の一般逆行列であり\mathbf{XG}が対称であるならば,\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{X} \mathbf{G}=\mathbf{X}^{\prime}である(すなわち, \mathbf{G}\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{XB}=\mathbf{X}^{\prime}の解である)ことを示せ.


前半部分は問われていないが、一応導いておく。

  • 定理12.3.4の(1)より\mathbf{P}_{\mathbf{X}}\mathbf{X}=\mathbf{X}, (2)より\mathbf{P}_\mathbf{X}=\mathbf{XB}^\starである。(2)を(1)に代入して、\mathbf{XB^\star X}=\mathbf{X}であるから、\mathbf{B}^\star\mathbf{X}の一般逆行列である。
  • 定理12.3.4の(2)より\mathbf{P}_\mathbf{X}=\mathbf{XB}^\star, (3)より\mathbf{P}_\mathbf{X}は対称である。(2)を(3)に代入して、\mathbf{XB}^\starは対称である。

後半部分は、これの逆の命題を示す。

  • \mathbf{G}\mathbf{X}の一般逆行列、\mathbf{X G}が対称であるとき、\mathbf{G}が線形系\mathbf{X'XB}=\mathbf{X'}の解であることが以下のように示される。
\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{X G}=\mathbf{X}^{\prime}(\mathbf{X G})^{\prime}=(\mathbf{X G X})^{\prime}=\mathbf{X}^{\prime}

6.

練習問題9.3 の(b)の結果(あるいは他のもの)を用いて,任意の\mathbf{0}でない対称行列\mathbf{A}に対して,\mathbf{B},\mathbf{T}をそれぞれ\mathbf{A}= \mathbf{BT}を満たす最大列階数の任意の行列と最大行階数の任意の行列として

\mathbf{P}_{\mathbf{A}} = \mathbf{B}(\mathbf{TB})^{-1}\mathbf{T}

であることを示せ. (\mathbf{TB}が非特異であることは練習問題8.3の結果より得られる.)


練習問題9.3(b)は以下。

\mathbf{A}\mathbf{0}でないm \times n行列,\mathbf{B}を最大列階数の行列,\mathbf{T}\mathbf{A} = \mathbf{BT}を満たす最大行階数の行列,\mathbf{L}\mathbf{B}の左逆行列,\mathbf{R}\mathbf{T}の右逆行列とする.
\mathbf{(b)}\mathbf{A}が対称ならば,行列\mathbf{R}\left(\mathbf{T}\mathbf{B}\right)^{-1} \mathbf{L}が行列\mathbf{A}^{2}の一般逆行列である.

\begin{aligned} \mathbf{P_{A}}&=\mathbf{A}\left(\mathbf{A}^{\prime} \mathbf{A}\right)^{-1} \mathbf{A}^{\prime} \quad(\text { 射影行列の定義 }) \\ &=\mathbf{AR}(\mathbf{TB})^{-1} \mathbf{LA} \quad(\text { 練習問題 } 9.3(b)) \\ &=\mathbf{BTR}(\mathbf{TB})^{-1} \mathbf{LBT} \quad(\mathbf{A}=\mathbf{BT}) \\ &=\mathbf{BI}(\mathbf{TB})^{-1} \mathbf{IT} \quad(\mathbf{R}: \mathbf{T} \text { の右逆行列、 } \mathbf{L}: \mathbf{B} \text { の左逆行列 }) \\ &=\mathbf{B}(\mathbf{TB})^{-1} \mathbf{T} \end{aligned}

7.

\mathcal{V}をすべてのn次元列ベクトルから成る線形空間\mathcal{R}^{n}k次元部分空間とする.\mathbf{X}を列が\mathcal{V}を張る任意のn \times p行列にとり,\mathcal{U}\mathcal{V}の部分空間とし,\mathbf{A}\mathcal{U}に対する射影行列と置く.このとき,次のことを示せ.
(1)n \times n行列\mathbf{Z}に関する)同次線形系\mathbf{X}^{\prime}\mathbf{Z} = \mathbf{0}の適当な解\mathbf{Z}_{*}に対して\mathbf{B} = \mathbf{A} + \mathbf{Z}_{*}^{\prime}のときかつそのときに限って,(次元n \times nの)行列\mathbf{B}は,\mathbf{By}があらゆる\mathbf{y} \in \mathcal{V}に対して\mathbf{y}\mathcal{U}上への射影となるものである.
(2) k = nでない限り\mathbf{By}があらゆる\mathbf{y} \in \mathcal{V}に対して\mathbf{y}\mathcal{U}上への射影となる行列\mathbf{B}が少なくとも1つ存在する.


(1) \mathbf{A}\mathcal{U}に対する射影行列なので、あらゆるベクトル\mathbf{y} \in \mathcal{R}^{n}について\mathbf{A y}\mathbf{y}\mathcal{U}上への射影である(定理12.3.1)。よって、\mathbf{By}があらゆる\mathbf{y} \in \mathcal{V}に対して\mathbf{y}\mathcal{U}上への射影となるときかつそのときに限って\mathbf{B y}=\mathbf{Ay}、さらにあらゆるp次元列ベクトル\mathbf{r}に対して、(今\mathbf{y} \in \mathcal{V}であり、かつ\mathbf{X}を列が\mathcal{V}を張る任意のn \times p行列にとっていることから\mathcal{V} = \mathcal{C}(\mathbf{X}), よって\mathbf{y} \in \mathcal{C}(\mathbf{X})なので)\mathbf{y} = \mathbf{Xr}となり(4.1.a 列空間の定義)、\mathbf{BXr} = \mathbf{AXr}となる。ここで

補助定理2.3.2. 任意の2つのm \times n行列\mathbf{A}, \mathbf{B}について,あらゆるn次元列ベクトル\mathbf{x}に対して\mathbf{Ax} = \mathbf{Bx}であるときかつそのときに限って,\mathbf{A} = \mathbf{B}である.

を使うと、同値変形で\mathbf{BX} = \mathbf{AX}となる。さらに、\mathbf{BX} = \mathbf{AX}を同値変形すれば\mathbf{X}^{\prime}(\mathbf{B}-\mathbf{A})^{\prime}=\mathbf{0}となり、これは(\mathbf{B}-\mathbf{A})^{\prime}が(n \times n行列\mathbf{Z}に関する)同次線形系\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{Z}=\mathbf{0}の解の1つであることを示している(7.1節)。したがって、\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{Z}=\mathbf{0}の1つの解を\mathbf{Z}_{*}と書けば\mathbf{Z}_{*} = (\mathbf{B} - \mathbf{A})^{\prime}すなわち\mathbf{B} = \mathbf{A} + \mathbf{Z}_{*}^{\prime}となる。以上はいずれも同値変形(〜のときかつそのときに限って)の関係である。

(2) 補助定理11.3.2によれば

補助定理11.3.2. (n \times p行列\mathbf{X}に関する)同次線形系\mathbf{AX} = \mathbf{0}の解空間の次元はp[n-\operatorname{rank}(\mathbf{A})]に等しい.

n \times n行列\mathbf{Z}に関する)同次線形系\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{Z}=\mathbf{0}の解空間の次元はn[n-\operatorname{rank}(\mathbf{X})] = n(n-k)となる。もしk=nならば解空間の次元は0となるが、そうでなければ\mathbf{X}^{\prime} \mathbf{Z}=\mathbf{0}となる解は1つ以上存在する。したがって、(1)の結果に照らして、あらゆるベクトル\mathbf{y} \in \mathcal{V}について\mathbf{By}\mathbf{y}\mathcal{U}上への射影となるような行列\mathbf{B}は1つ以上存在する。

8.

\left\{\mathbf{A}_{1}, \ldots, \mathbf{A}_{k}\right\}を線形空間\mathcal{V}の中の行列の空でない線形独立な集合とし,\mathbf{B}_{1}, \ldots, \mathbf{B}_{k}を定理6.4.1でのように定義する.\mathbf{B}_{j}が(\mathcal{V}の)適当な部分空間\mathcal{U}_{j}上への\mathbf{A}_{j}の(直交)射影であることを示せ.そして\mathcal{U}_{j}(j=1, \ldots, k)を求めよ.


j=1,\dots, kについて、定理6.4.1, 6.4.2にしたがって\mathbf{C}_{j} = ||\mathbf{B}_{j}||^{-1}\mathbf{B}_{j}と定義する。
そして、\mathcal{W}_j = \operatorname{sp} (\mathbf{C}_{1}, \dots, \mathbf{C}_{j})と定義する。すると、j=2,\dots, kについて

\mathbf{B}_{j} = \mathbf{A}_{j} - \sum_{i=1}^{j-1}\frac{\mathbf{B}_{i}\cdot \mathbf{A}_{j}}{\mathbf{B}_{i}\cdot \mathbf{B}_{i}}\mathbf{B}_{i} =\mathbf{A}_{j} - \sum_{i=1}^{j-1}\frac{\mathbf{B}_{i}\cdot \mathbf{A}_{j}}{||\mathbf{B}_{i}||}\mathbf{C}_{i} = \mathbf{A}_{j} - \sum_{i=1}^{j-1}(\mathbf{A}_{j}\cdot\mathbf{C}_{i})\mathbf{C}_{i}

となる。さらに、集合\{\mathbf{C}_{1}, \dots, \mathbf{C}_{j}\}が直交正規であることを確認し、結果(1.1)を適用すると、\sum_{i=1}^{j-1}(\mathbf{A}_{j}\cdot\mathbf{C}_{i})\mathbf{C}_{i}\mathbf{A}_{j}\mathcal{W}_{j-1}への射影であることがわかる。
したがって、定理12.5.8より\mathbf{B}_j\mathbf{A}_{j}\mathcal{W}^{\perp}_{j-1}への射影である。そして、\mathcal{W}_{j-1} = \operatorname{sp}(\mathbf{A}_1,\dots, \mathbf{A}_{j-1})であることから、\mathbf{B}_jは、\mathbf{A}_1,\dots, \mathbf{A}_{j-1}のよって張られる(\mathcal{V}の)部分空間の直交補集合上への\mathbf{A}_jのの射影であるとわかる。

結果(1.1)
\mathbf{Y}を線型空間\mathcal{V}の中の行列、\mathcal{U}\mathcal{V}r次元部分空間とする。このとき、\mathcal{U}の中の一意な行列\mathbf{Z}が存在して、(\mathbf{Y}-\mathbf{Z}) \perp \mathcal{U}、すなわち、\mathbf{Y}\mathbf{Z}との差が\mathcal{U}の中のあらゆる行列に直交する。もしr>0ならば \mathcal{U}の任意の正規直交基底\{\mathbf{X}_1,\dots, \mathbf{X}_r\}に対して\mathbf{Z}

\mathbf{Z} = c_1\mathbf{X}_1 + \dots + c_r\mathbf{X}_r

の形に表せる。ここで、c_j = \mathbf{Y}\cdot \mathbf{X}_jである。

定理12.5.8
\mathbf{Y}を線型空間\mathcal{V}の中の行列、\mathcal{U}\mathcal{V}の部分空間とする。このとき、\mathbf{Z}\mathbf{Y}\mathcal{U}上への射影として、\mathbf{Y}\mathcal{U}^{\perp}上への射影は\mathbf{Y}-\mathbf{Z}に等しい。

Discussion